イー・モバイルは19日、HSDPAによる定額データ通信サービスの発表会を開催した。発表会では同社の代表取締役会長兼CEOを務める千本倖生氏が登壇し、新サービスの概要やサービス専用端末「EM・ONE」を紹介した。
■ 13年ぶりの携帯新規参入を「画期的に高速なサービスでスタート」
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イー・モバイルの千本倖生代表取締役会長兼CEO
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千本氏は発表会に際し、「周到に周到を重ねた自信作のサービスであり、この日を待ち望んでいた」とコメント。「ベンダーや建設会社、SIerや株主、銀行など、こういった方々の目に見えないご支援のおかげで今日という日を迎えられた」と感謝の意を示した。
続いて千本氏は固定ブロードバンドの歴史を振り返り、「1999年当時のインターネットは遅くて高いダイヤルアップの時代で、貧弱でとても満足できるものではなかった」とコメント。「固定のアクセス手段を飛躍的に高め、インターネットの可能性を120%引き出すために定額制を導入したい」との考えから、イー・アクセスを創業したと説明した。
ADSLの導入により、「日本には固定ブロードバンドが爆発的に普及し、インターネットで快適に情報を入手・発信できる時代になった」と千本氏はコメント。「この劇的な変化はまさにブロードバンドの革命」とした上で、「2007年3月に我々は再び大きなチャレンジを始める」とコメント。「13年ぶりの携帯電話新規参入を、これまで実現してこなかった画期的で高速なサービスからスタートする」と自信を示した。
現状の携帯電話によるデータ通信サービスを千本氏は「7年前にADSLが登場する前の固定通信分野と同じで遅くて高い」と指摘。「2007モバイルインターネットはこの課題を解決すれば日本でも大きく花が開くはず」とし、「これが我々の答えだ」と、シャープ製の端末「EM・ONE」を披露した。
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ブロードバンドで実現した低価格化・高速化をモバイルでも
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13年ぶりの新規参入で「ケータイブロードバンド革命」を起こす
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■ 「EM・ONEはアップルのiPhoneを上回る画期的な端末」と千本氏
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EM・ONEのパッケージを手に取る千本氏
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EM・ONEの特徴として千本氏はまずワイドVGAという画面サイズを強調。「ブロードバンドなら美しい大画面でインターネットやワンセグが楽しめる。今までの携帯電話では、ブロードバンドを楽しもうにも極めて貧弱な画面しか見られない」と語り、EM・ONEのデザインを公開した。
千本氏はEM・MOBILEを「携帯の世界で最先端をいくシャープ、ブロードバンドの可能性を世界の中で大きく広げてきたマイクロソフトとの協力で作り出した、世界で最も先端的な端末」と紹介。「アップルのiPhoneを上回る画期的な端末」と自信を見せた。
端末の細部へのこだわりもEM・ONEの特徴で、その1つが製品のパッケージ。「今までの携帯電話でこんなパッケージを見たことがあるだろうか」とパッケージを披露した千本氏は「質感、肌触り、色合い、黒と白のコントラストがすばらしい」と評価。「箱は単に携帯電話を入れて運ぶだけのものではない。イー・モバイルでは箱1つ取ってもすみずみのデザインまで全精力を持って喜ばれるものを作ろうとしている」と語った。
EM・ONEの価格はイー・モバイルのHSDPAサービス「EMモバイルブロードバンド」の初期費用に含まれ、2年契約の場合は初期費用が39,800円、月額料金は定額の5,980円で利用できる。「他社と比べても30~70%は安く、PHSと比べると速度が数十倍ながら料金は1/2と圧倒的なメリット」とした。
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下り最大3.6Mbpsの高速通信が可能
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料金は月額5,980円の定額制
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■ EM・ONEは「ワイドVGAや薄型化にこだわり、苦労を重ねた端末」
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発表会の出席者
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EM・ONE搭載のW-CDMAチップを供給するクアルコムのPaul Jacobs CEOは、「3Gは世界の加入者が4億2,500万と劇的に伸びている」との現状を示した上で、「日本は3Gで6,000万以上の加入者があり、アプリケーションやサービスも、デバイスなどすべての意味で非常に先進的」と高く評価。千本氏とはこれまで何度か話す機会があったが、「彼の熱意や企業家精神はすばらしく、こうした熱意をもった人と仕事ができて光栄」とコメント。「これからも協力し合い、熱意を持ったチームと仕事ができることを嬉しく思う」と語った。
シャープの松本雅史代表取締役副社長は、「1年前にEM・ONEの開発要請を受けてからが大変だった」と思い出を語った上で、「本社の大阪、開発拠点の奈良まで、毎回トップマネジメントの4名が乗り込み、その場で結論を出すという姿勢に惚れた」とコメント。「一時期は開発が危ぶまれることもあったが、この日を迎えられて嬉しく思う」と語った。
また、「部門間の垣根の低さを活かした技術融合で特徴のある商品を創出する」というシャープのコンセプトを説明。「通信部門とAV部門の融合でAQUOSケータイ、AV部門と情報部門の融合でインターネットAQUOSという商品を生み出した」とした上で、「今回は通信とAV、情報の3部門を融合した製品」と自信を見せた。
開発の苦労も多く、「ワイドVGAでWindows Mobileの画面表示をすることは未知の世界であり、マイクロソフトでは6月か7月までずれ込むとの話だった」ものの、「千本さんや弊社の社長がお願いにいき、なんとか今回間に合わせられた」とコメント。本体の薄さもこだわりの部分であり、当初は22~23mmかなと考えていたが、最終的には18.9mmまで薄くした」と説明。「電池の持ちなどスペックを下げずに小型・軽量化をするために努力を続けてきた」との経緯を披露した。
マイクロソフトのダレン・ヒューストン代表取締役社長は、「日本における携帯電話の出荷は2010年にOSを搭載した多機能端末であるコンバージ端末が70%を占めるという調査予測がある」とコメント。「この分野では海外が進んでいるが、日本も成長している」とした上で、「ユーザーはPCでの体験をモバイルでも求めている」と指摘。イー・モバイルは「高速かつ全国に展開する革新的なサービス」と評価し、「EM・ONEは今までにないものがたくさん搭載された新しいカテゴリであり、世界各国の模範となるだろう。その一部となれて光栄に思う」と語った。
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クアルコムのPaul Jacobs CEO
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シャープの松本雅史代表取締役副社長
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通信・AV・情報を融合した「EM・ONE」
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EM・ONEの概要
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マイクロソフトのダレン・ヒューストン代表取締役社長
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2010年には携帯電話出荷の70%がコンバージ端末に
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■ イメージキャラクターは松下奈緒を採用
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ヤッパの伊藤正裕代表取締役社長
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最後に登場したのは、EM・ONEに搭載されるアプリケーション「3D Box」を開発したヤッパの伊藤正裕代表取締役社長。千本氏は「DDIの起業から数えてイー・モバイルは5つ目の起業であり、最後の起業になる」とした上で、「若い起業家が登場することが日本のこれからに必要な最大の条件」と指摘。伊藤氏を「私が最も注目する1人だ」と紹介した。
伊藤氏は「今のコンピュータやITは大変進化したように見えて、実は情報の伝達手段はテキスト、静止画、音声、動画の4つしかなく、それは20~30年間変化していない」と指摘。ヤッパを「情報との接点を作り出す会社」と説明し、「今回の端末は3.6Mbpsの高速通信を備えていることで、数多くの情報との接点をもっとわかりやすくできないかと考えた」と語った。
そのための手段として伊藤氏が用いたのは、「人間のコミュニケーション能力の原点」だというパターン認識。「デザインに変化を与えることで人間は連想をする。この連想する状況が今のコンピュータには実は無いもので、我々は得ることができない情報」と語った。
パターン認識の一例として伊藤氏は、水辺で揺れながら座っている人物のデザインを見せ、「こうして見ていると危ないとは思わないが、座っている場所を非常に高くするだけで“危ない”“落ちたら危険だ”という連想が起きる」と指摘。「たった一点を変更するだけでデザインが一気にわかりやすくなる」とし、フランスの著名なデザイナーであるローラン・バンサンティとの提携で「映像や音楽、さまざまなデータを引き出しのデザインに収めることで、わかりやすく情報にたどり着ける」と自信を見せた。
発表会では、イー・モバイルのCMキャラクターに採用された松下奈緒のビデオメッセージやCM映像も披露。「イー・モバイルの一番最初のCMに出演できることを嬉しく思います」と感想を述べたのち、「いつでもどこでも快適な環境でインターネットが楽しめるサービスを待ちわびてました」とコメント。「CMで私が口ずさむ(『指、きたっす』というフレーズの)歌をぜひ口ずさんで下さい」と語った。
高さを変えるだけで「落ちるかもしれない」という連想が発生
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EM・BOX搭載の「3D BOX」。イー・モバイルの公式コンテンツや端末内に保存されたファイルのエクスプローラとして利用できる
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提供コンテンツのイメージ
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松下奈緒がビデオメッセージで登場
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松下奈緒の登場するテレビCM
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■ 利用エリアは「他社と比べても遜色ないレベル」と千本氏
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会見後、質疑応答に答える千本氏(左)、エリック・ガン氏(中央)、種野氏(右)
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会見終了後は、千本氏のほか、代表取締役社長兼COOの種野晴夫氏、代表取締役副社長兼CFOのエリック・ガン氏による質疑応答の場が設けられ、サービスの詳細や今後の展開などが語られた。
加入者の目標は、初年度は音声サービスは提供せずデータ通信のみであることから、ターゲットをビジネスユーザーとして「EM・ONEとデータ通信カードで初年度で30万を見込む」(千本氏)。「最大のライバルは?」という質問は、「我々は始まったばかりで、みなさんライバルで手強い存在」(千本氏)とした上で、「日本のモバイルブロードバンド市場はまだ始まったばかり。他から取ってくるというよりも新規のユーザーを集めていく」(エリック・ガン氏)」とした。
基地局数に関しては非公開だが、「既存の携帯電話とは周波数が異なるため、基地局の数でエリアを比較しても意味がない」(千本氏)。エリア展開は入念に進めており、「地下などはまだ難しい(エリック・ガン氏)ものの、屋外では「ドコモやKDDIと比べても遜色はない」と自信を見せた。
データ通信に際してパケット量の制限などはなく、EM・ONEをPCに接続しても同じ定額の5,980円で利用できる。千本氏は「既存の事業者は音声のネットワークに影響を与えないよう制限を設けざるを得ないが、我々はまったくの新規だから本当の意味で無制限のサービスを実現できた」とコメント。エリック・ガン氏は「パケット通信量による課金をやっているのは日本だけで、パケットを気にするのはユーザーにとって便利なサービスではない」と定額制のメリットを説いた。
HSDPAで発生するトラフィックの想定は「7年蓄積したADSLのトラフィクデータで大体のパターンは把握できると考えている」(エリック・ガン氏)。一方で、イー・アクセスのADSLサービスをセット提供することで、「HSDPAよりも高速なADSLを使って欲しい。それこそが周波数の有効効率だ」(千本氏)とした。
イー・モバイルの端末ではSIMカードの仕組みを採用しており、EM・ONEとPCカード型端末「D01NE」の間ではSIMカードを差し替えて利用できる。千本氏は「1.7GHz帯でサービスを提供しているところが他に無いが、1.7GHz帯は国際標準であり、今後は増えてくるだろう」とした上で、異なるキャリアでのSIMカード利用についても「検討はしている」と前向きな姿勢を見せた。
■ URL
ニュースリリース
http://www.emobile.jp/cgi-bin/press.cgi?id=450
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(甲斐祐樹)
2007/02/19 19:24
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