5.6GHz帯の開放やIEEE 802.11n ドラフト2.0製品の登場、デュアルチャネルの解禁など、無線LANに関する話題が多かった2007年。この1年の無線LAN業界に関する動向と今後について、NECアクセステクニカ マーケティング本部 販売推進部の矢田部弘長氏に伺った。
■ IEEE 802.11nの標準化は2009年7月に
|
IEEEの最新スケジュールではIEEE 802.11nの標準化は2009年7月に延期(写真はアセロス発表会の資料)
|
――本日はよろしくお願いします。初めに、IEEE 802.11nの状況について教えてください。
IEEE 802.11nは、現在正式版よりも前の状態であるドラフト2.0の製品が市場に出ていますが、つい先日ドラフト3.0が承認されました。現在はドラフト3.0で決定した内容に関して、弊社既存製品の対応状況を確認中です。確認完了後、カタログやWebサイトなどで告知していきたいと思います。
――ドラフト3.0はどういった内容なのでしょうか。
承認されたばかりということもあってまだ細かい内容は把握できていませんが、コメントは数百件寄せられているようで、正式化よりも前にドラフト4.0、またはそれ以上のドラフトが作成される可能性もあるでしょう。IEEE 802.11nの標準化スケジュールも当初は2008年秋でしたが、最新の情報では2009年7月へと再度延期されました。
――すでに市場にはドラフト製品のIEEE 802.11nが出ていますが、正式版となったときにこれらドラフト製品はアップデートなどで正式版に対応できるのでしょうか。
確実に正式版に対応できるとは申し上げられませんが、そうできるように最善の努力は尽くしていくつもりです。
■ 消費者の注目は「価格」。2万円を切る製品が人気
|
コレガの「CG-WLBARGNS」は、IEEE 802.11n技術をベースにした送信1×受信2構成の無線LANルータ。理論値最大150Mbpsで価格は1万円前後と低価格に抑えられている
|
――まだ正式版でない製品が市場に出ていることに対して、消費者の反応はいかがでしょうか。
我々が行なった市場調査によると、ドラフト版であることはあまり購入時の障壁にはなっていません。むしろ、あくまでお客様のご予算の範囲内で、なるべくスピードが速く、遠くまで届くという点で選ばれることが多いようです。一般論ですが、2万円を超える商品になると、店頭での動きはあまり活発ではありません。
――ドラフト11nの製品も2万円を切るほど低価格化していくのでしょうか。
ドラフト11nは複数のアンテナを使いますので、従来製品と比べてどうしても原価の上昇は避けられません。ただし、ドラフト11nの中にもストリーム数やアンテナ構成によってさまざまなハードウェア構成を取ることが可能であり、中には低価格化がしやすい構成もあるでしょう。
今後は従来規格対応の製品が徐々に縮小していき、ドラフト11nの中のアンテナの数やストリームの数の違いでラインアップが分化していくのではないでしょうか。
――現在はどの方式の無線LAN製品が人気なのでしょうか。
当社の調査によれば、IEEE 802.11g対応製品が約5割、IEEE 802.11a/g対応製品が約4割、MIMOまたはドラフト 11n対応製品が約1割となっています。最近2~3カ月間で、ドラフト11n対応製品が1割を超え、徐々にシェアが大きくなっています。
■ デュアルチャネルの真価を引き出せる5GHz帯
――IEEE 802.11aを屋外でも利用できる5.6GHz帯「W56」も開放されました。
我々としても5GHz帯は啓蒙していきたい部分で、現在のところW56のアクセスポイント機能に対応できているのは、私の把握している限り当社だけだと思います。なお、先日発売したドラフト11n対応のAtermWR8500Nでも5GHz帯はW52、W53、W56とも対応していますが、300Mbpsの理論値を実現するデュアルチャネル機能の対応は、W52のみとなっています。ただ、これも今後の製品では全チャネルで300Mbpsが使えるようにしていきたいと考えています。
――5GHz帯のメリットを改めて教えてください。
IEEE 802.11b/gが使う2.4GHz帯は一般に「ISMバンド」と呼ばれ、電子レンジやBluetoothなど他の電波も飛んでいますが、5GHz帯は一部レーダーを除き、無線LAN専用の帯域です。2.4GHzは無線LAN以外の機器が干渉を与える場合がありますが、5GHz帯はそういうことがありません。
また、法令の改正により、今まで無線LANで使っていたチャネル(20MHz幅)を2つ使って、ドラフト11nで最大300Mbpsまで高速化するデュアルチャネル機能が日本でも可能になりましたが、2.4GHz帯でデュアルチャネルを使うと、1つのアクセスポイントで2.4GHz帯の帯域を半分以上使ってしまいます。先ほど述べた通り、2.4GHz帯は無線LAN以外の機器も利用していますから、それらの干渉を受けやすくなり、デュアルチャネルも本来の性能を発揮できなくなります。
5GHz帯は無線LAN専用ですし、チャネル数もW56を加えれば19チャネルと、2.4GHz帯が干渉を避けて実質同時に使える4チャネルと比べても非常に多いです。デュアルチャネルでも最大9チャネルまで干渉させずに使えますから、ホームユースはもちろん、オフィスなどで複数の無線LAN機器を設置する場合にも設計しやすいというメリットがあります。
36 |
40 |
44 |
48 |
52 |
56 |
60 |
64 |
|
100 |
104 |
108 |
112 |
116 |
120 |
124 |
128 |
132 |
136 |
140 |
W52 |
W53 |
|
W56 |
屋内のみ |
|
屋外可 |
|
5GHz帯のチャネル数
|
■ 出荷時設定で暗号化設定率を高める。今後はフィルタリングも注力
|
NECアクセステクニカの無線LANセットモデルは出荷時から暗号化を設定済み
|
――無線LANのセキュリティ面では暗号化が強固なWPAの普及が進んでいますが、一方で携帯ゲーム機などがWEPにしか対応していないことで、結果としてWPAが消費者に使いにくい状況にあるように思います。
ゲーム機に限った話ではなく、WEPにしか対応していない機器が普及している以上、接続できないことがあってはいけませんからこれは難しい問題です。まず大事なことは選択肢を用意することだと考えています。我々はWEPもWPAも対応していますし、最新の機器ではWEPとWPAで2つのSSID無線ネットワークを仮想的に構築できるマルチSSIDにも対応しました。今後は、この2つの無線ネットワークを切り離して使えるようにするなどの、強化策を検討していきたいと考えています。
もっとも、WEPとWPAのセキュリティ強度を比較する以前に、そもそも暗号化を何も設定していない無線LANアクセスポイントがまだまだたくさんあるということも問題でしょう。当社の推進する「らくらく無線スタート」は、製品ごと個別に異なるSSIDや暗号化キーを設定したうえで出荷し、ボタン操作によってその内容を子機側の接続設定に反映するという考え方です。このため、自分の意志で設定を解除しない限り暗号化なしでは使えなず、結果として90%以上がが暗号化設定された状態で使われています。
セキュリティという点では、我々は有害サイト対策にも取り組んでいます。先日総務省が青少年の携帯電話・PHS利用にはフィルタリング機能を原則義務化するとの発表がありましたが、携帯電話に限らず、今後はこうした悪質サイトのフィルタリングに対する認識も変わってくるでしょう。
ただ、携帯電話であれば端末ごとにフィルタリングを設定すれば済みますが、インターネットは家族で共有するものですから、同じ回線を利用する人すべてに端末ごとのフィルタリングを導入していくのは手間も費用もかかり、実際には難しいでしょう。ルータの部分で一括してフィルタリングを行なえば、そのような問題は解決できます。さらに弊社の製品では、接続した端末ごとにフィルタリングの制限レベルをを4段階で変更設定できるため、運用の自由度も高いです。このようにセキュリティのジャンルは今後も、強化・啓蒙を進めていきたいと思います。
■ PLCやc.LINKと無線LANは棲み分け。2008年以降は家電分野に期待
|
NECアクセステクニカ マーケティング本部 販売推進部の矢田部弘長氏
|
――無線LAN以外にも、PLCやc.LINKといったホームネットワーク技術が登場しました。
弊社ではPLC製品も手がけていますし、PLCは無線LANの届かない場所では有効なソリューションだと考えています。ただし、今のところは複数の規格が互いに接続できないなど互換性の問題があり、ユーザの理解は進んでいないと思います。また、ドラフト11nの価格低下のスピードも速く、より高速で電波の届く範囲も広いドラフト11nが安価になってくると、PC用途としてPLCが活躍できる領域は少なくなってくるかもしれません。
一方で、電源とネットワーク接続を一本化できるメリットは、家電製品への組み込みなどに有効なのは今後も変わりませんので、無線LANとPLCの用途的な棲み分けが進むのではないでしょうか。
c.LINKはテレビ接続用の同軸ケーブルを使いますから、リビングのAVラックコーナーへネットワークをつなげるための手段としては良いのではないでしょうか。現状はまだ法人市場向けの製品が出たばかりということもあって、値段や本体の大きさなど、ホームユーザ向けにすぐ普及する段階ではないと思います。
――2008年以降の無線LAN動向についてお聞かせください。
家電など、非PC領域への無線LANの普及が1つの大きなテーマですね。家電でのネットワーク接続における主要なニーズは、やはりストリーミングです。正式化は2009年になってしまいましたが、通信速度も速く、QoSも標準的に提供されるIEEE 802.11nには、大きな可能性があるでしょう。フルHDのストリーミングなどは、やはりIEEE 802.11nクラスの通信速度が必要です。ただし、IEEE 802.11nの正式化が延期されたしまったため、PLCと11nどちらが先に家電やSTBに組み込まれるかは注目すべき点だと思います。
また、WiMAXやフェムトセルなど、新しい無線技術も登場し始めています。これらの技術と無線LANがどのようにポジショニングされていくのかも、2009年以降の注目していただくポイントではないでしょうか。
――ありがとうございました。
■ URL
NECアクセステクニカ
http://www.necat.co.jp/
■ 関連記事
・ アセロス大澤氏「IEEE 802.11nの標準化は2009年7月に延期」
・ 無線LANはもう恐くない! イチから始める無線LANキソのキソ 第1回:無線LANを始めよう!
(甲斐祐樹)
2007/12/25 10:52
|