Broadband Watch logo
最新ニュース
インディーズお笑いの世界をより気軽なものに-brst.TV代表・宮谷大氏

brst.TV代表の宮谷大氏
 ブロードバンドの普及によってにわかに注目を集めているのが、映像配信、とくにストリーミングの分野だ。通信キャリアや大手ポータルサイトなど、多くの企業が参入し、有料・無料を問わず、様々なサイトを続々とオープンさせている。

 ただそれらは、あくまでも企業がベースとなって運営しているもので、テキスト主体のコンテンツと比較して、より広い帯域やストレージを占有する映像ストリーミングは、個人レベルでは難しいのが現状である。

 そんな中、個人運営ながら月に3万件近い映像配信数を誇るのは、宮谷大氏が代表を務めるお笑い動画サイト「brst.TV」だ。慢性的な資金難に苦しみながらも、決死の覚悟で運営を続けている同サイトの成り立ちやユニークなエピソード、今後の目標について直接、話をうかがった。


「個人レベルの動画サイトで、どこまでできるか?」

brst.TV
 brst.TVは、2001年12月にオープン。お笑い芸人のネタをオンデマンド形式で配信している。芸人といっても、多くはプロでなく、アマチュアとして活動する個人やグループだが、非常に面白いコントを実践していることも多い。彼らのネタを見たいと思った時、今までは劇場へ実際に足を運ぶしか手段がなかったが、これをインターネット上で気軽に楽しめるのが最大の特徴だ。

 宮谷氏は大学在学中、IT系の専門学校「デジタルハリウッド」に在籍していた。その際にストリーミングソフトの「cleaner」に触れ、それを使った「何かおもしろいこと」を探していたのが、brst.TV開設のそもそものきっかけだったという。

 「たとえばサッカーだと、ストリーミング映像ではボールがどこにあるかもわからないのが当時の状況。そんな中で考えついたのがお笑いだった。最悪、人が単なる記号としか見えなくても、音声などで十分おもしろさが伝わるだろうと思った。」

 宮谷氏自身、当時はお笑いのコアなファンではなかったそうだが、下調べをするうちに触れたのが、とある大学で活動する、お笑いサークルのネタ披露会だった。そこで宮谷氏は「いつも隣にいるような同い年の学生が、5分なり10分なりという『逃げ場のない時間』の中で、必死に笑いを取ろうとしている。これにまず魅せられた。」

 「さらに調べるうちに知ったのが、『インディーズお笑い』の世界。既婚・子持ちの芸人が、アルバイトをしながらネタをやっていたり…。こういった人たちの活動が365日、東京だけでも2、3カ所で行なわれている。伝えなきゃと思った」 また当時は雑誌などでもしきりに個人インターネット放送局の可能性が喧伝されており、それに後押しされた部分も多分にあったという。

 こうして始まったbrst.TVは、毎週土曜日に新しいコンテンツ3つを掲載する形で運営。大学在学中は趣味のレベルで実施していた。しかしそれらは次第に規模を広げてゆき、設備の借用に当たって個人名義で法人契約をする必要も発生。「逃げ出したいと思うときもあった」そうだが、2003年3月の段階では約200種類のネタを公開するまでに至った。なおネタの収録などは、宮谷氏を始めとした数人のスタッフが自ら会場に赴き、行なっている。

 Webサイトでのネタ公開に当たっては事前に各芸人と話し合いを行ない、二次利用を含めた映像の利用許可を得ることにした。また収益が発生した場合の分配方法についても取り決めているとのことだ。

 ここまで本格化した以上、一般的にはベンチャー企業として、会社の設立なども考えられるが、宮谷氏自身に、その意向はまったくと言っていいほどなかった。「ベンチャーやろうぜ、的なノリは嫌いだった」と語るが、「個人でやっている方が、ユーザーに親近感を持ってもらえる」との判断や、ビジネスとしてのモデルが未成熟だったことも本音としてあるようだ。


悪い大人にだまされそうになったことも…

火事が起きたのはまさにbrst.TV運営の真っ最中。資金繰りの苦しさに拍車をかけたという
 そしてこの宮谷氏。個人ながら大規模のサイトを開設しているだけあってか、ユニークなエピソードには事欠かない。まずサイト内のプロフィール紹介からしてユニークだ。自己紹介動画として掲載されているのは、なんと自宅の居間が火事で燃えた後の映像。
「半端な自己紹介では芸人さんの面白さに勝てない。素の、裸の自分をみてもうらうのが1番だと考えていたときに、ちょうど火事が起こったので載せてみた。これがきっかけで初めて会う人に良い印象を与えることもありますよ。」

 またサイト運営の行動力を買われてか、就職を勧められることも多いという。ただし「自分としては、brst.TVを就職のダシにしたくない」と運営継続を頑なに貫いている。だが中にはITバブルを利用した出資詐欺の片棒を担がされそうになったこともあったそうだ。

 意外なことに、brst.TVの運営を始めた当初は、宮谷氏はインターネット技術にそれほど精通していた訳ではないのだという。宮谷氏は「HTMLの記述もできないし、メールに数十MB単位のファイルを添付してぶち切れられたこともありました(笑)」と当時を振り返った。


自分が不良債権化?!

鉄拳も「管理人が貧乏らしいからいっぱい見てあげてください」とサイン本をプレゼントして応援。応募方法はサイトの動画で告知されている
 そしてインタビューの節々から伺えるのは、逼迫するbrst.TVの財政状態だ。大学在学中はサイト規模も小さく、楽しんでコンテンツの作成もできたそうだが、配信数が増えるにつれ、サーバー費用などが個人では到底賄えないレベルになっていった。

「気がつくと周りはみんな就職してるけど自分には何もない。卒業祝いや運転免許の取得費用などすべてつぎ込んでしまった。ノートパソコンも売り払いました。」

 卒業後はコーヒーショップのアルバイトでサーバー費用を捻出したり、クレジットカードの分割払いで撮影機材を購入するなど、運営はまさしく個人レベル。加えて「最近はアルバイトをしようにも、突発的な収録などに対応できないから難しい」という。

 brst.TVの運営にあたって毎月発生する費用は数十万円単位に上る。ここ2年間、服も買えないという状況も、宮谷氏は「自身が不良債権と化している」と力強く笑い飛ばしたのが印象的だ。


コンテンツの外部提供に活路

お笑い劇場
 苦しくなる運営状態を解消しようとして、まずbrst.TVが検討したのは、コンテンツの販売だった。もともと、お笑いは若い女性層を中心に人気があり、確かな需要があるし、集客効果が期待できるとの判断があったからだ。宮谷氏も企画書を持参して営業を行なったという。

 だが、「現実にはコンテンツを購入しようという概念が、相手方にはほとんどなかった」のが実情だった。またbrst.TV自体を一般ユーザーからの課金で運営させていくほどの、サイト的な充実度もないと考えていた。なにより「インディーズお笑いの世界を広めたい」という目的から設立されたことから、有料化は考えられなかったという。

 次いで検討し、現在でも取り組んでいるのが、動画広告だ。リアルネットワークスや動画広告システムを取り扱うパサタと協力。具体的には、動画ポータルサイト「リアルガイド」内の「お笑い劇場」でbrst.TVのコンテンツを一部公開し、動画の前後に広告を挿入する方法だった。これが貴重な収入源になっているそうだ。

 また3月からは同じく「お笑い劇場」で、プロ芸人である「鉄拳」のネタ「こんな金魚すくいは罰金100万円だ」の配信も開始した。今後も「パペットマペット」「エスパー伊藤」の出演が予定されている。

 プロ芸人の登場は、ともすればbrst.TVの路線変更とも受けとれるが、宮谷氏によれば「あくまでもアクセスを増やすための広告みたいなもの」。約1年半というbrst.TVの活動を続ける中で、鉄拳の所属する芸能事務所とのつながりが生まれ、特に安価で配信の権利自体を入手。これを無償で公開しているそうだ。またプロ芸人も招聘できるWebサイトとしての、二次的な効果も狙っている。

 やはりプロ芸人は知名度が高いことからアクセス数の面でも実際に効果があり、公開後の成績もかなり良いという。「この調子でいけば、3月は予定通り運営できそう」とのことだが、その分費用もかかっているので、「今月たくさんの人に見てもらわないと(brst.TVが)潰れちゃうかも。」運営費用の問題は切実だ。

 今後は動画広告を折り込んだコンテンツの外部提供先を積極的に考えており、大手サイト内へ「出店」する形で掲載先を増やし、より安定的な収益を確保するのが当面の課題だという。


芸人とファンをつなぐ、コミュニティとしての側面も

「パソコンが壊れたときは(サイト更新のために)ローンでパソコンを買いました」。brst.TVへのこだわりは並大抵のものではない
 brst.TVでは幾度かのリニューアルを経て現在の形式になっているが、構成上、留意しているのが公平性の維持。たとえばネタ別の人気ランキングは、ユーザーからの投票や視聴回数、視聴時間などをポイント化したもので、運営者側の作為が入らないようにしているという。

 また、コンテンツの更新も手を抜かない。宮谷氏自身「強迫観念化している」と笑い飛ばすものの、brst.TV運営当初から「毎週土曜日に3ネタ更新」というコンセプトは1度たりとも崩したことがないという。

コンテンツのラインナップと同様に、宮谷氏が胸を張るのはbrst.TVのコミュニティとしての機能だ。brst.TVのサイトでは、公開されているネタに対しての応援メールを受け付け、同時に匿名掲載もしている。また各芸人からの返答も行なっているそうだ。
「テレビ出演する芸人よりも、圧倒的に身近に感じてもらえる。」
「こういった芸人とファンのやりとりの中で、直接劇場に足を運んでもらえる人が増えれば一番嬉しい。」
現実世界でのファンの行動に波及効果を与えることが、宮谷氏の究極の目標のようだ。


brst.TVの将来目標「給料を払うこと」

 brst.TVを構成するスタッフは、IT関連学校の講師を務める方など、本業の傍ら、ボランティア的な副業として携わっているのが現状。宮谷氏はこれらのスタッフに少額でもいいから給料・手間賃を払えるようにするのが目標だという。

 加えて、各コンテンツを収容するサーバー類も、なるべく自前にしたいのが本音。現在は、コスト削減の観点や取引先の厚意から、無償で貸与を受けているものも多いそうだ。これらの費用を広告収入などで賄ったうえで、小さなオフィスを構えるのも目標の1つだとか。

 宮谷氏によると、インディーズお笑いを応援するbrst.TVとしての目標は、ズバリ、テレビ番組「爆笑オンエアバトル」的な存在。若手お笑い芸人の登竜門的存在として知られる同番組だが、brst.TVでも面白いネタを披露する芸人を多く紹介していきたいという。実際、brst.TVでお笑いネタを提供している芸人の中には、テレビ出演やお笑いコンテストの受賞と確実に成長を遂げている芸人もいるという。


いずれはテレビにも進出?

 そしてさらなる展開として考えているのが、インターネット以外への進出だ。その具体的な例として挙げてくれたのが、UHFテレビ局やCATVといったテレビへの進出だという。

 宮谷氏によると、テレビの深夜時間帯に風景映像が一般的な番組の代わりに延々流されているのは、電波を流し続けるのにも止めるにもコストが発生するため。このような枠にも、安価で権利問題をクリア済みのbrst.TVコンテンツが適していると考え、営業を行なっていく。

 また今後、インディーズお笑いに注目していくのは変わらないが、やはりアマチュアが活躍する演劇や学生プロレスの配信など、その先に見据えているものも多い。インディーズ音楽などの分野でも、行動を起こしていくとのことだ。

 インタビューを通じて感じたのは、個人レベルでの運営とはいいながらも、その注力の仕方は、法人並みといってもおかしくないこと。宮谷氏が口にした「個人レベルサイトならではのフットワーク」が今後、どの程度武器になるのか? その様子をじっくり見守りたいと思う。


関連情報

URL
  brst.TV
  http://www.brst.tv/
  お笑い劇場
  http://www.realnews.ne.jp/brsttv/

関連記事
brstTV、お笑い芸人「鉄拳」のコントをオンデマンド配信


(森田秀一)
2003/03/14 12:29
Broadband Watch ホームページ
Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved.