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【 2009/12/25 】
【 2009/12/24 】
槻ノ木隆のIDF Japanレポート

〜IDF Fall 2002 Japanから見るルータ製品のトレンド〜

 ちょっと前の話題で恐縮だが、今年の10月22日〜24日、赤坂プリンスホテルでIDF(Intel Developer Forum) Fall 2002 Tokyoが開催された。基本的にはIntelプラットフォームを利用して製品開発をする開発者のためのイベントではあるのだが、同時に新製品や試作品の発表展示の場でもあり、いろいろ面白いものが出てくる。そんな中で、IntelとPlanexが共同でちょっと面白い製品を展示していたので、簡単にご紹介したい。


最近のブロードバンドルータのトレンド

 1年位前のブロードバンドルータはというと、せいぜい8MbpsのADSL回線に対応すれば十分であり、FTTHはまだ一部のユーザーのためのものといった状態だった。そこで性能的にも、8Mbps〜10Mbpsを満足出来ればOKといったところであり、この結果市場に出ている製品の半分以上がSAMSUNGのS3C4510Bというプロセッサを利用していた。このプロセッサはARM7ベースで、40MHz駆動で36MIPSといったところである。大体この製品で8Mbps〜10Mbps程度。

 一部の高機能ルータの場合、もう少し高い性能が必要ということでCONEXANTのCX82100を利用していた。こちらはARM9ベースで、144MHz動作で158MIPSといったところ(現在は168MHzまでクロックアップしたようだが、当時は140MHz程度で使うのが普通だった)。こちらだと、30〜40Mbps程度まで性能を伸ばすことができた。FTTHで100Mbpsといっても、実効20〜30Mbpsの場合が多かったから、普通に使う分にはこれで十分といった考え方である。

 ところがその頃から、化粧箱の外側にスループットを記載し、この数字で優位性を示すことが多くなった。この結果、当然ながらスループットを如何に上げるかが重要なファクターになってしまい、清水理史氏が指摘したような事態になってしまっているわけだ。それはそれとしても、メーカーとしてはとにかく絶対的な性能値を上げないことにはどうしようもないわけで、ほとんどのルータベンダーは一斉にARMプロセッサを捨て、MIPS32コアのプロセッサに走る結果になった。

 昔からマイクロ総合研究所などが東芝のTX79コアを使った製品などを出しているが、最近流行なのは米BRECIS CommunicationsMSP2000である。150MHz駆動のMIPS32 4Kmコアを内蔵し、180MIPS程度の性能を持つ。

 一見CONEXANTのCX82100とそれほどの差がなさそうに見えるが、内部バスの構成やデータ転送命令の違いなどから、ルータに利用すると高い性能を発揮する。実際、FTPやSmartBitsのテストでは90Mbps超の性能を叩き出しているわけであるから、その威力は馬鹿にならない。しかもMSP2000の場合、内部にVPNの暗号通信用のアクセラレータを搭載したり、DMZ用に3つ目のEthernet MACを装備したりと機能が盛りだくさんであり、この結果ARM系のプロセッサを搭載するブロードバンドルータは一気にマイノリティになってしまった。


IXP425を売りたいIntel

 ところでIntelは、ARMアーキテクチャに則ったIXPシリーズというネットワークプロセッサを今年はじめから発売している。ハイエンドのIXP2800/2850は、エッジというよりもコアルータにすら使える高性能なものだが、ローエンドのIXP425はまさしくブロードバンドルータ(というか、Intelの資料ではRegidential Gateway)向けとなっており、このブロードバンドルータのマーケットである程度のシェアを握るつもりだったことは既に報じた通りである。が、上述の通りマーケットトレンドが一気にMIPS系に移ってしまい、結果として製品が宙ぶらりんになってしまった。実はこの話、ちょっと根深い理由がある。

 通常製品を開発するメーカーにとって、利用するCPUをいきなりコロっと変えるのは難しい。開発ツールの類がいきなり総入れ替えになってしまうし、これまでの開発経験をそのまま生かすことも困難だ。製品の検証も大変だし、エンジニアにとっても新しい製品を一から勉強する必要がある。というわけで、普通は同系列の製品の高性能版を何とか使おうとする。

 逆にコロっと入れ替えられるのは、社内に複数のチームがあって各々が別々のCPUを使って開発をやっているか、もしくはそもそも開発してない場合だ。開発していないというのは要するにOEMもしくはODMの形で他社から製品供給を受け、マニュアルや外箱のみを整えて販売するという形態である。正直な話、日本でブロードバンドルータを製造・販売しているメーカーの半分以上はこちらだったりする。で、こうしたメーカーは大抵台湾メーカーから供給を受けている。ということは、いかにIntelが頑張ろうとも、国内ではそもそも開発が行なわれていないから、誰も使わないということになる。このあたりがこれまでのIntelのジレンマだったわけだ。


100Mbpsルータの試作機とPlanexの試作品

 さて、以上の背景を頭に入れておくと今回のIntelの展示はわかりやすい。今回Intelが展示したのは、IXP425の評価キットにEthernetポートを2つ搭載し、ルータの動作をさせたものである(写真1)。

 評価キットとあって、いろいろ余分なものが搭載されているが、ほとんどの部分は利用していない。この環境で2つのEthernetポート間で、94Mbpsほどのルーティング速度を実現したデモが示されていた。また、PLANEX COMMUNICATIONS INC.からは、実際にこのIXP425を搭載した製品サンプルが展示された(写真2)。

写真1
メモリは256MBほど実装されているが、実際にはワークエリアを含めて32MBあれば今回の構成は実行できるとの話だった。ちなみにシリアルポートは動作確認用にターミナルエミュレータが繋がっているだけで、別にシリアルポート接続をサポートしているというわけではない
写真2
今すぐこれで製品化を図る、というわけではなくあくまでも試作だそうである

 コンセプトとしては、無線LANのアクセスポイントにもなるFTTH対応ブロードバンドルータで、このためIXP425をベースとしたコア部分に、CardBus対応のソケットと、4ポートの10/100BASE-Tスイッチングハブが搭載されている(写真3)。ちなみに会場ではこんなセールスブローシャも配布されていた(写真4)。また別の場所では、同じ評価キットを使ってIPv6ルータを実装した例も示されるなど、その機能と柔軟性の高さをアピールしていた。(写真5〜8)

写真3
中央の大きなチップがIXP425。その右にはメモリが搭載され、右下にはADMTekの5ポートスイッチングハブが鎮座している。一方CPUの左にはTIのCardBusコントローラ、その上にはVIAのVT6202 USB2.0コントローラが位置しており、CardBusソケットのすぐ右にはUSBポート用と思しき配線パターンもあるので、USB 2.0によるPCとの接続もサポートする可能性があるようだ。またCardBusソケットの右下にあるコネクタも、配線を見るとTIのCardBusコントローラに接続されており、おそらく拡張用デバイスのための用意と思われる
写真4
DMZポートをちゃんと利用できるような設定にしていることがわかる。これはうれしい機能だろう(少なくとも筆者はうれしい)。ちなみにUSB 2.0ポートや2つ目のCardBusソケットは、この試作機では利用しないつもりのようだ

 こうしたデモにおけるIntelのメッセージは明快である。試作は評価ボードを使うことで簡単に可能であり、簡単に最終製品にインプリメントできる。製品はシンプルにまとまっているし、この通り製品の差別化も容易である(90Mbpsを超える製品で、DMZポートとCardBusアダプタ、4ポートスイッチを全部搭載した製品は今のところ存在しない。しかも必要なら、USB 2.0ポートまで取り付けられるのだ)。IXP425ソリューションをぜひ使ってほしい、ということだ。

 先に挙げたBRECIS CommunicationsのMSP2000と比べると、暗号化・復号化のアクセラレーション機能が欠けているという欠点はあるが、その一方533MHz動作のIXP425は700MIPSほどの性能を出すはずで、この性能の高さで補うことが可能だ。今回数字は示されなかったが、担当者によればPPPoE環境でもそれなりの性能だそうで、実際に製品が登場すれば面白いことになりそうだ。

 問題はこれをどこが出すか、である。OEM/ODM調達によりトータルコストとターンアラウンドタイム削減を狙っている多くのベンダーが、考えを変えてIXP425を使った自社開発に乗り出すことが果たして可能か? というのはちょっと疑問符が残るところ。ただ、そうした開発のアウトソーシングが相対的に日本の製造業を弱くしたともいえるわけで、このあたりの状況を切り替える決意をしたベンダーが増えてくると、もう少し日本のマーケットも面白くなりそうではあるのだが。そんな感想を抱いたIDF Fall 2002 Japanの展示であった。

写真5
同じ評価キットながら、ネットワークカードを2枚装着してのIPv6ルータの動作例。おそらくIPv6用のドライバが、オンボードのEthernetコントローラにまだ対応していないため、急遽通常のEthernetカードを装着したと思われる
写真6
IPv6自体のルーティング、およびIPv6→IPv4のトンネリングを行なう機能を実装したそうである

写真7
サーバー側と思われる画面。手前はHyperTerminalを使い、コンソール経由でブロードバンドルータにログイン、設定を行っている。ログの中に"using Mobile IPv6 extensions"とあるのに注意。その影に隠れたコマンドコンソール画面では、IPv6アドレスが割り振られていることがわかる
写真8
こちらはクライアント側。ipconfigの結果を見ると、IPv4アドレスとIPv6アドレスの両方が割り振られていることがわかる。


写真9
NPE Bのみだが、暗号/復号化アクセラレーションが格納されており、これをWAN回線に割り当てる事で利用可能となっている

付記:

「先に挙げたBRECIS CommunicationsのMSP2000と比べると、暗号/復号化のアクセラレーション機能が欠けているという欠点はある」という筆者の記事に関し、IXP425には暗号/復号化アクセラレーションが入っているという指摘があった。

 写真9は“Intel IXP425 Network Processor Family Technical Overview”(PDFファイルがここからダウンロード可能)からの抜粋だが、Ethernet NPE BのモジュールにはHasing/DESのアクセラレーションが入っている事がわかる。このアクセラレータは、CRCチェック/生成、DES/3DES/SHA-1/MD5に対応しているそうである。お詫びして訂正させていただく。


□インテルのホームページ
http://www.intel.co.jp/
□IDF-Jのホームページ
http://www.intel.co.jp/jp/developer/idf-j/index.htm

槻ノ木 隆
2002/11/05 17:41

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