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「スピード競争のさらに先を見据えた製品を」センティリアム社長に聞く

 6月28日、米Centillium CommunicationsはADSLモデムにVoIP機能を搭載したPalladia 400と、ここからADSLモデム機能を抜いたAtlanta 100を発表した(関連記事)。おりしも各ADSL回線事業者は、47Mbps/50Mbpsのサービス開始を表明したばかりという絶妙なタイミングであるが、Centilliumはこうしたスピード競争のさらに先を見ての製品投入である。このあたりについて、同社日本法人のセンティリアム・ジャパン代表取締役社長である高橋秀公氏(写真1)にお話を伺った。





Palladia 400の目指すところ

写真1
高橋氏は元は住友電工のシステムエレクトロニクス研究開発センター所長を務め、日本市場でのADSLサービスの立ち上げに尽力したメンバーの1人でもある
 Palladia 400は、基本的には従来発表していたPalladia 220の上位製品という形になる。写真2はPalladia 400の内部構造であるが、Palladia 220の構造(関連記事)と比較してみると、その違いが判りやすい。基本的な違いとしては、以下のような点が挙げられる。

・H/W Encryption Engineを搭載
・10/100BASE-T Ethernetを2ポート搭載
・Voice DSPとPCMを追加

 これらの機能追加について高橋社長は「要するに、これは世界で初めてDSLとVoiceのファンクションが1つのチップになったものです」と明快に説明する。

 写真3は通常のVoIP機能付きADSLモデムのサンプルだが、この基盤上の網の部分を1個のPalladia 400で集約することができる。当然ながらこれは大幅なコストダウンに繋がるわけだ。ただ、単にコストダウンだけで勝負できるとは高橋社長も考えてはいない。むしろMIPS32コアを利用してのFirewall機能の方が目玉になると考えているようだ。


写真2
Palladia 400の内部構造
写真3
VoIP機能付きADSLモデムのサンプル

 「例えばホームゲートウェイだと、今だったらADSLモデムの後ろにFirewallボックスを買って入れるという話になるでしょう。そうすると、Firewallボックスのメンテナンスは自分でしなければならない。これは結構大変な話です。ところが、サービスプロバイダーがFirewall機能を提供して、メンテナンスを全部やりますよ、というサービスを出したとする。そうすると客の方からしてみれば、ちょっと余分のお金を払うだけで、Firewallの状態を常にUp-to-Dateに保ってくれる。これは結構楽だと思うんですよ。サービスプロバイダーは少しでも多くの収入をあげるようなサービスを提供したいと思っているはずですから。」

 「また、サービスプロバイダーにしても、生の回線だけを提供して『何メガですよ』というのではなく、付加価値を付けることで新しいビジネスが生まれるわけです。やはり『なにがしかの予防になるよ』というのは大きいんじゃないかと思うわけです。あまり先のことは言えないんですけれど、スピード競争というのは、下りはもうそろそろあまり意味がないんじゃないかなって思うんですよ。」

 もっとも、機能を集約すれば売れるというものでもない。「実はこのあたりの回路、2002年に『Palladia 200で入れます』というアナウンスをしたんですが、どのカスタマーにも全然興味を持ってもらえなかった。そうなると、入れることでコストアップ要因になってしまい、しかも喜ばれない。なので一度は入れかけたんですが、結局入れずに出すことにしました。ただ、もうぼちぼち機も熟してきたので、入れたものをやってみよう、と。」

 したがって今回も、Palladia 400(のこうしたセキュリティ機能)が受け入れられるかどうかはある程度チャレンジということになる。同様に、VoIPに関してもある程度チャレンジの要素が存在する。


 一昨年から昨年にかけて“2004年はVoIPが本格的に飛躍する年”だと言われてきたが、蓋を開けてみると、Yahoo BB!はともかく、そのほかのプロバイダーでのVoIPはそれほど普及が進んでいない。その最たる理由は、プロバイダー間の相互接続がなかなか進まないことだろう。

 これに関して高橋社長は、「今年から来年にかけて、ADSLモデムの9割位はVoIPのファンクションを持ったものになっていくんじゃないかと思いますけどね」と楽観的である。相互接続が進むかどうかは、技術的というよりは多分に政治的問題であるわけだが、それはそれとして各社のVoIPの方式が必ずしも一致するとは限らないという技術的問題は存在する。

 実際、呼制御プロトコルとしてSIPを使う以外は、各社採用する方式が微妙に違ったりするのが現状だ。これに関しても「もちろん、われわれがやる分もありますが、もっぱら機器ベンダーさんが、要するにどのプロバイダー向けという形できめ細かい対応をやられてゆく形になるんじゃないかと思います」とのことだった。

 このVoIP機能搭載ADSLモデムへのリプレースが進む流れの中で、そのリプレースモデム向けチップセットのシェアを取っていきたいというのがCentilliumの目論見だ。もちろんこれは「賭け」であるわけだが、元々同社は日本にADSLのマーケットが皆無だったときに、ISDNとの干渉を防ぐAnnexCモードを搭載したチップセットを作成し、これがADSL普及の大きな原動力となったわけで、これも当時としては賭けであったことを考えると、こうした賭けを好む社風といえるのかもしれない。

 ちなみにADSLの方式としては、現在は各社ともAnnexQ、つまり同社がeXtreme DSL MAXと呼んでいる方式(ADSL++)で40~50Mbpsをカバーしているわけだが、最終的にはADSL2++の方に移行していくのではないかとの話だった。





Atlanta 100のターゲット

写真4
Atlanta 100の概要
 では同時に発売されたAtlanta 100は? というと、これはPalladia 400からDSLモデムの機能を抜いたものになる(写真4)。こちらがターゲットとするのは、まずは米国市場向けということだそうだ。というのは「アメリカはケーブルモデムのマーケットシェアがDSLの倍近くあるので」DSL一体型チップを出してもメジャーなマーケットを確保するのは難しいという事情による。

 なので、「米国を見るとDSLモデムがそれほど普及していない。であれば、ケーブルモデムと組み合わせるVoIPということでAtlantaを出す」という話だ。従って日本でいうブロードバンドルータのように、ケーブルモデムの後ろに接続して使うという形態になるわけだ。もちろん、これは北米市場専用というわけではなく、日本でも販路を広げてゆくわけではあるが、Palladia 400は言ってみればサービスプロバイダー向けの製品で、最終製品もリテールマーケット向けというよりはプロバイダー向けなのに対し、Atlanta 100はむしろリテールマーケット向けということになる。

 従って、当然ながら採用ベンダーもPalladia 400とは全く異なることになる。これに関しては「そうなると、もうルータをやられているベンダーさんに、どれだけ我々の特徴が訴えられるか。安いという価格的なアドバンテージはあると思いますが、それだけで乗り換えてもらえるかどうかはわからない。であればやはり、新しいセキュリティの話であるとか、VoIPであるとか、それを活かす形ですね。これを(各ベンダーさんが)自分のところで全く別のものでやろうというと大変な話になりますから、まずはアプリケーション系に採用していただいて、次にサービスプロバイダーさんとの連携があって、その結果マーケットが成長してゆけばいいな、という感じで。そこでグッと伸びたときには、そこでナンバーワンのシェアをとろうと(笑)」といったアプローチである。


 ただ市場にはすでに、セキュリティ機能を強化したネットワークプロセッサがかなりの数存在している。従って差別化を図るとなるとVoIPがメインということになる。そのVoIPの機能だが、Palladia 400/Atlanta 100に搭載されているDSPは、同社の上位製品であるEntropia IIに搭載されているSigma DSPをそのまま利用している。

 EntopiaIIは96~336回線、上位のEntropia IIIは改良型のSigmaPlus DSPを搭載し、504~1,008回線のVoIPを取り扱うことが可能となっているが、Palladia 400/Atlanta 100は最大16チャネルとなっている。

 この16チャネルという数字、Centilliumからみればローエンド向けであるが、ユーザーの立場からすれば通常の家庭にはあくまでオーバークオリティである。従ってターゲットは家庭向けというよりは、SOHOあるいは企業の地方支店/出張所ということになる。

 このあたりについては「我々が期待しているのは、セキュリティに対しての意識が高まってゆくことなんですね。特にVoiceは16チャネルもありますから、SOHOから小規模の企業まではカバーできるのではないか、と。特に営業所とかで使う場合、当然セキュリティが求められます。そうした用途で、16チャネル以下ということであればAtlanta 100でいけると思うんです。コストも安いですし。」

 「それより大きな32チャネルとか40チャネル位の規模のお客さんであれば、PBXを現状でどう使われているかという話が出てきます。例えば、レンタルで借りているならば、そのPBXをレンタルバックしてしまって、IPセントリックスのサービスを受けるという方法もありますし。それより大規模の用途ではEntropiaシリーズになるわけですが、これはもう交換機の中に入れることを想定した機種ですので。」

 「つまり、Palladia/Atlantaというのは、言ってみればEntropiaからVoiceのところだけを抜いてきたバリューモデルという感じで、ターゲットというのは企業向けルータなどになります」と高橋社長は語る。

 ちなみにVoice関連では、単に有線電話のみならずデジタルコードレスホン向けのCodecを搭載するほか、アメリカ向け電話に必須とされる3種類のCaller IDやMessage Waiting / Conference / Call Hold機能、あるいは日本向けにキャッチホン機能やLモードの機能を初めから搭載するなど、単に“VoIPができます”という以上の機能を盛り込んであり(これはPalladia 400も同じ)、積極的に日本のマーケットに取り組んでいることをうかがわせる。





最後に

 インタビューは1時間以上におよび、いろいろと楽しい話も出てきたのだが、今回は分量の関係もあって割愛せざるを得なかった。ADSLモデム用チップセットというのは完全にユーザーからは隠れた部分なので普段は気にも留めないところであるが、こうした部分に関してもいろいろと革新が続いていることを再確認させてくれる話であった。

 ところで、余談になるが、今回のPalladia 400は公称で下りが最大50Mbps、上りが3Mbpsということになっている。問題はこの上りで、今は規格が策定されていないためにまだ3Mbpsというアナウンスとなっているが、技術的には5Mbpsに対応できる「らしい」。あるいは日本のマーケットでは、こちらの方が製品リプレースの原動力になるかもしれない。


関連情報

URL
  Centillium Communications
  http://www.centillium.com/

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(槻ノ木 隆)
2004/07/27 11:03
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