■リンク速度がアップすると噂の製品
NTT-MEから発売された「MN7320」は、ルータ機能を内蔵したADSLモデムである。12MbpsのADSLサービスを含む非常に多くのADSL事業者に対応するのが特徴で、表1のとおり計7社に対応する。ちなみに、フレッツ・ADSLとイー・アクセスについてはWebサイトに記載されている対応モデムには含まれておらず、本製品はNTT-ME独自のチェックにより対応とうたっているようだ
また、一部ではフレッツ・ADSLやイー・アクセスでレンタル提供される純正のADSLモデムよりも安定度やリンク速度が上昇するという噂もあり、このあたりもぜひテストしてみたいところである。
表1:対応するADSL事業者とサービス |
速度 |
NTT東西 |
イー・アクセス |
STNet |
TOHKnet |
CTnet |
HOTnet |
HTnet |
12Mbps |
○ |
○ |
○ |
○ |
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8Mbps |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
1.5Mbps |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
それでは、まず外観から見ていこう。本製品はシルバーのプラスチック製のボディである(写真1)。縦置きスタンドが付属しており、横置き、縦置き両方に対応する。ちなみに、同社がこれまでに発売しているMN7310、MN7300によく似た形状だが、よく見るとサイズが小さくなり、形が左右対称になっているのも面白い。
前面にはLED類が並ぶ(写真2)。上から順に、電源/ADSL回線リンク/PPPリンク/ステータス/LANの各ポート、と並んでおり、各LEDは状態に応じて発光される色が変わる。これだけのLEDが並んでいれば、本製品のほぼすべてのステータスを前面LEDだけでつかめることになり、非常に便利だ。
背面はコネクタ類がまとまっている。(写真3)。本製品はイーサネット-イーサネットのルーティングには対応しないため、WAN側ポートとして装備されるのはLINEコネクタのみとなる。そのほかは、設定初期化スイッチとLANポート×4となっている。
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写真1
横置き用のゴム足が標準装備されるほか、縦置きスタンドも付属する。縦置き時のサイズは60(W)×122(D)×165(H)mm |
写真2
狭い前面によく詰め込まれているLED類。本製品使用時は、ぜひLEDを確認できる位置に設置しておきたい |
写真3
背面はオーソドックス。WAN側はADSL回線をつなぐLINEコネクタのみ。LANポートはすべてAUTO
MDI/MDI-Xに対応する |
ACアダプタはかなり大ぶり(写真4)。電源のショートケーブルなども付属しないのでコンセントに差し込めるか確認が必要だ。そのほかの付属品は、スプリッタ(写真5)、紙マニュアル、初心者向けの簡易マニュアルシート、電話線(3m)、LANケーブル(2m)といったところである。
内部構造は、写真5のようにきわめてシンプルである。プロセッサにはBroadcomのBCM6345KPB(写真6)が使われている。このBCM6345シリーズは、ルータ機能付きADSLモデム向けに作られたMIPS32ベースのプロセッサで、昨年6月にリリースされたばかり。G.dmt/G.Lite双方に対応するADSLトランシーバとAFE、100BASE-TX/10BASE-TやUSB
1.1の物理層までのコントローラなどがワンチップに収められ、すべて内部インターフェイスで接続されている。また本製品では利用されていないが、BCM6345シリーズには外部拡張バスも用意されており、PCMCIAの無線LANカードなどを拡張することもできる。将来的にはこうした構成の製品がでてくる可能性もあるだろう。
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写真4
かなり大型のACアダプタが付属する。OAタップを利用する人はショートケーブルの購入が必要 |
写真5
スプリッタはNECトーキンのPSR-1180が付属する |
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写真6
プロセッサを中心にしたシンプルな構成。プロセッサ以外に目に付くチップはSDRAMとLANスイッチの物理層コントローラぐらい |
写真7
ADSLモデムの機能とルータ機能、USB 1.1ポートなどを1チップに収めたBroadcomのBCM6345シリーズが採用されている |
■強力なNAT機能に注目の設定画面
それでは、設定画面を見ていこう。設定はWebブラウザで行う一般的な方法が採用されている(画面1)。
最初に表示される「おまかせ設定」という画面は、本製品が対応するADSL接続事業者を選択し、あとはユーザーIDやパスワードなどの必要最低限の項目を入力すれば、接続設定が完了する設定機能だ(画面2)。PPPoEとPPPoAなどを意識することなく設定が完了するのは便利である。
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画面1
Webブラウザで行なう一般的な設定。デフォルトのIPアドレスは<192.168.1.1> |
画面2
利用しているADSL事業者を選択するだけの簡単設定。なおTOHKnetへはファームウェアVer.1.13で対応 |
またこうした接続先・接続方法を複数設定しておき、状況に応じてどの接続を利用するかも選択できる(画面3)。こうした設定はADSLモデムでは一般的な機能ではあるが、きっちり押さえられている。
ちなみに、接続設定にはもう少し細かな設定が行える画面も用意されており、こちらでは自動切断までの時間や、IPアドレスの取得方法(DHCP/固定)を指定できる。またキーブアライブ機能も搭載しているので、常に接続しておきたい人のニーズにも応えている。
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画面3
あらかじめ複数の接続設定を用意しておき、TPOに応じて使い分けることも可能 |
画面4
PPP接続の設定画面。キープアライブ、自動切断に対応。MTUも、管理者モード(adminモード)でログインすれば基本設定(接続先設定)画面から設定可能 |
また今年1月にリリースされた最新のファームウェア(Ver.1.13)では、PPPoEのマルチセッション接続にも対応している(画面5)。
接続設定の画面が豊富のわりに、LAN側の設定は1枚の画面に収められシンプルにまとまっている(画面6)。とはいえ、DHCPのリース時間、割り当て個数など必要最低限のニーズは満たしているといえる。ただし、割り当てを除外するIPアドレスや静的な割り当ての指定は行えない。
画面5
最新ファームウェアでは、PPPoEのマルチセッション接続に対応した |
画面6
LAN側の設定。基本的な事項のほか、ProxyARPへの対応など、企業向けニーズも押さえている |
パケットフィルタリングは2通りの画面が用意されている。一つはワンタッチ設定と呼ばれるもので、あらかじめ用意された設定を利用し、適用するかをチェックボックスで選択するだけの簡単なもの(画面7)。どれも基本的な事項であり、特別な理由が無い限りはすべてチェックして利用したいところ。
もう一つの画面は、ほかのルータ製品でもよく見られるポート番号を指定したフィルタリングの指定である(画面8)。パケットの方向や送信元IPアドレス、処理方法なども指定できる、かなりしっかりしたものとなっている。
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画面7
パケットフィルタリングのワンタッチ設定。難しい知識は必要なく、最低限のセキュリティを簡単に施せる |
画面8
処理するパケットを手動で設定することもできる。内容も充実 |
もう1つ、LAN側から本製品の設定画面へのアクセスを制限する機能もついている(画面9)。家族での利用やオフィスでの利用時に、管理する人(PC)を制限できるものだ。家庭などでの利用でこの機能が役に立つシーンは正直言って思いつかないが、オフィスなどで管理を厳密に行いたい場合には便利だろう。
NAT機能は他社製品と比べてもかなり強力なものが用意されている。まずは「NATアドレス変換」である。この設定はWAN側のリクエストを判断し、IPアドレスだけを変換して特定のLAN側クライアントに送信するものである。パケットフィルタリングと同様に、ワンタッチ設定(画面10)と、直接指定する画面(画面11)の2通りが用意されている。また、IPアドレスとともにポート番号も変換してしまう「NATアドレス・ポート変換」も用意されている(画面12)。
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画面9
本製品の管理画面へのアクセスを制限する機能。主にオフィス向けの機能といえる |
画面10
NATアドレス変換のワンタッチ設定。ニーズが多そうな部分は簡単に設定できるよう配慮されている |
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画面11
NATアドレス変換の詳細な設定。この機能だけでも個人ユースでは十分こと足りるだろう |
画面12
さらに複雑なネットワーク構成を考えている場合に役立つNATアドレス・ポート変換 |
他社製品ではIPアドレスとポートの両方を変換できるNATを装備していても一つの画面に収まっていることが多い。この画面を別々に設けると、管理の面では整理しやすいのかも知れないが、手間が増える点ではデメリットともいえる。
ここまでは通常のNATを利用したIPアドレス・ポート変換を行うルータとしての機能であるが、本製品ではグローバルIPを利用するアプリケーション(ゲーム)に対応させるための機能として「GapNAT」機能を持っている(画面13)。
これは、ルータとクライアントPCのネットワーク設定を同じものにすることで、あたかもクライアントPCがADSLモデムをブリッジしてインターネットに接続しているかのように見せかける機能である。詳しくは、この記事を参照されたい。
この場合、グローバルIPを付与されたクライアント以外は通常のプライベートIPアドレスが割り当て、ルータはNATルータとしてIPアドレス変換を行うことになる。
また、複数のグローバルIPアドレスを取得している場合でも、上記と同じ概念で接続が行える「マルチGapNAT」機能も用意されている(画面14)。これはUnnumbered
PPPoEと違い、プライベートIPアドレスを割り当てるクライアントも1台のルータで制御できる。
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画面13
クライアントPCから直接インターネットに接続しているように見せかけるGapNAT機能を装備する |
画面14
GapNATを複数IPアドレス対応としたマルチGapNAT。プライベートIPアドレスを割り当てるクライアントとの混在が可能 |
■ADSLプラスでリンク速度アップを確認!
さて、冒頭でも紹介したとおり、本製品を利用するとフレッツADSL モアなどでレンタルされるモデムよりもリンク速度や安定度が増す、という噂がある。安定度というのは数値で示しにくいものであるので、ここではリンクアップ速度が向上するかどうか確認してみよう。
ちなみに本製品ではリンクアップ時のキャリアチャートを出すことができ、ISDNノイズサンプルやラジオノイズの周波数帯を表示することもできる(画面15)。速度が出ないときの原因分析などに重宝しそうだ。
今回はイー・アクセスの12Mbpsサービスである「ADSLプラス」の回線を利用し、ADSLプラスを契約したときにレンタルしたNECアクセステクニカのAtrem DR202Cを比較対象としてリンクアップテストを行った。距離や伝送損失などは下記のとおり。
場所 |
首都圏某所 |
線路距離長 |
1,720m(NTT東日本データベースより) |
伝送損失 |
27dB(NTT東日本データベースより) |
表2:リンクアップ速度(Kbps) |
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下り |
上り |
機種 |
MN7320 |
DR202C |
MN7320 |
DR202C |
1 |
8,032 |
7,456 |
896 |
1,024 |
2 |
7,584 |
7,456 |
896 |
1,024 |
3 |
8,064 |
7,424 |
896 |
1,024 |
4 |
8,000 |
7,936 |
896 |
1,024 |
5 |
8,064 |
7,936 |
896 |
1,024 |
平均 |
8,032 |
7,616 |
896 |
1,024 |
結果は表2のとおり。テストは5回行い、最も良い値と悪い値を除いた平均値を算出している。上りこそDR202Cに劣ってしまったが、下り速度は平均で400Kbps以上の速度アップが見られた。400Kbpsの速度上昇とはかなりのもので、本製品に対して魅力を感じさせるに十分である。もっともその分、上り回線は128Kbpsほど速度が低下しているのがちょっと残念である。
なお、同じく首都圏某所で、イー・アクセスの1.5Mbps回線でもテストを行った。こちらでレンタルしているモデムは住友電気工業のMegaBit Gear TE4121Cで常に1536Kbps(下り)/512Kbps(上り)でリンクアップできていた環境である。こちらも本製品に置き換えてテストしてみたが、速度が落ちることはなかった。
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画面15 キャリアチャートを表示できる。ラジオノイズは全国の主要6都市があらかじめプリセットされており、手動で3箇所まで追加することができる |
■強力なルータ機能とリンク速度アップが魅力的
最後に本製品の価格だが、定価で19,800円。都内の量販店では17,800円程度で販売されている。ADSLモデム内蔵ルータとしては、可もなく不可もなくといった価格帯である。
しかしながら、(すべての環境で期待できる話ではないとはいえ)リンクアップ速度が向上する可能性を秘めたADSLモデムであり魅力的ではある。また、機能もルータ単体製品に見劣りすることはない強力なものである。
WAN側のイーサネットポートを持っていないため、今後FTTHなどへの移行を考えている人には手が出しづらいのも事実だが、しばらくはADSLの12Mbpsサービスで乗り切ろうと考えている人にとっては、かなり興味深い一品であることに間違いない。
■注意
・分解を行なった場合、メーカーの保証対象外になります。また、法的に継続使用が不可能となる場合があります。
・この記事の情報は編集部が購入した個体のものであり、すべての製品に共通するものではありません。
・この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はBroadband
Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません。
・Broadband Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。
□MN7320 製品情報
http://www.ntt-me.co.jp/mn/mn7320/index.html
(2003/02/07)
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