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「着ラジ」ホームページ
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ニッポン放送が4月3日から開始した新番組「着ラジ」は、ブロードバンドや携帯電話とのラジオの連動がコンセプトの番組。ラジオ局が考えるブロードバンドの魅力やその活用方法について、着ラジの番組スタッフに話をうかがった。
着ラジは4月3日よりスタート、毎週日曜深夜23時20分から24時30分に放送されるラジオ番組。「ラジオと携帯電話とインターネットの連動」がコンセプトで、番組はラジオと同じ時間にブロードバンドでもストリーミング配信される。インターネット接続環境があればニッポン放送のエリア外からも番組が楽しめるだけでなく、スタジオの模様も動画で閲覧できる点が特徴だ。
携帯電話向けには、番組のゲストやパーソナリティ、アシスタントが直接声を吹き込んだ携帯電話の着信音を生放送中にリアルタイムで公開する「着ラジオ」「着ボイス」といったコンテンツや、フジテレビに関する質問をラジオで出題、メールで回答を受け付ける「着フジテレビ」などの企画を実施。また、共同購入システムである「ギャザリング」を取り入れた携帯電話向けショッピング「着ギャザ」も番組内で行なわれている。
■ ブロードバンドで「音声を重視した映像付きの音声メディア」を
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番組パーソナリティーの吉田尚記アナウンサー
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着ラジで番組パーソナリティを務める吉田尚記アナウンサーは、ブロードバンドでのラジオ放送について「ブロードバンドはより多くのリスナーが聴いてくれるという可聴範囲を広げる試みとしては面白い。コンテンツ制作者としては、より多くのリスナーにより良い音質で聴いてもらいたいと思っている」と、ニッポン放送が取り組んでいるブロードバンド放送について説明。「2億台も普及しているラジオがすぐになくなることは考えられないけれど、ブロードバンドの放送が主流になるかもわからない。今やれる試みのひとつとして、ブロードバンドでの放送に取り組んでみる、ということが一番自然な形だと思う」と語った。
しかし、ラジオで流れるすべてのものが同じようにブロードバンドで流れるわけではない。その一例がラジオCMだ。ブロードバンド放送では、ラジオ放送がCMの間は音声がストップされ、ブロードバンドでCMを聴くことはできない。
そこで着ラジが考えたのが、番組の女性アシスタント、通称「着ネェ」の活用だ。番組ではCMの時間に限らず、着ネェのりりあんと花井美里がスケッチブックに手書きしたメッセージやイラストを使い、ブロードバンドの画面向けに語りかける。「70分の番組で1,000通のメールが来るが、その半分がブロードバンドの感想。着ネェはブロードバンドがメインのパーソナリティとして位置付けているが、それが成立しつつあるのかもしれない」と、ディレクターの伊藤浩一氏は語った。
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番組打ち合わせの風景
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CM中はパーソナリティがスケッチブックでブロードバンド向けに語りかける
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ただし、映像が流せるからといってテレビのような映像主体の番組作りは考えない。「僕らはあくまで“耳で聴いてどうなるか”が大事。ブロードバンド放送を見てもらえればわかると思うけど、映像はあくまで副音声なイメージ。ブロードバンドでの映像は、ラジオの“のぞき窓”みたいな存在だと思っている(吉田アナ)」。編成局編成部の三宅哲郎氏は「テレビが映像を重視した映像・音声メディアとするなら、ラジオは音声だけのメディアだったが、ブロードバンドの普及によりラジオの映像配信も可能になる。これからは、音声を重視した映像付きの音声メディアへの進化の可能性もあるのではないか。」と、あくまで音声にこだわる番組作りの姿勢を示した。
三宅氏はラジオのサービスについて「コンテンツ制作者は、プロダクターであるばかりではなく、ディストリビューションまで考えていかなければならない時代に突入しつつあるのかもしれない」と語る。「今まで聴取者や視聴者にコンテンツを届けるためには電波しかない時代があったが、今は有線やケーブルが登場し、衛星が登場した。さらに、ダイヤルアップ接続が登場し、今では約5,000万人がブロードバンド環境にあると言われている」。
三宅氏は続けて、「これらの情報を受けるルートは、進化と共に栄枯盛衰はあるものの殆どが共存しており、少数派ではあるかもしれないがユーザーによっては“電波でコンテンツを楽しむ”という環境が必ずしもベストではなくなってきている可能性がある。」との考えを披露。「昨今では携帯電話にもラジオが搭載されている。受け手が便利なものであれば、インフラにこだわることなく番組を供給していくことがマス媒体の務めであるし、そのインフラ特性を生かしたより魅力的なコンテンツを制作したいと考えるのは、コンテンツ制作者として当然」と語った。
■ リアルタイムでの時間共有こそがラジオの魅力
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Webサイトからもリスナーの投稿を募集
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着ラジのブロードバンド放送は、ラジオと同じ時間のリアルタイムでのみ聴取が可能であり、好きな時間に聴取できるオンデマンド配信や、番組のダウンロード配信は行なわれていない。これは着ラジがラジオの特性を「時間の共有」と考えているからだという。「自分が聴いているこの瞬間に、同じように聴いている人がたくさんいることがラジオの良さ。映画はDVDで見ようと思うかもしれないが、ラジオ放送を録音して『これは面白いから聞きなよ』と渡されても聴かないだろう。生理的なレベルかもしれないが、この差は大きい(吉田アナ)」。
ラジオ番組の構成自体もラジオのリアルタイム性を色濃くする特徴の1つ。ラジオではリスナーから寄せられた投稿というフィードバックを大前提にしており、投稿1つで番組の流れが変わることも日常茶飯事だという。「そういう意味でのリアルタイム性は、インターネットと相性がいいかもしれない(伊藤氏)」。
三宅氏によれば、音声コンテンツのダウンロード配信は権利関係の難しさもあるという。「テレビはビデオという存在があったから、コンテンツの二次使用に対する著作権の意識が高く法整備も進んだ。一方、ラジオというメディアは、内容の身近さゆえに今まで二次使用やコピーの流通などがあまりなかったのだと思う。そういう意味では、テレビにとってビデオが登場した時代と同じことが、今後ラジオで起きていくのかもしれない」。
三宅氏は「ラジオのダウンロード配信や二次使用自体にどれだけニーズがあるのかわからないが……」とした上で、「PodCastingを含む音声コンテンツのダウンロード配信は、ユーザーのリクエスト次第で、今後法整備が進んでいくのではないかと思う」とした。
■ nintendogsを使ったリスナー投稿企画も実施
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日比谷公園でリスナーのnintendogsを待つ吉田アナ
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5月22日の放送回では、ニンテンドーDSのゲームソフト「nintendogs」を使った試みも行なわれた。nintendogsは「すれちがい通信」という機能を設定して持ち歩くだけで、同じくすれちがい通信を設定している人と自分の飼っている子犬を遊ばせたり、グッズを交換したりできる。5月15日の放送で吉田アナがすれちがい通信を使ったイベントを告知、放送終了後の月曜日夕方に日比谷公園へ集合するよう呼びかけた。
すれ違い通信では、ユーザーが5秒間だけ自分の声や音楽を録音し、それを犬にアイテムとして持たせて相手にプレゼントできる。今回のイベントではこの機能を利用し、ユーザーからnintendogs経由で「音声の投稿」を受け付けるというコンセプトで実施された。突然の告知ながらも日比谷公園にはイベントを聞きつけた20名近いnintendogsユーザーがすれ違い通信を楽しみ、寄せられた音声メッセージは番組の中で紹介された。
nintendogsを使ったこのイベントは、リスナーとのコミュニケーションの場としてだけでなく、リスナーからの投稿を受け付けるという役割も果たしている。「(ラジオを提供する)インフラは水道管みたいなもの。どれを通してもリスナーに伝わればいい(吉田アナ)」。
リスナーからも好評だったこのイベントは第2弾、第3弾を続けて実施する。22日放送回のゲストであり、28日に中野サンプラザでイベントを行なう声優の野川さくらは、番組内でnintendogsを使ったイベントを約束し、ライブ当日は、野川さくらのライブ限定メッセージを収めたnintendogsのすれちがい通信が会場の中で行なわれる。さらに翌日の日曜日には、nintendogsのすれちがい通信を使い、吉田アナが秋葉原で「かくれんぼ」を実施。すれちがい通信で見事吉田アナを見つけたリスナーは、番組から賞品が送られる。
□野川さくら イベント情報
http://www.nogawasakura.net/news.htm
「今の時代は新しいものが次々に登場していて、それがよく使われないうちに忘れられてしまう。僕は使いこなすことで何か面白いことができないか、それをずっと考えている」と吉田アナは語る。「何を組み合わせるか、何を使いこなすか、そのどれが正解かはわからない。わからないから一生懸命実験したい。日常生活にとけ込んでいるもので面白いものを作り出せる、(教育番組「できるかな」の)ノッポさんのデジタル版、“デジタルノッポさん”になりたい」。
吉田アナが声をかけると、公園に散らばっていたリスナーが集まる
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ゲストの野川さくらとnitendogsのイベントを約束。番組内ですれちがい通信も行なった
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■ 「身軽なメディアNo.1」であるラジオの特性を活かした番組作りを
広告の違いはあれども、着ラジという番組の内容自体はラジオもブロードバンドも変わらない。地域が限られるラジオの電波に比べて、インターネットがあれば地域に関わらず聴取が可能だ。ラジオが電波であることのメリットとはどこにあるのだろうか。
吉田アナは、「音声配信装置として、単4電池1つで50時間も60時間も使い続けられるハードウェアは他にない」と話す。モビリティとバッテリーの持ち時間で考えると、ラジオはモバイル機器として非常に優秀なのだという。また、2億台のハードウェアで誰もが均等に情報を得られるという点では、「災害時などで最高に威力を発揮するメディア(三宅氏)」という面も持ち合わせるとした。
ブロードバンドでの放送は配信サーバーが必要であり、過度のアクセスが発生した場合には聴取ができなくなる可能性もある。事実、着ラジも最近ではブロードバンド放送がつながりにくくなる状況が発生しているという。吉田氏は「電波が届く環境で、受信機1台あれば聴取可能であり、同時に何万人へサーバーの問題なくリアルタイムで配信できる」というラジオのメリットを強調した。
伊藤氏は「音声だけを他のメディアで流していても、それはラジオの単なる補完でしかない。ブロードバンドで放送するならブロードバンドならではの面白さも考えなければいけないし、携帯電話であれば携帯電話のメリットが重要」と考える。「携帯電話とブロードバンド、ラジオのそれぞれが新しい形で補完しあうことが理想。そうすることで、それぞれの分野で新しいものが生まれてくるのではないか」との見通しを語った。
三宅氏は「ラジオ番組は少人数で運営できるし、予算もテレビに比べればずっと低いだろう。番組自体も生放送が基本で、内容はフレキシブルな変更が可能。身軽なメディアとしてはNo.1だと自負している」とコメント。「着ラジで行なっていることはあくまで“新しい試み”。身軽だからこそ世の中の流行を試せるラジオが面白い」と魅力を語った。
■ URL
着ラジ
http://www.allnightnippon.com/chaku/
ニッポン放送
http://www.jolf.co.jp/
(甲斐祐樹)
2005/05/25 13:49
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