IEEE 802.11b準拠の「スマートリンク」を使った映像伝送デモ。無線LAN機能を内蔵した液晶TVを持ち上げ、ケーブルがまったくつながっていないことを示す

　シャープは21日、「ホームネットワーク構築に向けたAV無線伝送の取り組み」と題した記者説明会を開催。イーサネットによる有線LANに比べて不安定な無線LAN環境で、リアルタイムに一定帯域を確保して映像データを伝送するための技術規格、IEEE 802.11eを使ったデモを披露した。

　説明に立った技術本部長 太田賢司氏は「液晶が主力製品のひとつであるシャープとしては、ブラウン管に比べて軽い・薄いという液晶TVのメリットをより活かし、かつPDAやポータブルDVD、ノートパソコンなどをより自由に簡単に利用するための家庭内インフラとして、無線LANによる接続環境を提案したい」と述べ、これを実現するには広い帯域を必要とする映像データをうまく伝送できるかがネックとなるとした。

　太田氏は、これを解決するための技術としてIEEE 802.11eを紹介。従来のLANが時間軸で処理されるのに対して、時間管理を行なう特別なステーション（HC、Hybrid Coordinator）を設定し、データ量に応じてこのステーションが送信権を割り当てる仕組みを採用している。HCは映像データには優先して帯域を確保することで伝送品質の安定を図る。また映像では番組を視聴中に途切れることがあってはならないために、誤り訂正符号を付加したほか、再送要求がきてもスムーズに送れる技術などを新たに開発することで、高い信頼性を確保するという。

　なお、IEEE 802.11eは現在IEEEの802.11e委員会で審議中だが、2002年度中の規格アナウンスが見込まれている。802.11eは映像データ伝送などに対応する規格のため、802.11bや802.11a、802.11gなど信号の変調/復調を定めたネットワーク物理層の規格とはどれも併用が可能だ。

　デモでは、通信制御規格はIEEE 802.11e、物理層規格は5GHz帯を使用する802.11a規格に準拠した映像伝送を披露。HD（ハイビジョン）画質の映像を伝送して見せた。802.11a準拠により帯域が広いため、平均的なDVD画質レベル（6Mbps SD）なら3本の映像データを同時に伝送可能。ハイビジョン並みの高画質映像（24Mbps HD）なら1本の映像データを伝送できる。また、同時にインターネット接続も可能。映像データ用に帯域を確保し、残りの帯域でインターネット通信などのデータを送る仕組みになっている。デモ用の映像伝送ボックスはまだ試作段階でかなり大きい。

映像送り出し側の機材。グレーの箱はMPEG再生を行なっており、下の大きい黒いボックスが映像送信を行なう。見えにくいが、大きな黒いボックスの上の、小さな黒いボックスがアンテナ	デモに使われたハイビジョン液晶TV。インターネット接続にも対応しており、PC機能は液晶TV本体に内蔵。背面の箱はAVボックス。手前に2つぶらさがっている小さな四角が送信と受信のアンテナ

　802.11b準拠のデモでは、2001年に発売した、シャープ独自の通信制御技術を使った映像送受信機「スマートリンク」を使用。こちらは802.11b準拠で帯域が802.11aに比べて狭いため、DVDレベルのデジタル標準映像（6Mbps SD）を1本伝送できる。ハイビジョン映像には対応していない。

　デモでは、TVを10メートル以上離しても伝送される映像に問題がないことを見せた。距離的には、一般家屋なら30メートル程度まで映像を問題なく伝送できるという。シャープでは、IEEE 802.11aの場合はまだ802.11bに比べ製品の歴史が浅いため、まだ試験を重ねているところだが、20メートル程度までは伝送できるようにしたいとしている。

　シャープでは802.11aと802.11eに準拠したワイヤレス液晶TVなどの次世代製品については、2003年の製品化を予定しているという。

左が送受信を行なう「スマートリンク」。右はDVDプレーヤーで、このDVD映像をスマートリンクを介してワイヤレス液晶TVに伝送する	無線LAN機能を内蔵した液晶TV。右にあるのは充電台で、それ以外の機能はとくに持っていない

□シャープ
http://www.sharp.co.jp/
□スマートリンクのニュースリリース（シャープ）
http://www.sharp.co.jp/corporate/news/010724-2.html

（工藤ひろえ）
2002/05/21 21:08