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第8回:NTT-ME MN128mini-J
[2002/05/2]
第7回:IEEE 802.11a無線LANカード(後編)
[2002/04/25]
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[2002/03/15]
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[2002/03/14]
第1回:ブロードバンドルータの内側
[2002/03/07]
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第8回:NTT-ME MN128mini-J


 この短期連載の最後を飾るのは、NTT-MEのISDN TAであるMN128mini-Jである。最近だとISDN関係はFlet's ISDN対応のルータタイプの方が多いとは思うのだが、内部は結局ISDN-TA+ブロードバンドルータという構成になっているだけで、単に部品点数が増えるだけである。ブロードバンドルータ自体は第1回目に取り上げているので、今回はISDNのTAのみの機能に絞って紹介することにしたい。



主なスペック

 現在NTT-MEから販売されるISDNのTAは、MN128miniシリーズのみとなっている。既に初代のminiは完売しており、mini-S/mini-V/mini-SV1/mini-Jというのが現在のラインナップ。その中でmini-Jは最新機種だが、最新といっても出荷は2000年の6月で既に2年前の製品である。マーケットの中心がISDNのTAからダイアルアップISDNルーターに移り、今ではADSLモデムやADSLルーターが中心となっているため、マーケットも相対的に小さくなっており、新機種を投入する必然性が少ない。そんな訳で、ここ2年にわたってこの製品が発売されつづけているわけだ。

 機能的には、DSU内蔵の単なるISDN TAである。アナログ回線は2回線、PCとの接続はシリアルもしくはUSBとなっている。機能としては漢字表示可能の液晶ディスプレイと十字キーを組み合わせ、とにかく使いやすさを念頭に置いたもので、変わったところではワンタッチ転送ボタン(NTTと契約せずに、任意の番号に電話を転送できる)とかモーニングコール機能、USBポートとシリアルポート間のファイル共有なんてものまである。

NTT-ME MN128mini-J 正面 NTT-ME MN128mini-J 背面

 寸法は80.5×140.3×150.3mm(幅×奥行×高)、重量は390gと小さく、軽い。縦置き専用で底面に滑り止めゴムが4箇所に配置されていることもあって、意外に安定する。重量の軽さは、電源を外付けのACアダプタにしたことと、停電時用のバックアップ電池ホルダーが省略されていることも関係するだろう。NTT-MEのISDN関連製品のほとんどには、停電時でも通話を保証するためのバックアップ電池ホルダーが用意されているのが常だが、携帯の普及や家庭用ということもあってか、mini-Jでは省略されている。

 フロントパネルは青いカバーの奥に液晶があり、手前に転送/メニュー・選択/戻るの3つのファンクションボタンと十字キーが用意されている。LEDは電源/B1/B2/Dataの4つだが、液晶パネルに必要な情報は表示されるので支障はない。

 背面は、Ethernetの口を持たないこともありかなりシンプルである。電源スイッチと極性切り替え、DSUのOn/Offの3つのスイッチと、ISDNポート、アナログ2ポート、USB/シリアルが各1つ、それと他のISDN機器と接続するためのS/T点端子が1つ用意される。



内部構造(分解編)

MN128mini-Jのパネルを外したところ

 mini-Jは、背面2つと底面の合計3つのネジを外すだけで分解できる。フロントの青いパネルにある爪で全体を保持する構造で、パネルを外すと写真右のような具合になる。内部の容積が小さいこともあり、フレキシブルケーブルを利用した3分割構造である。

 各々の基板は簡単にネジ止めされているだけなので、これを外すと完全に分解できる。3つの基板は各々表示/操作部、デジタル部とアナログ部という具合に、うまく機能別に分けられているようだ。


ネジ止めされている基板を外すと完全に分解できる 3つの基板のうちの1枚、表示/操作部
3つの基板のうちの1枚、デジタル部 3つの基板のうちの1枚、アナログ部

 全体の内部構造は、<図1>に示すようになっている。以下、各パーツ毎に詳細を説明してゆこう。

<図1>全体の構成



内部構造(パーツ編)

 まずはデジタル部の構成を、ついでアナログ部の構成を順に説明してゆく。


【CPU】

 プロセッサには、モトローラのMC68302が利用されている。第2回で同じくモトローラのPowerQUICCを紹介したが、その大元にあたるのがこのMC68302。QUICCはQuad Integrated Communication Controller、つまり4回線分の通信コントローラを内蔵した統合プロセッサであるが、MC68302は3回線分の通信コントローラしか内蔵していないため、単にICC(Integrated Communication Controller)、もしくはIMP(Integrated Multi-Protocol Processor)などと呼ばれている。

 内部構造はのような具合だ。コア部はMC68000(今回の場合25MHz駆動)で、外部に16bit幅の68000バスが出ており、ここにメモリを接続する。一方、それとは別に通信制御専用のRISCプロセッサコアと3つのシリアル通信コントローラ(SCC:Serial Communications Controller)、2つのシリアル管理コントローラ(SMC:Serial Management Controller)、シリアルポート(SCP:Serial Communicatipn Port)、それにタイマーやDMAコントローラなどを一気に内蔵する。

 機能的には最近の統合プロセッサの方が遥かに多くの機能を内蔵しているが、MC68302は機能は限定されている代わりに様々な通信プロトコルをハードウェアレベルでサポートしている。例えばISDNの場合、プロトコルのハンドリングは全てMC68302単体で行なえるため、外部に接続すべき回路が最小限で済む。どのみち64kbps~128kbps、つまり7~14KB/sec程度のデータ転送が行なえればいいわけだから、CPUコアにもそれほど高速なものは必要ない。バランスを考えるとこのあたりで十分ということだろう。

モトローラ MC68302 内部構造


【メモリ、フラッシュメモリ】

 68000 Busに直接接続されるのがこの2種類のメモリ。沖電気のMSM5118165D-60TK(PDFの製品情報はこちら)は、2MB/60nsのEDO DRAM、富士通のMBM29F800TA-90PFTN(PDFの製品情報はこちら)は1MBytes/90nsのフラッシュメモリだ。どちらのメモリも、16bitのデータ幅で利用できる。アクセス速度はかなり遅いがCPUコアが25MHz、つまり1クロック40ns程度な事を考えればこれで十分だろう。フラッシュメモリの方はブートコード、つまり68302用のブートストラップと実際のアプリケーションが格納され、EDO DRAMの方はワークエリアとして利用されることになるだろう。


【S/T点 I/F】

 レイアウトの関係かデジタル部に配置されているが、実際はアナログ部の回路であるのがこのS/T点のインターフェイス。ISAC-S TE(ISDN Subscriber Access Controller for TErminal)と名づけられたこのチップは、mini-Jの先に複数のISDN機器が接続される場合のコントロールを行なう。利用されているのは、(ISDN TAなどでは良く見かける)InfineonのPSN 2186Nである。



【USB I/F】

 mini-JはUSBインターフェイスを持ち、USB機器として動作するが、MC68302にはUSBインターフェイスが内蔵されていないため、コントローラを追加する必要がある。今回利用されているのはPhilipsのPDIUSB12Dで、これによりUSB 1.1のクライアントデバイスとして動作する。ちなみにMC68302とはパラレルバスで接続される。このPDIUSB12Dのクロックソースが(一般的な48MHzでなく)6MHzと言うのはちょっと面白いが、これは6MHzのOSCの方が安価に入手できるからだそうだ。



【RS232C I/F】

 mini-Jのもう1つのPC I/FがこのRS232Cポート。利用されているのは米SipexのSP207ECA(写真左側)である。転送速度は230Kbps程度で、ISDNの利用には十分なスピードである。回路的には5回線の送信と3回線の受信を一度に行なえるが、利用しているのは各々1回線づつである。ちなみにこのチップはUARTではなく、単に公衆回線レベルの信号をTTLレベルと変換する、ドライバICだと思えばよい。UARTの機能はMC68302のSCC/SCPに含まれているので、信号レベルのマッチングを取るだけで十分だからだ。



【RealTime Clock】

 ISDN TAとは言っても、例えばログを取ったりするためには現在の正確な日時が必要である。このため、RealTime Clock(RTC)が必要になるのだが、これを行なうのがリコーのRS5C418Aである。



【謎のASICその1】

 さてmini-Jのアナログ部には、正体不明のチップが2つ搭載されている。1つめがこの“WN990089-1”(写真右側のチップ)というものだ。ちょうど100ピンのパッケージで、メーカーを推測するものが皆無である。しかもパターンを見ると、このチップの右に位置するフラッシュメモリの下を通り過ぎて、フラットケーブル経由でまっすぐ表示/操作部と接続されているようだ。

 そもそもMC68302にはLCDコントロールが搭載されておらず、また表示操作部には液晶とスイッチ以外何もない(ドライバICすら搭載されていない)ところを見ると、この“WN990089-1”が液晶のコントロールと、おそらくは搭載スイッチの制御も行なっていると考えるのが妥当だろう。だいたい、今回の液晶は数字/英字以外に漢字を8文字×5行表示可能としているが、これを汎用LCDコントローラで行なうとグラフィックで取り扱うしかないから、漢字パターンの格納や表示に結構手間がかかるため、おそらくはキャラクタジェネレータも内蔵していると思われる。ここまで特殊な用途だと、汎用品ではたしかに難しいところだ。おそらくこのmini-Jを開発しているベンダーが作成したASICだと思われる。



【謎のASICその2】

 デジタル部にもう1つ搭載されるのがこの“WN990035-1”というチップ。こちらもやはり正体は不明である。ただブロック図を書いてみると、ISDNモデムの中心部にあたる、B1ないしB2回線を使ったデジタル通信の制御をする部分が存在しない事が判る。従って、そのデジタル通信の制御がこの“WN990035-1”チップで行なわれていると考えて良さそうだ。おそらくは他にもISDN TAを手がけているベンダーなのであろう(Infineonを始め、多くのベンダーがこのために1~2チップのソリューションを提供しているので、普通に考えればわざわざASICを起こすのはコスト面で割に合わないからだ)。



【DSU】

 mini-JはDSUインターフェイスを内蔵するが、これを実現するのがNECのμPD3954GCである。なぜかメーカーサイトにはこの製品へのリンクが無くなってしまっており、詳細なスペックを示すことが出来ないが、他のISDN機材でもやはりこのμPD3954が使われているのを見たことがあるので、間違いはないと思う。DSUというのはEthernetなどで言うところのPHY、つまりレイヤ1の物理層コントローラにあたる部分だ。



【PCM CODEC】

 ISDN TAである以上、当然アナログ回線が2つ出てくるわけだが、こちらの回線はアナログ回線だから、デジタル回線であるISDNと接続するために、どこかでアナログ/デジタル変換が必要になる。これを行なうのがAKM(旭化成マイクロシステム)のAK2305である。この製品は1つで2回線分のアナログ信号を、1つのデジタル回線と双方変換する機能を持っている。



【RSLIC】

 音声信号自体は上のPCM Codecで賄うとして、アナログの電話回線には他にも必要な制御がある。それはオンフック/オフフックと呼び出しの制御で、特にISDNの場合フックを使って内線切り替えだの転送だのの機能を実現する場合もあるから、ここの制御を欠かすことはできない。これを実現しているのが、(無線LANコントローラでも出てきた)IntersilのHC55184Eである。



というわけで

 というわけで、簡単にISDN TAの内容をご説明した。厳密には、DSU周辺とか、アナログ回路のところには幾つかトランスやコンデンサを使ったフィルタ類が入っているが、アナログ回路の話を延々とするのも何なので今回は省略させていただいている。ただ、全体としてはそれほどパーツは多くないし、プロセッサにMC68302という古い製品を使っている割には集積度が高く、すっきりした構成になっていると言える。

 ちなみに我が家には同じNTT-MEのMN128-SOHO(初代)があるが、内部構造はものすごいもので、今から見ると恐ろしく古い回路に見える。ちなみにmini-Jだが、実売価格は安いところで1万2千円台、平均価格でも1万4千円台と非常に格安。こうした価格で販売できるのも、集積度が高く、かつ枯れた部品を使っているために原価が低いためと考えていいだろう。

 そんなかんなで6回に渡ってお届けしたネットワーク機器の内側だが、今回を持って一応終了である。もともと短期連載のつもりで始めたのであるが、予想外に読者の皆さんからの反応が多く、驚いている。もし読者の皆さんの中で「この製品を是非バラして解説して!」という希望があれば、編集部までメールをお寄せいただきたい。反響次第では、再び編集部から筆者にお呼びがかかるでしょう(笑)。



(2002/05/02)
槻ノ木隆
 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。
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