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【 2009/12/25 】
【 2009/12/24 】
情通審の公開ヒアリング、「FTTHの1分岐単位貸出」で事業者が熱く議論

合同ヒアリングの模様
 情報通信審議会 電気通信事業部会・接続委員会は16日、次世代ネットワークに係る接続ルールの在り方に関する合同公開ヒアリングを開催した。

 出席したのは、NTT東日本、NTT西日本、KDDI、ソフトバンク、イー・アクセス、ケイ・オプティコムといった回線事業者のほか、社団法人テレコムサービス協会、社団法人日本インターネットプロバイダー協会、コンテンツプロバイダーとしてUSENが出席。KDDIは小野寺正氏、ソフトバンクは孫正義氏、イー・アクセスは安井敏雄氏と千本倖生氏が、USENからは宇野康秀氏が出席した。

 今回の議論の中心となったのは、NTTが2008年3月のサービス提供に向けて構築を進める次世代ネットワーク「NGN」を指定電気通信設備の対象とすべきかという点、FTTHサービスの1分岐単位での開放についての2点。指定電気通信設備は、圧倒的なシェアを持つ事業者は他の事業者に設備を貸し出す義務があるというもので、NGNが指定電気通信設備にあたるかについて議論が行なわれた。

 もっとも議論が盛んだったのはFTTHの1分岐単位での貸出に関するもの。現在NTT東西ではFTTHを8分岐単位で貸し出しているが、これに対してソフトバンクやKDDI、イー・アクセスなどは1分岐単位での貸出要望を表明しており、1分岐単位でコストを大幅に削減できるという実証実験の結果も発表している。


「競争は進んでおり独占はない」とNTT東西

 NTT東日本はDSLやCATVを含めたブロードバンドサービスのシェアではNTTが首都圏、近畿圏ともに40%を下回っており、料金も諸外国に比べて低廉化が進んでいると説明。また、次世代ネットワークについてはKDDIやソフトバンクも構想を表明していること、NGNはネットワーク全体として機能するために設備や機能単位での貸出が困難であることといった理由を上げ、「他社も独自にIP通信網を構築できる環境は整っている」と、NGNを指定電気通信設備にすべきではないとした。

 FTTHの分岐単位に関しては、過去に分岐単位を4回変更しているとの例を挙げ、「分岐数を固定して共用することは速度向上や新サービスの提供に支障が生じる」と説明。また、NGNに関しても「特徴である帯域確保サービスの実現が困難になる」としたほか、「事業者が増えることで故障対応のサービスレベルが低下する」「異なる事業者間で共通の運用ルールを決めることは困難」との理由を示した。

 ソフトバンクなどの実証実験結果については「この方法では通信速度が30Mbps程度となってしまい、高速なサービスが提供できなくなる」と指摘。また、「共用の要望を出している事業者のブロードバンド顧客数は900万近く存在し、その事業者間だけで分岐を共有すれば十分に効率的ではないか」とした。

 NTT西日本も基本的な内容はNTT東日本と同じだが、西日本エリアの特徴として「FTTHだけでなくCATV事業者も熾烈な競争を繰り広げており、30府県中11件はCATV事業者が最大勢力」と述べ、「CATV事業者を無視するのはいかがなものか」とコメント。また、極端に帯域を占有するヘビーユーザーは、収容替えによって全体のスループット低下を防いでいたが、分岐を共有した場合はこうした対応に時間がかかってしまい、「サービス品質低下状態が長期化してサービスレベルが低下する」と危惧を見せた。


KDDIやソフトバンクらは指定電気通信設備や1分岐貸出を支持

 NTTの意見に対してKDDIはADSLを事例に挙げ、「電話と分離したドライカッパで競争が進展したADSLに対し、ひかり電話など上位サービスを統合したNGNは顧客獲得数でしか競争ができなくなる」とコメント。また、KDDIが買収した東京電力のFTTH事業についても触れ、「同じ光ファイバでもNTTと違って電気通信事業用の許可が必要であり、結果としてNTT東西が有利」と指摘。「設備競争もやれるところはやるが、そもそも競争が成り立っていない」とした。

 顧客獲得についても「固定電話の顧客を持つNTT東西に対してKDDIはまったくの新規であり、NTTの回線を廃止するのにも費用がかかる」と指摘。FTTHサービスではインターネット接続だけでなく電話や映像など多くのサービスを含むため、「加入電話独占の弊害があらゆる次世代サービスに影響する」とし、「NGNだけでなくひかり電話も直ちに第一種指定電気通信設備にすべき」と訴えた。

 ソフトバンクは冒頭に「KDDIに同感」とした上で、主にFTTHの1分岐単位貸出について言及。「光ファイバが次世代の通信網として集約していくのは間違いなく、他の通信網は純増している」とした上で、「NTT東西のFTTHは累積で70%、純増では80%で、他社は誤差程度に過ぎない。FTTHのシェアは加速的にNTT独占状態になっているのが実態だ」とした。

 FTTHの競争環境に関しては「100年かけて構築したメタル設備を共用できるNTT東西と、新規に敷設していく事業者では競争にならない」。宅内工事などの手続きでも競争事業者はNTT工事と自前工事が2度発生するなど同等性がないとし、「ADSLと同様の1回線単位での貸出が無ければ競争は生まれない」とした。

 地方におけるブロードバンド普及状況にも触れ、「8分岐単位の現状ではNTTですら採算が取れず、FTTH回線敷設の3,000万回線という目標も2,000万回線に下方修正している」と指摘。「1分岐単位であれば地方部への参入も促進され、デジタルデバイトの解消にもつながる」とし、「どうしても分岐せずにNTTが独占しなければ気が済まないのであれば、先送りされていたNTTの構造問題を今すぐにでも議論すべき。分岐か、さもなければ(NTTグループの)分離か」と語った。

 イー・アクセスもソフトバンク、KDDIと同じ方針を示しつつ、「インタラクティブ通信やマルチキャスト通信など、NGNで提供される機能もアンバンドルすべき」「ひかり電話も速やかに指定電気通信設備化すべき」「NTT東西とドコモの統合ネットワーク構築は認められない」などの意見を披露。海外ではBTが他事業者と同一の卸条件で事業を展開している例を挙げ、「BTにおける取り組みも検討の参考にすべき」とした。


ケイ・オプティコムは「設備競争もすべき」と1分岐単位貸出に反対

 KDDI、ソフトバンク、イー・アクセスに対し、自前でFTTHのアクセス設備を構築するケイ・オプティコムは、NGNに関しては「そもそも指定電気通信設備化すべき」と共通の考えを示したが、1分岐単位貸出に関しては、「共用事業者間でサービスが画一化し、多様なサービスメニューの提供や開発ができなくなる」と否定。「自前でアクセス網を構築しない事業者が有利となり、設備競争を実現している電力系事業者が事業撤退を余儀なくされる」との危機感を示し、「結果としてアクセス網が寡占化される」との意見を示した。

 また、電波の有限性がある移動体通信分野と異なり、有線系サービスは事業者が自由に構築できると指摘。「総務省の努力によりアクセス網の構築が可能になっており、設備競争も維持・促進していくべき」とし、「1分岐単位での接続料設定はルール化すべきでない」とした。

 社団法人テレコムサービス協会、社団法人日本インターネットプロバイダー協会もNGNは指定電気通信設備化すべきとコメント。テレコムサービス協会は「NGN設備や機能のアンバンドル化も重要」としたほか、インターネットプロバイダー協会は「NGN稼働後も当面併存する地域IP網も引き続き指定電気通信設備化すべき」とした。

 USENはブロードバンドにおけるコンテンツ提供事業者としての立場から発言し、「将来的には我々の提供する音楽や映像といったコンテンツがブロードバンドインフラに集約される可能性が高い」とコメント。「次世代ネットワークの接続ルールにはコンテンツ流通促進のためにも、コンテンツプロバイダーも同等の環境で競争できるようなルール作りをお願いしたい」とした。


1分岐単位貸出についてNTT東西とソフトバンクらが熱く議論

 質疑応答は、主にFTTHの1分岐単位貸出に集中。NTTでは「シェアはFTTHだけでなくCATVや移動体通信も考えるべき。FTTHだけで見るのは交通機関で飛行機や自動車もあるのに鉄道だけを見て『JRは独占だ』と言うようなもの」と反論。さらに「KDDIやソフトバンクは携帯電話の顧客基盤があるが、我々はNTTドコモの顧客データは使えない」とし、指定電気通信設備についても「電話がすべて光に移行するのではなく、今も6,000万世帯のうち1,000万は携帯電話しか使わない」と、指定電気通信設備化に反対した。

 ソフトバンクは、「他の事業者にもチャンスはあるというが我々は精一杯やってもどうしてもできない」とし、「NTTはアクセス網については言葉を濁しているが、100年かけて国民の共有資産として構築した設備にボトルネック性が無いとは絶対に言えない」と発言。KDDIも「アクセス系にボトルネックがあり、そのボトルネックにNGNが一体化しているのが問題だ」とした。

 さらにソフトバンクは、「ボトルネックのアクセス網を共有すれば、光ファイバのコストは1回線あたり600円程度になるというのが我々の試算。そうすれば過疎地域でも採算が合い、それが日本の消費者のためになる」と発言すると、NTTは「それならばKDDIの光ファイバを使って一緒にやればいい」と反論。「我々はそれをするとサービスが均一化すると考えている。KDDIと一緒にやれば我々より安いサービスができるのでは」とした。


2.5GHz帯の割り当て決定報道は「そんな事実はないと確認済み」

質問に答えるソフトバンクの孫正義氏(左)とイー・アクセスの千本倖生氏(右)
 公開ヒアリングの後にソフトバンクとイー・アクセスは合同で説明の場を設け、ヒアリングに関する意見を披露。1分岐単位での貸出に関してはソフトバンクの孫氏が「分岐しないのであればNTTグループ内の分離を考えるべき」と発言すると、イー・アクセスの千本氏も「基本的なボトルネック性が解消されないのであればNTTの分離・分割しかないだろう」とした。

 2.5GHz帯の割り当てが決定したという一部報道については「総務省にも確認したが、そんな事実はないとの回答で、我々はその言葉を信じたい」と孫氏がコメント。「審査前に決まるというのはとんでもない話。適正なプロセスで審査が行なわれるとともに、我々も参加者として精一杯がんばりたい」とした。

 NTTが「KDDIの光ファイバをソフトバンクが使えばいい」と発言した点については、「そもそも国民の共有資産であるボトルネック設備を持っているところが問題」と孫氏が指摘。また、1分岐単位の実証実験で速度が30Mbps程度だったという点については「最低保障として30Mbpsであり、実際にはベストエフォート70Mbps以上の数値が出るなどNTTと同等の速度を実現している」との説明が付け加えられた。


関連情報

URL
  情報通信審議会 電気通信事業部会・接続委員会 合同公開ヒアリング(第9回)の開催
  http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/kaisai/071116_1.html

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(甲斐祐樹)
2007/11/16 16:33
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