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IEEE 802.11nのドラフト 1.0対応製品が出揃った米国でその性能を試す

米国の小売チェーンによっては100ドル前後で11nドラフト対応製品を売っている店舗もある

今回計測を行なった場所
 HD映像を配信する映像配信サービスの登場や、DLNA対応機器で録画した番組をネットワークを介して通じて大型テレビで視聴するなど、ネットワークを利用したスタイルは大きく変わりつつある。

 当然のことながら、設置場所に制限が出てきてしまう有線LANよりも、配線処理や端末の持ち運びが容易な無線LAN対応機器でコンテンツを楽しみたいというニーズも少なくない。従来のコンテンツではそれほど通信帯域は必要としないが、HD映像コンテンツなどを無線LAN経由で視聴するとなると、無線LANの通信速度がネックになる可能性もあるだろう。

 そうした中で、注目されつつあるのが次世代無線LAN規格のIEEE 802.11nだ。11nは、IEEE 802.11a/gの最大54Mbpsの2倍強になる130Mbpsという仕様で、MAC層の効率も向上が図られている。また、ユーザーが体感できる速度も実測値が20Mbps台の11a/gと比較して、4~5倍程度の増速が期待できる。加えて、オプション仕様で物理層600Mbpsと定義されていて、すでにチップセットの中には200Mbps超を謳う製品もあり、11nが普及した際にはHD映像など高い通信速度を必要とするコンテンツを複数の部屋で同時に楽しむことが可能になる。

 規格策定中となるIEEE 802.11nだが、すでにドラフト 1.0対応を謳った製品が各社から発表済み。そして、米国では日本に先行して、主要メーカー各社がIEEE 802.11nのドラフト 1.0対応の無線LANルータ製品をすでに発売されており、量販店などで入手できる。安いところで100ドル前後と、価格的にもお手ごろだ。

 これらの製品はいずれも、日本では利用が制限されている40MHz幅の周波数帯域を利用した無線LAN通信が可能な点が特徴。もちろん、日本市場でもドラフト 1.0に対応した製品が追って発売される見込みだが、利用できる周波数帯域は20MHz幅で通信速度が半分になる。また、IEEE 802.11nがサポートする、無線LAN通信の高速・安定化などを図る「MIMO(Multiple Input Multiple Output)」と呼ばれる技術に対応した製品に関しては、日本でもすでに販売が行なわれている。


11nドラフト製品のスループット性能を見る

計測地点
 そこで今回、米国で発売中の製品を使用して無線LAN通信の速度や距離などを計測してみた。試用したのは、ドラフト 1.0製品がMARVELのチップを採用したNETGEARの「WNR854T(RangeMax NEXT Wireless Router)」、Atherosチップ採用のBelkin「F5D8231-4(N1 Wireless Router)」、Broadcomチップ採用のBuffalo「WZR-G300N」の3製品。また、11nドラフト非対応ではあるが、同様にMIMOを利用するAirgoチップを採用したLinksys「WRT54GX4」を対象に加え、その速度を計測した。なお、クライアント側の無線LANカードは各製品ともに同時に発売された製品となっている。

 計測に利用したパソコンは、送信・受信側ともにThinkPad T42(OS:Windows XP SP2、CPU:Pentium M 1.70GHz、メモリ:1GB)。計測は米国の住居を利用し、無線LANルータから約5.2m(第1地点)、約23.7m(第2地点)、約25.9m(第3地点)の3地点で行なった。

 クライアント側ノートパソコンは、ターンテーブルに載せ、1回転(約45秒)させた状態での無線LANスループットを計測した。計測ツールにはChariotを使用したが、NETGEAR製品のみ計測がうまくいかず、かわりにIperfを使用した。なお、無線LAN機器の設定はいずれも初期設定状態となっている。また、米国製品では無線LANチャネルを束ね、40MHz幅を使用して通信速度の高速化を図る技術「チャネルボンディング」に対応しており、今回の試用でも40MHz幅で計測を行なっている。


(左から)Linksys「WRT54GX4」、Buffalo「WZR-G300N」、NETGEARの「WNR854T」 Belkin「F5D8231-4」

ターンテーブルで1回転させながら計測を行なった


 計測結果は以下の表1の通りで、無線LANルータから最も近い約5.2mの第1地点では、11nドラフト製品では平均65~85Mbps前後、第3世代True MIMO搭載のWRT54GX4では平均110Mbps前後の無線LANスループットが確認できた。

 約23.7mの第2地点ではWRT54GX4が平均80Mbps前後を出したが、11nドラフト製品では最も速いBelkin「F5D8231-4」でも平均38Mbps前後と、速度が低下。このうち、NETGEAR「WNR854T」では極端に数値が落ち込んだ。ただし、上述の通り、同製品のみ計測ツールが異なっているため、あくまで参考として欲しい。

 続いて、約25.9m離れた第3地点での計測になるが、こちらに関してはWRT54GX4が平均32.0Mbps前後を計測した以外は、ドラフト 1.0製品はいずれもスループット計測が行なえなかった。第2地点と第3地点では距離的な違いはないが、第3地点の直線上には中庭が存在しており、そうした点から通信がうまくいかなかった可能性もある。試しにBelkinの「F5D8231-4」をターンテーブルを使用せずに静止状態で計測したところ、平均3.9Mbps前後の速度を確認できた。

・表1
平均値 最小値 最大値
第1地点
(約5.2m)
Linksys「WRT54GX4」 109.544Mbps 101.846Mbps 112.914Mbps
Buffalo「WZR-G300N」 78.897Mbps 59.425Mbps 85.196Mbps
NETGEAR「WNR854T」 64.5Mbps - -
Belkin「F5D8231-4」 85.476Mbps 69.28Mbps 94.674Mbps
第2地点
(約23.8m)
Linksys「WRT54GX4」 80.038Mbps 72.843Mbps 89.661Mbps
Buffalo「WZR-G300N」 19.788Mbps 16.569Mbps 26.286Mbps
NETGEAR「WNR854T」 1.27Mbps - -
Belkin「F5D8231-4」 38.601Mbps 29.312Mbps 47.359Mbps
第3地点
(約25.9m)
Linksys「WRT54GX4」 31.995Mbps 26.209Mbps 42.959Mbps
Buffalo「WZR-G300N」 -
NETGEAR「WNR854T」 -
Belkin「F5D8231-4」 -


 ただ、日本の家屋環境では、1階と2階の階層間でも20mを越える通信ニーズは、よほどの豪邸でもなければまずないと言って良いだろう。また、日本では利用可能な周波数帯域も20MHz帯に限定されること、米国の11nドラフト製品も製品発売後にファームウェアが定期的に公開されていることから、日本での発売時にはパフォーマンスが異なる可能性もある。

 しかし、今回の環境・製品で計測した範囲では、特に距離がある際の通信スループットや接続性に課題があるという印象は受けた。狭い日本家屋の中ではあまり気にする必要はないと思われるが、建物をまたいだLANを構築するような場合には、この点に留意しておいた方が良いだろう。


日本国内でも入手可能なTrue MIMO製品のスループットもチェック

コレガ「CG-WLBARGMH」
 同じ計測環境を利用して、True MIMOの世代間における通信速度の違いなども計測してみた。計測環境は上記とほぼ同じで、計測地点に約7.3mのA地点、約28.0mのB地点を追加。使用製品は第3世代True MIMOを搭載するコレガ「CG-WLBARGMH」、第2世代True MIMO搭載のバッファロー「WZR-108G」に加え、独自技術による高出力を謳うバッファロー「WHR-HP-G54」の3製品を利用した。なお、使用周波数帯はいずれも20MHz帯。

 計測結果は以下表の通り。こちらに関してはいずれの製品でもChariotによる計測が行なえたため、平均速度に加えて、最小・最大値の2項目も記述している。

 結果から言えば、3製品ともに11nドラフトで通信が困難だった第3地点に加えて、その先に設定したB地点での通信も確認できた。また、第2地点では第3世代True MIMO搭載の「CG-WLBARGMH」が平均31Mbpsと40MHz幅を利用した際の11nドラフト製品よりもスループットが良好だったほか、バッファローのWZR-108G、WHR-HP-G54についても平均25Mbps超と無線LANを利用するには概ね満足できる速度が計測できた。

 第3地点、B地点になると流石に速度が低下するが、それでも3製品ともに無線LAN通信が可能。第3地点では最高速度ではCG-WLBARGMHの平均18.2Mbpsを筆頭に、10Mbps台半ばの通信が、B地点ではCG-WLBARGMHでも平均5.3Mbpsと通信速度としては厳しい状況にはあるが、距離的に考えれば通信ができるだけで得られる安心感もあるだろう。


バッファロー「WZR-108G」 バッファロー「WHR-HP-G54」

・表2
平均値 最小値 最大値
第1地点
(約5.2m)
コレガ「CG-WLBARGMH」 67.726Mbps 58.437Mbps 72.202Mbps
バッファロー「WZR-108G」 45.489Mbps 44.395Mbps 45.977Mbps
バッファロー「WHR-HP-G54」 31.214Mbps 28.279Mbps 32.167Mbps
A地点
(約7.3m)
コレガ「CG-WLBARGMH」 65.514Mbps 54.422Mbps 72.293Mbps
バッファロー「WZR-108G」 42.303Mbps 36.815Mbps 46.003Mbps
バッファロー「WHR-HP-G54」 31.386Mbps 28.199Mbps 32.349Mbps
第2地点
(約23.8m)
コレガ「CG-WLBARGMH」 31.094Mbps 22.592Mbps 41.863Mbps
バッファロー「WZR-108G」 25.745Mbps 19.886Mbps 34.874Mbps
バッファロー「WHR-HP-G54」 27.243Mbps 22.586Mbps 31.422Mbps
第3地点
(約25.9m)
コレガ「CG-WLBARGMH」 12.992Mbps 8.664Mbps 18.223Mbps
バッファロー「WZR-108G」 9.715Mbps 6.777Mbps 15.643Mbps
バッファロー「WHR-HP-G54」 7.626Mbps 4.997Mbps 13.307Mbps
B地点
(約28.0m)
コレガ「CG-WLBARGMH」 5.338Mbps 1.594Mbps 9.913Mbps
バッファロー「WZR-108G」 1.476Mbps 0.980Mbps 3.400Mbps
バッファロー「WHR-HP-G54」 2.874Mbps 1.287Mbps 5.662Mbps


 以上、IEEE 802.11nドラフト 1.0製品やTrue MIMO製品のスループット製品を見てきたが、米国においては距離面における通信の安定性はすでに発売されているTrue MIMO製品群に優位性があるという印象だ。

 ただし、日本はドラフト 1.0に対応した製品がバッファローから7月上旬に発売が予定されているが、冒頭でも述べた通り、そういった面では必ずしも同様の結果が生じるかはわからない。また、ドラフト 2.0以降が可決された際には、各社から対応製品が登場する可能性もある。しかし、どちらにせよIEEE 802.11nの標準化が完了し、それに対応した製品が登場することで、現在発売されているドラフト 1.0が正式版に対応できるかはわからないが、高速な通信が必要なHD映像やさまざまなコンテンツが無線LAN経由で利用可能になることは間違いないだろう。ユーザーとしては、互換性などに悩まされずに済むことを期待したいところだ。


関連情報

URL
  Linksys WRT54GX4
  http://www.linksys.com/servlet/Satellite?c=L_Product_C2&childpagename=US%2FLayout&cid=1130279435381&pagename=Linksys%2FCommon%2FVisitorWrapper
  Buffalo WZR-G300N
  http://www.buffalotech.com/products/product-detail.php?productid=140&categoryid=31
  NETGEAR WNR854T
  http://www.netgear.com/applications/home/802-11n.php
  Belkin F5D8231-4
  http://catalog.belkin.com/IWCatProductPage.process?Merchant_Id=&Section_Id=203894&pcount=&Product_Id=273526


(村松健至)
2006/07/10 11:04
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