イー・アクセスは30日、特別セミナー「世界の次世代モバイルブロードバンドの動向を探る」を開催した。セミナーではイー・アクセス代表取締役会長兼CEOの千本倖生氏が、「日本の携帯電話市場とモバイルブロードバンドの将来性」と題して講演を行なった。
■ 日本の移動体通信市場は新規参入による競争が不可欠
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イー・アクセス代表取締役会長兼CEOの千本倖生氏
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千本氏はイー・アクセスのこれまでのモバイル事業への取り組みについて紹介。2003年12月に実験局免許を申請して行なったTDD方式の実証実験は「モバイルにおける高速データ通信の大変な経験を蓄積できた」とした上で、2004年9月に総務省が発表したFDD方式による1.7GHz帯の割り当てに「イー・アクセスが一番早く手を挙げて参加した」とコメント。2004年11月から2005年2月にかけて行なわれた検討会については「従来にはなかったパブリックな会合で、透明ですばらしいプロセス。ドコモやKDDIなどとともに有力な候補として招聘され、公の場で戦略を堂々と述べる機会に恵まれた」と高く評価した。
2005年1月には、企画準備会社として100%子会社の「イー・モバイル」を設立。千本氏は「移動体通信の免許をいただけた時点で事業会社化する予定」という方針を明らかにしたのち、2005年1月に富士通と行なった共同実験を踏まえ、3月に1.7GHz帯での実験局免許を正式に申請したという経緯を説明した。
モバイル事業参入の理由について千本氏は、ブロードバンド市場と移動体通信市場の規模を比較。「移動体通信は約8兆という巨大な市場で8,000万ものユーザーを抱えるが、事業者はわずか3社。それに対してブロードバンド市場は1桁小さい7,000億市場の中で、300社以上の事業者が世界でもっとも激しい競争を繰り広げている」。千本氏は「米国や英国、香港では、移動体通信市場で多数の事業者が健全に競争し、使いやすい料金で利益を上げている」と説明、「市場規模から見てブロードバンドの12倍の移動体通信市場にはさらに新しい新規参入が可能であり、ユーザーにとっても望ましい」との考えを示した。
さらに千本氏は「日本は携帯電話先進国と報道されるが、通話量は米国の1/3。データ通信は従量制が中心でなおかつ異常に高い」と指摘。「携帯電話市場は成熟したと言われるが、それは現在のビジネスモデルで考えるから。新たなビジネスモデルを確立することで、移動体通信市場を最低でも10数兆円のマーケットまで育つだろう」との考えを示したのち、「そのためには移動体通信市場でも新規参入を進め、激しくかつ健全な競争が重要になる」とした。
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イー・アクセスのモバイル事業への取り組み
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モバイル市場は固定市場の12倍以上の規模にもかかわらず事業者数が少ない点を指摘
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固定通信市場は世界一になった一方、移動体通信市場はいまだ高額で利用時間も短い
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■ 無線LAN対応や通信モジュール、MVNOなど多彩なサービスを予定
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イー・アクセスがモバイル事業で目指すサービスイメージ
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千本氏によれば、通信市場は固定から移動へ、ナローバンドからブロードバンドへ、という2つの大きい流れがあるという。千本氏は「ブロードバンドへの移行に関しては強力に推し進めてきたが、モバイルの世界の革新は数年遅れている」とした上で、「モバイルブロードバンドの実現だけでなく、固定とモバイルの融合でFMC(Fixed Mobile Convergence)を実現も進めていく。10年後の通信市場はFMCに移るであろうし、イー・アクセスはそのリーダーとなるために注力していく」との意欲を示した。
イー・アクセスがモバイル事業で目指すサービスイメージは「革新性」「安心・使いやすい」「楽しい・創造的」の3つ。革新性についてはHSDPA/HSUPA技術の導入により、規格上で下り最大14.4Mbps、上り最大2Mbpsのサービスを実現するほか、バックボーンのIP化により、音声や動画、オンラインゲームなど柔軟なアプリケーション開発や展開が可能なインフラを構築する方針。これによりアクセス網に依存しないシームレスなサービスが可能になるという。また、シンプルかつ安価な料金体系でユーザーの利便性も図っていくとした。
サービス形態については「大きく2つのサービスがあるだろう」とし、その1つとしてデータ通信重視型のサービスを紹介。オールIP化などによりオープンなネットワークを実現、さらに料金の低価格化や定額化、高速化を推し進めることで、「モバイルをPCと並ぶ情報端末に」との目標を掲げた。また、固定とモバイルのシームレスという観点から、無線LANのデュアル対応も視野にあるとし、「屋内ではADSLや無線LAN、屋外では次世代モバイルと公衆無線LANを併用できる」と説明。携帯電話事業についても「もちろん我々のサービス範疇にある」との意欲を示した。
もう1つのサービス形態として千本氏は「生活エンジョイ型」とのキーワードを挙げ、「今の携帯電話は、テレビやラジオ、音楽といった通信に近いものから、非接触ICまで対応し、利便性や楽しさを重視した生活密着型が一般的になっている」と説明。携帯電話と同様に多機能な端末を開発するほか、通信モジュール化も進めていく考えを示した。通信モジュール化により、ミュージックプレーヤーやデジタルカメラ、ゲーム機などにオンライン機能を付与するといった展開が可能であり、「ユーザーに身近なデバイスをモバイル化する“通話機能を持つデジタル家電”」として需要を拡大していく戦略だという。
MVNOも積極的に検討を進めており、「モバイルコマースやセキュリティビジネス、遠隔医療といった、これまでにない新しいビジネスモデルが構築できるだろう」と千本氏は指摘。「2005年末までに免許が取得できれば、2006年度にはサービスを開始したい。人口カバー率は早期に95%以上を実現したい」との目標を掲げた。
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HSDPA/HSUPA導入で高速化を実現
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ネットワークのオールIP化でさまざまなサービスの実現が可能に
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次世代モバイルと無線LANのデュアル対応も検討
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端末も高機能なものを投入予定
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通信モジュール化で家電市場にも進出
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2006年度中のサービスを目指し、人口カバー率は早期に95%を実現
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■ URL
イー・アクセス モバイルブロードバンドセミナー
http://www.eaccess.net/seminar/
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2005/03/30 20:11
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