■1万円台前半で公称70Mbpsのスループット
NECから発売された「Aterm BR1500H」(以下、BR1500H)は、1万3000円前後の実売価格ながら、公称70Mbpsのスループットを誇る製品である。最近では、1万円台のブロードバンドルータでも、スループット50Mbps以上を謳う製品が珍しくなくなったが、NECといえば以前から初心者にも優しい設定ソフトなどを添付して、製品の差別化を図ってきた印象のあるメーカーである。そのNECが低価格・高速ルータの業界に参入してきたわけで、ニーズが高い市場であることを感じさせる。なお、同社の製品にはADSLモデムを内蔵した製品も多いが、BR1500Hは純粋なブロードバンドルータで、ADSLモデムは内蔵していない。
そのBR1500Hの外観だが、同社製品ではおなじみの、三角形のスタンドを使った縦置きが可能なスマートなボディである(写真1、2)。縦置きと横置きの両方がサポートされているので設置場所を選ばないのは嬉しい。なお、ACアダプタのサイズは決して小型ではないので、コンセントを占有してしまう可能性がありそうだ。短い延長ケーブルが付属していればよかったのだが。気になる発熱だがそれほどたいしたものではなく、特に本体は側面に多数の穴が空けられているためか、熱さはほとんど感じない。狭いところに押し込むのはちょっと問題あるにせよ、あまり神経質に考える必要もなさそうだ。
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写真1 NEC製品ではおなじみの、縦置きのスマートなボディ。ラベルがピンクで統一されており、おしゃれな感じがする |
写真2 縦置きスタンドを付けなければ横置きでの作業も可能。ちなみにACケーブルは直付けされている
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本体前面は、ステータスを表すLEDが並んでいる(写真3)。なお「PPP」はPPPoE接続が確立しているときに点灯するLEDで、「WAN」はADSLモデムやケーブルモデムなどとのリンクが確立しているときに点灯するランプである。ちなみに、LANポートのステータスLEDは背面のLANポート脇に備えられている。その背面だが、WAN側ポート(10/100BASE-TX×1)、LAN側ポート(10/100BASE-TX×4)が並び、電源スイッチと、設定を工場出荷時に戻すためのスイッチが用意されている(写真4)。
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写真3 本体前面。POWER、WAN、PPP(本文参照)、DATAの各LEDが並ぶ。点灯/点滅、色により、別のステータスを表すLEDもある |
写真4 本体背面。上からWAN側ポート、アース端子、LAN側ポート×4、工場出荷時へのイニシャルスイッチ、電源スイッチが並んでいる
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■最低限の機能を備えたWeb設定画面
ルータの設定はWebブラウザによる一般的なものだ。ただ、これまでのNEC製品に付属していた設定ユーティリティ「らくらくアシスタント」は付属しておらず、Webブラウザによる設定のみになってしまった。おそらくはコスト削減のためだと思われるが、従来のNEC製品を使っていた人は要注意だ。
設定画面は「http://web.setup/」のアドレスで表示できる(画面1)。設定メニューは5項目に分けられており、左側のフレームに用意された、それぞれのプルダウンメニューから設定画面を選択・表示する方式となっている(画面2)。
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画面1 設定画面のトップページ。< http://web.setup/ >のほかに、IPアドレスを直接指定しても表示できる(デフォルトのIPアドレスは「192.168.0.1」) |
画面2 設定メニューの一覧。メニューは、主に左側のフレーム用意されたプルダウンメニューから選択する
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では、主な設定内容を見てみよう。まずWAN側設定は、「ローカルルータモード」と「PPPoEモード」に分けられており、それぞれでDHCP、固定IPの指定が可能になっている(画面3、4)。また、PPPoEモードでは、あらかじめ4個の接続先設定を行なっておき、接続先を選択することもできる(画面5)。2箇所以上のプロバイダーと契約している人には、便利な機能だろう。また、BR1500Hには「PPPoEブリッジ」機能が搭載されている。これは、BR1500Hに搭載されているPPPoE機能ではなく、Windows XPなどのPPPoE機能を利用して接続を行なうものだ。PCであればグローバルIPをPCに割り振ることができるし、PlayStation2など別のPPPoEクライアントを使わなければならない状況にも簡単に対処できる。
続いてはポートフォワーディングの設定だが、機能は最低限に留まっている(画面6)。変換対象のポートと、転送先のIPアドレスが指定できるだけだが、一般的な用途で困ることはあまりないだろう。
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画面3 WAN側設定は固定IP、DHCPを利用するローカルルータモードと、PPPoEモードに分けられる。PPPoEのオンデマンド接続も可能 |
画面4 PPPoEの設定画面。利用機会はそれほどないと思われるが、固定IPでの接続も可能である
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画面5 あらかじめ4個までの接続先を登録しておけるが、その中から自動的に接続する設定を選択できる。ただし、PPPoEモードで動作している場合のみ |
画面6 NATの設定。対象のポートと転送先のIPアドレスを指定するだけの簡単なものである。上側のフレームで、登録したの設定の有効/無効を切り替えられる
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また、NATに関する設定はこのほかにも用意されている(画面7)。「NATモード」欄の設定は、通常動作のほか、1台のパソコンが全ポートを独占する「シングルユーザーモード」(いわゆるバーチャルサーバー機能と考えていい)、複数のグローバル固定IPを取得している場合に利用する「複数固定IPサービス」が設定できる。ゲームなどで全ポートをオープンにしたい場合や、高度なサーバー公開を考えている人にはありがたい機能だ。
さらにUnuversal Plug&Playにも対応しているので、Windows Messengerのビデオチャットや音声チャットなども行なえる。今回、ライブカメラが用意できなかった関係でビデオチャットはテストできなかったが、音声チャットは問題なく行なえることを確認できた(画面8)。
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画面7 「高度な設定」画面ではNATに関する特殊な設定を行なえる。またUniversal Plag and Playの有効/無効もここで切り替える |
画面8 BR1500HのUniversal Plag and Playを有効にしてWindows Messengerをテストした。音声チャットが問題なく開始されていることが分かる
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パケットフィルタの設定は、あらかじめ「フィルタエントリ」に設定を用意しておき、状況に応じてチェックボックスで有効/無効を切り替える方式がとられている(画面9)。このエントリは、フレームで分けられた下部の画面から編集できる(画面10)。チェックが外れて無効の状態にはなっているが、あらかじめNetBIOSを遮断する設定などがエントリされており、セキュリティを高めるためにも、まずはこの設定を有効にしておきたい。
なお、製品の外箱には、”オンラインによるバージョンアップにて対応予定”としたうえで「DMZホスティング機能」「VPN(PPTP)パススルー機能」が記載されているが、原稿執筆時点(8月末)ではアップデート用のファームウェアは提供されていないようだ。
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画面9 パケットフィルタの設定には、あらかじめいくつかの設定がエントリされているので、任意に有効/無効を切り替えることになる |
画面10 フィルタの設定を新たにエントリする場合は、下側のフレームから行なう。IPアドレスは全アドレス指定(”*”を入力)や、サブネットマスク、範囲指定など柔軟に指定が可能だ
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■公称値70Mbpsのスループットを調査
BR1500Hに使われているプロセッサなどの情報は、NECのリリースによれば「新開発の専用LSI」となっている。NECは以前から自社製品に、独自開発したASICを搭載していることで有名である。またそもそもNECは、自社でVRシリーズのCPUコアをASIC用に用意しており、これらを組み合わせて新しい専用プロセッサを設計したのではないかと思われる。また、BR1500Hは当初「公称50Mbps」として発表されたが、出荷前にソフトウェアチューニングを施し、公称スループット値が70Mbpsまで引き上げられたという経緯がある(この件のリリースはこちら)。こうなると、ますます実効スループットは気になるところで、さっそく測定してみることにした。
テスト環境は下図と表に示すとおりである。上り、下りを分かりやすくするためにサーバー・クライアントと分けてはいるが、両方にIISをインストールし、HTTP、FTPともにサービスを起動している。各PCにはCENATEKのRAMDisk NTを用いて128MBのRAMディスクを用意、ここを使って転送を行なっている。HDDなどのボトルネックを解消するための配慮だ。詳細な環境は表1にまとめた。
この環境で60MBのファイルを転送し、転送時間から速度を求めたものが表2だ。この結果は、いずれも3回のテストの平均値を求めたものである。なお、ファイルの転送はInternet Explorerの「ファイルに保存」を利用した。
まず、この環境のネットワークでどの程度の転送速度を実現できるかを調べた結果が「直結状態」の項で、図1の点線部分に当たる。いずれも80Mbps以上の速度が出ており、BR1500Hのテスト環境としては問題ない。
続いて、BR1500Hを用いて転送を行なった結果をみてみると、平均すると50Mbps弱といったところである。プロトコルの種類、アップ/ダウン、パケットフィルタやNATを適用するなど、さまざまな条件のテストを行なっているが、いずれの転送速度も大差はなく、プロセッサには余力を残しているようにも感じられる結果だ。
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| サーバー | クライアント |
CPU | AMD Athlon MP 1.2GHz×2 | AMD Athlon XP 1700+ |
マザーボード | TYAN TigerMP(AMD760) | ECS K7S5A |
メモリ | Registerd DDR SDRAM 512MB(256MB×2) | PC2100 DDR SDRAM 256MB |
HDD | Maxtor DiamondMax Plus D740X 20GB (NTFS) | Seagate Barracuda ATAⅣ 40GB (NTFS) |
LANカード | プラネックスコミュニケーションズ GN-1000TE | Intel 21143搭載LANカード |
OS | Windows 2000 Professional 日本語版+Service Pack 2(IIS 5.0) | Windows XP Professional 日本語版(IIS 5.1) |
RAMディスク | 128MB | 128MB |
表1:テスト環境 |
| プロトコル | 転送条件 | 速度 (Mbps) |
直結 状態 | ftp | サーバー → クライアント | 87.7 |
クライアント → サーバー | 84.8 |
http | サーバー → クライアント | 89.3 |
クライアント → サーバー | 82.9 |
NEC Aterm BR1500H 利用 | ftp | サーバー → クライアント | パケットフィルタリングなし | 49.4 |
パケットフィルタリングあり | 49.3 |
パケットフィルタリング+NAT | 49.4 |
クライアント → サーバー | NATあり | 49.1 |
NAT+パケットフィルタリング | 49.6 |
http | サーバー → クライアント | パケットフィルタリングなし | 49.3 |
パケットフィルタリングあり | 49.1 |
パケットフィルタリング+NAT | 49.1 |
クライアント → サーバー | NATあり | 48.8 |
NAT+パケットフィルタリング | 50.1 |
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表2:テスト結果 |
■価格以上の性能を持つ製品
以上、BR1500Hを試用したわけだが、さすがに公称70Mbpsのスループットを確認することはできなかった。ただ、リリース当初にうたっていた50Mbpsに限りなく近い数字は出ており、高速ルータといってしまって問題ないだろう。実際50Mbpsという数字はFTTHサービスで条件が揃っていても、なかなか出ない数値であり、このルータがボトルネックになる条件は思い浮かばない。
NEC独自の設定ユーティリティが付属しないなど、同社らしさが感じられなくなっているのは残念である。だが、1万3000円前後という価格を考えれば、それも納得できる。Universal Plag and Playに対応するなど、初心者にもお勧めしやすい優れたルータといえる。
□NEC Aterm BR1500H製品情報
http://121ware.com/product/atermstation/product/bbrouter/br1500h.html
(2002/08/28)
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