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コンセントからインターネットへ~東京電力が考えるPLC技術

 どの家庭でも普通にあるコンセントを使ってインターネットにつなげる技術、それがPLC(電力線搬送通信)だ。東京電力ではこのPLC技術について、実証実験を総務省へ申請、3月22日に許可を取得した。今回のPLC実験概要とその技術の将来性について、東京電力に話を伺った。





コンセントを使って家中どこでもインターネット

電子通信部 通信インフラ技術マネージャー 工学博士の木村博茂部長
――まず、電力線インターネット、いわゆるPLCとはどういったものなんでしょうか

木村氏:そもそもPLCというのは「Power Line Communication」の略で、配電線を使って通信を行なう技術のことを指します。ブロードバンドには光ファイバやDSLなどがあるわけですが、PLC自体はかなりの部分、DSLと技術的に類似したものです。現在、2~20MHzの周波数帯がPLCの実験用途に限定して割り当てられています。

 PLCの大きな特徴は、通信のために新たなインフラを必要としない点です。部屋のコンセントを使ってインターネットへ接続できるのです。理想としては家の中のすべてのコンセントで使えるようになればいいなと考えています。そうすれば、ノートパソコンでのインターネットが家の中のどこでも使えるようになりますから。

――なるほど。やはりコンセントに繋げば即インターネット! というのはライフラインとしてのインターネットの究極の姿のように思えます。気が早い話ですが、実用化の見込みはいかがでしょうか

木村氏:ヨーロッパの場合ですと、DSLや光ファイバのようなブロードバンド環境が整っていないせいもあり、PLCがすでに導入されている所が結構あります。しかし日本の場合は海外とちょっと事情が異なりまして、すぐにサービス、という段階はまだまだ先かと思います。

 日本では非常に密に電波が飛んでいる関係で、電力線から漏れた電波が既存の無線施設へ与える影響が無視できません。通信法でも制限されていまして、我々としてもこの問題をクリアしなければならないと思っています。

 今年の1月26日以降、総務省が実験範囲でのみ2~20MHzの周波数帯を解禁しました。我々も3月から実験を行ない、データを分析していますが、その目的はあくまでも漏洩電界を減らす技術の検証ということでして、実用化に向けて、ということではありません。

――現状ではまだ実用化が難しい、ということですね。しかし、逆に言えば、他への影響を調べるという段階に来ているということは、技術的にはもうすでに十分実用化の域に達している、と思ってよろしいのでしょうか

木村氏:そうですね。今の懸案は、ほかの無線に対してどの程度の影響を与え、もしそれが問題があるならば、それをどうやって解決するかということのみです。法整備が進めば、一気に来る可能性はあるでしょうね。もっとも、商用サービスとしてどのようなものを提供するか、といった段階ではありませんが……。





現段階では光ファイバと組み合わせたサービスを想定

電子通信部 通信サービス開発グループマネージャーの谷脇芳正部長
――東京電力では光ファイバサービスの「TEPCOひかり」も提供していますが、PLCが実用化された暁には、TEPCOひかりとはどのように共存していくのでしょうか?

木村氏:決して、光ファイバと競合するものではないと考えています。ブロードバンド環境が貧弱な欧州では、すべての回線区間を電力線でまかなうこともありますが、日本では光ファイバも整備されつつあります。建物のすぐ側まで光ファイバで持ってきて、そこから建物に入れる方法としてPLCを使う。そういう用途を基本に考えています。

 (現状のブロードバンドは)なかなか光ファイバが引き込めないとか、ADSLではスピードが出ない、電話局が遠い、といったことで利用者を選ぶサービスになってしまっています。マンションの中にも通信設備がありませんから、新たにVDSLの機器を置く場所が必要で、さらに管理組合などで承認が降りた場合でなければ工事できない、というケースもあります。そういうところに光ファイバを引き込む方法として有効に使えますよね。

 もちろん、光ファイバを敷設できない地域もありますので、直接電力線によるインターネット回線を引く、ということも考えられますが、これは法整備の問題からもそう簡単ではないでしょう。

谷脇氏:現状を考えると、日本において、変電所からインターネット回線を家庭まで引くということは不可能だと思っています。やはり、電波漏れの問題が大きいですから。それを少なくするためにはやはり、家の近くまでは光ファイバで持っていって、そこから宅内に引き込むためのものという風に捉えています。

――つまり、現段階では、PLCという技術は回線として使われるのではなく、分配する技術と理解した方がいいということですね? 光ファイバへの接続先として、我々が普段使っているコンセントが用いられると。

谷脇氏:その通りです。欧米ではインフラが日本と比べて進んでいませんので、変電所から家庭まで回線を引く技術として使われている例もありますが、日本では漏洩電界の問題で難しいでしょう。PLCは光ファイバを補完するものとして捉えて頂いた方がよろしいかと思います。

山田氏:今ではVDSLなんかで集合住宅内の配線をするのが一般的ですが、やはり機器設置の問題がありますので、それを置換えられるのはPLCの大きな利点ですね。


PLCの実証実験に利用されるモデム子機 ホームネットワーク用途に利用するモデム親機




“ラストワンヤード”を解決する技術

新事業推進本部 情報通信事業部 通信放送事業グループマネージャー兼電子通信部の山田文雄氏
――PLCは基本的に集合住宅がターゲットの中心になる、ということしょうか?

木村氏:一戸建て住宅に関しては、やはり漏洩電界の問題がどの程度クリアできるか、ということがより重要になるので難しい部分はありますが、電柱まで光ファイバで来て、そこから引き込むだけなので、さほど影響は大きくないとは思っています。ただ、事業者として考えたとき、ひとつの機器を設置するだけで多くの契約を見込めるマンションの方がビジネスとして効率がいいのは確かです。

谷脇氏:最近の一戸建てだと、隠蔽配管ですとか機密性が高くなってまして、光ファイバを引き込むのだけでも大変なところがあります。PLCならば家に穴を開けなくても済むわけですから、こういうところにもアピールしていきたいですよね。

――よく言われる“ラストワンマイル”の問題解決の切り札、といえそうですね

木村氏:いや、ワンマイルは長すぎるでしょう。“ラストワンヤード”でしょうかね(笑)。理想的には家庭内の工事もなく済ませられればいいと思っています。

家庭の中でも問題があって、すべてのコンセントで使うには出力を上げなければいけません。出力を上げれば当然のことながら、ほかの無線への影響も大きくなりますから、そこの兼ね合いは非常に重要なポイントですね。なるべく小さいパワーでどこでも届くようにしていくことも今後の課題の1つです。いろいろな技術がありますが、PLCはコンセントに差せばインターネットが使える。これはやっぱり強みだと思います。

――最後に、実用化に向けての大まかなスケジュールをお聞かせください

木村氏:細かい時期は申し上げられませんが、やはり一番大変なのは法改正ですよね。PLCは既存施設のジャマはしませんよ、という我々の主張を受け入れて頂くにはそんなに時間はかからないと思います。ただ、PLCの導入自体に反対してらっしゃる方もいますし、統一した場で話し合いを持つことは必要でしょう。電波法の改正はそのあとですね。

――本日はありがとうございました。


関連情報

URL
  東京電力
  http://www.tepco.co.jp/

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(伊藤大地)
2004/04/14 14:25
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