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携帯電話・PHSと無線LANの融合が目指す先とは(後編)

 ニフティの試験サービス「@niftyモバイルパック」では、接続を維持したまま異なるネットワークへ自動で切り替わる技術「モバイルIP」をサポートした切り替えユーティリティを提供している。後編ではこのモバイルIPに注目しながら、ユーティリティにおける各社の方向性について考えてみたい。


モバイルアシスタント
 ニフティが先着100名のごく限られたユーザーへ、試験的に配布したのがワイヤレスネットワークマネージメントユーティリティ「モバイルアシスタント」だ。

 このツールは前回紹介した2つのツールとは全く性質が異なる。これまでの2つは、「異なるネットワークの切り替え」のみが目的だった。しかし、このモバイルアシスタントはさらに一歩進んで、「セッションを維持しつつシームレスな切り替えを提供すること」に主眼がおかれている。





現在のIPアドレス管理では、携帯IP電話は困難

 この部分に関しては多少つっこんで説明したい。現在のワイヤレスインターネットの技術では、無線LANやPHS、携帯電話など複数のアクセスラインを切り替えた場合、接続は途切れ、セッションは中断されてしまう。これはアクセスラインをまたぐ際に、IPアドレスを取り直しているためだ。

 例えばニフティのアクセスポイントへPHSで接続をしていて、そこから「HOTSPOT」のアクセスポイントに接続したとしよう。ネットワーク側からは、10秒前までPHSで通信をしていたパソコンと、アクセスラインを切り替えて無線LANで通信しているパソコンが同一のパソコンとして認識する術はない。前者は「ダイヤルアップで接続したユーザー」であり、後者は「HOTSPOTに接続したユーザー」という別のユーザーとして認識される。まったく同じパソコンからアクセスしているのにもかかわらず、アクセスラインが違うというだけで、IPアドレスも、セッションも何ひとつ共有できないのが現状だ。

 メールチェックやWebブラウズ程度での利用であれば、異なるネットワークへ移動してもユーザーが多少待つだけで済むのでさほど大きな問題ではないと思われる。しかし、将来的に無線LANでのストリーミング配信やIP電話といったサービスが提供される場合、移動時にセッションが切断されてしまうことは大きな問題ともなり得るだろう。

 この問題を解決するために、「移動可能なIPアドレス」を実現する「モバイルIP」という技術が研究されている。ニフティの「モバイルアシスタント」もモバイルIPの実験プロジェクト、とも言える位置づけにあるソフトウェアだ。





モバイルIPとはIPアドレスの転送システム

 モバイルIPの概念をごくごく簡単に説明しておこう。モバイルIPは電話に例えるなら、「留守中に自宅にかかってきた電話を、出先の携帯電話で着信する」ようなものだ。まず、移動する端末は自らの居場所を制御する「ホームネットワーク」に常に接続していなければならない。ホームネットワークは「お留守番役」とも言うべき役割を果たすもので、おそらく商用サービスでモバイルIPが展開された折りにはISPが請け負う部分だろう。

 ユーザーが使うパソコン、PDAなどの端末には「ホームアドレス」というIPアドレスが割り振られる。これは「転送アドレス」のようなもので、端末がPHS、無線LAN、社内LAN、どのようなアクセスラインを使用していても変わらない。モバイルIPでは、メールもWebもストリーミングも、端末が受け取るデータはすべて、このホームアドレスを宛先として送信される。

 一方、端末の実際の居場所を示すアドレスを「気付アドレス(Care-of Address)」と呼ぶ。これは、実際に使用しているアクセスラインが規定するため、一定のアドレスとはならない。

 モバイルIPでは、この気付アドレスとホームアドレスをマッチングさせることによって、アクセスラインが変わっても同じIPアドレスを維持できるようなシステムを構築しているのである。


モバイルIPのシステムイメージ




切り替えツールとしても十分利用できるレベル

安価優先、速度優先の2つのプロファイルから選択可能
 ツールに話を移そう。まず、このモバイルアシスタントは、アプリケーションというよりはミドルウェアといったほうがいいかもしれない。ソフトウェアをインストールすると、Windowsにネットワークアダプタが追加される。このアダプタがホームアドレスを管理すると考えればいいだろう。なお、本ツールではモバイルIPが「Mobile VNP」という用語で表現されている。

 モバイルアシスタントには、無線LAN、DDIポケットの回線を使用したニフティによるPHSデータ通信サービス「Mobile P」、NTTドコモのPHSデータ通信サービス「@FreeD」、通常の有線LANを意味する「LAN」の4つのインジゲータが用意されており、利用できるデバイスがカラー表示される。ユーザー側はあらかじめ、「接続基準」という設定項目で、「料金優先」または「速度優先」のどちらかを選択するだけで自動切り替え機能を利用できる。

 細かい設定項目はあるものの、実際にユーザーが設定を変えなくてはならない項目はほとんどない。切り替えのレスポンスの早さ、ネットワークドライバの安定度はともに一定水準を超えている。IPアドレスうんぬんは抜きにして、単純な切り替えツールとしても十分利用できるレベルにあった。

 なお、このツールに関しても、KDDIのツールと同様、PHS通信中でも常に無線LANデバイスを監視しているため、バッテリの持ちが若干落ちてしまうことに注意されたい。ネットワークデバイスとして機能する性質上、「使わない時はオフにする」という使い方も難しいのである程度の割り切りは必要だろう。

 肝心のIPを保持したままのインターネット接続だが、このあたりはまだまだ改善の余地がありそうだ。Windows Media Playerを利用したネットラジオ機能は問題なく利用できたが、ホームネットワークを中継している関係もあるのだろうか、impress.tvの番組は再生できなかった。ただ、このサービスはまだごくごく限られた範囲内で行なわれている実験段階のものであること、コンテンツ配信サーバー側も、モバイルIPでの利用を想定していないことを考えれば、この段階で使い勝手や完成度に関して評価するのは適切ではないように思うので、あくまでインプレッションということでご理解願いたい。


ホームネットワークへの接続は認証が必要 ホームネットワークへの接続はミドルウェアが行なう

「ローカルエリア接続 2」がホームアドレスを取り仕切るモバイルIPのミドルウェア。一方、「PPP adapter mopera#01」はその名の通り、@FreeDによるmopera接続のIPアドレス。こちらはアクセスラインに依存するIPアドレスなので気付アドレスだ 同じく「ローカルエリア接続 2」がモバイルIPのミドルウェア。一方、「ワイヤレス ネットワーク接続」は無線LAN機器だ。アクセスポイント経由のため、ローカルアドレスが振られているのがわかる

Pingを打ち続けながら、無線LANエリアから外れてみた。無線LANからのパケット送信が不可能になってからおよそ9秒後にPHSで接続。アクセスラインが変化した証拠はこの画面には残っていないが、発信元アドレスがホームアドレスの202.219.09x.xxxから変わっていないのが確認できる PHSから無線LANのケース。タイムラグが逆のケースより当然短くなっている




ユーティリティに対する各社のコンセプトとは

 前後編に渡って紹介してきた切替えユーティリティだが、サービスを提供している事業者の目的はどこにあるのだろうか。3つのユーティリティの中で唯一モバイルIPをサポートするニフティ 広報室の林丈博氏は、「モバイルIPを利用することにより、ストリーム中継やモバイルIP電話などのサービスを提供できるようになる。具体的なサービス展開の内容やスケジュールはまだこれからの話になるが、新たなサービスを展開する上での下地となる技術を提供できるようになったと考えている」と説明してくれた。

 この発言からは、モバイルアシスタントをただの切り替えツールとして提供するのではなく、モバイル環境でのISP事業とコンテンツ配信を複合したサービスを見据えた上で、モバイルIPに取り組んでいることを伺わせる。なお、ニフティは、年内に試験サービスを終了し、来年度にも正式サービスに移行する予定だという。


 これに対して、前編で紹介したKDDIのブロードバンド・コンシューマ事業本部 コンシューマ事業企画本部 プロダクト統括部 インターネットグループの原田潤氏は、無線LAN切替えユーティリティの提供について「屋内と宅内の使用環境をシームレスにつなぐためのツール」として位置づけている。

 KDDIではISPサービス「DION」を自ら運営するほか、DION会員向けに無線LAN機器のレンタルサービスも提供している。また、第3世代携帯電話によるデータ通信サービス「CDMA2000 1xEV-DO」のサービス提供も予定されているほか、グループ会社のDDIポケットによるデータ通信サービス「AirH"」の存在もあり、KDDIグループの中で様々なインターネット接続サービスが存在している状況だ。

 原田氏は、「AirH"のデータ圧縮サービスやDIONとのセット割り引きなど、1つ1つの連動サービスはすでに提供していた」と前置いた上で、今回のユーティリティを「KDDIグループの様々なサービスを1つにまとめ上げるソリューション提案として提供している」とコメント。現在もau携帯電話やDDIポケット、DIONとの連動サービスを模索しているところだという。一方でモバイルIPについては「検討は進めていると思うがが顕在化した対応事項ではない」との考えを示した。

 日本通信 マーケティングコミュニケーション部 赤澤隆氏は同社のMVNOサービスについて「PHSだけではなく、ユーザーのニーズに合わせて何でも取り込んでいくサービス」と説明。PHSによるデータ通信に加え、約2,000カ所以上の無線LANアクセスポイントとローミングすることで「現状では定額サービス最強の組み合わせ」との自信を示した。

 bアクセスWiFiでは、ローミング対応する公衆無線LANサービスのESS-IDやWEPといった設定があらかじめ登録されている。また、HOTSPOTなど有料の公衆無線LANサービスであっても、bモバイルの料金と相殺することで利用できる「ネットワーク等価交換方式」が利用できる。赤澤氏は無線LANを利用する際の課題として「料金」「使い勝手」を挙げ、bアクセスWiFiがこれらの課題を解決するための回答だと説明した。

 なお、日本通信でもモバイルIPについては「IP電話などの展開を図るのであれば重要だと考える」と検討しているものの、「移動しながら無線を使うことが現実なのかどうか」と懐疑的な念も強い。まずはユーザーが求めているサービスを提供することが先決であり、モバイルIPもユーザーニーズ次第で対応する方針のようだ。





 以上、前編と後編に分けてモバイルインターネット接続を管理するユーティリティを紹介してきたが、無線LANと携帯電話・PHSの融合は、もはやツール単体でとらえて評価できるものではなくなってきている。通信事業者、ISP、そしてこれからはソフトメーカーやポータルサイトも絡んだ、さまざまなアクセスラインをセットで提供するソリューションの競争にまで発展していくだろう。今後は通信回線や、コンテンツ、サービスといった単一商品を超えて、コーディネーターとしての力量も問われると思われる。ユーザーの1人として、使い勝手の良いシームレスなサービスの登場を期待したい。


関連情報

URL
  @nifty モバイルパック実験サービス
  http://www.nifty.com/mpack/

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(伊藤大地)
2003/10/16 17:24
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