大手ISPやポータルサイトが次々に参入、2004年に大きく拡大した音楽配信サービス。購入した楽曲のCD書き込み対応や、CD発売前に音楽配信サービスで先行販売するといった試みも行なわれはじめた。実際に音楽配信サービスを試用、利便性などをレポートする。
■ 国内の音楽配信サービスはWMAとATRAC3の2種類
現在、日本国内で提供されている音楽配信サービスは、楽曲のフォーマットで大きく2つに分かれる。1つはMicrosoftが開発した「WMA(Windows Media Audio)」、そしてもう1つがソニーが開発した「ATRAC3(Adaptive TRansform Acoustic Coding 3)」だ。どちらもMP3と異なり著作権管理技術(DRM)に対応している点が特徴で、WMAはWindows Media DRMを、ATRAC3はOpenMGをサポートする。
2つのサービスの大きな違いとしては、対応するポータブルオーディオプレーヤーが上げられる。ATRAC3は元々MD向けの圧縮技術であり、ATRAC3に対応した製品はソニーが中心。一方、WMAは東芝の「gigabeat」シリーズをはじめ、クリエイティブメディアなど採用メーカーが多い。また、ソニー自身発表会の場などで、ATRAC3だけにこだわっていたことを反省し、今後はMP3対応など、自社技術のみにこだわらないオープンな対応を行なっていく考えを明らかにしている。
音楽配信サービスでも、ATRAC3のみに対応するサービスは「Yahoo!ミュージックダウンロード」など数えるほど。エイベックスの「@MUSIC」ではATRAC3とWMAを併売し、ソニー系列のレーベルゲートでも、ATRAC3対応の「Mora」に加えて、WMA対応の「MusicDrop」を立ち上げた。こうした流れを踏まえ、今回はWMA対応の音楽配信サービスを選択、実際にサービスを試用した。
なお、ポータブルオーディオプレーヤーで爆発的な人気を見せているiPodシリーズは、MP3のほかに「AAC(Advanced Audio Coding)」を採用している。AACもDRMには対応しているが、海外ではAppleの音楽配信サービス「iTunes Music Store」があるものの、AACを採用した音楽配信サービスは国内には存在しない。ポータブルオーディオプレーヤーで大きなシェアを占めるiPodは、残念ながら国内の音楽配信サービスを利用できないのが現状だ。
■ 意外に使いでがある「転送回数3回」
まずは楽曲の選択から。音楽配信ならではのサービスということで、エイベックスへの移籍で話題を呼んだ鈴木亜美の「Hopeful」を購入した。エイベックス移籍後のシングル第1弾は3月24日発売の「Delightful」だが、Hopefulはシングル発売に先駆け、2月14日から音楽配信サービスのみで限定販売されている。今回はエイベックスの運営する「@MUSIC」で楽曲を購入した。
@MUSICでは、楽曲を購入する前に該当のページからファイルをダウンロードする。ダウンロードしたファイルは拡張子が「wmd」となっており、これをダブルクリックすることで購入手続きに進むという流れだ。購入が終わると、Windows Media Playerで指定されたフォルダ内に拡張子「wma」の楽曲ファイルが作成され、PCで再生できる。一度購入した楽曲ファイルはコピーも可能で、ファイル名を変更しても再生が可能だ。
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はじめにwmd形式のファイルをダウンロード
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wmdファイルをダブルクリックするとライセンス購入画面が立ち上がる
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決済方法はISPやプリペイドカード、イーバンクなど多彩
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支払いが終わるとライセンスキーが発行され、楽曲の再生が可能になる
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再生画面。アーティスト画像も自動で表示する
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ただし、購入した楽曲ファイルはそのままではポータブルオーディオプレーヤーで再生することはできない。これは楽曲ファイルの不正なコピーを防ぐために、前述のDRMが楽曲ファイルに施されているからだ。東芝製の「gigabeat G5」の場合、専用アプリケーションではエラーが表示されてコピーできない。また、マスストレージクラス対応のiriver製「iFP-890」の場合は、本体へこそコピーできるが、実際には「WMA DRM」と表示されて再生できないようになっている。
このため、ポータブルオーディオプレーヤーで再生するには、本体へDRM情報を書き込む必要がある。今回は東芝製のポータブルオーディオプレーヤー「gigabeat G5」を使い、実際に楽曲転送を行なった。なお、gigabeat G5はWMA再生に対応するが、音楽配信サービスなどで購入したDRM対応のWMAは付属のアプリケーションでは転送できないため、WM DRMに対応したWindows Media Player 10が必要になる。また、iFP-890の場合は、同梱のアプリケーション「iriver Music Manager」を使って転送が可能だ。
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gigabeatの専用アプリケーションではDRM対応のWMAを転送できない
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マスストレージクラス対応の「iFP-890」では、本体にコピーしても「DRM WMA」と表示されて再生できない
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Windows Media Playerからポータブルオーディオプレーヤーへ転送する場合は、画面上部の「同期」をクリックする。Windows Media Player 10はデジタルオーディオプレーヤーとの自動同期機能をサポートしているため、対応プレーヤーであればPCに接続するだけでWindows Media Playerに認識される。Windows Media Player 10はgigabeat以外にも、クリエイティブメディアやiriver、Rioなど約40種類のプレーヤーに対応している。
gigabeatをWindows Media Playerが認識したら、転送したい楽曲ファイルを左側にドラッグ&ドロップで登録し、「同期の開始」をクリックすれば転送が始まる。いったん転送した楽曲ファイルはPC内での取り扱いと同様、ファイル名の変更やコピーなどを繰り返しても何度も再生可能だ。gigabeatの場合、楽曲ファイル拡張子が「.SAT」形式の暗号化が施されるが、このファイルをPCへいったん取り出し、改めてgigabeatへコピーした場合でも、著作権管理をgigabeat側で認識しているために何度でも再生できる。マスストレージ対応のiriver製「iFP-890」でも同様で、一度Windows Media Playerで転送すれば、あとはドラッグ&ドロップで本体へ直接コピーしても再生できる。
音楽配信サービスでは、ポータブルオーディオプレーヤーへの転送回数を3回に制限しているところも多いが、同じポータブルオーディオプレーヤーへ何度も転送するのであれば、転送可能な残り回数は減少しない。何台ものプレーヤーを使い分けているというのでもなければ、転送回数は数字から受ける印象以上に長く使えるのではないだろうか。
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Windows Media Player 10の同期機能でgigabeatに楽曲を転送
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転送した楽曲をgigabeatで再生
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■ 一部レーベルの楽曲はCD書き込みにも対応
東芝EMIやワーナーミュージック・ジャパンなど、一部の音楽レーベルの楽曲は、CD書き込みにも対応している。今度はオリコンのWebサイト「ORICON STYLE」で開始されたばかりの音楽配信サービスから、CD書き込みに対応した宇多田ヒカルの楽曲「DISTANCE」を購入、CD書き込みを実際に行なった。
@MUSICと異なり、ORICON STYLEははじめに料金を支払い、DRM処理が終わったWMAファイルを直接ダウンロードする方式。@MUSICのWMDファイルの場合、実際のWMAファイルが作成される場所がわからないユーザーもいるかもしれない。この方式の方がより直感的に使えると感じた。
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ORICON STYLEでは決済の後にWMAファイルをダウンロード
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購入完了画面
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CD書き込みも同様にWindows Media Player 10を使って行なった。CD-Rをドライブにセットし、画面上部の「書き込み」をクリック。転送と同様、書き込みたい楽曲を左側の書き込みリスト内にドラッグ&ドロップで登録、「書き込みの開始」を押すだけでCDが完成する。CDへ後から楽曲を追加することはできないので、書き込む際は間違いのないよう注意が必要だ。
作成したCDのファイル形式は、音楽CDと同じCD-DA方式に変換されている。そのため、音楽CDと同様にWAV、WMA、MP3、AACなど、自分の好きな形式に変換が可能だ。とはいえ、できることは自分で購入した音楽CDと同じであって、やっと音楽配信サービスが同等の使い勝手になったというところだ。また、変換する手間を考えれば、ポータブルオーディオプレーヤーのユーザーにとってはCD書き込みよりも転送回数無制限のほうが利便性は高いだろう。
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CD書き込みは転送とほぼ同じ操作
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作成したCDは通常の音楽CDと同様CD-DA形式のファイルに変換される
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■ オンラインならではのメリットを活かした今後の展開に期待
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歌ネット
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シングルが1曲100円程度でレンタルできることを考えれば、まだまだ音楽配信の楽曲は割高かもしれない。しかし、レンタル店へ出向かなくても好きなときに購入できる、最初から楽曲情報が付与されているといったメリットも大きい。CDと比べて歌詞カードなどは用意されていないが、「歌ネット」などの歌詞検索サイトも併用すると便利だろう。また、今回は取り上げていないが、ATRAC3形式の音楽配信では、楽曲に合わせて歌詞を配信するサービスも行なっている。
前述の鈴木亜美のように音楽配信限定、もしくは音楽配信で先行販売するという試みも進んでいる。また、現在もっとも人気のあるアップルコンピュータのiPodに対応した音楽配信サービス「iTunes Music Store」も、日本でのサービス提供が検討されている。楽曲数や価格など課題は多いものの、好きなときに楽曲が買えるメリットも大きい。2005年に音楽配信サービスがどのような動きを見せるか、大いに期待したいところだ。
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(甲斐祐樹)
2005/03/31 11:17
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