300万会員を突破したmixiの独走態勢とも言えるSNS市場において、ポータル最大手のYahoo! JAPANが「Yahoo! 360°(サンロクマル、仮称)で参入した。Yahoo! 360°のコンセプトや今後の展開について、Yahoo! 360°を担当するヤフー メディア事業部の二宮鉄平氏に話を伺った。
■ コミュニティを通じた情報の自動収集やフィルタリングがSNSの魅力
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Yahoo! 360°を担当するメディア事業部の二宮鉄平氏。Yahoo! 360°
のほか、過去にYahoo!メッセンジャーやYahoo!アバターを担当
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Yahoo! 360°。現在は既存ユーザーからの招待でのみ参加できる
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――本日はよろしくお願いします。はじめに、日本でYahoo! 360°を開始した経緯をお聞かせ下さい。
二宮:米国ではすでに2005年3月にYahoo! 360°のベータ版が、5月には正式版がスタートしていますが、そのくらいの時期から日本でもSNSを始めようと言う話や、Yahoo! 360°を日本に持ってこようという話がありました。
ただし、コミュニティサービスは国民性が大きく影響するサービスで、どんなサービスが受けるかは国によってバラバラです。そのため、Yahoo! 360°を日本で始める際には、日本向けのカスタマイズを行ないました。
――どのような点が米国と違うのでしょうか。
二宮:米国にはYahoo!ブログが提供されておらず、Yahoo! 360°は「Social Blogging」と呼ばれています。Yahoo! 360°の参加者でなくても日記やサービスの内容が閲覧できるようになっています。
一方、日本のSNSは招待制かつ検索エンジンで発見されないという点で安心感があり、だからこそ自分の情報をWeb上で書きやすいという面があります。その点を重要視し、ブログ的な外の公開というよりもクローズドで書きやすい環境を目指してカスタマイズを行ないました。
――日本でSNSを提供しようと考えた経緯は。
二宮:最近では、マスメディアが一方的発信した情報をユーザーがただ受け取るだけという形から、ブログなどを通じてユーザーが自ら情報を発信していくスタイルが増えています。そうして情報の量が増えていくと、自分に必要な情報を仕分ける必要があったり、嘘や間違いの情報を見抜くことも必要になる。ブログ検索やRSSリーダーなどを駆使して積極的に情報を収集できる人はいいですが、そうではない多くのユーザーのために、自分に関係する情報をある程度自動的に収集し、フィルタリングしてくれる仕組みが必要になってくると感じました。
日本のSNSは今のところコミュニティーサービスとして利用されていますが、友達の日記やレビュー、参加しているコミュニティの新着情報が通知されるということは、人間関係や趣味である程度情報がフィルタリングされるということです。SNSを居心地のよいコミュニティにしていくことはもちろんですが、その先には人間関係や所属情報に基づいたCGM(Consumer Generated Media)のフィルタリングが重要だと考えました。
――コミュニティよりも情報収集という面が強いということでしょうか。
二宮:情報収集を主眼に置いてしまうとRSSリーダーのようなツールと同じで、自ら情報を取得できる人だけのものになってしまいます。情報収集とフィルタリングを自然にできるところがSNSの良さだと思いますので、コミュニティの場を確立することが、自然と情報収集のフィルタリングにつながっていくと考えています。
■ タグによるアクセスコントロールで安心感や居心地の良さを確保
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タグを使って日記やプロフィールの公開範囲をコントロールできる
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――現在は招待でのみ参加できるYahoo! 360°ですが、今後も招待制を基本とするのでしょうか。
二宮:5月中旬ごろにはYahoo! BB会員やYahoo!プレミアム会員であれば参加できる予定です。招待制のサービスでも信頼感を完全に担保することはできませんが、Yahoo! BB会員やYahoo!プレミアム会員であれば(クレジットカード登録などで)本人確認が取れていますから、そういう方であれば招待がなくても参加できるようにしたい。ただし、それ以外では基本的に招待制を継続する方針です。
――Yahoo! BB会員やYahoo!プレミアム会員が参加できるようになることでユーザーが急激に増えることが予想されますが、そうした中でSNSの安心感や楽しさを維持するための取り組みは。
二宮:SNSは友達がいない状態で始めてもなかなか面白くないという面がありますので、招待なしでYahoo! 360°に参加したユーザーに対して、いかに友達を誘ってもらうか、友達と一緒に使ってもらうかという仕組みは検討しています。友達と一緒であることが信頼性を高める大事な要素でもあるでしょう。
安心感という面では、いくら招待制のサービスでも人数が増えれば問題は出てきます。その時に信頼性を担保し、居心地の良い空間を保つための機能がタグだと考えています。今は友達にタギングできて、日記やプロフィールなど項目ごとにアクセスをコントロールすることしかできませんが、今後はタグを使った投稿ごとのアクセス制限や新着情報のフィルタリングなど、タグをさらに活用していく方針です。
――友達をタギングすることで、友達が順位付けされてしまうという心配は?
二宮:普段の生活の中でも、会社の同僚にする話と家族にする話では内容が違うといったように、ある程度のタギングはされているでしょう。リアルのコミュニケーションをインターネット上で展開するためには、実生活でも行なわれているような話分け、つまりはタグの機能が重要だと思います。
――相手にはタグで限定公開されていることがわかるのでしょうか。例えば自分だけに公開されていた日記とは知らず、公開されていない友達に「あの人の日記見た?」と話してしまうという場面も想定できますが。
二宮:(自分に限定で公開されていることは)何かしら伝えてあげる必要はありますね。ユーザーがつけたタグをそのまま他のユーザーに見せることはしませんが、「何かしら制限がかかっている」ということはわかるような機能にしていきたいと思います。
■ ユーザーのフィードバックで機能を拡充。モバイルも積極的に対応
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携帯電話での閲覧もサービス開始時点から対応。いずれは携帯電話だけでYahoo! 360°のすべての機能が利用できるようになるという
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――今後拡充予定の機能は。
二宮:実装したい機能は山ほどあります。というのも、実際に使って頂けるユーザーの声を聞きながらサービスを開発していくためにリリースを急いだという経緯があるからです。100%のサービスを作ってからリリースしてしまうと、ユーザーの声をサービスに反映することが難しい。まずは完成度が低い段階でリリースし、ユーザーの要望の多いものから対応していきたいと考えました。
今のところ多く寄せられている要望は、ユーザーの検索機能、自分がコメントした他ユーザーの日記の新着情報やコミュニティ機能ですね。検索機能に関しては、自分がそれほど使っていなかったことからプライオリティを落としていましたが、サービスが始まったばかりのタイミングでは必要だと思いますし、米国のYahoo! 360°ではすでに提供済みの機能なので、早急に対応したいと思います。
――Yahoo! 360°ではサービス開始時点からモバイルに対応していますが、Yahoo! 360°にとってモバイルの位置付けは。
二宮:今のところは補完的な位置付けに留まっていますが、今後は携帯電話だけでサービスを完結させたいですし、携帯電話ならではの機能も盛り込みたいと思っています。
日本では「携帯電話でしかインターネットを使わない」という人も大勢いらっしゃいます。Yahoo! JAPANとしてSNSをやるからには、インターネットリテラシの高い方やヘビーユーザーだけでなく、一般のユーザーをどれだけ取り込んでいけるかがポイントでしょう。携帯から気軽に使えることは大きなメリットですので、モバイル対応は力を入れていきたいと思います。
――フィルタリングされた情報というYahoo! 360°のコンセプトから考えると、ソーシャルブックマークも近いサービスに思います。
二宮:ソーシャルブックマーク機能もYahoo! 360°に実装できるといいですね。今ははてなブックマークが盛り上がっていますが、あれははてなユーザーというフィルタリングにかけられた情報です。それと同じことが友達や参加コミュニティでできたら面白いんのではないか。自分に最適化され、友達の間で人気の話題も把握できるソーシャルブックマークはSNSと相性がいいと思います。
――Yahoo!ブログとYahoo! 360°の棲み分けは。
二宮:ブログを書きたいというモチベーションと、SNSの中で日記を書きたいというモチベーションはかなり違うのではないでしょうか。ブログは世間に向けてパブリッシュするという面が強く、検索エンジンでも上位に表示されたりします。対してSNSは日常の中で友達に話すような内容が多く、それはクローズドだからこそ日記を書くモチベーションにつながっているのでしょう。ただ、すでにブログを持っているユーザーもいますので、Yahoo!ブログを含めたブログのRSSをYahoo! 360°で表示する機能などは考えていきたいと思います。
――Yahoo! 360°の日記を外部に公開する機能の可能性は。
二宮:今のところ考えていませんし、それはYahoo!ブログを使ってもらえればと思います。ただ、今までYahoo! 360°で書いた日記をYahoo!ブログに移行したいという要望があれば対応を検討したいと思います。
■ Yahoo!内での連携こそがYahoo!としてSNSを提供する意義
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80近いというYahoo!提供サービスとの連動がYahoo! 360°の武器
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――国内ではmixiが300万会員と大きく伸びていますが、mixiに対してYahoo! 360°ならではの部分とは。
二宮:Yahoo! JAPANがSNSを提供するということの意味は、単なるコミュニティサービスではなく、Yahoo! JAPANが持っている数多くのサービスをつなげていくことにあると思います。コミュニティとして捉えるとmixiには圧倒的な強さがあると思いますが、例えばSNSの友達だけが参加できるオークションや、友達のYahoo!ブログやYahoo!フォトの新着情報を通知するなど、Yahoo! JAPANの中に80近く存在するさまざまなサービスと何かしらの連携ができるところが強みでしょう。Yahoo! 360°は単なるコミュニティというよりも、友達の情報が集まってくるポータルとしてのスタンスを考えています。
――mixi的なサービスと思われるとそれは違う、ということでしょうか。
二宮:もちろんコミュニケーションベースという点では同じSNSですが、さまざまなサービスがつながっていくところがYahoo! 360°の特徴だと思います。ただし、先日始まったmixiニュースなどを見ていると、mixiも同じ方向を目指しているのかな、という思いもありますね。
――Yahoo! 360°とYahoo!各種サービスとの連携で具体的に予定しているものは。
決まっているものはまだありませんが、Yahoo!フォトとの連動は早く対応したいと思っています。また、友達が書いた映画や旅行などのレビューをYahoo! 360°で表示する機能なども実現したいですね。やれることはたくさんあるので、あとはその中で実際に何をするか、どういうプライオリティで実現していくのか。それをユーザーの意見を聞きながら進めていきたいと思います。
――mixiでは18歳未満は参加できない規約になっていますが、Yahoo! 360°の未成年への対応は。
二宮:Yahoo!プレミアム会員であればクレジットカードが必要になりますが、招待であれば未成年でも参加できます。ただし、いわゆる「出会い系サイト規制法」では、明確ではないですが「男女間で検索ができて、相互にメッセージ送受信ができること」が出会い系サイトと位置付けられているようです。そのため、検索機能に年齢制限を入れたり、コミュニティでも未成年にふさわしくないものは参加できないようにするといった対策を講じる予定です。同時にパトロールで未成年にふさわしくない内容のものにフラグを立てるといった措置も行なっていきます。
――SNSというサービスへの期待感などをお聞かせ下さい。
二宮:SNSというとどうしてもコミュニケーションの部分がクローズアップされますが、「ソーシャルネットワークサービス」という本来の意味から考えれば、個人が日記や写真といったさまざまなWebの情報で構成されていて、それがつながり合うことがSNSだと思います。個人のアイデンティティが確立されていて、それがネットワークとしてつながっていることはいろいろな用途がある。今はそれがコミュニティとして機能していますが、情報のフィルタリングや信頼関係を担保した物の売買など、コミュニティ以外の可能性も秘めていますし、これからはそうしたネットワークサービスが登場するのではないでしょうか。
――本日はありがとうございました。
■ URL
Yahoo! 360°
http://360.yahoo.co.jp/
Yahoo! 360°モバイル版
http://360.mobile.yahoo.co.jp/
Yahoo! 360° サービス紹介ページ
http://recommend.yahoo.co.jp/360/
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