■豊富な機能が魅力のSOHO向けルータ
ヤマハから登場した「RT56v」は、VoIP機能やVPN、IPv6への対応、詳細な設定ができるファイアウォールなど、スループットよりも機能に重点が置かれたブロードバンドルータだ。最近のブロードバンドルータは、スループット競争が激しく、新製品の目玉がスループット値であることが多い。そうした一種のブームはどこ吹く風といった感じに、12Mbpsというスループットよりも機能面を押し出してきている。
また、ヤマハは業務用ISDNルータを皮切りにルータ市場に参入したこともあってか、本製品でもTELNETでのログインが可能であるなど業務用途も意識しているようだ。
さて、外観は同社のRTW65シリーズの筐体を利用しており、色を黒に変更したものとなっている(写真1)。フロントには各種LEDが並ぶ(写真2)。LEDはPOWER LED、WAN LINK、WAN/LANの各ステータスのほか、VoIP電話の着信や通話中を示すLEDやメールチェック機能による着信通知LEDなどがある。
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写真1 縦置き専用のどっしりとしたデザイン。サイズはW71×H184×D137mmと大きめなので、設置場所は限定されるかも知れない |
写真2 前面にはLEDが並ぶ。LAN側各ポートのLINK LEDは背面のポート脇にある
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写真3 電話関係のポートが異質な感じを受ける背面。工場出荷時に戻すスイッチとリセットスイッチが独立して用意されているのも珍しい
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背面は非常に多くのポート類が配置されている(写真3)。WANポートと4個のLANポートは10/100BASE-TXに対応。ただし、AUTO MDI/MDI-Xに対応しているのはLANポートのみとなる。そのほか、電話線を接続するLINEポート、電話機やFAXなどを接続するTELポートが3個用意されている。なお、ACアダプタは大型のうえ、短い延長ケーブルも付属しないので、OAタップの形状によってはコンセントの干渉を覚悟しなければならない(写真4)。
このほか、3mのLANケーブル(ストレート)、3mのモジュラーケーブルが付属する。また、最近の製品では珍しく紙マニュアルが3冊も付属する(写真5)。
この紙マニュアルの内容はCD-ROM内にもPDF形式で収められているが、購入後すぐに参照するには、やはり紙マニュアルの利便性は高い。また、TELNETで使えるコマンドリファレンスは紙マニュアルが付属しないが、CD-ROM内に収められている。
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写真4 ACアダプタは大型。コンセントの干渉を避けたいなら、短い延長ケーブルを別途用意する必要がある |
写真5 紙マニュアルの添付はうれしい配慮だ。マニュアルは「設定マニュアル」「活用マニュアル」「困ったときは」に分けられている
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■多くの設定項目が用意されたWeb設定画面
ルータの設定はWebブラウザを使う一般的なものだ(画面1)。また、ケーブル類の接続案内とLAN側に接続するクライアントPCのネットワーク設定をウィザード形式で行なえるユーティリティソフトが付属する(画面2)。
Webブラウザによる設定画面だが、フレーム分けがされているわりに階層が深く、目的の設定画面がどこにあるのか分かりにくい。例えば、NATの設定をしようと思ったら、「接続設定→プロバイダ接続管理→登録の修正→NAT」の順にメニューを追っていかなくてはならない。厳しくいえばメニューがこなれてないとも言え、もう少しシンプルにしても良いのではないかと思う。
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画面1 ブラウザでの設定画面はまたは(デフォルト)で開ける |
画面2 「RT56vパソコンセットアップ」では、クランアントPCのネットワーク設定を自動で設定してくれるほか、ケーブルの接続先案内などがウィザード形式で表示される
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画面3 WAN側設定は多くのシチュエーションから選択して行なう。なお、VPN設定は接続の設定を行なってからでないと設定できない
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では、各種設定項目を見ていこう。まずWAN側の設定である。画面3に示すとおり、さまざまな接続形態が提示されるが、基本的には固定IP、DHCP、PPPoEの3種類への対応となる。加えて、WAN側の接続設定を行なった後にはVPN(PPTP)の設定を追加できることになる。
ちなみにPPPoEの設定は、新規登録時には画面4が表示される。ここでは接続先のIDやパスワード、接続方法の種類を登録するだけである。一見MTUの設定は行なえないように見えるが、実はいったん登録したPPPoEの設定を修正する画面を見ると、MTUの設定が行なえるのである(画面5)。
また、新規登録時は設定できなかった自動切断までの時間も、画面5の上部にある[自動切断]を選択することで設定画面が表れる。先にも述べたが、こうした部分からも、Web設定画面がこなれてない印象を受ける。
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画面4
PPPoE接続の新規登録画面。ここから設定できるのは最低限の内容のみ
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画面5
登録してある内容を修正する画面で、さらに詳細な設定を行なえる。MTUや自動切断時間などはこちらで設定する
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WAN側の設定は複雑なのに対し、LAN側の設定はいたってシンプルである。LAN側IPアドレスやDHCP機能の有効/無効と割り当て範囲を指定するだけである(画面6)。なお、WAN側ポートは、PPPoEなどの設定を一切していない場合に限り、5個めのLANポートとして使用することができる。
本製品のウリの1つであるファイアウォール機能は、非常に高度な設定が可能だ(画面7)。本製品のパケットフィルタ機能は2種類に分かれており、ポートとIPアドレスを指定してパケットを遮断/通過させる一般的な「静的フィルタ」機能と、必要に応じてポートを空ける「動的フィルタ」機能である(画面8)。とくに動的フィルタは通信状態を監視して、例えば外部サーバー公開時にポート80(www)にアクセスがあったときだけポートを空け、それ以外のときはポートを閉じておくといった、高いセキュリティを確保するものである。コンシューマ向けのルータ機器に実装されていることは珍しく、非常に有用な機能といえる。 また、不正アクセスを検知し、不正アクセスが合った場合にメールで知らせる機能もある(画面09)。
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画面6
LANポートの設定。WAN側の接続設定がなされていない場合は、WAN側ポートの欄にLANポートとして使用するか否かの選択メニューが表示される
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画面7
ファイアウォールの設定はLAN/WANポートごとに、それぞれ個別に設定が可能
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本製品のファイアウォール機能の良いところとして、あらかじめパケットフィルタの設定が有効になっていることも挙げられる。NetBIOS関連やIngress(不要なパケット)を破棄する設定を行なえるのだが、どのレベルまで有効にするかを設定することもできるのだ(画面10)。詳細な設定ができるのもすばらしいが、初心者にも優しく設定の手間を省ける設定が用意されている点は評価したい。
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画面8
一般的なフィルタリング設定を行なう静的フィルタのほか、動的フィルタの設定も可能
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画面9
不正アクセスを検知したときに指定したアドレスへ警告メールを送れる。こちらの画面からは、メール着信チェック機能の設定画面へもジャンプできる
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NATの設定はごく簡単なものである。WAN側からのアクセスからリクエストのあったポートと、転送先のIPアドレスを指定するだけだ(画面11)。DMZホスティング機能も持つ。もっとも、DMZ専用ポートを持たないので、完全にLAN側と切り離されているわけではないので、WAN側からのアクセスをすべて指定したIPアドレスのPCに飛ばすだけのものだ。
本製品はTELNETをベースにしたコマンドによる設定も可能だ。Web設定画面にも、このコマンドを入力して設定する画面が用意されている(画面12)。もちろんTELNETによるログインも可能だ(画面13)。このほか、本製品のTELポートに接続した電話機から設定を行なうこともできる。こうした設定コマンドは、付属のCD-ROM内にPDF形式でコマンドリファレンスが収録されている。
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画面10
WAN側の設定画面からセキュリティレベルを選択するだけで、パケットフィルタリングの設定が自動的に行なわれる
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画面11
NATの設定はごく簡単なものである。設定画面はWAN側設定の中にあり、ちょっとわかりにくい
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画面12
ヤマハ製品を以前から使っている人にはお馴染みの、コマンドによる設定も行なえる
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画面13
TELNETでのログインもできる。ただしシリアルポートは搭載していないのでイーサネット経由でのログインのみになる
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最後に、TELポートの使い方を紹介しておこう。このTELポートは外線の発着信はもちろん、各TELポート間の内線通話も可能である。こうした設定もWeb設定画面から行なえる(画面14)。ナンバーディスプレイを契約しているなら、本製品内部で着信拒否指定をしたり、発信元によって着信音を変える、といったこともできる。
またVoIPによるインターネット電話も、TELポートに接続した電話機で行なえる(画面15)。このインターネット電話にはSIPプロトコルを使用しており、相手側にも対応したルータが必要だ。ただ、ある程度の規模の企業で支店/営業所ごとに本製品を設置し、インターネット電話機能を利用すれば、通話料無料で電話をすることができる。逆に、現段階ではこうした使い方以外は、劇的なメリットはないかもしれない。
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画面14
TELポートの設定もWeb上から行なうことになる。本製品の電話機能は、ごく簡単なPBXシステムを構築できると考えると分かりやすい
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画面15
TELポートに繋いだ普通の電話機でインターネット電話を行なうこともできる。TELポートごとに使用の可否を決められる
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■スループットは今となっては遅いレベル
冒頭でも紹介したとおり、本製品の公称スループット値は12Mbpsと、今年登場した製品のなかでも遅いレベルである。搭載しているプロセッサも日立製作所のSH3(133MHz)で、これは10Mbps前後のスループットがブロードバンドルータの主流だったころに(つまり昨年末ぐらいまで)、ARM7系と並んでよく使われていたプロセッサだ。この当たりからも、スループットにはあまり期待はできないが、どの程度までの環境なら本製品でも問題ないかを調べるため、スループットを測定してみた。
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| サーバー | クライアント |
CPU | AMD Athlon MP 1.2GHz×2 | AMD Athlon XP 1700+ |
マザーボード | TYAN TigerMP(AMD760) | EPoX EP-8K3A+(Apollo KT333) |
メモリ | Registerd DDR SDRAM 512MB(256MB×2) | PC2100 DDR SDRAM 256MB |
HDD | Maxtor DiamondMax Plus D740X 20GB (NTFS) | Seagate Barracuda ATAⅣ 40GB (NTFS) |
LANカード | プラネックスコミュニケーションズ GN-1000TE | Intel 21143搭載LANカード |
OS | Windows 2000 Professional 日本語版+Service Pack 2(IIS 5.0) | Windows XP Professional 日本語版(IIS 5.1) |
RAMディスク | 128MB | 128MB |
表1:テスト環境 |
テスト環境は表1と図にまとめたとおりだ。いつものように、サーバー、クライアントの各PCにIISをインストールし、http/ftpの各サーバーを起動している。ボトルネック解消のため、各PCにはCENATEKのRAMDisk NTを用いたRAMDISKを用意し、そこを利用して転送を行なっている。
まず、この環境におけるピーク性能を調べるため、図1の点線で結んだラインの速度を調べた。ここでは60MBのファイルを転送して調査している。表中の「直結状態」がそれだが、だいたい80~90Mbps以上の数値が出ており、本製品のテストにはまったく支障がない。
では、本製品でルーティングを行なった場合の結果を見てみよう。転送レートが遅いこともあり、ここでは30MBのファイルを転送して調査している。
本製品を使用した場合のスループットは、想像どおり現在のルータとしては今ひとつな結果で、全結果が1桁台になっている。また、パケットフィルタやNATを適用するとスループットがガクンと落ちるあたり、何も適用せずに転送した場合の数値は本製品のピークと考えていいと思われる。そのほか、下りよりも上りが高速である傾向も見受けられる。
現行製品としては満足できない結果かもしれないが、一番遅い結果でも7.92Mbpsであり、これは8M ADSLの実効速度を考えれば十分対応できる速度ではある。普及著しい8M ADSLに対応できるスループットは譲れないラインといえるが、これは何とかクリアしている。
| プロトコル | 転送条件 | 速度 (Mbps) |
直結 状態 | ftp | サーバー → クライアント | 85.07 |
クライアント → サーバー | 85.33 |
http | サーバー → クライアント | 92.00 |
クライアント → サーバー | 80.53 |
YAMAHA RT56v 利用 | ftp | サーバー → クライアント | パケットフィルタリングなし | 8.61 |
パケットフィルタリングあり | 7.92 |
パケットフィルタリング+NAT | 8.08 |
クライアント → サーバー | NATあり | 8.85 |
NAT+パケットフィルタリング | 8.40 |
http | サーバー → クライアント | パケットフィルタリングなし | 8.59 |
パケットフィルタリングあり | 7.95 |
パケットフィルタリング+NAT | 8.13 |
クライアント → サーバー | NATあり | 8.80 |
NAT+パケットフィルタリング | 8.35 |
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表2:テスト結果 |
■機能面を重視した点では意義ある製品
以上、本製品を試用した結果から言えば、ADSLを利用したVPNを構築したいユーザー、オフィスには、強力なファイアウォール機能と合わせてお勧めできる。ただしFTTHサービスを利用しているユーザーは、本製品がボトルネックになる可能性が高いので避けたほうがいい。最近はADSLサービスも8Mbpsから12Mbpsへ移行しつつあるが、現実問題として12Mbpsがフルに出るケースは稀だから、まぁ本製品でほとんどの場合はカバーできるはずだ。
ところで本製品は、最近のルータ市場ではかなり異端な製品である。VoIP機能などは現時点ではユーザーに受け入れられるセールスポイントになり得るか疑問だが、強力なファイアウォール機能やVPNへの対応などは、市場のニーズに確実に応えている部分だ。
スループットよりも、ユーザーが求める機能を確実に実装することも大切なことであり、この点を重視した点で意義のある製品といえるだろう。
□ヤマハ NetVolante「RTA56v」製品情報
http://netvolante.rtpro.yamaha.co.jp/products/rt56v/
(2002/09/13)
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