■ポートごとに優先順位をつけるQoS機能を装備
ソニーから登場した「HN-RT1」は、“ブロードバンドAVルーター”と銘打たれた製品である。その最大の特徴は、QoS機能を搭載していることである。
QoS機能とはQuality of Serviceの略で、ルータにおいては通信品質を管理する技術を表す。本製品では、ポートごとに優先順位を付け、順位の高いポートへのパケットを優先的に送信するという処理を行なう機能である。この機能は、とくにストリーミングビデオなどで効果がある。例えばネットワークが混雑しているときにFTPとストリーミングビデオを再生するといったケースでこの製品を利用すると、FTPの転送速度を抑えてもストリーミングビデオの転送を優先させることで、コマ落ちなく再生できるといった事が可能になる。「AV」と銘打たれている理由はここにある。
また、無線LANアクセスポイント機能も内蔵しており、IEEE802.11bに対応した無線LANを利用できる。ただし、IEEE 802.11aやIEEE 802.11gには対応しない。
ちなみに本製品はSo-net会員で、「So-net ADSL」「So-net 光」「フレッツ ADSL」「Bフレッツ」の各コースを利用している人だけが購入できる。
では、本体の外観から見ていこう。本体は白とシルバーを基調したシンプルなものだが、家電のようなスタイリッシュさを持っている(写真01)。ルータとしてはかなり大ぶりで、設置場所を選ぶかもしれない。
LED類は本体の上面に備えられており、POWER/STATUS/WIRELESSの三つのLEDが並ぶ(写真02)。
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写真01
白とシルバーを基調したスタイリッシュなデザイン。本体サイズは大ぶりでサイズは204×231×45mm(幅×奥行×高)となっている
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写真02
本体上部のインジケータ。STATUSは通信状態にあるときに点灯。WIRELESSは無線LAN接続確立時に点灯する
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本体の前面は、液晶ディスプレイとカーソル/Enterボタンが設置されている(写真03)。これは、前面のディスプレイを利用して、接続状態や無線LANのSSIDなどを確認できるものだ(写真04,05)。設定次第では、メニューを操作しないときに時刻を表示するといったこともできる。
背面にはポート類や電源スイッチが並ぶ(写真06)。WAN、LAN×4のほか、タイプA/Bの各USBポートが設置されている。ちなみにLAN1ポートには「(AV)」と明記されており、先に紹介したQoS機能による優先ポートにデフォルトで指定されている(写真07)。
このほか、本体の右側面にはメモリースティックスロットを備えている(写真08)。メモリースティックにWebページのデータを保存して外部への公開サーバーとしたり、逆にLAN内のファイルサーバーとしても利用できる。メディアがメモリースティック専用で、メモリースティックPROには未対応のため容量は小さいが、簡易NASとしての利用もできるわけだ。
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写真03
本体前面。一般的なルータと異なり、液晶ディスプレイと操作ボタンが並ぶ
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写真04
液晶ディスレプレイでは、操作ボタンによりルータの状態を確認したり、設定の一部変更が行える
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写真05
例えば、インターネット接続時にWAN側IPアドレスを確認することができるのである
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写真06
本体背面。USBポート以外にはとくに目立ったところはない。電源スイッチも用意されている
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写真07
LANポート1は、QoS機能による優先的にパケットを送信ポートに割り当てられている(設定で変更可能)
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写真08
本体左側面のメモリースティックスロット。ネットワーク上のストレージとして利用できる
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最後に本製品の付属品を紹介しておこう。まずACアダプタだが、アダプタ部とACケーブルが分離するタイプが添付されている(写真09)。また、縦置き台も用意されており、本体の縦置き設置が可能である(写真10)。本体が大ぶりなため、設置場所の幅が広がるのはありがたい。
このほかには、取扱説明書とクイックスタートガイド、オンラインマニュアルとUSBドライバが入ったCD-ROMドライブ、LANケーブル(2m)×2本が同梱されている。
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写真09
付属のACアダプタ。ルータでは珍しいアダプタとACケーブルが分離するタイプである
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写真10
縦置き用の台座が付属するので、縦置き設置も可能
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■WAN側接続はPPPoEのみ
次に設定画面を確認していこう。設定は一般的なWebブラウザによるものである(画面01)。
まずはWAN側の設定である(画面02)。本製品はSo-netユーザー限定発売という性格からか、PPPoEによる接続のみが可能となっている。よって本製品のWAN側ポートには、ブリッジタイプのADSLモデムか、光ファイバの回線終端装置が接続されることになる。なお、ルータタイプのADSLモデムを使用している場合は、ブリッジモードに変更して使用しなければならない。
さて、WAN側に関する設定項目だが、極めてシンプルである。ユーザーID、パスワードのほかは、DNSサーバーとNPTサーバーを指定できるだけだ(NPTサーバーの設定がWAN側設定欄にあるのも珍しい)。
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画面01
一般的なWebブラウザによる設定画面。トップページにはファームウェアバージョンやWAN/LANのIPアドレスが表示される。LAN側の初期IPアドレスは<192.168.100.1>
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画面02
シンプルなWAN側設定で、PPPoE接続にのみ対応する。DNS設定はデフォルトでSo-netのDNSサーバーが手動設定されている
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一方のLAN側設定は、必要十分な設定が用意されている(画面03)。LAN側IPアドレスやDHCPサーバーのリース範囲、時間が設定できるようになっている。
NATの設定はごく簡単なもの(画面04)。入力されたパケットが要求するポートと、転送先のIPアドレス、ポートを設定するのみだ。
パケットフィルタリング機能は、2種類の設定画面が用意されている。まずは、[高い][中級]の2段階に分けられたもので、自動的にセキュリティを設定してくれるものだ(画面05)。
もう一つは、一般的なルータと同じく遮断するポートを選択するもので、パケットの方向、入出力パケットのIPアドレス、ポートともに指定可能である。また、ログに残すか否かの設定も個別に行えるという非常に充実したものである(画面06)。
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画面03
LAN側設定画面。LAN側IPアドレスのほか、DHCPの各設定が行える
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画面04
NATの設定。入力ポート番号と、送信先のIPアドレス/ポート番号を指定するだけの簡単なもの
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画面05
セキュリティレベルは、手動設定を含む三段階から選択できる。[高い]を設定すると、LAN側からインターネットへのアクセスもFTP/HTTP/HTTPS/SMTP/POP3/IMAP4/
DNS/NTPといった一般的なWebサービスに限定される
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画面06
画面05のセキュリティレベルを[ユーザ設定]に選択すると、ポートごとに処理を決定する設定画面が表示できるようになる
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無線LANの設定は、一般的な機能を盛り込んだオーソドックスなもの。ESS-IDや使用チャネルのほか、WEPキー(64/128ビット)の設定が行える(画面07)。また、MACアドレスによる接続制限機能も盛り込まれている(画面08)。
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画面07
無線LANの設定は、SS-ID、使用チャネル、64/128ビットのWEPと一般的
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画面08
無線LANでは重要なセキュリティ機能となっている、MACアドレスによる接続制限も可能
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さて、本製品の目玉であるQoS機能の設定画面も用意されている(画面09)。設定は、各LANポートでQoS機能を[ON]にするか[OFF]にするかを設定するものである。[ON]にしたポートに優先してパケットを飛ばすという設定なので、本当に優先したいポートだけを[ON]にしなければならない。例えばすべてのポートを[ON]にしてしまうと、まったく意味がないのである。
このほかの機能としては、最近のルータでは一般的に盛り込まれているVPNへの対応も行われており、PPTP、L2TP、IPsecの各プロトコルに対応している(画面10)。
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画面09
本製品の目玉である、QoS機能の設定画面。[ON]に設定したポートを優先的に処理するようになる
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画面10
PPTP、L2TP、IPsecといった、一般的なVPNもサポートしている
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■内部にはEden Platformが!
さて、お約束の内部構造である。プラスチック製のカバーを外すと、なかなかがっちりしたスチール製のシールドシャーシが登場する。(写真11,12)このシャーシ、主要な接合部は銅テープできっちりとシールドされ、AV機器らしく不要な電磁波を漏らさない配慮がしっかりなされている事がわかる。これを更に分解すると、パソコンかと思うような、どこか見たことのある内部構造があらわになった(写真13)。更にヒートシンクやカバー類を完全に取り外すとこんな具合だ(写真14)。とりあえず、ボード上の各パーツを元にした内部構造の推定図を図1に示す。CPUが100MHz×4.0倍で400MHz動作のEden ESP4000とあって、チップセットは(PCマニアの方には懐かしい)VIAのApollo Pro 133Aである(写真15)。メモリは100MHzのSDRAMが64MB分搭載されており、この手の製品としてはかなり多めである(写真16)。
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写真11
正面から。左の金属板は無線LANのダイバーシティアンテナの片方。右の金属板はメモリスティックのソケットである
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写真12
左側面から。ダイバーシティアンテナのもう片方はここに設置されている
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写真13
巨大なヒートシンクの裏にあるものも気になるが、それより中央に鎮座するVIAのチップが気になる
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写真14
小さくまとまっているがIA-32ベース。というか、VIAのEden Platformである
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写真15
ノースブリッジはともかく何でサウスブリッジ?と思ったが、USBやHDD I/Fのほか、GPIO(General Purpose I/O:汎用I/Oポート)の先に、Disk on Chipや(図には描いてないが)液晶パネルやフロントスイッチが接続されており、こうした機能を用途別に追加するよりはサウスブリッジを搭載したほうが楽だったようだ
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写真16
メモリの右にはKENDINの5ポート100BASE-TX/10BASE-Tスイッチが位置する
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図1
NH-RT1内部構造(筆者推定)
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OSは、サウスブリッジ右にあるDisk on Chip(写真17)から起動される構成である。またWAN/LANに関しては、KENDINのコントローラの右(写真18)と基盤の裏面(写真19)にVIAの100BASE-TX/10BASE-TコントローラであるVT6105が置かれており、ここからWAN/LANに接続される形態だ。無線LANに関しては、Mini PCIコネクタ経由で802.11bの無線LANカードを搭載しており、ここからケース表面のダイバーシティアンテナに接続される構造になっている(写真20,21)。
全般的に、必要とされる機能に比してどうも構成にゆとりがある。CPUも必要ならESP 5000/6000に交換可能だし、IDEポートやPCIコネクタまで用意されているとなると、何らかの拡張を考えているとしか思えない。勿論汎用品ならばこうした無駄が存在するのは珍しくないが、例えば写真17の右下に“LED1”“LED2”“LED3”“LED4”というパターンと、発光ダイオードが配置されている事から判るように(これは写真02の表示用のものである)、明らかにこのケースを前提にしたものだから、汎用品を使いまわしたわけではない。シールドケースにも妙にゆとりがあり、しかも写真11を見ると判る通り、ケース外側に丁度2.5inch HDDをマウントできるスペースがある。こうしたところから察するに、今回のHN-RT1はあくまでベースモデルで、今後はここにHDDや拡張カードを追加して、より高性能なモデルをリリースする予定があるとしか考えられない。
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写真17
"V1.0.1"というシールが張られているのが、M-systemのDiskonChip Plus。容量は32MB。その右には、何故かIDEポートが出ている事に注意
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写真18
基盤配置から考えて、こちらがLAN側と思われる。何故か廃番のはずの古いVT6105を利用している
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写真19
こちらが現行のVT6105。パッケージが小さくなっている事が判る。もっとも機能は同じだ
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写真20
MiniPCIの無線LANモジュールには、IntersilのPRISM 2.5を搭載している。今回は自社製かどうかは判断できなかった
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写真21
裏面はこんな感じ。シールドの中やシールの裏にも“SONY”のロゴはなく、あるいは外部調達品なのかもしれない
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■So-netユーザーは注目の一品
さて、本製品の性能についてだが、Smartbitの計測ではスループットが97Mbpsと謳われている。実効速度については明記されていないものの、かなりの速度を発揮することが想像できる。が、何しろWAN側はPPPoE専用とあって、いつも利用しているLAN内でのFTP/HTTPテストは全く利用できない。そこで、編集部のBフレッツ回線を利用し、フレッツスクウェアに接続して速度測定を、と思ったのだが、どうもWAN側にプライベートIPが割り振られた場合、PINGすらも通らない状況で、まともな測定が出来ない状況だった。どうも、内部のNATエンジンのあたりで、WAN側がプライベートアドレスならば全部弾くという処理がなされているように見える。
もっともこの話は、So-netの『フレッツ・スクウェア」のご利用について』という項目に明記されており、どちらかといえばコチラが悪いのではあるが、とりあえず今回は、これが理由でフルスピードのテストは出来なかった。
次善の策として、イー・アクセスの12M ADSL回線(実効は2.8Mbps程度)で、レンタルモデムのNECアクセステクニカ「Aterm DR202C」でPPPoA接続した場合と、DR202CをPPPoEブリッジし本製品でPPPoE接続した場合の速度を比べてみたが、こちらはちゃんと動作したものの、2.8Mbps程度では性能に全く差はなし。まぁADSLユーザーなら安心して導入できるだろう。
なお、4月中旬には第1回目のファームウェアのアップデートが予定されているという。その際にはフレッツ・スクウェアへのアクセスも可能になるという情報も得ている。
また、QoS機能のテストについても実施してみた。にある、300Kbpsのストリーミングテストを2台のクライアントで同時再生するテストである。2台のクライアントは本製品の優先ポート、非優先ポートにそれぞれ繋いだ。結果は、どちらもエラー・損失パケットともになく、完璧に再生された(回線の帯域幅に余裕があったためと思われる)。
最後に、本製品の価格は通常価格で29,800円である。5月31日までは、24,800円の特別価格で提供されているとはいえ、少々割高な製品である。
動画コンテンツが普及途上にある現段階では、QoS機能の恩恵も少なく、この価格を聞いてためらう人も多いだろう。しかし、今後はビットレートの高い動画コンテンツも増えるだろうし、そうしたときに本製品を持っていて良かったと思うときがくると思う。
本体の設定は簡単で、使いやすいルータであり、将来の投資としてSo-netユーザーは注目したい製品だ。
■注意
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・この記事の情報は編集部が購入した個体のものであり、すべての製品に共通するものではありません。
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□HN-RT1 製品情報
http://www.so-net.ne.jp/products/router/
(2003/04/09)
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