イー・アクセスとイー・モバイルは10日、総務省から受けた免許認定を踏まえたモバイル事業に関する記者会見を開催した。会見ではイー・アクセスの千本倖生氏がモバイル事業の今後の展開について語ったほか、前日に発表されたNTTグループの中期経営計画に関する意見も表明した。
■ サービス開始から5年で500万加入を目指す
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左からイー・アクセス代表取締役会長兼CEOの千本倖生氏、代表取締役社長兼COOの種野晴夫氏、代表取締役副社長兼CFOのエリック・ガン氏
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千本氏は今回の免許認定に関し、「携帯電話市場での競争促進を積極的に後押しするとの決定が公正かつ迅速になされたことはすばらしい」とコメント。「今後は新たなビジネスモデル、新たなサービスを提供する革新的なモバイル事業者となって、日本の携帯電話を世界第一級の市場に発展させたい」との意気込みを示した。
今回割り当てられた周波数帯域は1,854.9~1,859.9MHzの5MHz幅で、イー・モバイルはW-CDMA方式でサービスを展開する。千本氏は、「この帯域は、250万加入を超えた際に追加で割り当てられる5MHzと、新規・既存に関わらず割り当てられる東名阪バンドの両方に接している帯域」と指摘、「技術的に極めてありがたいバンドをいただけたことは大変ラッキーだと思っている」と述べた。
千本氏は同社の主要事業であるADSLの歴史を振り返り、「我々やソフトバンクが世界で最も激しい競争をした結果、日本のADSLは一番になった」とコメント。モバイル事業でも同様の成長を目指すとし、「2006年から始まるナンバーポータビリティが重要な要素になる」との考えを示した。
事業計画は免許交付前の方針から変更はなく、2007年3月に東名阪でデータ通信サービスを、2007年度末までに全国で音声サービスを開始する予定。設備投資総額は3,000億円を予定し、サービス開始から5年間で500万加入を目指す。実際のアンテナ設置は「正式な免許をいただいた後、年明けからスタートする(代表取締役社長兼COOの種野晴夫氏)」とし、アンテナ設置のための土地取得交渉なども今後の問題とした。
提供する端末は音声だけでなくデータ端末も検討しており、国内と海外メーカーとの調整は最終段階にあるという。また、料金は既存事業者よりも安価に設定する予定だが、具体的な金額は「競争相手のあることだけに今は言えない(千本氏)」と明言を避けた。
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イー・モバイルに割り当てられた帯域。「非常にラッキーなありがたい帯域(千本氏)」
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イー・モバイルの事業計画
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■ 吉本興業や米Goldman Sachsからの出資も予定
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戦略提携の概要
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モバイル事業の本格展開に際した戦略提携も進める。すでにイー・アクセスからイー・モバイルへ450億円、TBSからイー・モバイルへ100億円の出資が行なわれているが、吉本興業および子会社のベルロックメディア、米Goldman Sachsからの出資を受ける方向で調整を行なっているという。2005年度内には他数社との資本提携を含めて1,000億円の資本金を株式で調達、その後は銀行やリース、金融機関からの借入金で資本を調達する。
なお、第三者割当増資を受けたTBSと楽天に関する一連の騒動について質問が飛ぶと、千本氏は「あくまで個人的な意見」と断った上で、「タイムワーナーとAOLの例からも、ネット事業者がメディアを手に入れるというのは極めて成功例が少ない」とコメント。「実現するとすれば、経営陣がきちんとした信頼関係で話をすべき」とし、「我々とTBSも10年近い信頼関係の上で提携している。敵対的買収の可能性を否定する気はないが、今回の状況としては全面的にTBSの立場を支持したい」との姿勢を示した。
イー・アクセスが買収と報道されたフュージョン・コミュニケーションズについては「機密保持契約のため詳細は語れないが、我々の全エネルギーを使って誠心誠意交渉を進めた」と千本氏はコメント。「最終的には合意に至らなかったが、今後また買収の話があれば再度検討する」との考えを示した。
■ NTTグループ中期経営計画には「公正競争上大きな問題」と指摘
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「NTTグループの中期経営計画は公正競争上問題」と語る千本氏
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会見では、前日に発表されたNTTグループの中期経営計画に対するイー・アクセスのコメントも公表された。同計画では、NTT東西とNTTドコモがIPネットワークをシームレスに構築、さらにNTTコミュニケーションズ(NTT Com)とNTTレゾナントを統合するとの方針が示されている。
千本氏は「固定通信で98%のシェアを持つNTT東西と、移動体で59%のシェアを持つNTTドコモが連携すれば、市場の8~9割を独占する巨大ネットワークとなり、独占禁止法および公正競争上大きな問題」と指摘。また、NTT ComとNTTレゾナントの統合も「マイラインで6割のシェアを持ち、非規制であるNTT Comとの統合も公正競争上大きな問題がある」との考えを示した。
続けて千本氏は「日本が世界でブロードバンドのトップランナーとなりえたのは、総務省のオープン化政策による激しい競争の結果」と指摘。「独占回帰を思わせるNTTグループの中期経営計画には深刻な懸念を抱いている」とし、「これらの競争上重大な問題をはらむ計画を公の議論を経ることなく進めようとしている」と批判した。
一方、NTTドコモとのローミングに関しては「NTTドコモは100MHz近く、auも数十MHz近い帯域を持っているのに対して、我々はわずか5MHzしかない」と千本氏は語り、「これで対等に戦うにはハンディキャップがある。まずは東名阪でサービスする間に、それ以外の地域ではローミングできるよう、大きなNTTドコモの胸を貸して欲しい」との要望を述べ、「ローミングは全国にサービスを展開する間の時限立法。ある時期だけ消費者の皆さんに提供するために交渉を願っている」とした。なお、具体的な交渉は「免許を取得してから具体的な交渉を行なう(種野氏)」という。
■ 「日本の携帯電話市場は進んでいる」は大きな誤解
記者会見の場では、携帯電話市場が飽和状態ではないかという質問が挙がったが、これに対して千本氏は「それはNTTドコモに汚染された考え」と即答した上で、「我々の経験では、すでに大きな1社(NTTドコモ)がいた市場にDDIセルラーやIDOが参入、今のauがある」と指摘。「すでに市場があるから難しいというロジックは存在しない」と主張した。
さらに千本氏は「日本は携帯電話市場が進んでいるというのもとんでもない誤解だ」とし、「普及率が70%の日本に比べて、世界では100%を超える国が5カ国はある」とコメント。「プリペイドカードやSIM、国際ローミングなど、日本は携帯先進国と比べて4~5年は遅れている(代表取締役副社長兼CFOのエリック・ガン氏)」の意見も踏まえ、「我々は携帯電話市場で100%以上の普及率を目指す」との考えを示した。
今後導入する技術として検討を進めているWiMAXについては「2006年から始まる勉強会の成果をサービスに生かしたい(種野氏)」としながらも、「当初のサービス予定にWiMAXは入っていない」と、当初はW-CDMAでのみサービスする方針が示された。千本氏も「3Gバックボーンとのインテグレーションできるという点でWiMAXは魅力だが、日本で標準化されなければいくら勉強しても上滑り」とし、「ただし、いつでもサービスに取り入れられる準備のための勉強は進めている」とした。
■ URL
イー・アクセス
http://www.eaccess.net/
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(甲斐祐樹)
2005/11/10 18:40
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