通勤途中や帰宅途中、電車を待つ間の駅構内などでgooの広告を見かけたことはないだろうか。屋外イベントや駅構内の広告展開など、Q&Aコミュニティ「教えて!goo」を中心に大々的なプロモーション展開を進めるNTTグループの「goo」に、検索に対する取り組みと今後の戦略を伺った。
■ “国産エンジン”の検索サービスにこだわるgoo
1997年に日本最大規模のロボット型全文検索エンジン「goo」を立ち上げたNTTレゾナント(※当時はNTTアドがサービスを運営)だが、NTTレゾナント ポータル事業本部 gooブランドマネージャーの鈴木基久氏は「(Yahoo! Japanの存在やGoogleなどの登場により)残念ながら現在のgooは、サービスを始めたころのポジションにはいないだろう」と語る。
一方で「当時はインフォシークやフレッシュアイなど、日本のエンジニアが検索エンジンを作っていたが、現在では我々しか残っていない」という状況を指摘。「検索エンジンはこれからの情報社会のインフラとなるべき存在。日本発のメジャーな検索エンジンがないままに世界が高度情報社会を迎えたら、ネットの世界において、日本は事実上世界地図から消え去ることになるだろう。だからこそ、検索技術の灯を日本からなくすわけにはいかない」と、あくまで日本人が手がける検索サービスにこだわりを見せる。
そうした“国産”にこだわるgooが、2003年にGoogleと提携したことは、一見すると矛盾しているようにも見えるが、鈴木氏は「検索エンジンは、世界中のWWWをデータベース化している“バックエンド”の部分と、そのデータベースからユーザーが情報を引き出すのをサポートする“フロントエンド”の部分に分かれる」と説明。Googleとの提携は、Googleが世界規模で構築している巨大なデータベースの中から、日本語を使うユーザーが望みどおりのデータを引き出すための“フロント”部分の機能改良にリソースを集中させるための戦略なのだという。「“Googleが使いやすい”というユーザーには、ぜひgooを使って欲しい。なぜなら、gooはGoogleのチューニングバージョン的な存在なのだから」。
実際、Googleとの提携はgooにとって良い効果をもたらした。鈴木氏はネットレイティングスの調査を引用し、「Googleとの提携による新サービスをリリースした後、検索サービスの中でgooだけが利用者数が20%ほど向上し、他のサービスは逆に利用者数が下がっていた」と説明。「サービスのクオリティを理解できるユーザーにはgooの良さがわかっていただけたのではないか」との自信を示した。
■ 検索サービスを行動支援メディアに
サービスの質には自信を持つ一方で、課題として考えるのはgooの普及度。「日本人はどうしても同一性を好むというか、“みんなが使っているサービスが安心”という空気がある」。日本ではYahoo! JAPANが検索サービスの大きなシェアを占める現状で、gooの認知度や利用度を上げるためには「Yahoo! JAPANとは違った魅力が必要になる」と考え、2004年は「検索最強goo」とのキャッチコピーのもと、「日本語で検索するユーザーにとって最も優れた検索エンジン」を積極的にアピールした。
そして2005年の新たな方針として打ち出したのが、gooが「ネットユーザーにとっての有能な秘書、パートナー」になること。「あらゆるコンテンツを1カ所で提供するメガサイトではなく、ユーザーが、インターネット上に散在している知識や商品を手元に集めるのを最大の力で手伝い、そこからユーザーが起こす何らかの行動を支援する“行動支援メディア”でありたい」。こうしたコンセプトを踏まえた展開の中で、gooが現在最も注力しているのが検索サービスの強化であり、また、ユーザー間でお互いに質問・回答を行なうQ&Aコミュニティ「教えて!goo」だという。
教えて!gooの戦略的意義は「暗黙知が形式知に変わる」こと。人々が生活の中で積み上げてきた知恵や経験がHTML化することで、それが検索の対象として成立するのだという。「ブログサービスを頑張っているのも同じ理由から。知識や経験を検索対象とすれば、より精度や満足度の高い検索サービスを実現できる」。
■ 「教えて!goo」で生活の知恵や経験を検索の対象に
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gooの検索結果に「教えて!goo」の質問を表示
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教えて!gooを推進する理由は、日本語固有の問題にもあるという。「今の検索サービスは、自分が知りたいことについて“どんな言葉で質問するか”が最も難しい。複数語を使って検索する場合にも、元々英語圏向けである検索サービスは、外国の人であればほぼ自然文に近い形で、スペースで区切りながらキーワードを入力していけばいい」。
それに対して日本語は「あえて言葉をスペースで区切り、さらにはそれ以上の検索テクニックを更に学ばなければいけないといったことを、ユーザーの立場にもかかわらず押しつけられている状態」なのだと鈴木氏は指摘する。
鈴木氏は「検索サービスで、ひらがなやカタカナ、助詞といった日本語独特の理由で検索を失敗する可能性が12%もある」というデータを挙げ、「12%、つまり8回に1回の確率で事故を起こす車は商品になるだろうか。インターネットの初心者にも検索は簡単に使えるべき。秘書ロボットに音声で検索指示を出せる、そんな未来が実現する時のためにも、検索における日本語独自の課題は誰かが克服しなければいけない」と指摘した。
こうした日本語ならではの検索への取り組みとしては、gooラボでも「日本語自然文検索」といった技術の実験を行なっているが、鈴木氏は「教えて!gooもこうした日本語ならではの検索に対する答えになる」と考える。「教えて!gooの質問文は現時点で110万件を突破しており、質問に回答が寄せられる確率が99%以上と非常に高い。これだけの量のQ&Aデータベースは、検索に対する優れた答えであり、そしてQ(質問)自体が検索時の良きアシストにもなるだろう」。
gooでは2月21日に、gooの検索結果の中に教えて!gooを表示させるサービスを開始した。「検索時にうまく言葉を選べなかったユーザーの知りたかったことも、教えて!gooのいくつかのQ(質問)として表示される可能性がある。gooがユーザーの考えを読んで話しかけてくるみたいな感じというか、サーチエンジンというよりもディスプレイの向こうに気もちが通じ合う友達がいるような“quasi(擬似)AI型サーチエンジン”として利用していただけるのではないか」。
■ 「goo」の大胆なキャンペーン
教えて!gooからは、寄せられた回答数が100件を超えたという質問を書籍化した「今週、妻が浮気します」が生まれた。鈴木氏は「この書籍は、gooが“行動支援メディア”であることをアピールするためのファーストステップ」と位置付ける。そして、次のステップとしてgooが仕掛けたのが、繁華街などのインターネット以外の場所で質問を出す“「教えて!goo」のリアル化”イベント「今週の教えて!goo チャレンジ」、そして駅構内で大々的に展開する教えて!gooのポスター広告だ。
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東急東横線渋谷駅の広告の様子
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丸の内線新宿駅から新宿三丁目駅へ向かう地下通路の模様
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教えて!gooチャレンジ第1回開催地の東京・銀座4丁目交差点。三越銀座店の大型ビジョンに問題が映し出された
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「教えて!goo」の駅貼りポスターの質問を集めた特設サイト
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鈴木氏は「教えて!gooにとって、利用意欲を促進する“シズル感”の役割を果たすのはやはり質問そのものだろう」と説明。「今週の教えて!goo チャレンジも駅貼りポスター広告も、質問そのものをリアルの場にストリーミングしているイメージ。インターネット以外の場で教えて!gooの一部を体験してもらうことで、教えて!gooと、それを築いてきた多くのユーザーの善意や優しさを理解してもらえる。“Webで調べる”から“Webで教わる”という感覚へのパラダイムシフトを促したい」。
すでに「今週の教えて!goo チャレンジ」は、東京と大阪の繁華街の屋外ビジョンから質問する第1回、遊園地に集まったレースクイーンが質問する第2回を開催。2月26日の第3回ではgooのWbサイト上にて質問し、全国のネットユーザーからの参加を募った。このイベント開催は3月27日までに計7回を実施する予定。
また、東京・大阪の駅構内のポスター広告も多いところでは8割、鉄道各社全体でも約5割の規模で、これまでに教えて!gooに寄せられた質問を掲示している。「鉄道各社からは“史上最大の広告規模”と言われている」。駅構内で見かけた質問の答えを知りたいというユーザーの声も反映し、駅貼りポスターギャラリーの特設サイトも開設した。
鈴木氏は「教えて!gooを充実させることで、行動支援メディアとしてのgooの価値も高まる」と述べ、「教えて!gooは今のところ1サービスの名称だが、今後はgooそのものが『教えて!』と頼られる存在になりたい」との目標を語った。
■ URL
ニュースリリース(検索機能強化と8周年キャンペーン)
http://help.goo.ne.jp/info/n_release/n_050221.html
今週の教えて!gooチャレンジ
http://blog.goo.ne.jp/oshiete100/
駅貼りポスターギャラリー
http://special.goo.ne.jp/campaign/poster/
関連記事:goo、Googleのエンジンを利用した“日本人向け”新検索サービスを開始[INTERNET Watch]
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2003/12/01/1313.html
関連記事:賞金クイズを“ゲリラ”出題する「今週の教えて!goo チャレンジ」[INTERNET Watch]
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/02/14/6449.html
(甲斐祐樹)
2005/02/28 11:04
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