ソフトバンクBBは7月14日、高速PLCによる実証実験を実施すると発表した。同社の実証実験に関する取り組みや高速PLCのコンセプトについて、ソフトバンクBBの菅原裕樹氏に伺った。
■ コンセントにつなぐだけで理論値200Mbpsの高速通信が可能に
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ソフトバンクBBのPLC実証実験概要
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PLC(Power Line Communications、電力線搬送通信)とは、電源コンセントを介してインターネットに接続できる技術。これまで国内では10~450kHzの周波数帯を利用したPLCが利用可能だったが、この帯域では数百kbps程度の低速度でしかインターネットに接続できなかった。
現在、電力会社などを中心に実証実験が進められている高速PLCは、2~30MHzという帯域を利用し、より高速な通信が可能になる技術。理論値では最大200Mbpsでの通信が可能になる一方で、アマチュア無線を初めとする既存の無線設備に影響を与える可能性があるため、高速PLCの実用化を目指して漏洩電界の低減を図るための実証実験が進められてきた。
すでにメーカーなどでは漏洩電界の基準値をクリアした高速PLC対応製品を開発しているが、今回ソフトバンクBBが実験対象とするのは家庭内での配線時に起きうる漏洩電界の問題。その具体例の1つがVDSLとPLCモデムの併存だ。
高速PLCで利用する2~30MHzという周波数は、最大16MHzのVDSLと利用する周波数が重なるため、VDSLとPLCが隣接した環境ではPLCの漏洩電界がVDSLに影響を与える可能性があるという。もっとも、「VDSLとPLCが10cm程度離れていれば問題は無いと言われている」(ソフトバンクBBの菅原裕樹氏)が、「家庭内で通信機器を設置する際、必ず10cmの間隔を空けてもらうことは難しい」との考えから、宅内でも漏洩電界の低減が必要と判断、実証実験を進めてきた。
具体的にはPLC機器に接続する電源ケーブルに対し、放射ノイズを低減するためのコイルを組み込んだノイズ低減ボックスに加え、電力線に導電性テープやシールドスリーブを被覆することでもノイズの低減を図る。ソフトバンクBBではノイズ低減ボックスと導電性テープを組み合わせた電源ケーブルと、シールドスリーブで対策した電源ケーブルを通常の電源ケーブルと比較、15~28MHzの高周波数数帯域ではノイズ低減の効果が大きく、最大で20dBのノイズ低減効果が得られたとした。
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実験に使用したケーブル。左が通常のもの、中央が低減BOXと導電性テープの組み合わせ、右がシールドスリーブ
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各ケーブルのノイズ低減効果
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■ 配線工事も不要。導入や設定も無線LANより手軽なPLC
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PLCの実証実験を担当するソフトバンクBBの菅原裕樹氏
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高速PLCの実証実験は東京電力などの電力会社やPLC機器を開発するメーカーが行なっている場合が多く、ソフトバンクBBのような通信事業者の実証実験は珍しい。しかし、菅原氏によれば、PLCは電力事業者でなくともサービスの提供が可能だという。
PLCを導入するには、ADSLやFTTHで家庭内まで引き込んだインターネットをPLCに変換する親機と、コンセントとPCをつなぐためのPLC子機があればよい。家庭内の配線工事などは必要なく、「家庭内のコンセントがイーサネットケーブルでつながっているイメージ」で利用できる。複数のPCで利用するためにはルータ機能も必要になるが、基本的にはPLCの親機と子機を利用すれば、家庭のどのコンセントからインターネットにつながるようになる。
現在のところ、モデムやルータから離れた場所でのインターネット環境には無線LANの利用が主流だが、「電波が横方向に広がる無線LANでは階上や階下で電波が弱くなりがち。PLCであればコンセントのあるところはどこでもインターネットを利用できる」と菅原氏は語る。PLCは距離にも強く、ソフトバンクBBの実証実験では170m離れた場所でも安定した通信が見込めており、「170mもあれば家庭内での利用には十分な距離」と自信を見せる。
設定の容易さも特徴の1つ。「無線LANの設定にはある程度の知識が必要だが、PLCであればコンセントにつなぐだけでよく、電源も同じケーブルで供給できる」ため、高齢者や子供でも簡単にインターネットを利用できると期待を見せる。また、PLCで各部屋へ引き込み、無線LANアクセスポイントなどで部屋内を無線化するといった使い方も可能だ。
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実証実験で利用するPLCアダプタ。メーカーを伏せるためにカバーがかけられている
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背面はLANと電源のシンプルな構成。製品自体は親機も子機も共通で、設定を切り替えて利用する
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通信速度も高速で、光ファイバであれば上下とも数十Mbpsの実効スループットが確保できる。ソフトバンクBBの実証実験ではYahoo! BBのADSL回線を利用し、下り2.5Mbps、上り700kbpsのスループットが確認できているが、PLCで接続したPCからもほぼ同等のスループットで接続でき、菅原氏は「家庭内での利用には十分に安定した結果が得られている」と語った。
実証実験で得られた課題もある。現状では、PLCを接続したコンセントに別の機器を接続した場合、抵抗の大きさによっては別の機器に電流が流れてしまい、PLCの速度が低下する場合があるという。一番の対策は「PLC専用にコンセントを使うこと」だが、「対応策も検討中」。商用化などPLCを使った具体的なビジネスモデルは未定だが、実用化に向けて実証実験を進めていく方針だ。
■ URL
ニュースリリース
https://www.softbankbb.co.jp/press/2006/p0714.html
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(甲斐祐樹)
2006/08/10 11:05
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