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「アニサマ」中継で見えたニコ動発の新たなコミュニケーション

 8月31日、ニコニコ動画の「ニコニコ生放送」で「Animelo Summer Live 2008 -Challenge-」2日目の生中継が実施された。累計2万人超のユーザーが参加した生中継にあたった、ドワンゴの担当スタッフから話を聞いた。





4回目を迎えた「アニサマ」。会場/日程拡大も即完売

アニサマ2008、2日目出演のアーティストたち
 「Animelo Summer Live(アニメロサマーライブ)」は、2005年から毎年開催されているアニメソング関連の音楽ライブイベント。4回目となる「Animelo Summer Live 2008 -Challenge-(以下アニサマ2008)」では、会場を前回の「日本武道館」から「さいたまスーパーアリーナ」へ移すとともに、会期を2日間に倍増。1日あたりの動員数だけでも、2007年の規模を上回ったが、前売チケットは追加分を含めて即完売した。

 16時から5時間近くに渡って18組がライブパフォーマンスを繰り広げた2日目のアニサマ2008。ニワンゴの運営する「ニコニコ動画」では、2日目の開催に合わせて最大1万人が同時に生視聴できるニコニコ生放送の「ニコ道館」で生中継を実施した。

 まず最初に登場したのはJAM Project+美郷あき。ニコニコ動画で話題となった「思い出はおっくせんまん!」を熱唱し、会場内のボルテージを上げた。その一方、JAM Projectのメンバーでもある奥井雅美がドクターストップのため、2日目の参加を見合わせるとの報告が影山ヒロノブからなされたが、「会場で見てくれている彼女のためにも頑張っていきたい」と語ると、観客からの声援が続いた。

 「思い出はおっくせんまん!」の次には、美郷あきがアニメ「怪物王女」オープニング曲(OP)である「BLOOD QUEEN」を披露。そして、デビュー曲で「舞-HiME」エンディング曲(ED)ある「君が空だった」を2曲目として歌い、「ここから再出発したい」と決意を新たにした。

 アニサマ2008会場では、次いでELISA、ドメスティック・ラヴバンド、Sound Horizon、黒薔薇保存会が登場。しかし、ニコニコ生放送では配信発表時の告知にあったとおり、一部アーティストの生中継が実施できないため、「ただ今、生放送休憩中となります」との静止画像が表示されていた。


JAM Project+美郷あき 美郷あき ELISA

ドメスティック・ラヴバンド Sound Horizon 黒薔薇保存会

 1度目の休憩が明け、最初に登場したのは桃井はるこ。「ライブで私の生き様をみせたい」との発言とともに、「奥井雅美さんの歌で育った私を見て欲しい」と語った桃井は「Feel so Easy!」と「LOVE.EXE」を披露。途中、転倒するシーンでは観客を心配させたが、見事に歌い上げていた。

 続く、MOSAIC.WAVとのコラボレーションパートでは小池雅也とのユニット「UNDER17」を一夜限りの復活。MOSAIC.WAVとともに「天罰!エンジェルラビィ」を熱唱し、観客を沸かせた。そして、ave;new feat.佐倉紗織やmiko(IOSYS)、Lia、中村繪里子・今井麻美・たかはし智秋・下田麻美 from THE IDOLM@STERが登場したのち、2回目の休憩へ。ニコニコ生放送で登場したアーティストの楽曲には、ニコニコ動画で人気を集めた楽曲も数多かった。

 そして、再度1時間程度の休憩時間が経過したのち、ニコニコ生放送でのラストアーティストとなるJAM Projectが「No Border」「Rocks」「SKILL」の3曲を熱唱。さいたまスーパーアリーナの会場では、出演アーティスト全員が揃って「Yells ~It's a beautiful life~」やアンコール曲を歌い、イベントの幕が閉じた。


桃井はるこ UNDER17(桃井はるこ+小池雅也)+MOSAIC.WAV MOSAIC.WAV

ave;new feat.佐倉紗織 miko(IOSYS) Lia

 以降の出演アーティスト写真&セットリストは“こちら”





ニコニコ生放送の現場スタッフは3人。機材はノートPCとBフレッツ

写真右側がニコニコ生放送の作業スペース。左側、黒い幕がかかったスペースはアニサマ2008側
 ニコニコ生放送での音楽ライブイベント中継は、7月に開催した「dwango.jp presents R-Festa 2008(以下R-Festa 2008)」に続いて2回目。R-Festa 2008では、抽選で選ばれた1万ユーザーに対して視聴権が配布され、実際に視聴したユーザーからも好評な結果を得られたという。

 これらライブイベントの生中継は3カ月ほど前から企画を進めていたもので、今回話を伺ったドワンゴのニコニコ事業本部 事業推進部 第一セクションに所属する設楽泰智氏は、「アニサマ2008はニコニコ動画ユーザーとも相性が良いイベントで、ぜひやってみたかった」という。

 生中継を実行するにあたっては、実際に会場の下見を行い、インターネット回線や配信作業を行うスペースの有無を確認する。配信スペースは「会場内では他の機材や振動などによって問題が生じる場合がある」ため、バックヤードなど会場とは別の場所が適しているという。インターネット回線は、さいたまスーパーアリーナに用意されているBフレッツ回線を使用した。


作業スペース。ノートPC数台とスイッチャーが並ぶ アニサマ2008側の作業スペース。ニコニコ生放送側とは異なる10台以上のモニタや専門機材が並んでいる

 現場で配信に携わるスタッフ数は、設楽氏によれば「大体2~3人程度。タイミングによっては1人で作業している時間もある」という。今回の生中継は、設楽氏に加え、ニコニコ事業本部 事業推進部 第一セクション マネージャーの中野真氏(ニコニコ動画 運営長)、同事業本部 企画開発部 クリエイティブディレクターの佐宗謙一氏の3人が担当していた。

 機材は、ノートPC数台と映像・音声の切り替えを行うスイッチャーを用意し、イベント映像はアニメロ2008側で撮影した素材の提供を受けた。また、ストリーミングにあたっては、ノートPC1台を使用し、リアルタイムエンコードして配信サーバーへと送信。複数台あるPCの中にはコメント監視などを行う端末もあり、実際に配信作業を行っているのはエンコードを実施している1台のみ。最終的に配信を行なうのはデータセンター側となるが、エンコードや送信に使用する機材はスイッチャーを除けば市販されている機材がほとんどで、人員を含めて非常にシンプルな構成だった。


写真は映像素材をリアルタイムエンコードしていたノートPC。サーバー側への配信作業も担っていた ライブ映像と休憩画面などへ切り替えるスイッチャー 会場内に設置されたカメラの一部。これらカメラで収録された映像の提供を受けて、配信が行なわれた




またたく間に1万人に。休憩中は“間”のコミュニケーションが発生

ニコニコ生放送中の作業風景
 アニサマ2008の開演は16時。その10分前にニコニコ生放送での会場となるニコ道館が開場すると、またたく間に上限数である1万人に到達した。中野氏によれば、1万人に到達するまでのトラフィックの伸びは「今までになく、高い数値を示した」とのことで、実際に会場へ足を運べなかった人々の関心の高さが垣間見えた。

 前述の“生放送休憩中”は合計2回、それぞれ1時間程度あり、同期間中はライブは視聴できない状態だった。一方、ニコニコ生放送自体は継続されており、ユーザーからのコメントも随時表示される。長時間にわたって生中継が中断することに対する不満もある一方で、チャットのようにユーザー同士がコミュニケーションする場面もあったという。

 休憩中の時間帯は、設楽氏曰く、「各家庭で同じテレビ番組などを見ながら、休憩中の画面上にコメントを投稿するユーザーが多数いたり、ニコニコ生放送がコミュニケーションの場になっていた」とのことで、ときには運営側もコミュニケーションに参加していたという。


休憩中に表示された画面。この間、テレビ番組に関するコメントも多数あった 上限1万の待機リスト枠を超えた際に表示された画面

 中継映像と静止画の切り替えは手動で、ステージが暗転する場合は特に問題なく作業は進んだという。一方、ニコニコ生放送でラスト曲となったJAM Projectの「SKILL」では、メンバーと観客達のあいだで「Motto!Motto!」のコール&レスポンスが恒例だ。会場はもちろん、ニコニコ生放送上でも「Motto!Motto!」のコメント投稿が続き、再生画面を覆い尽くすほどの“激しい弾幕状態”が続いた。

 アーティストと観客たちが一体化するコール&レスポンスはライブにとって重要なポイントだが、いつ曲が終了するか判断できないため、配信スタッフにとっては配信終了の決断が難しい局面でもある。会場では次に全アーティストが登場するパートとなるため、判断を間違えれば問題が生じる可能性もあるからだ。このため、ライブシーンを見ながら「OK?」「まだ!」などとスタッフたちは手に汗握りながら判断を行いながら、無事配信終了にこぎつけ、安堵した表情を見せていた。


「Motto!Motto!」の激しい弾幕に覆われた再生画面。よく見ると運営側も投稿している スイッチャー操作を担当した佐宗氏。特に最後の切り替えでは他の2氏と終了するタイミングの判断に終われていた




ニコニコ生放送で生まれるコミュニケーションの新しい形

(左から)今回話を伺ったドワンゴの設楽氏、中野氏、佐宗氏

配信終了時の画面。累計来場者数は2万を超えた
 ニコニコ生放送終了時での参加ユーザー数は2万超。ただし、ニコニコ生放送自体は上限1万人となるため、この数字は累計値となる。中継中には1時間程度の休憩が2回入ったが、設楽氏によれば「退出するユーザー割合は少なく、同じく上限1万人の待機リストから入場できたユーザーも少なくなってしまった」という。

 前述のようにニコニコ生放送ではユーザー同士のコミュニケーションが可能だが、「ここから学ばせてもらうことも多い」という。例えば、アニサマ2008では演奏楽曲情報などを通知していたが、これはR-Festa 2008の生中継時に「何を歌っているのかわからない」という要望コメントに中継途中から対応して開始したものだ。また、登場アーティストのタイミングで「運営GJ!」などと激励のコメントも寄せられ、ニコニコ動画スタッフを交えたコミュニケーションが成立しているようだった。

 設楽氏、中野氏、佐宗氏はライブ中はバックヤードにて作業を行っていたため、モニタ越しにライブを視聴していた格好になる。このため、「ユーザーとともにライブを見ている」印象が強く、「生放送中はユーザーと一体感を持って作業できた」という。

 設楽氏はまた、「通常のストリーミング配信であれば、1人でも100万人視聴可能なシステムであっても、結局1人で見ているのと変わらない」と語り、「ニコニコ生放送ではコメントを通じたリアルタイムのコミュニケーションで他ユーザーとの一体感が得られる」とコメント。特に休憩中に生じた“間”のコミュニケーションに対する大切さを挙げ、「ライブ会場に足を運ぶのは当然として、ライブの新たな楽しみ方として『ニコニコ生放送で楽しみたい』と言ってくれる人が多く出てきてくれれば」と語ってくれた。

 次回のライブイベント配信は未定だが、アニメロサマーライブの次回開催分も「実現できるようであれば、ぜひ取り組みたい」とのことだ。また、ニコニコ生放送で同時視聴可能な上限人数も将来的に拡大していきたい考えだという。





出演アーティスト写真&セットリスト

福山芳樹 May'n

サイキックラバー 平野綾 石川智晶

米倉千尋+石川智晶 米倉千尋 JAM Project

・2日目(8月31日)分セットリスト
曲順 曲名 アーティスト名 ニコニコ生放送
1 思い出はおっくせんまん! JAM Project
+美郷あき
2 BLOOD QUEEN 美郷あき
3 君が空だった
4 euphoric field ELISA -
5 HIKARI -
6 ハッピー☆マテリアル[ドメラバstyle] ドメスティック・ラヴバンド -
7 Shangri-La[ドメラバstyle] -
8 朝と夜の物語 Sound Horizon -
9 奴隷市場 -
10 聖戦のイベリアメドレー -
11 「花火」~「満天プラネタリウム」(メドレー) 黒薔薇保存会 -
12 ヒカリ(黒薔薇ver.) -
13 Feel so Easy! 桃井はるこ
14 LOVE.EXE
15 天罰!エンジェルラビィ UNDER17(桃井はるこ+小池雅也)
+MOSAIC.WAV
16 最強○×計画 MOSAIC.WAV
17 ガチャガチャきゅっ~と・ふぃぎゅ@メイト
18 「true my heart」~「Iris」
~「ラブリー☆えんじぇる!!」(メドレー)
ave;new feat.佐倉紗織
19 魔理沙は大変なものを盗んでいきました miko(IOSYS)
20 鳥の詩 Lia
21 「GO MY WAY!!」~「キラメキラリ」~ 「relations」
~「エージェント夜を往く」~ 「Do-Dai」~「蒼い鳥」
~「GO MY WAY!!」(メドレー)
中村繪里子・今井麻美
・たかはし智秋・下田麻美
from THE IDOLM@STER
22 THE IDOLM@STER
23 真赤な誓い 福山芳樹 -
24 ノーザンクロス May'n -
25 射手座☆午後九時Don't be late -
26 Precious Time,Glory Days サイキックラバー -
27 鼓動~get closer~ -
28 LOVE★GUN 平野綾 -
29 Unnamed world -
30 アンインストール 石川智晶 -
31 Proto type -
32 「あんなに一緒だったのに」~「嵐の中で輝いて」 米倉千尋+石川智晶 -
33 永遠の扉 米倉千尋 -
34 FRIENDS -
35 No Border JAM Project
36 Rocks
37 SKILL
38 Yells ~It's a beautiful life~ アニサマ2008出演アーティスト
+ミュージシャン
-
アンコール
39 OUTRIDE  アニサマ2008出演アーティスト
+ミュージシャン
-
40 Yells ~It's a beautiful life~ -


関連情報

URL
  ニコニコ動画
  http://www.nicovideo.jp/
  Animelo Summer Live 2008 -Challenge 公式サイト
  http://animelo.jp/challenge/

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(村松健至)
2008/09/17 15:29
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