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「月額500円でBフレッツユーザーが8割」エキサイトの戦略を知る

 大手ポータルサイトとして知られるエキサイト。しかし2002年8月からはフレッツ・ADSL、Bフレッツを対象としたISPサービスや有料の動画配信サービスを提供する「BB.excite」を開始している。月額500円からという圧倒的な低価格を武器に会員数を増やす同サービスについて、エキサイトに伺った。


「会員の8割がBフレッツユーザー」

BB.excite
 エキサイトが2002年8月より開始したISPサービス「BB.excite」は、インターネットイニシアティブ(IIJ)をバックボーンとして利用、月額500円からフレッツ・ADSLやBフレッツ対応プランを利用できる。メールアカウントはオプションサービスとなり、利用には別途280円が必要だ。

 BB.exciteの会員数は現在のところ非公表だが、1年前のサービス発表段階で目標に掲げた「3年間で10万人」という数字の達成に向けて順調に推移しているという。また、BB.exciteグループ グループマネージャーの宗俊介氏は「早ければ2003年度にも10万人を達成できるのではないか」との予測も示した。

 BB.exciteユーザーの回線比率は非常に特徴的だ。サービス開始当初はBフレッツユーザーが7割、フレッツ・ADSLが3割だった。現在は「Bフレッツが8割を占めるが、取次サービスだけをみれば9割」(宗氏)と、Bフレッツ利用者の比率が圧倒的に高い。

 このユーザー比率は、BB.exciteの圧倒的ともいえる低価格戦略が影響していると考えられる。フレッツ・ADSL対応プランであれば、700円程度でサービスを提供している事業者も存在するが、Bフレッツ対応プランとなると少なくとも1,500円近いプロバイダー料金が必要。Bフレッツ対応プランにおける500円は破格の価格で、Bフレッツユーザーの比率が高いのも納得の数字といえる。

 また、ユーザーの利用形態としても低価格の影響からか、当初は“玄人”ユーザーが補助的に使う第2のプロバイダーとして人気を集めたという。しかしその後は新規ユーザー向けのBフレッツ工事費無料キャンペーン効果などもあり、初心者ユーザーの獲得も進んだ。月額280円のメールアカウントサービスも、セカンドプロバイダーとして利用されていたサービス開始当初は6~7名に1名の利用率だったが、現在は2名に1名がメールアカウントサービスを利用するまでになったという。





「いつでも見られるコンテンツは、見てもらえない」

チャーリーズ・エンジェル フルスロットル
 BB.exciteのもう1つの特徴が、広帯域での有料動画配信サービスだ。映画やアニメなど、いつでも視聴できるオンデマンドコンテンツのほか、イベント的にライブ配信を実施。いずれもMbps単位でのコンテンツ配信を行なっている。なお、有料動画配信サービスはBB.excite以外のユーザーでも、月額300円のコンテンツ会員になれば視聴することができるが、その場合、帯域は500kbps程度までに制限される。

 コンテンツ配信サービスについては、明確な会員数を算出していないとのことだが、動画コンテンツを含めたエキサイト全体の有料コンテンツを購入するためのID登録ユーザーは、約10万人。また、BB.exciteの男女比は約9対1、平均年齢は32~3歳という。

 有料コンテンツは、BB.exciteの接続会員が購入しているケースが多く、どちらかといえばまずはインターネット接続サービスを導入、その後に高速な回線を活かしたコンテンツを探すという流れが標準的という。他プロバイダーの会員でも利用できるコンテンツ会員は、視聴したいコンテンツがある時だけ入会し、その月には退会するという“お試し”感覚が強いようだ。

 エキサイトで配信しているコンテンツは、「オンデマンドよりもライブ中継に重きを置いている」と宗氏は語る。その理由は「(オンデマンドのように)いつでも見られるコンテンツは、ユーザーが見に来ない」というのだ。

 オンデマンドコンテンツは、基本的には24時間365日いつでも視聴可能で、インターネットでの動画配信におけるメリットの1つとして注目されている。しかし宗氏は「いつでも見られるという安心感があるためか、結果的に購入・視聴に至らないケースが多い」とコメント。オンデマンドコンテンツの重要性は認識しながらも、実際に視聴してもらえるという効率面では、むしろ一定期間だけしか視聴できないライブ中継に軍配を挙げた。

 ライブ中継の試みとしては、「ターミネーター3」「チャーリーズ・エンジェル フルスロットル」といった映画作品の来日会見を独占ライブ中継、無料で配信した。さらに、2002年12月には、有料会員向けのサービスとして浜崎あゆみのカウントダウンライブを配信。1回あたりの料金が1,000~2,000円と高額ながらも、BB.exciteが過去に提供した動画コンテンツのうち、もっとも成功を収めているという。





CDNを活かした大容量コンテンツ配信

2002年末に行なわれた浜崎あゆみのライブ中継
 ただし、ライブ配信は、短い時間内に莫大なユーザーが集中することになるため、バックボーンや配信サーバーの台数など、インフラ面での負担が大きいのは事実。エキサイトのようにMbps単位での大容量コンテンツを配信する事業者としてはなおさらだ。

 その対策として宗氏は、エキサイトのCDN(Contents Delivery Network)を挙げた。CDNとは、コンテンツを安定的に配信するためのネットワークだ。まず、ユーザーにとって、ネットワーク的に近い部分にコンテンツ用キャッシュサーバーを設置する。各ユーザーは配信を取り持つ本サーバーにではなく、そのキャッシュサーバーにアクセスするので、1つのデータセンターにアクセスを集中させず、分散させる効果がある。

 さらにBB.exciteでは、そのキャッシュサーバーをNTTの地域IP網に直結している。そのためBB.exciteを通じてインターネットに接続する会員は結果的に、パケットの遅延やロスが発生しやすいインターネットを極力迂回しながらライブ動画を視聴できるのだ。

 ライブ配信は、長時間のものも多い。また、1回限りといったプレミアム性の観点から販売単価を高めに設定することも可能で、売上の面でも好影響を与えているという。BB.exciteでは今後もライブ配信に注力していく方針だ。





ユーザーに最適な環境での配信を進める

 ライブ配信には、ほかにも隠れたメリットがある。

 「コンテンツは当然ながらサーバーのハードディスクに保存されている。最近は3Mbpsの動画コンテンツなども増えており、コンテンツの保存総容量が数TBにおよぶようになった」(宗氏)。このように広帯域のオンデマンドコンテンツを無限に増やすことは現実的に難しいが、「ライブ配信であれば保存を考える必要がない」(宗氏)点でオンデマンドよりメリットが大きいのだという。

 一方、サービス開始時には6Mbpsクラスでの動画配信も行なっていたBB.exciteだが、ここ最近では最大でも3Mbps、多くは1Mbpsまでの帯域に留まる。これはネットワーク側の問題ではなく、ユーザー側のパソコン性能や回線スピードなどの問題により、6Mbpsクラスのコンテンツは視聴できないためだという。宗氏は「現段階では、障害なく見られる動画の平均帯域は1Mbps程度」とコメント、過剰に大容量コンテンツを配信するのではなく、現状ユーザーが視聴できる最適な環境での配信を進めていくとした。

 また、帯域を押し下げている要因としてはADSLの構造的な問題も指摘。「ADSLはスピードテストで6Mbpsを超えることもあるが、これはあくまでも瞬間的な数値で、断続的にはスピードが変化している。動画など、数十分にわたって受信を続ける場合にはそのスピードを維持し続ける必要がある」(宗氏)。加えて「FTTHになれば安定した高速通信が可能だ」と、動画配信におけるFTTHのメリットを示した。





「エキサイト独占」へのこだわり

来日記者会見を独占ライブ中継した「ターミネーター3」
 加えて宗氏が、BB.exciteの方向性として挙げたのが「独占」というキーワードだ。「どのWebサイトやISPでも見られるコンテンツでは、会員獲得に与える影響は軽微。やはりエキサイトでなければ見られない、独占的なオリジナルコンテンツが必要だ」と、宗氏は訴える。

 この例としては、先にも述べた来日記者会見の独占中継が挙げられる。エキサイトでは“都市圏在住の20~30代ユーザー”を徹底的に意識したマーケティングを行なっているが、この世代には映画や音楽分野コンテンツは必須であり、そういったユーザー層のデータが独占コンテンツ獲得の武器になっている面があるのだという。ほかにもライブ配信に適したCDNに加えて、DRM(デジタル著作権管理)技術などを導入済であることも、大きく影響しているだろう。

 また人的な面での努力も忘れてはいない。「3年ほど前から芸能・音楽関係に詳しいスタッフを起用し、コンテンツホルダーとのコネクション作りに務めた。その3年の成果が出始めている」(宗氏)





大作コンテンツ獲得の壁

BB.exciteグループ グループマネージャーの宗俊介氏
 コンテンツの独占配信に注力するエキサイトだが、当然ながら障壁もある。たとえばハリウッド映画のオンデマンド配信を例にとった場合、問題になるのは単純な金銭面だけではなく、パッケージ販売に悪影響を与えるという懸念をコンテンツホルダーが持っている、と宗氏は述べる。

 また著作権保護への取り組みは、管理ソフトの充実などで一定の成果を得たものの、「パソコンで視聴するというスタイルに抵抗をもつコンテンツホルダーも多い」と宗氏は語る。セットトップボックス(STB)を通じた動画配信が比較的多いのはそのためだという。

 売上獲得のために広告を挿入することも考えられるが、これにも課題があるという。「インターネットの世界では広告の効果測定を厳密に行なう風潮があり、“クリックさせる”ことが広告効果として考えられている。これがテレビCMなどではどれだけ見られたかといった露出量でも算定されるが、現在のパソコン向け動画配信の中に広告をそのまま入れても、果たしてそれがクリックにつながるのか、という考えもある」(宗氏)。現状ではコンテンツの販売代金だけに頼らざるを得ないのだという。

 なお、STBでのコンテンツ配信についても、エキサイトは検討を進めている。ただし国内におけるインターネット経由のSTB映像配信サービスは、一部を除けばまだ試験サービス段階というのが現状だ。宗氏は「必ずしも(サービス開始時期が)早いことが得策ではない」とコメント。独自仕様ではユーザーへのメリットも少ないばかりか、提供コンテンツも少ないため、現状は標準となるサービスを見極めている状態だという。





「Bフレッツでなければ体験できない世界」の提供を目指して

Priston Tale
 エキサイトでは今後は動画だけでなく、オンラインゲームの独占展開も進めていく方針だ。すでに韓国のゲームメーカーと提携し、ネットワークRPG「Priston Tale (プリストンテール)」を国内で提供することを発表した。現在は韓国国内にあるサーバーを通じた無料サービスとして提供されているが、有料化を機にサーバーを9月頃をメドに日本国内へ移管、同社のCDNを活かし、安定性を高める。

 オンラインゲームについては、Priston Tale以外に5タイトル程度投入し、ゆくゆくは高額賞金のかかったゲーム大会などを開催、ゲームのプロのような存在も生み出していきたいという。なお、Priston Taleはエキサイトを通じ、他社ISPを通じた卸売り的展開も視野に入っているが、BB.excite会員には一足早く提供を始めるなどの優遇措置を盛り込み、会員獲得につなげたい意向だ。

 さらに動画配信サービスにおいても、この秋をメドにWindows Media 9 Series対応コンテンツを配信する予定。ただしWindows Media 9については「実感できる1番のメリットは、コンテンツの圧縮が効くようになったことで、ディスク容量を減らせることぐらい。5.1ch音声の再生はできるが、果たしてそれに対応した機器を持つユーザーがどれほど存在するかがわからない」(宗氏)と、本格対応には時間が必要だという考えも付け加えた。

 宗氏は今後の展開について、「新規会員を増やす上で、“まずコンテンツありき”という考え方はまだまだ(難しい)」とコメント。月額500円という低価格を武器に、Bフレッツという魅力でまず会員を集めたのち、「そこから定期的なサイト訪問を促すような、Bフレッツならではのコンテンツを、ライブやオンデマンドを問わず提供していきたい」と語った。

 一方、新規ユーザー獲得に関する具体的数値については、宗氏は明るい展望を抱いている。「NTTは2003年度内にBフレッツ100万回線を目指しているが、難しくないと思う。個人的には今年度中に会員10万人達成、BB.exciteがBフレッツのシェア10%を目指す」(宗氏)。

 ISPサービスに付随するコンテンツ面でも確かな自信があるようだ。「BB.exciteはISPとしては後発だが、会員のコンテンツ購入比率が高いと考えている。1度でもコンテンツを購入した会員は約3割。また、BB.exciteで提供しているIP電話サービス「BB.exciteフォン」では、通話料が月平均1,500円まで届いている」。

 エキサイトの戦略が果たしてどの程度市場を賑わすのか。今後も注目したい。


関連情報

URL
  エキサイト
  http://www.excite.co.jp/
  BB.excite
  http://bb.excite.co.jp/
  関連記事:エキサイト、インターネット接続とコンテンツ配信を行なう「BB.excite」
  http://bb.watch.impress.co.jp/news/2002/08/01/bbexcite.htm

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(森田秀一)
2003/08/20 11:10
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