総務省は、モバイルインターネットサービス(MIS)がJR東日本の敷地内における無線基地局の設置について裁定を申請していた件について、電気通信事業法第73条第1項の規定に基づき認可をすることは相当でないとの答申を行なった。
事の起こりは、MISが2001年にJR東日本の新宿駅、池袋駅、渋谷駅、東京駅、上野駅、品川駅のホームおよびコンコースなどに無線LANの基地局を設置するようJR東日本に申し入れを行なったというもの。JR東日本がこれを拒否したことを不服とし、MISは総務省に対して電気通信事業法第73条第1項基づきJR東日本との間で使用権の設定を協議するための認可を申請していた。
申請の理由についてMISは「第一種電気通信事業者として無線LANの事業許可を得ており、公益性、公共性が認められる」「JR東日本の駅は公益事業にとって必要不可欠な場所である」「MISの無線LANサービスが利用する周波数は電波干渉に対する調整を行なっており、悪影響を及ぼさない」「駅構内にはスペースが十分にあり、JR東日本の鉄道事業には悪影響を及ぼさない」という4点を挙げている。
これに対しJR東日本は、「MISのサービスは駅の利用者に対するサービスであり、電気通信事業法第73条第1項が定める他人の土地を利用しなければ電気通信の線路が断たれ、事業の目的が達成できない場合には当てはまらない」と指摘。また、MISの無線機器を設置することで事故防止の対応を余儀なくされ、安全機器の作動が阻害される可能性があるばかりか、JR東日本が実証実験を行なっている無線LANサービスに対しても阻害される危険性があるとし、電気通信事業法第73条第1項の「必要かつ適当であるとき」の要件を満たしていないとの意見を総務省に提出した。
この問題で中心となるのは、電気通信事業法第73条第1項における「公共の利益」の解釈である。これについて総務省は、該当の通信設備がその土地等に現在する人を主に対象としているのか、それを超える公衆を広く対象としているかについて区別することが重要だとしている。後者の場合であれば、電話線をつなぐための電柱を想定すれば明らかなように公共性が認められるものの、前者に対して公共性を認めることは難しく、土地の権利者の判断に委ねることが適当だという。さらに前者の場合、第一種電気事業者が希望するままに他が所有する土地に設備を設置することが許されてしまえば、他の所有する私的な施設を利用した営業活動が際限なく展開されてしまう危険性があるという。
MISが設置を予定している無線LAN設備の送信距離は100m程度であり、JR東日本の駅内部にとどまる。また、設備自体もJR東日本の駅構内に設置されるものである。この点から総務省は、MISの申請は設備を設置した地域を超えた公衆を対象にするとは言えず、電気通信事業法第73条第1項に基づいた認可は適当でないと判断を下した。
なお、駅や空港などに通信事業者が通信設備を設置するための電気通信事業法に基づく指針を総務省が作成するとの一部新聞による報道があったことについては、総務省は「現在のところそういった指針を作成する予定はない」と報道自体を否定している。
□総務省 報道資料
http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020730_5.html
□関連記事:MIS、JR東日本の駅へ無線基地局設置に関して総務省に裁定を求める
http://bb.watch.impress.co.jp/news/2002/04/08/misjre.htm
□モバイルインターネットサービス
http://www.miserv.net/
□JR東日本
http://www.jreast.co.jp/
□総務省
http://www.soumu.go.jp/
(甲斐祐樹)
2002/07/30 21:05
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