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“体感1Mbps”はモバイルブロードバンドを実現できるか(前編)
~ウィルコムのPHS通信サービス「AIR-EDGE[PRO]」レビュー~

 PHSの定額インターネット接続サービス「AIR-EDGE」を提供しているウィルコムが、とうとう最大256kbpsのサービスを開始した。その名も「AIR-EDGE[PRO]」。ウィルコムでは、以前から32kbpsの通信チャネルを4つ束ねることで最大128kbpsのサービスを実現していたが、今回は通信チャネルを8つまで増やし、さらなる高速化を実現したのである。また、画像の圧縮や通信プロトコルの最適化を行うサービス「メガプラス」を組み合わせることで、メガクラス、つまりブロードバンド並みの通信速度を体感できると謳っている。

 新たなステージに上がろうという心意気を感じる「AIR-EDGE[PRO]と「メガプラス」という2つのサービス。PCモバイラーである筆者としては居ても立ってもいられず、実際に「AIR-EDGE[PRO]」を使ってみることにした。

 筆者がこれまでに利用していたモバイル用回線というと、同じくウィルコムの32kbpsのサービス「つなぎ放題」だった。今回、256kbpsのAIR-EDGE[PRO]を使用するにあたり、契約する料金プランやプロバイダーの見直しという点から、AIR-EDGE[PRO]全体の試用レポートをお届けしたい。


「AIR-EDGE PRO」対応のデータ通信カード「AX510N」。はたしてメガクラスを体感できるか?





料金プランは2種類。準定額だが低価格な「ネット25[PRO]」もオススメ

 まずはAIR-EDGE[PRO]の契約から始めることになるのだが、ここで迷ってしまうのが料金プランだろう。AIR-EDGE[PRO]では、「つなぎ放題[PRO]」と「ネット25[PRO]」という、2つの料金プランが用意されている。「つなぎ放題[PRO]」は、文字通り月額基本料だけで利用できる完全定額制のプラン。「ネット25[PRO]」は、1カ月に25時間までは定額で、それ以上は1分10.5円が課金される準低額制だ。

 なお、20万パケットまで月額6,510円で利用できる「パケコミネット[PRO]」というプランも用意されているが、こちらは主にサイトのデータ容量が比較的小さいPDA向けのプラン。また、AIR-EDGE[PRO]に対応した端末も、今のところPCカード型の「AX510N」のみのため、ウィルコムでもつなぎ放題[PRO]とネット25[PRO]を主力サービスとして展開しているという。

 つなぎ放題[PRO]の月額基本料は12,915円。時間を気にせず使えるのは魅力だが、「安い!」とは言えない価格なため、契約するには少々勇気が必要かもしれない。一方、ネット25[PRO]であれば、月額7,245円で256kbpsの回線が利用できる。

 実は筆者、「AIR-EDGEならつなぎ放題が基本でしょう?」というイメージにとらわれ、月額6,090円で利用できる32kbpsの定額プランを3年近く利用してきた。途中、128kbpsのサービスも開始されたが、月額料金が一気に3,500円もアップしてしまうということで、フトコロ具合も考えた結果、泣く泣く32kbpsで我慢していたのだ。

 そして今回のつなぎ放題[PRO]ではさらに月額料金が上昇し、「これからも32kbpsを使い続けていくのか……」と半ば諦めていた時、あるAIR-EDGEユーザーから「つなぎ放題プランを契約しているようだが、月に25時間以上利用しているのかね?」という言葉を投げかけられた。確かに、外出時にしか使っていない筆者の場合、25時間以内に収まっている。とすると、ネット25[PRO]プランでも十分ではないか……!?

プラン名 通信速度 通信方式 月額料金 年間契約
つなぎ放題[1x] 最大32kbps パケット 6,090円 5,176円
つなぎ放題[4x] 最大128kbps パケット 9,765円 8,851円
つなぎ放題[PRO] 最大256kbps パケット 12,915円 12,001円
ネット25 最大128kbps パケット 5,670円 4,819円
最大64kbps フレックスチェンジ
ネット25[PRO] 最大256kbps パケット 7,245円 6,394円
※ネット25はフレックスチェンジ、パケットの2方式が利用可能
AIR-EDGEの料金プラン


 月25時間というと、平日だけであれば1日あたり1時間以上は使える。さらに、通信速度も上昇するということは、接続している時間も短縮されるはずだ。AIR-EDGEというと、ついつい「つなぎ放題」に注目してしまうが、自分の利用環境を考えてリーズナブルなネット25[PRO]を選択することも視野に入れておくとよいだろう。

 また、1年間利用することを条件に月額基本使用料が15%割引きされる「年間契約割引」を使えばさらに安く利用できる。1年以内に解約すると4,200円の契約解除手数料を払わなければいけないのだが(1年超過以降は2,100円)、月に900円程度安くなるため、新規加入時に5カ月以上利用するつもりであれば、迷わず使っておきたい割引サービスである。





プロバイダーやA&B割を駆使してコスト削減!!

 次に決めておきたいのがAIR-EDGEで利用するプロバイダー。インターネット接続サービスに加入しているのであれば、まずは自分のプロバイダーがAIR-EDGEに対応しているかを確認しよう。加入しているプロバイダーによっては、追加料金の必要なくAIR-EDGEを利用することも可能だ。ただし、一部のプロバイダーではAIR-EDGE[PRO]やメガプラスに対応していない場合もあるので、その点には気をつけていただきたい。

 自分のプロバイダーが対応していない、もしくはすぐに使いたい! というのであれば、契約や登録が不要のウィルコムのサービス「PRIN」を使うと良いだろう。接続料金は1分あたり5.25円の従量制だが、月に1,575円以上は請求されないシステムだ。また、IIJmioのAIR-EDGE対応プランは月額315円と、比較的安価に利用できる(IIJmioは2月下旬にAIR-EDGE[PRO]に対応予定)。

 AIR-EDGE対応のプロバイダーでADSLや光回線などのブロードバンドを契約している場合、AIR-EDGEの月額基本料が15%割引される「A&B割」もオススメ。例えば、「ネット25[PRO]」であれば7,245円の月額利用料が6,394円、年間契約割引を合わせて使えば5,544円まで値引きされ、大変お得だ。

 A&B割は、現時点でDIONやOCN、BIGLOBEなど160社のプロバイダーが対応しているので、A&B割引対応プロバイダーリストをしっかりと確認しておこう。自分が使っているプロバイダーが対応していない場合、AIR-EDGEのためにプロバイダーを変更してしまうのも、アリといえばアリだ。

プラン名 月額料金 年間契約 年契
+A&B割
長期割引
割引率 --- 15%オフ 30%オフ
(15%+15%)
1年超~2年 2年超~3年 3年超
5%オフ 7%オフ 10%オフ
つなぎ放題[1x] 6,090円 5,176円 4,263円 3,958円 3,836円 3,654円
つなぎ放題[4x] 9,765円 8,851円 7,938円 7,633円 7,511円 7,329円
つなぎ放題[PRO] 12,915円 12,001円 11,088円 ---
ネット25 5,670円 4,819円 3,969円 3,685円 3,572円 3,402円
ネット25[PRO] 7,245円 6,394円 5,544円 ---
※長期割引は年間契約+A&B割と併用時の金額
※AIR-EDGE[PRO]コースは長期割引の対象外(利用期間はカウント)
A&B割、長期割引を含めたAIR-EDGE料金比較

□AIR-EDGE 対応プロバイダー一覧
http://www.ddipocket.co.jp/p_s/service/provider/
□A&B割対応プロバイダー一覧
http://www.ddipocket.co.jp/p_s/news/abwari/isp_list.html





USBメモリで簡単セットアップ!

2つのアンテナは360度自由に回転させることが可能。装着時には3cmほど出っ張る
 契約が完了したら、早速購入したデータ通信カードとパソコンのセットアップだ。パッケージの中には、可愛らしい2つのアンテナが搭載されたデータ通信カード「AX510N」とセットアップCD-ROMに加え、64MBのUSBメモリが収められていた。

 USBメモリにはセットアッププログラムが入っており、PCのUSBポートに挿すだけで簡単にセットアップできる。CD-ROMドライブが搭載されていないパソコンを使っている筆者にとっては非常に嬉しい配慮だ。また、セットアップが終わった後は33MBのリムーバブルメディアとして使うことも可能。微妙な容量ではあるが、ちょっぴりお得である。


USBメモリはUSB 2.0に対応。もちろんUSB 1.1でも利用可能だ。セットアッププログラム部は17MBの仮想CD-ROMドライブに、残りの33MBはリムーバブルディスクとして認識される


 早くメガクラスのパワーを体験したい! ということで「AX510N」を即パソコンに差し込みたくなるところだが、ここは一旦落ち着いて、まずはUSBメモリを差し込む。するとセットアッププログラムである「EasySetupTool」が自動的に立ち上がった。ハードウェアやネットワーク、プロバイダーの設定は、「EasySetupTool」のウィザードに従って操作するだけで済む。実にスマートだ。

 最後に、冒頭でも触れた最大500%まで体感速度が上がるという「メガプラス」をインストール。メガプラスは、リアルタイムにデータを圧縮することで転送量を減らし、体感速度を上げるという仕組みだ。Webサイトで使われるHTMLや画像に加えてメールやFTPでもデータを圧縮し、さらには通信プロトコルの最適化も行なわれるため、安定した通信環境を実現するという。

 「メガプラス」は基本的に有料なのだが、AIR-EDGE[PRO]を契約していれば無料で使うことができるため、迷うことなくインストール。以上でセットアップは完了だ。


EasySetupToolの起動画面。使用するデータ通信カードを選択し、セットアップを開始する プルダウンメニューなどで項目を選択してセットアップを進めていく。面倒な設定作業は不要だ

MTUやRWINなどの細かい設定もサポート。AIR-EDGEをメインに使うのであれば「AIR-EDGE推奨値」を選んでおけばよい




AIR-EDGE[PRO]の真価を発揮するには基地局の数がポイントに

 準備が整ったところで、早速AIR-EDGE[PRO]の世界を体験してみることにした。利用した場所は、郊外にたたずむマンション4階の自室。純粋な通信速度を体感するということで、メガプラスの機能をOFFにしてWebサイトの表示を行なった。レスポンスが若干遅いという挙動が見られたものの、一度データ転送が始まれば引っかかりもなくスムーズに文章や画像が表示される。筆者が以前利用していた32kbpsの時とは格段の差だ。

 数値にするとどのくらいの速度が出ているのか気になり、OSOの「SPEEDTEST」で通信速度を測定してみたところ、なんと! 平均で50kbps程度しか出ていなかったのである……。測定方法をFTPでの転送に変更して再トライしてみたが結果は変わらなかった。256kbpsパワーに期待していたのだが、一体なぜ!?

 そこで、フリーソフトの「AH-G10 Monitor」を使い、「AX510N」が補足している基地局の数と電波の強さを測定してみた。その結果、補足していた基地局の数は4個程度。電波の強さは1つの基地局が5段階の内「5」で、他は「2~1」となっていた。どうやら補足できる基地局の数が少ないことと、電波の弱さにより、通信チャネルを8つ利用する256kbpsのメリットが活かされていないようだ。


「AH-G10 Monitor」を使えば、利用することができる基地局の数とその状況をグラフィカルに確認できる。かなり寂しい状況であることも一目瞭然


 せっかくの256kbpsを体験できないのは惜しい! ということで、基地局が密集している都内の駅前へ繰り出し実験をすることにした。まずは先ほど使用した「AH-G10 Monitor」で基地局と電波の具合を調べてみると、なんと13もの基地局を補足できた。電波の強さもかなり良好だ。これは期待できる!

 早速、「SPEEDTEST」で通信速度を調べてみたところ、最大で152kbpsという数値を叩き出した。256kbpsには及ばないものの、実効値としては申し分ない。結局のところ、利用するロケーションにより速度は大きく変わるということになる。


自宅とはうって変わって賑やかな画面に! FTPによるテストでは、170kbps程度のスループットを記録したこともあった

測定場所 自宅 新宿
測定方法 サイト測定
(160KB)
FTP測定
(500KB)
サイト測定
(160KB)
FTP
(500KB)
1回目 47.5 kbps 48.7 kbps 152 kbps 77.6 kbps
2回目 52.8 kbps 56.2 kbps 78.1 kbps 168.1 kbps
3回目 43.8 kbps 40.4 kbps 77.2 kbps 81.5 kbps
4回目 61.6 kbps 55.1 kbps 111 kbps 126.7 kbps
5回目 49.9 kbps 53.5 kbps 93.2 kbps 70.7 kbps
平均 51.12 kbps 50.78 kbps 102.3 kbps 104.92 kbps
※サイト測定にはOSO SPEED TESTを使用
※メガプラスはオフの状態で測定
自宅と新宿でのAIR-EDGE[PRO]測定結果比較


 都内へ移動する際に電車の中でも利用してみたのだが、高速移動中にもかかわらず安定してデータ通信が行なえたことに驚いた。以前利用していた32kbpsでは、Webサイトの画像が最後まで表示されなかったり、データの転送が途切れたまま沈黙してしまうということがあった。筆者自身も、表示待ちの間に睡魔に襲われ沈黙してしまうほどだ。

 しかし、AIR-EDGE[PRO]の場合は、常に安定した通信が行なわれ、画像が多く使用されているWebサイトでも最後までストレスなく表示することができた。「AX510N」のツインアンテナにより電波を拾いやすくなったのか、ハンドオーバーの性能が上がったのかは定かではないが、移動中によく利用する筆者にとっては思わぬ収穫だ。





メガプラスで“1Mbps超”を体感できるか?

 次にAIR-EDGE[PRO]を“体感1Mbps超”のメガクラスへステップアップさせるべく、「メガプラス」をONにしてみた。メガプラスでは通信そのものを高速化できるほか、Webサイトで表示される画像を圧縮することでさらなる高速化が可能、という2段階の仕組みだ。画像の圧縮はJPEGとGIF形式の画像のみで、「小」「中」「大」「最大」の4段階から選択できる。ただし、画像の圧縮率を上げたり、色数を減らすなどの不可逆圧縮が行なわれるため、表示される画像は劣化することになる。


タスクバーに表示されるメガプラスのアイコンからは、画像圧縮率の設定、画像圧縮とメガプラスのON/OFF、利用するプロバイダーの設定ができる GIF画像を最大の圧縮率で表示した。色数が2色まで落とされるため、パッと見ではどんな画像かわからない

 圧縮率を「最大」に設定した場合、ファイルサイズが1/10程度まで削減されるため、表示スピードはもっとも速くなるが、JPEG画像では著しいブロックノイズが発生し、GIF画像では色数が極端に少なくなってしまう。辛うじてどのような画像なのか程度はわかるものの、画像の中の文字を認識するのは困難なので、筆者的には高い圧縮率とギリギリの認識性を備えた「大」をオススメしたいところだ。

 また、劣化のない画像を表示したい場合は、Ctrl+F5(再読込)キーを押すだけで、圧縮されていないオリジナルの画像を読み込める。画像以外のファイルに関しては、ZIPやLZHなどと同じ可逆圧縮が行われている。そのため、既に圧縮されているファイルについてはあまり効果を体感できなかった。

 以下の画像は、各圧縮率で表示される実際の画像をまとめたもの。JPEG画像の場合は、画像の構成によって圧縮効率も劣化の具合もまったく変わってくるようだ。


オリジナル(24.1KB) 小(18.0KB) 中(13.6KB)

大(6.63KB) 最大(1.44KB)
メガプラスのGIF画像圧縮比較


オリジナル(219KB) 小(99.0KB) 中(67.6KB)

大(29.1KB) 最大(19.2KB)
メガプラスのJPEG画像圧縮比較その1(リンク先は無加工)


オリジナル(113KB) 小(113KB) 中(103KB)

大(89.4KB) 最大(82.2KB)
メガプラスのJPEG画像圧縮比較その2(リンク先は無加工)


 「メガプラス」によってやり取りしているデータのサイズが減るため、体感速度が速くなるのは確かだが、たまに大幅な遅延が発生することがあった。メガプラスはプロキシサーバーを経由してデータの圧縮を行なっているため、処理時間による若干のラグが発生する。読み込むファイル数が多かったり、プロキシサーバー自体が混雑している時は、さらにタイムラグが大きくなり、表示時間が延びてしまうというわけだ。

 そのため、「なんか遅いな?」と感じたときは、タスクバーからメガプラスをOFFにして臨機応変に対応することも大切。正直なところ、十分な速度が出ている状態であれば、メガプラスを使わなくても256kbpsのパワーだけで押し切ることもできると感じた。逆に、速度が出ない状態ではメガプラスの効果をより一層体感することができるだろう。





速度の上昇だけでなく安定性にも注目したい!

 「メガクラスを体感できましたか?」と聞かれると、胸を張ってハイ! と答えられる結果とはならなかったが、いつでもどこでも快適にインターネットへアクセスできるようになったのは確かだ。速度の上昇とは関係はないものの、高速移動中にストレスなく利用できたことは思いもよらない発見であり、購入する際の1つのポイントになるかもしれない。

 メガプラスに関しては、筆者が体験した限りではあるが、閲覧するWebサイトの構成やファイル形式などによって効果が大きく変化するため、確実に体感速度を向上させる! とまでは言えないかもしれない。ただし、経験を重ねて効果的なパターンを理解してしまえば、サポートツールとして強い味方になることは間違いない。

 気になる利用料金に関しても、ネット25[PRO]のプランを選択したり、プロバイダーを吟味することによってずいぶん抑えられる。自分がどのような環境で利用するのかよーく考えて最良の選択ができれば、価格に見合った満足のいくモバイル回線を手に入れることができるだろう。


関連情報

URL
  ウィルコム
  http://www.willcom-inc.com/
  AIR-EDGE
  http://www.willcom-inc.com/p_s/service/air_edge/index.html
  関連記事:DDIポケット、AIR-EDGE [PRO]向け定額プラン発表[ケータイWatch]
  http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/22198.html
  関連記事:NECインフロンティア、AIR-EDGE[PRO]対応のカード端末[ケータイWatch]
  http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/22200.html


(西野滋仁)
2005/02/23 10:55
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