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米Airgoに聞く、Airgo True MIMOと「IEEE 802.11n」標準化における現状

 本記事と同時に米国でのIEEE 802.11nドラフト 1.0対応製品の通信速度を計測した記事を掲載した。ただ、ドラフト 1.0自体は、5月に行なわれた投票で可決に必要な75%以上を集められずに否決されている。

 そのドラフト 1.0に対応した製品を発売するメーカーがある一方で、否決された状態のドラフト 1.0が正式版に対応できるかどうか懸念を示すメーカーもある。そのようなメーカーではドラフト 1.0での対応製品を見送るなど対応を異にしており、最終的な規格標準化に向けて混乱している状況だ。

 そこで今回、IEEE 802.11nやWi-Fi Allianceの会合に参加する米Airgo Networksのビジネスデベロップメント部門でシニアディレクターを務めるRolf De Vegt氏に、IEEE 802.11nにおける標準化動向の現状やAirgoの今後の製品展開について、米国・カリフォルニア州にある本社オフィスで話を伺った。


De Vegt氏「True MIMOは他社製品をリードしている」

米Airgo NetworksのRolf De Vegt氏

製品展開ロードマップ
 Rolf De Vegt氏は、2001年1月のAirgo Networks設立当初から参加する創業メンバーの1人。AirgoではMIMO技術を利用した「True MIMO」チップセットを商品化しており、同氏によれば同チップセットはすでに250万個以上を出荷しているという。

 現在同社では、第3世代となるTrue MIMOチップセットの出荷を開始済み。第3世代チップセットでは、無線チャネルを複数束ねて通信の高速化を図る技術「チャネルボンディング」をサポートし、40MHz幅の場合で最大240Mbps(理論値)の通信が可能だという。ただし、日本国内では20MHz幅の利用に限られており、この場合の通信速度は理論値で最大126Mbpsとなっている。

 Rolf De Vegt氏は「競合チップベンダーからは第1世代のMIMOチップセットを投入しはじめたところであり、これまで蓄積したノウハウなどから当社の製品が何歩かリードしている状況にある」と語る。

 また、「True MIMOでは、既存のIEEE 802.11b/gと完全互換性を持ち、同時に利用できることが重要なポイント」とコメント。その一方、「一部独自方式を利用している無線LAN製品では、独自技術部分では高速化を実現できていても、IEEE 802.11b/gモードの製品がうまく利用できないケースがあるようだ」と述べた。

 製品ラインナップとしては、2005年に無線LANルータや無線LANカードといった製品に対してチップセットを提供済み。また、2006年にはパソコン向けにOEM出荷を本格化していくほか、2007年にはテレビやSTB、モデムといったコンシューマエレクトロニクス分野に、2008年には携帯電話やデジタルカメラ、PDAなどモバイル機器向けにもチップセットの提供を進めていく考えだという。なお、第3世代True MIMOをマルチメディアコンテンツの配信に最適化した「True MIMO MEDIA」チップセットも5月に発表している。

 このうち、モバイル機器向けのチップセット開発に関してRolf De Vegt氏は「モジュールの小型化や消費電力などの課題はあるが、将来的な当社の方向性を考えた場合にはこうした分野へのチャレンジが必要になっていく」と意気込みを示す。

 米国におけるリテールマーケットの週間シェア(NPD調査)は、2006年4月8日時点で台数ベースで10%、金額ベースで17%と徐々に拡大傾向にあるという。日本市場では数値は半分程度となるが、「同様に拡大傾向を見せている」と語った。


De Vegt氏「相互接続性に関する議論は十分に行なわれていない」

IEEE 802.11nの現況
 ドラフト 1.0が否決されたIEEE 802.11nの標準化動向について「通常、最初のドラフトで提案が可決されることはないが、今回のケースでは投票に際して寄せられた前回の2,500件前後のコメントから、12,000件へと大幅に増えていた」と語る。そうした中で「相互接続性に関する議論が十分に話し合われていない」と同氏は述べた上で、「にも関わらず、否決されたドラフト1.0を謳う製品が発表・発売される事態になっている」と懸念を示した。

 寄せられたコメントを含め、IEEEで11n標準化に向けて話し合われている課題としては、「チャネルボンディング使用時のIEEE 802.11b/gやIEEE 802.11aとの互換性」「IEEE 802.11nにおける通信方法の取り決め」「アクセスポイントからクライアント側にパワーセーブ指示を出すパワーセーブマルチポール」「送信時ビームフォーミング」があるという。

 このうち、送信時ビームフォーミングについてRolf De Vegt氏は「現在5つ以上の手法が提案されている。しかし、使用可能なオプションをある程度絞り込まなければ、ビームフォーミングの意味がなくなってしまう」とした。


今後のスケジュール見通し 標準化に向け話し合われている項目

11n正式版にファームウェア対応が可能な段階で第4世代True True MIMOを投入

今後の会合スケジュール
 標準化に向けたIEEEの会合は2カ月間隔で行なわれており、次回は7月17日から21日にかけてサンディエゴで会合が開かれる予定。その際はLetter Ballotで寄せられたコメントに対する議論を行なっていくとしている。Rolf De Vegt氏は「その後は9月にドラフト 2.0の提案が行なわれる見込みであり、10月には会合外でも議論が進められるだろう」と見通しを示す。その上で「11月にダラスで開催予定の会合でドラフト 2.0に対するLetter Ballotの結果について協議が行なわれる」と述べた。

 Letter Ballotが75%の賛成で可決された場合には、同投票に参加したメンバーで再度投票(Recirculation Ballot)が行なわれる。可決比率はすべての投票で同様となり、Rolf De Vegt氏は「参加する300以上の投票メンバーはLetter Ballotとほとんど同じで、ここで否決されたケースはほとんどない」と述べた。その後は、100名前後が参加するSponsor Ballot、Sponsor Recirculationへと進んでいくという。

 Rolf De Vegt氏は「最短のスケジュールで標準化会合が進んだ場合、2007年3月頃にはWi-Fi Allianceで認証作業が開始されるのではないか」と述べ、「最も重要なのは標準化作業そのものではなく、標準化作業が完了してからがスタートポイントだ」と強調する。そして、「標準化作業では何をどのように仕組みで送るかについて議論されており、どういう風に製品を作っていくかは書かれていない」と語り、「標準化されたIEEE 802.11nをサポートするとともに、Wi-Fi Allianceでの相互接続性認証テストに合格した製品を市場に投入していくことが最も重要になるのではないか」とした。

 Airgoとしては、「ファームウェアやソフトウェアのアップグレードでIEEE 802.11nの正式版に対応できる状態で、第4世代のTrue MIMOチップセットを投入したい」考え。Rolf De Vegt氏は、各調査会社の資料を総合した今後の無線LAN市場動向について、「2007年にはIEEE 802.11n製品が市場の3割程度、2008年には6割程度とIEEE 802.11bからIEEE 802.11gへ移行したような流れになる」とIEEE 802.11nの普及見通しを語る。その上で「量産効果も上がり、価格も下落傾向になる中で当社の製品は価格競争力を持ったものになる」と、市場が本格化した際における同社製品群に対する自信を示した。


無線LAN市場の拡大見通し 無線LAN市場における11n製品の普及割合見通し

関連情報

URL
  Airgo Networks
  http://www.airgonetworks.com/

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(村松健至)
2006/07/10 11:05
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