総務省は28日、「IP電話のネットワーク/サービス供給に関する研究会」第1回を開催した。研究会には大学教授のほかにNTT東西やKDDI、ソフトバンクBBといった事業者も参加し、それぞれが考えるIP電話の課題や展望について議論が交わされた。
■ 電気通信サービスの枠組みに留まらない複合的サービスの可能性も
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研究会の模様
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総務省 電気通信事業部長の江嵜正邦氏は今回の研究会について「電気通信事業分野における競争状況の評価を2003年度から試行錯誤しながらも始めており、2年度目は評価をさらに発展的に行なうため、移動体通信とIP電話も評価の対象としたい」と説明。「ブロードバンドの普及によるIP電話化が進んでいるが、一方ではIP電話の事実関係や契約数、数字といった初歩的なことがわかっていない。無料か有料かといった今後の展開も確立されていないのが現状」とした上で「IP電話が難しい分野であるというのは共通の認識だと思う。研究会の中でネットワークや構造を明らかにしていきたい」と語った。
研究会の座長を務める法政大学経済学部の黒川和美教授は「研究会は役所も我々(有識者側)も事業者も一緒になってIP電話の実態を把握しよう」との趣旨を説明したのち、「結論を求めるのではなく、まずは実態がどうなっているのかを正確に見ていこう」と研究会の方向性を示した。
議論を進める前に、みずほコーポレート銀行 産業調査部の加藤情報通信チーム次長が、「IP電話サービスの動向について」と題してIP電話の概要を説明した。加藤氏は「家庭、企業ともにIP電話の普及が進む方向にある」と前置いた上で、050番号と0AB~J番号といったサービスの違い、ホールセール事業者や垂直統合事業者など事業形態の違い、有料・無料といった相互接続の違いなど、同じIP電話サービスでも形態が大きく異なると指摘。さらには携帯IP電話やIPを使った直収電話サービスなどを例に挙げ、「単なる電気通信サービスの枠組みの中では捉えられないような複合的なサービスが登場する可能性もある」とした。
続いて研究会の事務局を務める総合通信基盤局 事業政策課市場評価企画官の大橋秀行氏が「IP化の進展による市場構造の変化と競争政策」と題し、IP電話の市場構造について説明した。大橋氏によれば回線交換網がIP網へ移行することで通話の距離区分が曖昧化し、接続ルールの前提である回線網が後退しているため、変化を反映した競争政策の再構築が必要になるという。大橋氏は「この研究会は政策を決定する場ではないが、この場で明らかになった事実関係や認識を今後の政策立案に役立てたい」と語った。
また、IP電話を議論するための例として大橋氏は米国の事例を紹介。「米国ではIP電話の利用者数こそ少ないものの議論は活発であり、日本とは事情が大きく異なるものの、論点の本質には共通点があるのではないか」とコメント。その一例として米国での連邦政府と州政府の管轄をめぐる対立事例を挙げ、市場原理を重視する連邦政府と住民への社会的厚生を重視する州政府を指し、「日本でも市場原理と社会的政策という観点のバランスが課題だろう」とした。
■ 電気通信事業者が実感するIP電話の課題と展望
研究会にはIP電話事業者も多く出席しており、黒川座長は事業者に対して「IP電話についてどういう状況認識であるのか、個人的で構わないので率直な意見を」と発言。各事業者がそれぞれIP電話についてそれぞれの立場での意見を語った。
NTT西日本は「この市場では後発的な位置にあり、すでに大きな市場を持っている事業者に追いつく立場。現在は正直にいって他社のパワーに屈している状態」とコメント。同様のサービスを展開するNTT東日本も「ドライカッパによる直収電話といったサービスが登場する流れの中では、安くても利用していただくことが重要。IP電話も真剣にやっていきたいのが会社としての考えではないか」と語った。
IP電話に加えて、「おとくライン」で固定電話市場にも参入した日本テレコムは「現状ではトータルで100%満足していただけるのは固定電話」とした上で、「050番号は地域属性がないことが評価されて使われているケースもあり、注目していきたい」と述べた。
フュージョン・コミュニケーションズは「我々は唯一IP電話を専業としている」と説明した上で、「現状のIP電話は固定電話と同じマーケットにあるため、競争原理もその点を踏まえて欲しい」とコメント。一方で「ロケーションフリーといったIPらしさを生かした特長的なサービスも提供してきたい」との方針を示した。
ソフトバンクBBは、同じソフトバンクグループとなった日本テレコムとの棲み分けについて「日本テレコムは0AB~J番号、ソフトバンクBBのBBフォンは050番号を使って展開するという位置付け」と説明。「IP電話ならではのサービスは現在模索しているところ」とした上で、「サービス開始当初に比べると、050番号に関する問い合わせも減少しつつあり、050番号の着信数も増えている。050番号の認知度は高まっているのではないか」とした。
KDDIは「IP電話によって長距離電話のビジネスが成立しなくなってきている」「NTTの接続料が上がってくると通話料が成り立たなくなる」との考えからIP電話に参入したという経緯を説明。050番号を使ったIP電話に加え、光プラスや光ダイレクト、メタルプラスといった0AB~J番号が利用できる直収型IP電話によって電話サービスの基本料金市場の参入を図ったとした。また、050番号についても「社員全員に050番号を割り当てるなど、ユーザー側でも使い方を模索している」とコメント、「050番号もKDDIならではの方針で進めていきたい」と述べた。
関西電力系のケイ・オプティコムは「市場を見ている限り、利便性では0AB~J番号が主体ではないか」と指摘。0AB~J番号を利用した「eo光電話」については「始めて2カ月なので事業が成り立つかどうかはまだ不安だがユーザーの関心は高く、FTTHを選んで頂く際の基準になっているのではないか」と語った。また、IP電話の今後については「国レベルでIP電話の端末や事業者の相互接続を担保する体制を作って欲しい」との要望を示したほか、「050番号も0AB~J番号もあるIP電話の市場をどう確定するのか。今までの市場と同じに扱われるのか、規制はどうなのか、といった点も議論して欲しい」との意見を示した。
NTT-MEは「1999年からVoIPには取り組んでいたが、のんびりやっていたらアピールできず、いつの間にか参入事業者が増えていて驚いている」との心中を明かしたのち「企業向けソリューションのためにVoIPは必要だが、全国にプラットフォームを用意するといった莫大なコストをかけても通話料が3分8円程度では厳しい。あくまで個人的な意見だが、やめられるものなら(IP電話事業を)やめたいくらいだ」とコメント。「高品質や映像、ポータビリティなど、従来の電話ではできなかったことが可能になるのがIP電話であり、単純に3分いくらという議論ではなく、いかにARPUを上げるかといったキャリアをいたわる政策をお願いしたい」との要望を投げかけた。
NTTコミュニケーションズは「最初は補完的なサービスだったIP電話のマーケットが変化しており、IP電話と固定電話の境界線はすでに無いのかな、と感じている」とコメント。「IPであることを利用した付加サービスが今後は必要だろう」との見通しを示したのち、「IP電話は無料であるというイメージが当初はあったが、IP電話でもコストが無料なわけではなく、戦略面で無料にしているだけ。何らかの料金は回収する必要がある」と指摘。050番号についても「0AB~J番号があるために浸透せず、企業向けでは認知度や信用度の面でも前面に出せない。050番号のサービスを今後どう育てていくかが重要」と語った。
IP電話をホールセール展開するニフティ、NEC(BIGLOBE)は、ブロードバンドの普及に伴いIP電話の売上が増加しているという現状を踏まえた上で「IP電話をISPを補完する事業として期待している」とコメント。ただし、今後0AB~J番号のIP電話の展開が始まった時に「ISPとして0AB~Jに対応できるのか。もしISPへのホールセールがなくなればISPの出る幕がなくなってしまう」との懸念も見せた。
FTTHサービス「MEGA EGG」を運営するエネルギアは、フュージョンのIP電話をホールセールしている。これについてエネルギアは「当初は付加サービスとの位置付けだったが、0AB~J番号を展開する場合はどのように進めていくかといった別の悩みがある」と語った。
■ IP電話は電気通信事業における課題の氷山の一角
事業者からの発言を受けて、研究会メンバーがそれぞれの意見を表明した。東京大学大学院の森川助教授は、「IPベースの柔軟なコミュニケーションが固定電話と戦っても面白みがない。携帯電話のIP化やプレゼンス機能など、新しいサービス形態を実現するのがIPだろう」と指摘。「競争も重要だが、インフラがなければサービスは提供できない。競争ばかりに目を向けず、バランスの良い健全な発展が重要だろう」と述べた。
東京大学社会科学研究所の松村助教授は、固定電話の交換機を使った日本テレコムのおとくラインについて興味を示し、「事業の継続性はどうなのか」と質問。これに対して日本テレコムは「現段階ではIPか回線交換かを意識して使っているユーザーはいないだろう」との考えを示した上で、「交換機は10年以上の寿命があり、機器更新の時にメリットのあるIP化がされていればIPへの移行もあるだろう」とした。
松村助教授が続けて「交換機でなければできないことはあるのか」と質問すると、日本テレコムは「回線交換はNTT電話局から給電しているため電源がいらない点が大きい」との違いを示したほか、自身のIP電話におけるトラブルを紹介。モデムの故障で通話できなかったにもかかわらず課金されていたという事例を挙げて「20数円を返してもらうのにフリーダイヤルで40分は交渉した。エンドユーザーにとっても現状ではまだIP電話は使いにくいのではないか」と語った。
日本テレコムへの質問ののち、松村氏は「競争が厳しすぎて市場が歪むというのは、半分は信じているが半分は疑問に感じている」とコメント。「他の市場でも同じことは起きているのではないか。本当に電気通信事業でのみ起きる特殊な競争なのかどうかを明らかにしていきたい」と語った。
甲南大学の土佐教授は「ブロードバンドによって本当の意味で本格的な競争が始まり、その1つがIP電話ではないか」との意見を披露。「こういった競争の中で、どういう規制が必要になるのか非常に関心を持っている」と語った。
京都大学大学院の依田助教授は「IP電話は情報サービスであって電気通信ではないのかもしれないが、実際には電気通信に大きな影響を与えているのだから、分けて議論はできないだろう」と指摘。「IP電話は電気通信市場における課題の氷山の一角であり、電気通信の産業構造全体が問題」とした上で、「IP電話の議論はもちろん重要だが、IP電話そのものが議論の対象として重要なのではないだろう」との考えを示した。
さらに依田助教授は「NTT東西が2015年までにすべてのネットワークを光ファイバ化する計画があるが、これは膨大なコストがかかる話。NTT東西の財務を見れば実現できそうにはないが、誰が計画的に新しいネットワークを構築し、古いネットワークを廃棄するのか。これは1事業者の問題ではない」と指摘。「持続可能な競争と有効な競争は想像もつかない難題であり、産業全体の問題がIP電話に集約されているのでは」との意見を示した。
■ 通信サービスのマーケットは拡大
総務省総合通信基盤局の鈴木茂樹料金サービス課長は「官側の意見も伝えておきたい」と前置いた上で、「これだけの事業者が音声サービスに参入するということは、この市場が発展する市場だと見ているからではないのか」とコメント。家庭における通信費用も、固定電話のみの時代から比べればADSLや携帯電話、CATVといったサービスが普及している点を踏まえて「マーケットは拡大しているのではないか」との見解を示した。
また、おとくラインのような交換機を使った電話サービスやNTT東西の電話料金値下げについて「IP電話はIPを使うから安くなるとの認識だったが、交換機でも同じくらいまで値段が下がった。コスト構造はどうなっているのだろうか」との疑問も鈴木氏から投げかけられた。これに対して座長の黒川教授は「各企業の長期的な戦略であり、投資した年や時期も各社異なる。最初は利益が出なくとも数年以内に利益を出すといった計画もあるだろう」と補足した。
次回の研究会は11月25日に開催され、今回の研究会で挙がった問題点を踏まえて議論を進めていく。座長の黒川教授は「最終的な議論の方向は決めていないが、みんなの問題点をできるだけ出して、それぞれの立場で把握して欲しい」と語った。
■ URL
総務省 報道資料
http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/041007_4.html
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(甲斐祐樹)
2004/10/28 21:02
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