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【 2009/12/25 】
【 2009/12/24 】
パネルディスカッション「ブロードバンド時代のコンテンツ流通」

左からAIIの八尋俊英取締役 チーフストラテジスト、アルファブリッジの竹内大代表取締役専務、アクセンチュアの堀田徹哉戦略グループ パートナー、TBS メディアライツ推進部の植井理行氏。
 NAB東京2002のパネルディスカッションでは、TBSが中心となって設立したCSデジタル放送局「C-TBS」の白根英路取締役を司会に迎え、「ブロードバンド時代におけるコンテンツ流通の環境整備」について議論が交わされた。パネリストはエー・アイ・アイ(AII)の八尋俊英取締役 チーフストラテジスト、アルファブリッジの竹内大代表取締役専務、アクセンチュアの堀田徹哉戦略グループ パートナー、東京放送(TBS) メディアライツ推進部の植井理行氏。

 まず初めにTBSの植井氏がテレビ放送と著作権の関係について説明。著作権法16条ではテレビ放送も「映画の著作物」に含まれている点を説明したのち、「ここでいう映画とは法律の特殊な用語として考えてよい」と解説を加えた。ただし16条でいうところの「映画」はVTRやフィルムといった固定されたものを対象とするため、生放送番組は著作権法上の「映画」としては保護されないのだという。

 さらに同法29条によれば、劇場用の映像では出演者が映画出演後には権利を何も持たないのに対し、テレビ放送は「1回の放送に用いるために制作」したものであるため、放送以外の利用や再放送については出演者の権利が再度認められるのだという。この点がテレビ番組をインターネット配信する際の問題として挙げられる「権利問題の難しさ」に通じるのだと植井氏は語った。

 AIIの八尋氏は著作権の問題について「インターネットに慣れ親しんだ若い存在は、権利問題について意識がないのではなく、むしろある意味で“奇異”な存在に思える」と年代差による感覚の違いについてコメント。「あくまで私見」と前置きした上で、「WindowsとLinuxで考えるなら、Linuxのオープンソース性のほうがリスペクトに値する存在」とし、「権利を守れ、というだけではなく、いかにコンテンツを楽しんでもらうかが焦点になる」と語った。白根氏の「AIIではどのようなコンテンツが人気なのか」という問いかけには「コミュニティのしっかりしたアニメ、中でもガンダムの人気が高い」と説明。また、ある週のランキングでは東急田園都市線の運転席からの模様を360度映像で視聴できるコンテンツが同週に力を入れて制作したソニーのコンテンツを抑えて1位となった事例を紹介し、「鉄道ファンに大いに受けた」とニッチなコンテンツの人気が高いことを示した。

 蓄積型のコンテンツ自動配信システム「PuCa」を提供するアルファブリッジの竹内氏は、映像ファイルに対するコンテンツ保護についてコメント。マイクロソフトでいえばWindows Media Rights Managerといった技術があるものの、コンテンツ普及の鍵となるのは「コンテンツ提供者の意志」であるとした。竹内氏によれば「ブロードバンドでの動画配信はちょっと危険」という漠然とした不安がコンテンツ提供者の中に存在するという。このような権利処理はアルファブリッジのような1企業だけで行なうことは企業体力的に厳しく、業界自体の意志統一ということが難しいながらも必要になってくると語った。


司会を務めたC-TBSの白根英路取締役
 ここで司会の白根氏は「街頭中継など一般の人が映っている映像はインターネットで配信できるのか」と再び権利問題についてTBSの植井氏に質問。植井氏は「これは肖像権の問題になるが、肖像権に関する法律というのは実は存在しない」と説明。肖像権とは今までの判例が積み重なって法例化したものであり、実際に条文が存在しないことから非常に難しい問題であるとした上で「通常は商業的であったり、中傷されたという事例において肖像権が問題になるため、このような場合に肖像権はされないであろう」とコメント。さらにAIIの八尋氏は「大学のときにかじった程度の知識」としながら「このような事例では肖像権を訴えても放送の公共性が優位に立つはず」とコメントした。ただし、最近のライブカメラは性能が上がっており、インフラの質も高くなっているため、人の顔がはっきり見えてしまうことが問題になる恐れもあるという。八尋氏は「街頭ビジョンを個人に提供する感覚で、個人CMのようなコンテンツも計画しているが、ただコンテンツを流す以上の責任を考える必要が生じる」とコンテンツ配信側の責任について言及した。

 ブロードバンドでのビジネスの可能性についてアクセンチュアの堀田氏は「テレビ業界も今でこそ視聴者が当たり前のように存在するが、視聴者のいない立ち上げ時期は大きな資本による巨大な力で歯車を動かした」とテレビ創成期について説明。ブロードバンドでのビジネスをテレビの地上波に匹敵するまでに育てるにはそれだけの大きな力が必要となるとした。インターネットならではのコンテンツとして、個人が情報を発信、コミュニケーションを通じて人気が出てくるという方向性も存在するが、堀田氏は「これも限界があり、最終的には資本が重要になる」と資本の重要性を訴えた。

 司会の白根氏はTBS、フジテレビ、テレビ朝日が共同で11月30日まで行なったテレビ番組の配信実験「Chance! @トレソーラ」について触れ、「トレソーラではテレビ番組で人気があったものが同じように人気だった」と説明。「権利問題さえクリアすれば、テレビ番組は人気がある」との考えを披露したのち、AIIの八尋氏に今後のコンテンツについて意見を求めた。八尋氏は「テレビかパソコンかは将来的に問題にはならない」とコメントしたうえで「ガンダムのコンテンツは権利処理が非常にしっかりしているが、決して金儲けだけではなく、“ファンの要求に応えられるガンダムコンテンツをしっかり作る”という、商業主義を超えた何かが感じられる」と語った。


 アクセンチュアの堀田氏は、アメリカでパーソナルビデオレコーダー(PVR)の大手であるTivoが加入者100万人を突破した事例を紹介。このうち7割がCMをカットしている事実を踏まえ、従来の広告収入によるテレビ放送ビジネスが覆される可能性があると指摘した。司会の白根氏はTBSとの関係からか「民放の根底を覆す問題で、ブロードバンドを語っている場合ではないのかもしれない」と熱弁を振るい、「何千時間も保存できるレコーダーが普及すれば、ドラマやアニメの有料再配信ビジネスは崩れてしまうかも」との予想を示した。これに対しアルファブリッジの竹内氏は「蓄積し続けることに何の意味があるか」を考えることが重要であり、いくら蓄積が可能であってもコンテンツを受け取る人間の生活サイクルは簡単には変わらないし、仕事を持っている人であれば生活サイクルを「変えることができない」とコメント。蓄積した映像を「選択する」というサービスや、コンテンツの流通コントロールなどを考えることが重要であると指摘した。

 アクセンチュアの堀田氏は続けて「テレビ番組をそのままブロードバンドで配信するだけのコンテンツは危険」と推測、「ユーザーに喜ばれるコンテンツ」を捉えていくことが重要であると語った。堀田氏は世界的な視野で見れば単にビジネスモデルがなかったために埋もれている潜在的なコンテンツはまだまだ存在すると指摘、ブロードバンド時代こそそのような潜在コンテンツをビジネス化するチャンスであるとともに、ブロードバンドならではのコンテンツを提供することが重要であるとした。


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  関連記事:AII、東急田園都市線の運転席から撮影した360度映像を無料配信
  http://bb.watch.impress.co.jp/news/2002/08/19/360.htm
  関連記事:アルファブリッジ、蓄積型のコンテンツ自動配信システムを開始
  http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/34.html
  関連記事:トレソーラ、テレビ番組のインターネット配信に関する現状と課題
  http://bb.watch.impress.co.jp/news/2002/10/24/tre.htm
  第5回 NAB東京セッション
  http://www.nabtokyo.jp/


(甲斐祐樹)
2002/12/03 20:32
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