■驚くべきスループット91Mbps
プラネックスコミュニケーションズから今年7月に発表された「BRL-04FB」は、スループットの公称値が91Mbpsという超高速ルータだ。91Mbpsとなると、100BASE-TXのLAN環境の限界に近い数字であり、ルータによるボトルネックがほとんどないと考えられる驚くべき数値である。しかも、店頭価格は1万3000円程度と、個人でも十分に手が出せる範囲だ。
プラネックスコミュニケーションズは、ブロードバンドルータという製品グループひとつをとっても、高スループットタイプ、プリントサーバー内蔵タイプ、無線LAN内蔵タイプなどの幅広いラインナップを揃え、それぞれに標準的な機能を整えている印象があるメーカーだ。その中でBRL-04FBは、91Mbpsという他メーカーの追随を許さない高スループットを誇る製品で、同社の強い意気込みを感じる。
その外見は、青くて四角い無骨な印象だ。ただ、こうしたコストパフォーマンスを重視したルータには、外装をプラスチックで覆っていることも多いが、本製品は金属製でしっかりした感じを受ける(写真1)。
フロントパネルも一般的で、電源LED、ステータスLEDのほか、各ポートの状態を示すLEDが並ぶ(写真2)。また、バックパネルもシンプルなもので、WAN、LANそれぞれのポートと、再起動と設定初期化が行なえるリセットスイッチなどが並んでいる(写真3)。なお、WAN、LANともに10/100BASE-TXに対応するが、Auto MDI/MDI-Xに対応するのはLAN側だけなので注意が必要である。WAN側ポートはMDIポートとなっているので、ADSLモデムなどはMDIポートの場合は、クロスケーブルを別途用意する必要があるからだ。
なお、付属のACアダプタは小型タイプではないが、短い延長ケーブルも付属しているので、ほかのコンセントとの干渉を防げる(写真4)。同社製品ではおなじみのサービスだが、こうした配慮はありがたく、今後も継続して行なってほしい。
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写真1
同社の製品ではおなじみのデザイン。ただこのところはプラスチック製の筐体の製品が多く、金属製なのはひさしぶりだ |
写真2 フロントパネルは一般的な配列。PPPoEセッションが確立していることを示すLEDも設けられている。
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写真3 背面はACアダプタ接続口、LANポート×4、WANポート×1、リセットスイッチが並ぶ。リセットを押したまま電源を入れることで設定の初期化も行なえる
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写真4 ACアダプタは標準的なサイズだが、短い延長コードが付属するのでコンセントに繋ぐときは便利
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■小規模オフィスを意識した設定内容
ルータの設定はWebブラウザによるもので、黒と青を基調にした、渋いものになっている(画面1)。
WAN側の設定は、固定IP、DHCP、PPPoEの設定が可能。ただし、これらの設定はすべてウィザード形式となっている(画面2)。最初の設定を行なうときは便利なのだが、WAN側のIPアドレスをちょっと変更する、といった場合にもウィザードを走らせる必要があり不便に感じることもある。
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画面1 設定画面も同社らしさを感じる。LAN側のデフォルトIPアドレスは「192.168.1.1」となっている |
画面2 WAN側の設定は、すべてこのウィザードで行なう。通常接続、PPPoEそれぞれにDHCP、固定IPの設定ができる
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なお、ウィザードの最後にはサーバーへの接続テストが行なわれ、WAN側のサーバーとの接続が行なえるかを自動的にテストしてくれる(画面3)。また、PPPoEの設定では、オンデマンド接続、自動切断のオン/オフ、MSS(Maximam Segment Size)の設定があり、必要と思われるものが揃っているといっていいだろう(画面4)。
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画面3 最後に接続テストができる。設定終了の段階で接続テストができるのは、実際に使ってみると非常に便利 |
画面4 PPPoEの設定は、シンプルながらツボを押さえており、十分な機能といえる
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画面5 LAN側の設定はこれだけ。DNSサーバーの設定などもなく、少々不満が残る |
LAN側の設定は、LAN側ポートのIPアドレスとDHCP機能の簡単なものだ(画面5)。詳しくは後述するが、本製品にはLAN側からのアクセス制限機能が設けられており、小規模オフィスでの用途も考えられる。どうせならば、MACアドレスをキーにした静的なIP割り振りもサポートしていれば、更に良かったのだが。
では、そのほかの設定を見てみよう。本製品の面白い機能の1つに「PCデータベース機能」がある。これは、DHCPで割り振ったPCを自動的にベータベース化しておくものだ(画面6)。こうすることで、外部パケットの送信先やアクセス制限をかけるPCを指定する場合に、このリストから選択するだけで済むのだ(画面7)。DHCP機能を使っていると、LAN側PCに割り振られたIPアドレスを確認してからこうした設定を行なう必要があるが、この手間が省けて便利である。
逆に、固定IPアドレスを割り振ったLAN側のPCがある場合、手動でこのデータベースにPC名・IPアドレスを登録する手間が増えてしまう。先に静的IPアドレスの割り振りができないことに触れたが、本製品上で固定IPアドレスを割り振るPCも管理できると、こうした点でも便利なのである。
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画面6 LAN側に接続されているPCを管理する「PCデータベース」機能。固定IPを割り振っているPCが存在する場合は、ここで手動登録する必要がある
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画面7 そのほかの設定個所でLAN側のPCを指定する場合は、画面6のPCデータベースに登録しているPCから選択することになる
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続いてNATの設定だが、こちらは送信元ポート・宛先ポート・宛先IPアドレス(PC名)を指定するだけの簡単なものだ(画面8)。また、外部からのパケットを判別して遮断・通過させるフィルタ機能は搭載しておらず、DoS攻撃を検知して自動的に遮断する設定が行なえるのみだ(画面9)。逆に言えば、この設定を行なうだけで一定のセキュリティが保てるのだから、楽に感じる人もいるかもしれない。
このように、外部からのアクセスを判別して何かをする、といった機能は柔軟性に欠ける印象だが、逆にLAN側からWAN側へのアクセスは詳細な設定が用意されている。
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画面8
NATの設定画面。送信元IPアドレスは指定できないなど不足は感じるが、最低限の機能は備えている |
画面9
WAN側からのパケットフィルタはDoS攻撃の検出/遮断のみ。細かな設定は行なえない。なお、この画面からVPNパススルーの設定が行なえ、IPsec/PPTP/L2TPの各プロトコルを利用できる
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画面10 「アクセス制限」画面。これはLAN側からWAN側へのアクセスを制限するものだ。ポートごとに細かく制御できる
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LAN側のアクセス制限は、ポートごとの制限(画面10)や時刻による制限(画面11)、URLによる制限の3パターンが行なえる。また、LAN側PCをグループ分けし、グループ毎に制限をかけることもできる。
こうしたLAN側からのアクセス制限は明らかに企業ユースで、小規模オフィスを強く意識したものと思われる。ただ、個人ユースでも、子供に見せたくないURLをフィルタリングしたり、深夜にはアクセスできないように制限するといった使い方は十分に考えられる。
また、Dyndns.orgに登録したDynamic DNSの情報を、自動的に更新してくれる機能を持っている(画面12)。通常であればDDNS用クライアントをPCにインストールする必要があるが、ルータ側で作業を行なってくれるというものだ。
そのほか、Universal Plag&Playにも対応しており、Windows Messengerによる音声チャットを試してみたが、問題なく実行できることを確認できた。
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画面11
画面10から[スケジュールの設定]を選択すると、LAN側PCがルータ経由でアクセスできる時間帯を指定できる |
画面12 サイトはDyndns.orgに限られるのが残念だが、DDNSによるサーバー設置が簡単に行なえるのは便利
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■公称91Mbpsの高スループットを計測
では、気になる公称91Mbpsのスループットを計測してみよう。なお、本製品のプロセッサはBRECISのMSP2000(写真5)が使われている。これは150MHz動作のMIPS32 4kコアのプロセッサだ。3つの10/100BASE-T MACを内蔵していたり(WAN/LAN/DMZ用、ということだ)、VPNのアクセラレーション機能を持つなど、ルータ用途を前提とした構成の製品である。高スループットのルータ製品では、例えば先日オムロンから発表された、公称92Mbpsの高速ルータ「VIAGGIO MR104DV」にも、同じくMSP2000が使用されているなど、パフォーマンス指向の製品に多く採用例が見られる。
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写真5 BRECIS MSP2000。150MHz駆動のMIPS32 4Kmコアプロセッサに、最高3.2Gbpsの内部バスを組み合わせ、3つのMACやSecurity Engine(3DES VPN利用時で40MB/secのスループットに対応した処理能力を持つ)、メモリインターフェース、汎用I/Oなどをオンチップで搭載した製品だ。
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さて、スループットのテスト環境だが、表1に示すとおりだ。これまでと同じくサーバー・クライアント両方にIISをインストールし、HTTP、FTPの各サービスを起動している。また、それぞれにCENATEKのRAMDisk NTを用いて128MBのRAMディスクを用意し、この領域を利用して転送を行なった。
また、今回の原稿執筆中に、本製品のファームウェアがアップデートされた。当初のファームウェアは「Version1.6 Release08」が適用されていたが、今回「Version1.6 Release11」が提供されたのである。修正個所には、FTTHサービスであるBフレッツでPPPoE接続したときのスループットを改善といった内容も認められたので、今回は古いファームと新しいバージョンのファームの両方をテストし、その違いを確認してみた。
なお、今回のテストでInternet Explorerの「ファイルに保存」を使用して60MBのデータファイルを転送した速度を割り出そうとしたのだが、サーバー側からクライアント側のFTPサーバーが参照できない事態が発生した。ファームウェアのアップデート後も現象が変わらなかったのだが、この段階でコマンドプロンプトのFTPクライアントであれば問題なくアクセスできることが判明した。そのため、Release08ではHTTP/FTPともにInternet Explorerの「ファイルに保存」を使用した結果を利用しており、一方Release11ではHTTPのみ同じくInternet Explorerの「ファイルに保存」を利用したが、FTPはコマンドプロンプトからFTPクライアントを使用して転送を行なった結果を利用することになった。このため、ファームウェアアップデートによる転送速度の違いについては、テスト方法が同じHTTP転送のみで判断することとしたい。
なお、テストはそれぞれ3回行ない、その平均値を結果として示している。
さて、結果は表2にまとめたとおりである。「直結状態」とは図1中の点線部分を示し、要するにルータを介さない場合の転送速度だ。この結果を見ると、91Mbpsの本製品のテストではピーク性能を引き出せない可能性もある。
ただ、実際にテストしてみるとコマンドプロンプトのFTPを使用した場合には、公称値どおり91Mbpsの転送速度が発揮できていることがわかる。ただ、Internet Explorerを使用したHTTP転送については、おおよそ60Mbps強といった当たり足踏みしてしまっている。傾向としては、下りよりも上りのほうが遅く、こちらは60Mbps弱といったところ。それでも、HTTP転送で60Mbps前後のスループットは十分すぎる速度で、FTP転送時の91Mbpsは100BASE-TXの限界に近い驚異的なスピードである。このことからも、かなりの性能を持つルータであることは間違いないだろう。
なお、HTTP転送におけるファームウェア適用による速度変化が見られなかった点についてだが、修正内容はあくまでPPPoE接続に限定しているためだろう。今回はWAN側はPPPoE接続ではなく直接接続のため、旧バージョンのファームウェアでも問題がなかったようだ。
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| サーバー | クライアント |
CPU | AMD Athlon MP 1.2GHz×2 | Intel Pentium 4 1.6A GHz |
マザーボード | TYAN TigerMP(AMD760) | ASUSTek P4T533-C(Intel 850E) |
メモリ | Registerd DDR SDRAM 512MB(256MB×2) | PC800-45 Direct RDRAM 512MB(128MB×4) |
HDD | Maxtor DiamondMax Plus D740X 20GB (NTFS) | Seagate Barracuda ATAⅣ 40GB (NTFS) |
LANカード | プラネックスコミュニケーションズ GN-1000TE | Intel 21143搭載LANカード |
OS | Windows 2000 Professional 日本語版+Service Pack 2(IIS 5.0) | Windows XP Professional 日本語版(IIS 5.1) |
RAMディスク | 128MB | 128MB |
表1:テスト環境 |
| プロト コル | 転送条件 | 速度(Mbps) |
Release 08 | Release 11 |
直結状態 | ftp | サーバー → クライアント | 87.73 | 91.79 |
クライアント → サーバー | 80.80 | 81.76 |
http | サーバー → クライアント | 87.20 |
クライアント → サーバー | 76.91 |
プラネックス
BRL-04FB 利用 | ftp | サーバー → クライアント | パケットフィルタリングなし | 62.13 | 91.35 |
パケットフィルタリングあり | 61.89 | 91.22 |
パケットフィルタリング+NAT | 62.56 | 91.34 |
クライアント → サーバー | NATあり | N/A | 60.11 |
NAT+パケットフィルタリング | N/A | 60.72 |
http | サーバー → クライアント | パケットフィルタリングなし | 62.27 | 61.73 |
パケットフィルタリングあり | 60.96 | 61.89 |
パケットフィルタリング+NAT | 63.73 | 62.19 |
クライアント → サーバー | NATあり | 57.60 | 57.95 |
NAT+パケットフィルタリング | 57.63 | 57.68 |
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表2:テスト結果 |
■実装されている機能には不満もスピードは十分
以上、本製品を試用してきた。条件付きではあるものの公称値どおりの結果を確認できた。また、そのほかの条件でも60Mbpsのスループットを発揮するあたりは大したもので、速度面では非常に優れたルータである。ただし、今回のテストはLAN環境によるテストであり、ルータにとってはかなり有利な条件である点には注意してもらいたい。PPPoEで使用しているユーザーに関しては、9月3日付けの清水理史氏のコラムにもあるように、さらにスループットは下がる。また、購入後ファームウェアのバージョンを確認し、Release10以前が適用されている場合は、必ずアップデートする必要がある点にも注意が必要だ。
機能面については中途半端さが目立つ内容となった。LAN側からのアクセス制限が豊富なのは珍しく、こうしたニーズも確実にあると思うが、WAN側からのアクセスに対し、ポート単位でフィルタリングがかけられないのは、個人にも手が届くルータとしては物足りない。
そういう意味では、本製品の対象ユーザーが不明瞭な印象を持ってしまう。ただ、VPNやDDNSへの対応、LAN側のアクセス制御を考えると、やはり小規模オフィス向けと考えるのが妥当かも知れない。高スループットを必要とするFTTHサービスを導入しているオフィスで、ルータを導入する計画があるのなら、本製品は有力な候補となるだろう。
□BRL-04FB 製品情報
http://www.planex.co.jp/product/broadlanner/brl04fb.shtml
(2002/09/25)
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