総務省は5日、2.5GHz帯の無線を利用した広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)の具体的運用案について広く一般から意見を求める「BWAカンファレンス」を都内で開催した。通信事業者や携帯電話キャリア、地方自治体の担当者ら14組が参加し、無線方式としてWiMAXの採用を求める声が多く寄せられた。
■ 有識者によるパネルディスカッションも開催
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BWAカンファレンスの模様
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BWAは、情報通信審議会が設置した「広帯域移動無線アクセスシステム委員会」において、今年2月から検討が重ねられている。現在は同委員会による報告書案が公表されるとともにパブリックコメントを実施中だ。
カンファレンスは、傍聴人を事前に募った上で一般公開。会場となった東京・三田の三田共用会議所には意見陳述人や傍聴人ら数百名が集まっており、注目の高さを伺わせた。
。カンファレンス冒頭、開会の挨拶に立った総務省総合通信基盤局長の森清氏は、「BWAについては各方面から非常に高い関心をいただいており、総務省としては技術基準や免許方針などの具体的な策定にあたって意見を頂戴したい」と会議の狙いを説明。さらに「公開カンファレンスの開催は、電波関係では実質的に初の試み。各種審議会での討論とパブリックコメントの中間的な手法になる。(意見を)揉んでいただく場を提供するものだ」とその意義を説明した。
関係者による意見陳述に先立ち、有識者によるパネルディスカッションも開催された。慶應義塾大学 メディア・コミュニケーション研究所教授の菅谷実氏は「BWAが既存のADSLやFTTHと競合するかに興味がある。もしそうであれば、固定通信を補完しうるサービスとしてより期待が持てる」と発言。一方、東京工業大学大学院 理工学研究科教授の酒井善則氏からは「BWAには広範囲で使える無線LAN的な役割を期待している。ただし利用者が増加する以上、本当に低料金でできるかとの不安もある」との慎重論も聞かれた。
兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科教授の辻正次氏は「キャリア主体のサービス設計には問題もある。キャリアが通信端末にどの機能を入れるかで、サービスの方向性が決まってしまう」と発言。日本のは携帯電話事業者は、サービス仕様などをみずから主導的に策定する“垂直統合型”ビジネスモデルを採用しているが、これは端末の高機能化を促す一方で、国際競争力を奪う弊害もあるという。辻氏はBWAにおいて、各レイヤー別にサービス多様性を認める“水平分業型”への配慮も欲しいとした。
京都大学大学院 情報学研究科通信情報システム専攻 教授の吉田進氏からは「ユーザーの立場からすれば、広いエリアで利用可能なBWAが一刻も早く実現してほしい。限られた地域からのサービス展開であっても、Wi-Fiや3G携帯電話とのローミングなどは保証して欲しい」と、エリアに依存しすぎないシステムの開発を要望した。
■ WiMAXの導入を訴える意見が多数。ウィルコムは「次世代PHS」を主張
パネルディスカッション終了後は事業者などからのヒアリングが行なわれた。意見の陳述を行なったのは合計14組。IRIユビテックとジャパンケーブルキャスト、秋田市・東北インテリジェント通信・アライドテレシスホールディングス、ドリームダイレクト、新潟県、三菱総合研究所のほか、ブロードバンド事業を展開するアッカ・ネットワークス、イー・アクセス、NTT東日本、NTT西日本、日本ケーブルテレビ連盟が列席。さらにKDDI、ウィルコム、NTTドコモ、ソフトバンクら移動体通信事業者も参加し、それぞれ10分の持ち時間でプレゼンテーションを行なった。
各社がそれぞれ立場を違える中でほぼ一貫していたのが、2.5GHz帯の無線方式としてWiMAX、あるいはモバイルWiMAXを採用してほしいという声だ。いずれも「IEEE 802.16e-2005として国際標準化が完了したこと」「通信装置の低廉化が予想されること」を理由に挙げており、いち早いサービス開始が可能になるとしている。
WiMAX以外の無線方式を提案したのは「次世代PHS」を掲げたウィルコムのみ。ソフトバンクも「WiMAXをはじめとする各種の技術動向を的確に見極めつつ、採用するシステムを決定したい」とし、WiMAX採用への含みを持たせており、カンファレンスはWiMAX一色の様相を呈した。
また、大手通信事業者を中心に、周波数の割り当て幅についても意見が述べられた。2.5GHz帯で利用可能な周波数は95MHzとされているが、隣接する周波数との電波干渉を防止するために設けられた“ガードバンド”の影響があり、実質利用できるのは80MHzとなる。
1事業者への割り当ては、接続速度の観点から10MHz単位が1つの目安になるという。しかし、複数の事業者が参入した場合、事業者と事業者の間にも1~5MHzのガードバンドを設定する必要がある。加えて、将来的には20MHz単位の周波数幅で実現可能な高速BWAサービスの登場も予想され、事情を複雑にしている。
アッカ、イー・アクセス、NTT東西、ウィルコム、NTTドコモ、ソフトバンクの各社は20MHz幅への将来的な移行を見越した割り当て案を希望。KDDIについては1事業者あたり30MHzとし、ガードバンド量自体を削減することで電波を有効利用すべきと訴えた。
■ エリア展開で意見が分かれる
参加各社によって意見が大きく分かれたのが、免許単位を全国とするか、あるいは地域単位にするかという点だ。カンファレンスに参加した大手通信事業者のほとんどは全国単位での免許付与、あるいは全国展開を意識した事業者の優先を陳述した。
一方、日本ケーブルテレビ連盟や、秋田市と連名で意見陳述したアライドテレシスホールディングスは地域単位での付与を要望した。全国単位での付与となった場合、エリア展開がどうしても都心部優先になってしまい、ルーラル(田園)地域が見過ごされる懸念が拭い去れないためという。
さらに「BWAが都市部のみで使える状況は、地方部の電波が未利用のまま死蔵される状態」としており、電波資源の有効活用のためにも地方部への率先したBWA導入を熱望している。アッカでは免許単位を全国とすることを要望しているものの、都市部よりもルーラル地域を優先してBWAを導入したいと表明している。
秋田市とアライドテレシスでは、デジタルディバイド解消のために、BWAを固定無線アクセス(FWA)の代替手段とすることも要望。新潟市の担当者も「ルーラル地域でのFWA的利用を考慮に入れてほしい」と陳述している。
カンファレンスではこのほか、免許事業者の選定要件として財務能力、技術的要件の実現可能性などを考慮すべきとの意見が各社から表明された。総務省ではカンファレンスで寄せられた意見を踏まえた上で、年内にも答申がとりまとめられる予定としている。
■ URL
総務省 報道発表資料
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/061128_4.html
「2.5GHz帯を使用する広帯域移動無線アクセスシステムの技術的条件案」に対する意見募集
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=145206119&OBJCD=100145&GROUP=
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(森田秀一)
2006/12/06 11:23
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