角川書店は、7月24日に動画配信サービス「アニメNewtypeチャンネル」を開始した。同社のアニメ情報誌「月刊ニュータイプ」が推薦するアニメ作品などを中心に配信が行なわれている。
また、「涼宮ハルヒの憂鬱」と「GIRLSブラボー first season」の2作品を他社サービスに先行して配信。独自コンテンツとしては、「涼宮ハルヒの憂鬱」で涼宮ハルヒ役を演じた声優の平野綾らのコメント映像を用意している。
PC向けの動画配信サービスにはすでに多くの企業が参入しているが、角川書店のような出版社が主体となって運営する例はあまりない。そこで今回、同社 メディア部 デジタルコンテンツグループ グループ長の矢野健二氏と、同グループ ウェブ&モバイルチーム チーフの水野寛氏にサービス開始にあたっての経緯などを伺った。
■ ハルヒ第1話の視聴が圧倒的。先行配信作品の追加も予定
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アニメNewtypeチャンネル。オープンに合わせて「涼宮ハルヒの憂鬱」「GIRLSブラボー first season」の先行配信を開始した
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――まず最初に「アニメNewtypeチャンネル」を開始されるに至った経緯を教えてください。
矢野:2006年10月に業界団体の研修で、米国の映像配信事業者などを視察したのがきっかけの1つです。確かに、国内でのPC向け動画配信サービスでは後発組ですが、サービスを開始した理由には、この1、2年でアニメが一般層にも広く視聴されるようになったという流れがあるからです。
子どもやマニアだけでなく一般層まで浸透すると、1人1人が持つアニメに対する濃度が薄くなる傾向も出てきます。そうすると、月刊ニュータイプのような専門誌を買う必要がないと感じる層も多くなり、アニメ視聴の広がりが雑誌媒体の売上に結びつかない可能性が出てしまいます。
そこで今回のサービスを通じて、まず「ニュータイプ」という名称を広く知ってもらい、本誌への関心や購入行動へと繋げていきたいと思っています。
――サービス開始から2週間程度経ちましたが(取材時点)、1番人気を集めている作品は何でしょうか。
水野:アニメNewtypeチャンネルでは、会員登録をいただければ第1話(一部作品除く)が無料で視聴できます。そうした中で、現時点では「涼宮ハルヒの憂鬱」の第1話が圧倒的に視聴されています。
――予告編は無料配信できないのでしょうか。有料話数の購入に繋がると思うのですが。
矢野:予告編は現時点で対象ではありませんが、実現できるようであれば、ぜひ検討していきたいと思います。
――今後予定する先行配信作品があれば教えてください。
矢野:現在、テレビ放送している自社作品も配信したいと考えています。配信時期についてですが、テレビ放送、パッケージ(DVD)販売のあとに開始するのが基本的なスケジュールです。
――サービス自体の売上や会員獲得目標はどの程度でしょうか。
水野:有料コンテンツの売上目標の達成も大事ですが、その前にまずは配信作品を拡充していき、インターネットで動画を視聴する習慣を広げていく必要があると考えています。
会員登録数は、夏休みが終わるまでに5,000人から1万人程度を目標にしています。
■ YouTubeなどの動画共有サービスは“Webのコミケ”。今後の成熟に期待
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(左から)角川書店の水野氏と矢野氏。矢野氏はニュータイプおよびコンプティークグループのグループ長も兼務している
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――「ハルヒがヒットしたのはブログやYouTubeのような動画共有サイトを通じた口コミが効果的に働いた」という意見もありますが。
矢野:「涼宮ハルヒの憂鬱」はDVD販売は国内で8万セットと非常に好調な売上で、海外の評価も高いです。一気に関心が広まったという状況を考えると、口コミによるマーケティング効果はあったと捉えています。
――YouTubeに関しては、角川デジックスがGoogleと7月26日に提携されました。この点について教えてください。
矢野:まず1点申し上げておきたいのは、今回の角川デジックスとGoogleの提携はYouTube向けに開発中の動画識別技術の実証実験に関するものだということです。従って、他社が行なっている「コンテンツ・ホスティング・サービス」に関する契約は現時点で結んでいません。こちらについては、実証実験の成果を踏まえた上で検討します。
――YouTubeをはじめとした動画共有サービスでは、アニメの本編映像がアップロードされていますが、著作権者としてどうお考えでしょうか。
矢野:涼宮ハルヒのヒットでYouTubeなどの口コミ効果はあったと申し上げましたが、だからといって本編映像をすべて掲載されてしまうのは黙認できるものではありません。角川グループとしては、これまでも削除要請を行なってきましたが、これからもしっかり対応していくつもりです。ただ、個人的には動画共有サービスに対しては、Web上で行なわれるコミックマーケットを代表する同人誌即売会のような印象を持っています。
例えば、こうした同人誌即売会でハルヒの原作を収録したスニーカー文庫を全ページコピーして頒布するのは許されませんよね。逆に、作品をベースに2次創作された同人誌などであれば、黙認というか頒布を許すことはできるでしょう。それと同じことがYouTubeなどにも当てはめられると考えているからです。
そして、将来的に成熟してコミケのような存在を確立できれば、そこから才能も生まれてくるでしょうし、良いプロモーションの場になることも期待しています。
――では、アニメNewtypeチャンネル上でユーザー側が自由に2次創作に利用できる映像素材を提供するような企画もあり得るのでしょうか。
水野:具体的にいつからとは言えませんが、アニメNewtypeチャンネルでもそうした企画をやってみたいですね。また、投稿された動画に対してリアクションできる仕組みも作って、投稿する側、視聴する側の双方が楽しめるような場も考えていきたいです。
■ Second Lifeでの企画も。将来はデジタル分野のフロントランナーを目指す
――最後にアニメNewtypeチャンネルの今後の展開を教えて下さい。
水野:先ほど申し上げたように、月刊ニュータイプの読者層は比較的若くなっています。こうした若い読者やパソコンに初めて触れる人たちに対して、最初に使ってもらえるような動画配信サービスに育てていきたいと考えています。そして、第2、第3のステップとして、ニュータイプブランドで展開している音楽や通販サイトと効果的な連携も目指します。また、携帯電話とのサービス連携も検討していきます。
――デジタルコンテンツグループ全体ではいかがでしょうか。
矢野:他の大手出版社と比べると、角川書店における書籍やコミックのデジタル化はまだ遅れています。電子書籍事業に関しても先行他社に追いつけるように努力し、売上を伸ばしていきたいですね。
角川デジックスはGoogleとの提携以外にも、Second Lifeに関するLLP(有限責任事業組合)を立ち上げています。YouTubeの件もありますが、我々はSecond Lifeに対しても何らかの企画を行なっていく考えです。こうしたアプローチを通じて、デジタル分野でのフロントランナーへと成長していきたいと思っています。
――ありがとうございました。
■ URL
アニメNewtypeチャンネル
http://anime.webnt.jp/
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(村松健至)
2007/08/29 11:02
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