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独自の方向性を打ち出すAIIのコンテンツ配信

 最近、数を増やしつつある映像ポータルサイト。「映像を配信する」と一口に言っても、その切り口は様々だ。今回は、ソニーなどが出資する配信事業会社「AII」の田井野賢氏に、ラインナップの方向性や、最近の傾向などを伺った。


独自性の高いオリジナルコンテンツ

声優Wave
(C)2001-2003 声優Wave製作委員会
 AIIは2000年4月の設立当初からブロードバンドにおける映像配信事業を行なっている。設立当時は、各地のCATV事業者を通じての動画配信を行なっていたが、その後、ADSLも含めたブロードバンド環境の浸透にともない、広くインターネット全般を事業対象としている。

 AIIのコンテンツラインナップは、アニメから単館系映画など各種幅広いが、田井野氏によると「専門性の高さ」が売りだという。外部のコンテンツホルダーからコンテンツを預かり、配信作業のみをAIIが担当する場合もあれば、オリジナル番組を自社で制作することもある。たとえば根強い人気を誇る声優の関連コンテンツ「声優Wave」はAIIオリジナル番組の一例だが、DVD販売といった展開も行なっているという。

 またAIIは独自のポータルサイトを開設しているが、月額会員制を取っておらず、ユーザーは各コンテンツごとに購入・決済ができる。課金方法については、7日間限定といった日数制のものから、月々継続的に支払いが発生するものまで多様な選択肢が用意されており、決済もクレジットカード・プリペイドカードなど多くの支払方法に対応できる。田井野氏は「手前味噌だが、ここまで各種の課金形態にできる業者は、あまりないだろう」と自信を示した。

□声優wave
http://www.seiyu-wave.com/





韓国ドラマでは女性ユーザーが6割

勝手にしやがれ
(C)MBC&iMBC 提供:IMX
 AIIではポータルサイトの会員制を採用していないこともあり、利用者数は原則として非公表。ただし男女比については、概数ではあるが、男性8.5割に対し女性は1.5割程度の比率で、利用者の世代は30代から40代が中心だという。

 人気コンテンツは「バンダイチャンネルとハニーWaveなどに人気が集まっている」(田井野氏)。バンダイチャンネルは、「機動戦士ガンダム」のシリーズ作品をはじめとした人気アニメ作品、対してハニーWaveは、グラビアアイドルや、セクシー系女優出演のVシネマと呼ばれる作品を網羅したコンテンツだ。

 バンダイチャンネルは、その対象となるアニメ作品自体のラインナップが多く、現在は30タイトル以上。またテレビ放映作品であれば、その1作が1話30分、52話構成というように、コンテンツはボリュームがある。1日あたりのストリーム数についても「1,000から2,000というストリーム数。そして日々着実に新規ユーザーが増えている状況」(田井野氏)だ。

 バンダイチャンネルのコンテンツは1話30分100円の料金をベースに、2~3話まとめて販売するのが中心だ。タイトルによっては、視聴期間が長い「全話パック」を用意している。しかしながら全話パックの購入者でも、ストーリー後半の回になればなるほど視聴数が少なくなるという、長編シリーズ独特の傾向も見受けられるとのことだ。

 なおAIIでは、アダルトビデオに代表される、視聴に年齢制限をともなうコンテンツは用意していない。田井野氏は「レンタルビデオ店では利用の約6割がアダルトビデオ、などと言われ、人気があることも理解している。しかしAIIではコンテンツによって、テレビ番組のようなスポンサーを募っていることもあり、ブランドイメージにも配慮しなくてはならない」と語り、アダルトコンテンツの取扱いには慎重な姿勢をみせている。

 こういった男性向けの需要が想起されるコンテンツの一方、女性ユーザー層の人気が集まっているのが「韓国発のドラマ」だ。

 AIIでは「秋の童話」「ロマンス」「勝手にしやがれ」といった韓国の連続ドラマをラインナップ。その購入者の約6割が女性だという。田井野氏によれば内容は「日本の昼メロに通じる、1980年代の定番的な作り」とのことだが、ストーリー自体、継続性の高いことも相まって視聴者を多数獲得できており、バンダイチャンネルに続くキラーコンテンツとして期待しているという。

□勝手にしやがれ
http://www.aii.co.jp/contents/katteni/vod.html





月額会員制はあえて採用しない

AIIのTOPページ
 AIIはブロードバンド向けの動画配信会社として2000年3月に設立されたが、ブロードバンド環境は約3年の間に激変している。CATVが中心だったブロードバンド環境も、ADSLやFTTHなどに発展。当初AIIでの動画配信の平均帯域として想定していたものは256kbpsだったが、現在は512kbps程度と倍の帯域が中心となっている。

 またAIIの戸野本理代氏によると、インターネットでの動画配信は当初、コンテンツホルダー側が不安を感じていたという。「理由の1つに、配信サーバーをどの企業が運用しているのか、具体的に誰の所有かといった(管理区分に関する)情報が明示されなかったことがある。そういった背景からAIIでは、配信の根幹に関わる部分を可能な限り自前でやることにこだわった。」

 またサイト構成についても、一般ユーザーには認識しづらい、影の部分での配慮があるという。その一例が有料会員制をとっていない点だ。AIIの戸野本氏は「コンテンツホルダー側から見れば、単体でも十分販売できるコンテンツがAIIの有料会員にならなければ見られないとしたら、本末転倒な状況ともいえるだろう」として、月額会員制のデメリットを挙げた。

 さらに田井野氏は、“個人的な意見”と前置きした上で「検索エンジンの表示結果などから、ピンポイントでそのコンテンツに訪れたユーザーにとって、有料の会員制は一手間おかけする事になってしまう」とも付け加えた。

 なお、映像再生までの待ち時間を短縮する機能などをサポートするWindows Media 9 Seriesについても利用の目途は立っているものの、コンテンツホルダー側との調整や、要求するPC側スペックが高くなることで、潜在的な販売対象ユーザーが減少する可能性も否定できないため、現段階では採用例がないという。

 ユーザーの視聴環境にも変化が起こりつつある。「家電的志向のPCが増え、家庭用テレビに映像を出力できるPCも多い。この機能を利用すれば、よりゆとりのある環境で長編の映像を見てもらうことも事も可能だろう。そういったPC周辺環境の使い方も、アピールしていく必要があるかもしれない」(田井野氏)





専門性の高さゆえのメリットも

AIIの田井野賢氏
 現在、AIIのコンテンツラインナップは前述の通り「専門性」傾向が高い。各制作プロデューサーの嗜好もかなり反映されているが、それが中途半端さの少ない内容、コアなユーザー層獲得につながっているのでは、と田井野氏は分析する。視聴ユーザーの数は少なくなる反面、ユーザー層が絞り込まれるために、マーケティングやグッズ販売といったビジネス展開が成立しやすくなるのだという。

 一方でライトユーザー向け編成の必要性も感じているが、その実現は容易ではない。「ライトユーザーはとことんライトなので、メジャーなコンテンツである必要性がある」「ハリウッド映画の場合だと、通常、ロードショー後にパッケージソフトの販売、テレビ放映といったサイクルを経ているので、インターネット配信はその後になるかもしれない。それでいくと(劇場上映から)数年はかかってしまう」(田井野氏)

 AIIではユーザーを引きつけるための工夫として、オンデマンドではなくタイムテーブルに従って、各アニメなどの第1話を無料で配信するサービス「AII TV」の取り組みも始めた。田井野氏は「サンプルではない製品そのものを見ていだくことで、(作品の)続きを見たくなるという効果が高いようだ」と語った。

 こういった「映像の見せ方」へのこだわりは、コンテンツの制作段階でも発揮されているという。「鉄道コンテンツも人気があるが、単に運転席からの映像を撮影したものではなく、同時に、自由に視点変更できる機能を使う事で、大変なアクセス数を集めたこともあった」と田井野氏は述べ、「コンテンツ企画力」の重要性に触れた。

 「巨大ザク組み立てライブ」や、インターネットラジオ「ラジ@」など、オリジナル番組に注力するAII。今後もAIIならでは、という個性的なコンテンツを期待したい。


関連情報

URL
  AII
  http://www.aii.co.jp/
  関連記事:AII、巨大ザクII組み立てキットの組み立て光景をライブ配信
  http://bb.watch.impress.co.jp/news/2002/08/19/zakii.htm

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(森田秀一)
2003/07/09 11:19
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