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ブロードバンド推進協議会講演「日・韓・中のオンラインゲーム事情」
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ブロードバンド推進協議会、ゲーム開発者の国際団体「IGDA日本」は6月19日、オンラインゲーム専門部会特別講演会を開催した。ソウル中央大学経営戦略学科助教授の魏 晶玄氏による講演と、「信長の野望 Online」のプロデューサーであるコーエー執行役員の松原健二氏らが参加したパネルディスカッションの2部構成で、日本・韓国・中国におけるオンラインゲーム最新事情の分析や将来展望が議論された。
■ オンラインゲームは“不完全なもの”としてまずリリースされる
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左からソウル中央大学経営戦略学科助教授の魏 晶玄氏、立命館大学政策科学部助教授の中村彰憲氏、コーエー執行役員の松原健二氏
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講演を行なった魏 晶玄氏は、はじめにオンラインゲームとビデオゲームとの相違点を基礎知識として解説した。ビデオゲームについて魏氏は「一旦作品が完成するとあとは発表を待つだけになる“映画のようなもの”」とコメント。後日バグが発見されても修正できないほか、開発期間の長期化に伴ってゲーム性そのものが市場のニーズと大きく乖離してしまう可能性も否定できないとした。
それに対してオンラインゲームは、クライアントソフトの無料配布や何段階ものベータテストを経てからはじめて有料化されるため、「まず不完全なものとしてリリースされるのが常」だという。魏氏は「オンラインゲームはユーザーからの要望を踏まえて問題点を改善することができる」と例示。根本的なゲーム性もユーザーからの要望によっては変化させられること、ユーザーを飽きさせないために開発プロセスが半永久的に続くこと、こういった「柔軟性」こそがオンラインゲーム最大の特徴だと述べた。
また、ゲームの面白さやグラフィックの美しさがユーザーの獲得に直接はつながらないのもオンラインゲームの特性だという。「オンラインゲームでは、(経験値稼ぎといった)作業がつまらなくても、多数のユーザーが同時に接続し、ある共通の目的に向かっていくなかで形成される『コミュニティ』が強力であれば、有料サービスであっても継続的に利用され続けることは実証されている」と魏氏は語った。
■ オンラインゲームが日本で普及しない理由は“経路依存症”
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オンラインゲームが市場に受け入れられる要因。日本と韓国ではあらゆる面で土壌が異なるという
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魏氏は、オンラインゲームが日本で大幅な普及に至らない現状に関する見解も示した。複数ある中の第1点目としてあげたのは「経路依存症」である。
日本で「ゲーム」といえば、プレイステーションやゲームキューブといった「家庭用ゲーム機」を指し示すが、韓国には家庭用ゲーム機の市場が近年までまったくといっていいほど存在せず、ゲームといえばパソコンという状況が長く続いているという。
そして非常に興味深いのは、魏氏の調べによる「家庭用ゲーム機に依存している人ほど、パソコン用ゲームが苦手」であるという傾向だ。
家庭用ゲーム機は必要最低限のボタンを配した専用コントローラのみで遊ぶのに対し、パソコン用ゲームはマウスと、100個以上のボタンがあるキーボードを併用する。つまり慣れ親しんだゲーム用インターフェイスの方向性が異なることこそが、日本人ユーザーのオンラインゲーム参加を阻んでいる要因であると魏氏は指摘。家庭用ゲーム機に慣れ親しんだ日本国内のユーザーは、オンラインゲームという新しいカテゴリの操作体系に戸惑ってしまうという現状を、魏氏は「経路依存症」という言葉で表現していた。
また、オンラインゲームは、事実上不正コピーが問題にならない点も特徴だという。ほとんどの場合はクライアントソフト自体無料で、ユーザーは「ゲーム参加権」への対価として料金を支払うためだ。パソコンに対する認識も「日本人が情報を引き出すための機械と思ってるのに対し、韓国人はあくまでもおもちゃ程度の気軽な存在にしかみていない」と魏氏は分析。韓国内では幼少の頃から簡単なオンラインゲームをプレイする事も多く、パソコンをごく身近な存在として扱える強みがあるとした。
加えて韓国では「PC房」と呼ばれるネットカフェで「Starcraft」という対戦型ゲームが大流行した時期があり、これがパソコン独特の操作体系を習熟するための訓練期間として作用している、というのが魏氏の見方だ。
ちなみに、日本ではPC房をネットカフェ的存在と捉える事が多いが、魏氏によればこれは間違った認識だという。「(PC房は)どちらかといえばゲームセンター。日本のネットカフェは静かだが、PC房では対戦で大騒ぎしている」と当時の状況を回顧した。
以上、「家庭用ゲーム機市場の強さ」「不正コピー問題」「パソコン操作能力」の3つがオンラインゲームがその国で受け入れられるかを判断する基準たり得ると魏氏は見る。そしてこの観点から考えると、日本ではもう少しオンラインゲーム産業の勃興に時間がかかりそうで、むしろ韓国と状況が似ている中国の方が、市場の立ち上がりに有利だと述べている。
■ 先進国ユーザーほど「PK」を嫌う
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日本におけるオンラインユーザーの傾向を分析したもの。多くがPCゲーム経験者で、家庭用ゲーム機の利用経験があるユーザーは少ない
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オンラインゲームは複数の国に展開されていることが多いが、ユーザーの嗜好や行動は国ごとに大きな差があるという。日韓中の3カ国のユーザーを比べた場合、「コミュニティ性をもっとも要求するのは日本だ」と魏氏は解説。戦闘を目的としたオンラインゲーム中にありながらチャットだけを行なうユーザーの数も相当数おり、これは先進国ならではの現象だという。
一方の中国は、コミュニティよりもゲーム中における強さといったレベルへの執着が大きいという。また、強化の過程よりも結果を重視、禁止行為とされるマクロ(操作を自動化し、プレイヤーが直接操作せずとも経験値稼ぎを行なえるプログラム)も横行。日本では嫌われがちなPK(人間が操作する別のプレイヤーキャラクターを戦闘不能にするといった行為)も、「あくまでもゲームシステムで規定された事で、あって当然の仕様、という認知が支配的だ」と魏氏は語った。
こういった背景の一例として挙げられたのが「RPGの進化の歴史を体験したかどうか」。RPGは本来テーブルトークと呼ばれる紙媒体から出発し、シングルプレイ前提のコンピュータRPGを経てMMORPGへと発展しており、「原点に近づけば近づくほど、ユーザー間の協力が必須のものであり、この原体験がプレイスタイルに影響を与えている」というのが魏氏の見解だ。
同氏は、このプレイスタイルの分析こそがゲームの盛衰を左右する要因だと論じる。「日本ではチャットに最適なスペースを提供する一方で、中国では戦闘システムの充実に力を注ぐといった対応が必要。時には国別に開発拠点を構築してもいいだろう」と、進出先に応じた柔軟な進化への要求が高まると見ている。
また、韓国メーカーはサーバーの運用、日本メーカーはゲーム企画やデザインにそれぞれ一日の長があり、お互いがうまく協力できればより素晴らしいものができると展望。その上で「オンラインゲームを『産業』にまで高めたのは紛れもなくアジア。ほかの産業への派生も期待でき、いつかは『コンテンツ・ルネッサンス』を生み出せるほどの存在だ」とまとめ、約2時間におよんだ講演を締めくくった。
■ オンラインゲームの世界的傾向
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パネルディスカッションの司会を務めたIGDA日本代表の新 清士氏
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講演の第2部では、コーエー執行役員の松原健二氏、立命館大学政策科学部助教授の中村彰憲氏が参加したパネルディスカッションが行なわれた。魏氏も講演に引き続いて列席し、IGDA日本代表の新 清士氏による司会進行のもと、討論が進められた。
ディスカッションでは、講演終盤でも触れられたユーザーの地域差に焦点が当てられ、中村氏が中国の現況を紹介した。オンラインゲーム関連企業が株式上場を果たすなど人気・需要は鰻登りの段階にあるものの、一方でゲームに起因した殺人などの社会事件も起きているという。
また、オンラインゲーム上のアイテム消失を運営側の責任だと訴える訴訟も発生し、地方裁判所の判決ながらもゲーム内のアイテムに明確な所有権を認めるという判決が下されたことも紹介された。多くのゲームはアイテムの所有権はユーザー自身に帰属するものではなく、あくまでも使用権と規定されるケースがほとんどだが、こういった状況に影響を与えかねない判例として注目されているそうだ。
一方、新氏によると北米では「MMORPGへの熱が冷めつつある」というのが現状。超大手を除いて新規タイトルへの開発が進んでおらず、むしろ「MO」と呼ばれる、対戦相手のマッチングだけに限定するといった小規模オンラインゲームが注目されつつあるという。
松原氏の解説によると、北米のプレイステーション 2(PS2)市場ではネットワークアダプタがインストールされているマシンが総出荷量の約10%におよぶ300万台を数えているが、日本ではネットワーク対応したPS2は約3%、40万台程度に留まっている。このことからも日本市場では規模的な魅力が薄く、とくに中国の伸びの前では霞んでしまうようだ。
ただし、中国では、ゲームの内容や表現に政府側から注文が入ったり、PC房の営業に許可がいるなど、各種の方面で許認可が要求されるという独特の事情があるため、一般的な日本メーカーでは中国進出はまだまだ難しく、地元のデペロッパーと連携してサービスインすることが現実的だという。
「では日本での市場は今後はどうなるか」という新氏の問いに対して、松原氏はシリーズ化を伴った寡占化や独占が進むだろうと解答。一方、魏氏は“経路依存症”の問題からも家庭用ゲーム機がどれだけ早くネット対応になるかが重要であるが、マーケティングにはまだまだ余地があるとの感想を示した。
新氏は「日本におけるオンラインゲーム普及の遅れはインフラと長くいわれてきたが、現在はどうか」という点にも参加者の回答を求めた。
松原氏は、ネットワークインフラ以前に「家庭用ゲーム機に慣れすぎている事」を挙げた。その上で、カプコンが発表して約30万本を売った新作MORPG「モンスターハンター」のゲームデザインは、今後の家庭用ゲーム機におけるオンラインゲームのマイルストーンになると評価した。
中村氏は、女性ユーザーの取り込みがいまだ遅れている点を挙げた。中村氏は可愛らしいキャラクタを使ったゲームインターフェイスや、掲示板のようなコミュニケーション手法で女性層を意識する必要性があり、任天堂の「どうぶつの森」のようなゲームのオンライン化が適しているのでは、との感想を述べた。
■ アイテムの現金売買や所有権が課題に
オンラインゲームの課金も大きな問題になりつつあるという。中国ではオンラインゲームのリリース作が多く競争も激しいため、テスト版の無料サービスから有料化への転換が困難になっており、特に毎月一定の料金を要求されることに抵抗が生まれつつあるようだ。
魏氏はこれらの解決のために「部分有料化といった方策が今後増えるだろう」と見ている。毎月の料金は必要なく、ゲーム内のアイテムを購入するために料金が発生するという仕組みだ。これに伴い「ユーザー間の現金をともなったアイテム売買にも真剣に取り組むべき」と魏氏は言及する。
新氏によれば、ここ2年ほどでアイテムの所有権に関する論議は沸騰しつつあるという。とくに最近は、アイテムを自分だけのものと考える人が多く「本来の姿である『自分と運営会社のもの』という認識が少なくなってきている」とした。
アイテム売買について松原氏は、信長の野望 Onlineプロデューサーの立場として「規約に抵触しなければある程度自由にしてもらって構わない」というスタンスを示した。ただし、「ユーザーに提供しているのはあくまでもアイテムの使用権であって、所有権ではない。極論すると、アイテム保護のためだけにゲームを永遠に運営し続けるわけには……」と、アイテム所有権に関する不安もあると付け加えた。
魏氏も「サーバーを閉じる、ゲーム運営を終了する事が大変だという事も、今後はメーカーが認識していかねばらない。これがもしリネージュのような超人気ゲームであればとんでもない事になってしまう」と補足。オンラインゲームの新たな課題を投げかけた。
ディスカッションの終盤では、魏氏がオンラインゲームの今後の用途として、教育分野への応用などに触れた。経済的な要素のあるオンラインゲームを実際に授業で教材として取り扱い、お金儲けといったような課題を実際に学生に課す取り組みを行なっているという。
「ログイン時間に制限を加え、グループ制にして連帯責任にしているが、こうすることでゲームは決して楽しいものではなくなる。ただし課題解決にはゲーム内の市場性を分析するといった学問的アプローチも必要だし、使い方によってはオンラインゲームが教育上のツールとして使える可能性がある」とし、あらゆる分野へ転用できる可能性を示唆、ディスカッションを締めくくった。
■ URL
IGDA日本
http://www.igda.jp/modules/news/
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