アセロス・コミュニケーションズは、米Atheros CommunicationsのCTOであるウィリアム・マクファーランド氏を迎えた技術説明会を開催した。マクファーランド氏は「無線LAN 4つの主要トレンド」と題し、2005年と2006年の無線LANの動向について説明した。
■ 5GHz帯の開放とコストの低減によってデュアルバンドが伸びる
|
米Atheros CommunicationsのCTOであるウィリアム・マクファーランド氏
|
マクファーランド氏は日本市場について「顧客数だけでなくパートナーの企業数も非常に多い市場」とコメント。「Atherosの将来を考える際に、日本市場がどうあるかということも切り離せない存在」とした上で、「日本市場にもAtherosの将来の方向性を紹介したい」と語った。
マクファーランド氏は、「デュアルバンド」「MIMO」「IEEE 802.11n」「新しい無線LANアプリケーション」の4つが今後の無線LANのトレンドになると説明。このうちデュアルバンドについては、ニューヨークの45thストリートの交差点において50ものアクセスポイントが乱立しているというデータを紹介。「干渉を受けないチャネルとしては実質的に3チャネルしか使えない2.4GHz帯のIEEE 802.11b/gでは、アクセスポイントの増加に伴ってパフォーマンスが低下する」と指摘した。
一方、IEEE 802.11aの5GHz帯は世界的な開放が進んでおり、日本でも2005年5月には5.25~5.35GHz帯の4チャネルが新たに開放される予定。また、2006年までには5.25~5.35GHz帯に加え、屋外でも利用できる5.47~5.725GHz帯の11チャネルが世界的に利用可能になる見込み。マクファーランド氏は「2.4GHz帯の3チャネルと5GHz帯の19チャネルの合計22チャネルまで利用可能になることで、5GHz帯はよりフレンドリーな存在になる」と語った。
マクファーランド氏によれば、2.4GHz帯と5GHzの両方に対応するデュアルバンドのチップセットは、シングルバンドのチップセットとほぼ同程度のコストで生産可能だという。マクファーランド氏は2005年以降はデュアルバンド対応の出荷数が大きく伸びるというIDCの予測データを踏まえ、「コストの低減と5GHz帯の再配分により、デュアルバンドが今後のトレンドになる」と語った。
|
|
ニューヨークの45thストリートとAvenue of the Americas交差点では50ものアクセスポイントが2.4GH帯を共有
|
5GHz帯の開放でチャネル数が飛躍的に拡大
|
|
|
左がデュアルバンド、右がシングルバンドのチップ。ワンチップ化によりコスト差がなくなる
|
IDCでは今後デュアルバンドが急速に伸びると予測
|
■ MIMOは既存機器のスループットも向上できる技術
|
MIMO技術の概要。ビームフォーミング(BF)/合成ダイバーシティ(MRC)、空間多重(SM)、時空間符号化がMIMOの基礎技術という
|
2つ目のトレンドとして掲げたMIMOは、複数の送受信アンテナを利用して通信速度を向上する技術。マクファーランド氏はMIMOを構成する技術として「ビームフォーミング(BF)/合成ダイバーシティ(MRC)」「空間多重(SM)」「時空間符号化」を紹介した上で、「空間多重はリンクの両側で新しいデバイスが必要になるため、既存デバイスにはメリットがない」とコメント。一方、ビームフォーミング/合成ダイバーシティはリンクの両側で使用すると最高の性能を発揮できるが、片側だけでも有効であり、既存デバイスであっても性能を向上できる点が違いとした。
そのため既存機器と接続した際のスループットは、空間多重よりもビームフォーミング/合成ダイバーシティのほうが高いスループットを実現できるという。マクファーランド氏は「空間多重もMIMOの技術ではあるが、新しいハードウェアでなければ利用できない技術のため、IEEE 802.11nの標準化を踏まえる必要がある」とコメント、Atherosでの採用は2005年後半以降になるとした。
3つ目のトレンドのIEEE 802.11nは、MIMOをベースとした通信規格で、2007年の正式化を目指して標準化作業が進められている。マクファーランド氏はIEEE 802.11nの包括的な技術を提案する「TGn Sync」「WWiSE」「MitMot」「Qualcomm」を紹介。「前回のミーティングでは、QualcommがTGn Syncに合流し、三菱電機とMotorolaが推進するMitMotは投票の結果却下された」と述べ、現在はTGn SyncとWWiSEの2つに絞られていると語った。
マクファーランド氏によれば、TGnSyncにはAtherosやMarvellといったチップセットメーカーのほか、松下電器産業やシャープ、ソニー、シスコシステムズ、ノキアやサムソンなど、参加企業が多様性に富むという。一方のWWiSEはAirgoやBroadcomなどチップセットメーカーが中心であり、「ミーティングの際の投票でも、132票対84票でTGn Syncが優勢だった」とマクファーランド氏はコメント。「TGn Syncの採用がほぼ確実なのでないか」との見通しを述べた。
IEEE 802.11nのスケジュールについてマクファーランド氏は「最初のドラフトが2004年7月に公開される予定で、そのドラフトの修正を終えた最終的なドラフトが2006年3月くらいになるだろう。2007年には正式規格として展開できるのではないか」とコメント。AtherosではBF/MRCによる既存機器のバージョンアップを行なったのち、2005年後半にはIEEE 802.11nのドラフトに基づいた製品を投入。2006年半ばには正式規格に準拠した製品を出荷できるとの見通しを示した。
|
|
BF/MRCとSMのスループット比較。同じ20MHz幅を使用する場合、長距離ではFR/MRCのスループットが上回るほか、帯域幅を拡大することで更なる高速化が可能に
|
ビームフォーミング(BF)は既存機器のスループットも向上可能
|
|
|
TGn SyncとWWiSEの参加企業状況。前回のミーティングではTGn Syncの投票数がWWiSEを上回ったという
|
IEEE 802.11nの標準化スケジュールとAtherosの取り組み
|
■ 無線LANデバイスの小型化や消費電力低減化にも取り組む
|
無線LANを採用するアプリケーションが拡大
|
トレンドの4つ目は「新しい無線LANアプリケーション」。PCやホームゲートウェイといったネットワーク機器だけでなく、ゲーム機やデジタルカメラといった家電や、携帯電話や自動車といった移動機器にも無線LANが搭載されていくと、新たな無線LAN機器の課題も生じるという。その1つが伝送速度で、マクファーランド氏は「HDTVを伝送するには22~23Mbpsが必要と言われているが、従来の無線LAN機器では、場所によってこの帯域を実現できない場合がある」と指摘。BF/MRCを搭載することでスループット向上が可能になり、「家中でHDTVをカバーできるスループットが得られる」とした。
また、移動機器ではデバイスの小型化や消費電力の低減化が重要になるが、マクファーランド氏は「Atherosはシングルバンド、デュアルバンドともに1チップソリューションを提供した最初の企業」とコメント、ポータブル機器向けの小型化や消費電力の低減は積極的に進めているとした。
マクファーランド氏によれば、消費電力の低減化の一番の決め手は通信プロトコルだという。AtherosのVoIP分野における消費電力低減化の取り組みとしてマクファーランド氏はAPSDプロトコルを紹介。VoIPのパケットとパケットの間をスリープ状態にすることで消費電力を低減し、950mAhバッテリで50時間の連続通話が可能になるとした。
なお、米Airgo Networksでは、すでにMIMO技術を採用した製品を市場に投入しているが、マクファーランド氏は「AirgoのMIMO技術は空間多重化のみで実現している」とした上で、「今のAirgoの技術は、TGn Syncだけでなく、Airgoが参画するWWiSEにも準拠していない。IEEE 802.11nが標準化された場合、現状のAirgoの製品は旧式のものになるだろう」と指摘。また、「Airgoは空間多重のみがMIMOの技術と主張しているが、我々は必ずしもそう思ってはいない。早期の文献を見ても、空間多重以外の技術もMIMOとして言及されているのは明らかだ」と語った。
|
|
APSDプロトコルで低消費電力化を実現
|
BF/MRCの採用でHDTV伝送が可能なスループットを実現
|
|
無線LANの4つのトレンド
|
■ URL
Atheros Communications
http://www.atheros.com/
■ 関連記事
・ Atheros、802.11a/b/gに準拠したシングルチップ無線LANソリューション
・ アセロス、11a/b/g対応シングルチップ構成の「AR5006X」説明会を開催
・ 米Airgo Networksが日本法人を設立、“本物”のMIMO技術を提供
(甲斐祐樹)
2005/03/03 18:00
|