■文庫本以下のサイズながらスループットは70Mbps超
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写真01 比較対象はたまたまあったパイオニアの「DVR-A06-J」である。実際、かなりコンパクトに感じる |
アイ・オー・データ機器から発売された「NP-BBRP」は、“文庫本サイズ”を売りにするほど小型なブロードバンドルータである。小型ルータといえば、本連載でも以前に取り上げたことがあるリンクシス・ジャパンの「BEFSR41C-JP」を思い浮かべる人も少なくないと思うが、文庫本サイズの売り込みが本当であれば、さらに小型な製品であることは予想に難くない。
また、これほどの小型ルータでありながら、実効スループット73Mbpsが公称されており、パフォーマンスもまずまずのようである。それでいて定価4,200円、実売価格では4,000円を切る安価な製品になっており、小さなボディに詰め込まれているであろう内部構造ともども気になるところ。さっそくチェックしてみることにしたい。
本製品を見て、まず驚かされるのが外箱の小ささだ(写真01)。外箱をDVD-Rドライブに重ねて撮影したものだが、サイズがDVD-Rドライブより一回り小さく、厚みもほぼ同等というコンパクトさである。外箱が小さければ、特に徒歩や電車での購入後の持ち帰りにかさばらないというメリットがあるし、「外箱は保管しておく派」の人にとっても魅力的に映るだろう。少なくとも外箱が無駄に大きい製品よりは好感が持てる。
肝心の製品本体を見てみると、売り込みどおりかなり小型な純白のボディである(写真02)。サイズは128×26×90mm(幅×奥行×高)となっているが、これだけだとちょっとイメージしずらいかも知れない。そこで同社の謳い文句を検証してみるべく、文庫本に重ねて撮影してみたが(写真03)、ご覧のとおり文庫本よりさらに小さいサイズであり、後述の縦置き台を用いたとしても高さは文庫本サイズ以下である。ちなみに厚みは(写真04)の程度である。ちょっと厚みのある文庫本と同等といったところだろうか。いずれにしても、かなり小型の製品であると思っていただいて間違いない。
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写真02 飾り気のなさが逆に好まれそうな純白のボディ。前面には「Palmtop」の印刷も見受けられ、メーカーの本製品に対する自信も感じさせる |
写真03 文庫本サイズというよりは、それよりも一回り小さい。丁度これと同じサイズのモノが手近には見つからなかった |
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写真04 厚みの比較。本文442ページの「ヴァリス」より、ちょっとだけ厚い程度 |
さて、サイズの話はこのぐらいにしておいて、そのほかのパーツについて見ていこう。まずはLED類のチェックだ。多くのルータで前面に配置されているLED類だが、本製品では本体上面に配置されている(写真05)。LEDをチェックしたい人などは「棚などに置いたときに見づらい」というデメリットもあるが、逆に「常にチカチカしているのは鬱陶しい」と感じる人にはメリットともなり得る。この配置については好みが分かれそうだ。
ポート類は背面に用意されている(写真06)。WAN×1、LAN×4という一般的なポート数であり、とりあえず過不足は感じない。
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写真05 本体上面のLED類。LAN各ポートのインジケータもあるし便利なのだが、設置場所によってはチェックしずらいのも事実。好みの分かれそうな配置だ |
写真06 背面はいたってシンプル。WAN、LANの全ポートがAuto-MDI/MDI-Xに対応する点は便利である |
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写真07 本製品は縦置きも可能で縦置き台が付属。上面のデザインも縦置きを考慮したものとなっている |
写真08 ACアダプタも製品本体に負けない小型のものが付属されている |
このほか付属品にも目を向けておくと、本体を縦置きするための台(写真07)、ACアダプタ(写真08)、LANケーブル、マニュアル類となっている。
■シンプルで管理しやすい設定画面
続いては、設定画面をチェックしていこう。設定は多くのルータと同じくWebブラウザを利用する。
まずWAN側の設定についてだが、通常の各必要項目を埋めていく設定画面のほか、ウィザードも用意されている(画面01)。このウィザード画面からも分かるとおり、本製品ではPPPoE、固定IP、DHCPによるIPアドレスの自動取得の3つの接続方式に対応する。PPPoE接続に関する設定ではMTU値の設定やキープアライブ機能をサポートしている(画面02)。ちなみに現段階ではPPPoEマルチセッションには対応していないが、今年9月に発表されるファームウェアにて対応予定となっている。
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画面01 接続方式を選択したあとは、設定に必要な項目が順次表示される設定ウィザードを搭載 |
画面02 PPPoEの設定ではMTU値やキープアライブを設定可能。ただ、MTU値のデフォルトが1322というのは珍しい。使い始めてからは要チェックの項目といえる |
一方、LAN側の設定はLAN側のIPアドレス、DHCPサーバーに関する設定が行なえるほか、複数のグローバルIPアドレスを取得している場合にはIP Unnumberedの設定も行なえる(画面03)。ちなみにDHCPによるIPアドレスにリースに関しては、割り当て開始アドレスと個数のほかに、設定したMACアドレスに静的割り振りも行なえる(画面04)。
セキュリティに関してはまずまずといえる。IPアドレス、MACアドレスのほか、一般的なポート番号を判断してのパケットフィルタリングをサポートする(画面05、06)。しかし、このIPアドレスフィルタを除いてはLAN→WAN方向のパケットをフィルタする機能である点に注意が必要だ。つまり、基本的には外部からのセキュリティ機能ではなく、内部からのアクセス制限的意味合いが強いのである。また、[許可][拒否]を混在させることが出来ないという制限もある。
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画面03 LAN側の設定画面。DHCPに関して、この画面では割り当て開始アドレスと個数を設定でき「割り当てを指定するIPアドレス」項目脇にある「設定ページへ」ボタンを押すと、静的割り振りの画面が表示される |
画面04 こちらがIPアドレス静的割り振りの設定画面。MACアドレスを基に特定のクライアントに決められたIPアドレスを割り振る |
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画面05 パケットフィルタに関する設定では、画面上部でIPアドレス、MACアドレスのフィルタリングが行なえる。IPアドレスフィルタのみ、パケットの方向を指定できる |
画面06 パケットフィルタリング設定画面の下部に、ポートフィルタの設定項目が用意されている。本製品のポートフィルタはLAN側からのフィルタのみで、WAN側からのフィルタは用意されていない |
では、WAN側からのセキュリティ機能はというと、WAN側からのリクエストを無視してPingなどに応答しないようにする、いわゆるステルスモードを搭載するのみ(画面07)。ステートフルパケットインスペクションを搭載するわけでもなく、これだけではちょっと心細いといわざるを得ない。
NATの設定に関しては、サーバー公開に関する設定が豊富なのも特徴である。まずは一般的なNATの設定だが、対象となるポート番号を直接指定する以外に、あらかじめ用意されたサービス名で指定することもできる(画面08)。指定できるのはこのポートと転送先のIPアドレスのみだが、とりあえずはこれで十分だろう。
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画面07 「高度の設定」→「管理設定」画面のなかに、WAN側からのリクエストを一切無視するステルスモードの設定項目が用意されている |
画面08 いわゆるポートフォワーディングの設定は「仮想サーバ」機能として用意されている |
このほか全パケットを、指定したLANクライアントに転送するDMZホスト機能もサポートしている(画面09)。ここで気になるのは、この画面に用意されている「WAN側IPアドレス」の項目である。これはルータのWAN側に割り当てられているIPアドレスを入力する項目で、ここが実際のWAN側IPアドレスと一致していないとDMZホストとして指定したクライアントへの転送が実施されないようだ。ということは、DHCPサーバーからIPアドレスの割り当てを受けているユーザーの場合、IPアドレスが変わるたびに再設定が必要になり、非常に手間がかかることになる。コンシューマユーザー向けのお手軽機能の典型とも言えるDMZホスト機能であるが、コンシューマユーザーのほとんどがISPから動的にグローバルIPアドレスを割り当てられて使っている現状と照らしてみれば、この仕様は疑問に感じるところだ。
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画面09 DMZホスト機能で、WAN側IPアドレスの指定を要求される製品は珍しい |
画面10 DDNSの設定画面。同社製ルータでしか利用できないiobb.netをサポートしている。誰でも利用できるDDNSではない、という点はトラフィックの面から考えると魅力的かも知れない |
また、コンシューマユーザーのサーバー公開に欠かせない存在となっているDDNSも対応している(画面10)。サポートするDDNSサイトは、アイ・オー製ルータのユーザー向けに同社が運営している「iobb.net」のみである。汎用性のないDDNSサイトではあるが、日本語サイトのDDNSの選択肢として心強く思う人は少なくないと思う。なお、DynDNS.orgについても一応は設定可能だが、同社として正式にサポートしているものではないようだ。
■基板両面にチップを実装し小型化
続いては内部構造をチェックしてみたい。分解し基板を見てみると、表面は思ったほどチップが詰め込まれていないのが分かる(写真09)。ただし、裏面にも一部のチップが取り付けられており、珍しい両面実装となっている(写真10)。
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写真09 小さい基板のわりにはスッキリした印象の表面 |
写真10 裏面にも2個のチップが搭載されている |
メインとなるプロセッサは、前回紹介したプラネックスコミュニケーションズの「BRL-04AR」と同じ、台湾RDC社のR2020(写真11)である。
前回も紹介したとおり、このプロセッサは同社の80186互換RISCプロセッサであるR8820シリーズのハイスピード版ともいえる製品である。動作クロックに関しては公表されていないが、写真11でCPUの脇に25MHzの水晶発振子があることから、25/50/75/100MHzのいずれかであることはプロセッサの仕様上間違いない。
基板表面にはこのR2020のほかに、AMD製のフラッシュメモリである「AM29LV800B-90EC」が搭載されている(写真12)。
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写真11 メインプロセッサのRDC2020。今後、低価格ルータへの搭載例が増えるのだろうか? |
写真12 フラッシュの容量は1MBになっている |
一方、裏面に目を向けてみると、まずスイッチコントローラであるRealtekの「RTL8305SB」が目にとまる(写真13)。これはPHY層も含む5ポートのスイッチである。
このほか、SDRAMとして台湾EtronTech社の「EM638165TS-7」が搭載されており、これは143MHz駆動の64Mビット(8Mバイト)SDRAMとなる(写真14)。最大100MHz駆動のプロセッサであるR2020に143MHz駆動のSDRAMという構成は、奇しくも前回のBRL-04ARと同様である。
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写真13 Realtekのスイッチ「RTL8305SB」。本連載では「AtermWR7600H」に続く2回目の登場 |
写真14 EtronTechのSDRAM「EM638165TS-7」。「-7」が143MHz品であることを示しているが、プロセッサに対するマージンが大きい印象を受けるのはBRL-04AR同様である |
■FTP転送では公称値に近い数字もPPPoEの数値はもう一つ
内部構造の紹介はこのぐらいにし、スループットの計測に移ろう。本製品の公称スループットは「実効73Mbps」となっているのみで、テスト環境などは公表されていない。「実効」というからにはSmartbits2000によるものではないだろう。PPPoE接続時のスループットが73Mbpsであれば非常に優秀であり、メーカーとしては大いに宣伝文句に使うであろうから、これもちょっと考えにくい。やはり「FTP転送における実効スループット」と考えるのが妥当だろう。
それでは実際に測定してみることにするが、まずLAN環境におけるスループットを測定する環境は、前回までの本連載と同じく表1、図1のとおりだ。
表1、図1:テスト環境 |
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サーバー(WAN1側) |
クライアント |
CPU |
AMD Athlon MP 1.2GHz×2 |
AMD Athlon XP 1700+ |
マザーボード |
TYAN TigerMP(AMD760) |
EPoX EP-8K3A+(Apollo KT333) |
メモリ |
Registerd DDR SDRAM 512MB(256MB×2) |
PC2700 DDR SDRAM 512MB(256MB×2) |
HDD |
Seagate Barracuda ATAIV 40GB |
Seagate Barracuda ATAIV 80GB(NTFS) |
LANカード |
メルコ LGY-PCI32-GT |
Intel 21143搭載LANカード |
OS |
RedHat Linux 9(kernel 2.4.20-8smp,Apache 2.0.40-21,VSFTPD1.1.3-8) |
Windows XP Professional 日本語版+SP1(IIS 5.1) |
RAMディスク |
128MB |
128MB |
結果は表2に示したとおりだが、下りで70Mbps弱、上りで50Mbps前後といったところ。先に紹介した73Mbpsの公称値がFTP転送時のものであれば、環境の差と言い切っても差し支えない程度に近い数値が出ていることになる。上りは若干遅めの結果になってはいるが、実使用で問題になるほど遅いわけでもない。
表2:計測結果(LAN) |
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プロトコル |
転送条件 |
速度(Mbps) |
直結状態 |
ftp |
サーバー → クライアント |
90.93 |
クライアント → サーバー |
81.60 |
http |
サーバー → クライアント |
90.13 |
クライアント → サーバー |
73.52 |
アイ・オー・データ機器 NP-BBRP |
ftp |
サーバー → クライアント |
パケットフィルタリングなし |
68.85 |
パケットフィルタリングあり |
69.47 |
パケットフィルタリングあり+NAT |
69.55 |
クライアント → サーバー |
NATあり |
52.35 |
NAT+パケットフィルタリングあり |
49.94 |
http |
サーバー → クライアント |
パケットフィルタリングなし |
68.48 |
パケットフィルタリングあり |
69.12 |
パケットフィルタリングあり+NAT |
68.48 |
クライアント → サーバー |
NATあり |
47.63 |
NAT+パケットフィルタリングあり |
47.31 |
次にWAN環境での接続テストを行なってみよう。回線はNTT東日本のBフレッツ・ニューファミリータイプで、契約プロバイダはNTT-MEのWAKWAKである。さて、表3に結果を示すが、案外に数字が伸びていない。ただ、テストした時間帯(金曜の午前5時前後)は回線が空いている筈なのだが、どうもこの時ばかりは混んでいた可能性が高い。フレッツ・スクウェアの結果よりもSpeed.RBBToday.comの結果の方が早いというのは、これまでテストしてきてはじめての経験だが、フレッツ・スクウェアの速度測定サーバーが混みあっていたのかもしれない。インターネットを使う限り結果にも揺らぎが出るので、致し方ないところだ。
表3:計測結果(WAN) |
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平均値(Mbps) |
最大値(Mbps) |
フレッツ・スクウェア |
26.57 |
30.40 |
Speed.RBBToday |
Download |
37.21 |
44.89 |
Upload |
10.38 |
11.94 |
■セキュリティ面以外はおおむね満足できるが……
以上のとおり本製品を試用してきたが、全般にいえることは、小型である点も含めてコンシューマユーザーにとって非常に馴染みやすいルータであるということだ。
設定画面は使いやすく、どのメニューにどの設定項目が用意されているかなどが非常に整然としていて分かりやすいし、PC脇の本棚にさりげなく設置することができるなどデザイン上のメリットも大きい。
しかし、セキュリティ面は非常にチープである。4,000円を切る安価なルータとはいえ、最低でもWAN側からのパケットフィルタリング機能は欲しいところ。このあたりは、前回レビューしたBRL-04ARと似通っている。そういう意味では結論も「メインルータとしては心許なくセカンドルータにお勧め」となり、前回のBRL-04ARとほぼ同じ結論である。価格面でもいい勝負だし、今後はこうした「高速・低価格・低フィルタリング」ルータというマーケットが確立していくのかもしれない。
■注意
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□アイ・オー・データ機器 NP-BBRP 製品情報
http://www.iodata.jp/prod/network/bbrouter/2003/np-bbrp/index.htm
(2003/09/10)
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