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左からアップルコンピュータ 代表取締役社長・原田永幸氏、NECソリューションズ 執行役員常務・富田克一氏、ソニー モーバイルネットワークカンパニー NCプレジデント・木村敬治氏、東芝 デジタルメディアネットワーク社 社長・西田厚聰氏、日本IBM 取締役パーソナル・システム事業部長・橋本孝之氏、富士通 常務理事 パーソナルビジネス本部長・伊東千秋氏、マイクロソフト 代表取締役社長・阿多親市氏 |
WORLD PC EXPO 2001では、国内パソコンメーカー首脳陣が集まり、「ブロードバンド時代を支えるパソコンの新しい役割」と題してパネルディスカッションが開催された。パソコン業界ではインターネット利用が牽引役となってパソコンの国内需要が拡大するという流れがあったが、昨年末以降にはコンシューマ市場の頭打ちの状況から、パソコン不況とも呼ばれる流れにある。そして、昨今キーワードとなってきたブロードバンドという新しい流れを業界の首脳陣がどのように捉えているのか。
■ 各社のパソコン市場分析
各社パソコン事業では、昨年末からの低迷を受けつつも、ブロードバンド環境が広がることで、パソコン事業がどのように変化するかについてディスカッションが行なわれた。
アップルの原田氏は「いかに新しいマーケットを作っていけるかが重要だと思う。アップルとしてはデジタル製品のハブとしてコンシューマ市場を作っていく。ブロードバンド環境の中でソリューションがリッチなものに変化していくだろう」と発言した。
東芝・西田氏は「市場が飽和してきたというが、過去20年に渡って年率20%成長を続けてきた製品というものは類を見ない」とパソコンの成長性について触れ、日本経済が直面してきた失われた10年。内需拡大のできなかった10年に対してメーカーとして何ができるかとし「市場創出と新技術で、新しい市場を創造できる製品を出していきたい。個人市場と企業市場が融合し、そこに通信、映像、放送事業の関連分野が融合していく」と市場形成を分析する。
一方、日本IBM・橋本氏はセグメント別に普及率を見れば国内では高齢者層が2.9%程度と低く、この市場開拓が必要と指摘している。NECの富田氏も、過去のWindows 95の登場による市場の拡大、インターネット利用目的による市場の拡大を例に挙げ、ブロードバンドでの市場拡大について指摘している。各社とも、パソコン普及率はまだ拡大する余地があると見ており、具体的な施策、アピールするための技術的な提案を強化する必要を認識していた。
■ ブロードバンドで変わる生活像とパソコン市場
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マイクロソフト・阿多親市社長 |
こうしたパソコン市場の背景から、ブロードバンド環境が普及することで、何が変化していくのだろうか。
11月16日にWindows XPの発売を予定しているマイクロソフト・阿多氏は「XPはブロードバンド時代のOS」とし、「ブロードバンドを使うことでその上で何ができるのかという使い方提案が重要になる。常時接続環境で、ブロードバンドに繋がっているところで、パソコンの新しい使い方提案が生まれてくるだろう」と市場展開を予想した。
この常時接続環境の普及については、富士通・伊東氏がブロードバンドで先行している韓国を例に挙げ、ユーザーの生活が新聞、雑誌などのメディアからインターネットを見るようになっていくことを説明し、パソコンの前にいることが増えていくことを指摘した。
つなげるというコンセプトをVAIO事業立ち上げ時から提案してきたソニーの木村氏は、「つながっているという状況を作るのが重要で、常時接続も重要だ。差し込んだらすぐに太いパイプにつながっていることが大切。オーディオ、ビデオのコンテンツを提供するのに、今の状況では足りなくて、ブロードバンドの環境が普及するというのがわれわれの行いたいことをするために必要。ブロードバンドが普及して初めて実現できる」と話す。
また、常時接続で定額な環境は重要だがそれだけでは新市場は創出できない、とするのは日本IBM・橋本氏。「企業がどこからでもサーバーに入れるセキュアなVPNが必要。海外からでもイントラネットに入り、仕事ができるという環境構築がなされていく。個人の場合、ネットワーク上にデータベースを置いて、どこでも使えるというものやIP電話などがアプリケーションとして立ち上げって行くと思う」と語り、韓国、米国、北欧に比べて日本はブロードバンドの夜明け前と分析した。
アップル・原田氏は「ブロードバンドはマーケットを作っていく主体が変わると思う」と、市場の変化による市場創造の主役交代説を披露した。これまではパソコンベンダーがその市場を形成してきたが、それでは新しい市場の創造にはつながらないとの説だ。「Windows XPやMacOS Xなどでデジタル機器の提案はできるが、個人のライフスタイル提案ができるわけではない。ブロードバンド環境でのコンテンツやコミュニケーションの質が飛躍的に向上するなかで、ビジネスの送り手も受け手も、コンテンツを創造し出版することができる。誰もが映像編集しブロードバンドで配信できる。(パソコンメーカーにとっては)新しいマーケティング活動に力を入れる必要がある」。
これに対して、同じOSプラットフォームを提供する立場のマイクロソフト・阿多氏は「インターネットをブラウジングするのは96年から行なわれ、そして98年ごろからデジカメの普及で、インターネットに参加する形になってきた。今後、コンテンツが大事になるが、コミュニケーションこそ最大のコンテンツになる。顔を見ながらコミュニケーションをできる。知っている人の状況を見たい。そういったものが魅力あるコンテンツへのアクセスこそ、パソコンで一番行ないたいことではないか」と語る。
■ ホームサーバー市場はくるのか?
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東芝 デジタルメディアネットワーク社・西田厚聰社長 |
ブロードバンド環境が普及し、通信・放送の融合が進むなかで、過去何度も話題に上っているのがホームサーバーという構想だ。家庭でのネット接続機能を一手にまとめ上げるサーバー機能を盛り込むという製品構想だ。
テレビ事業も手がける東芝・西田氏は「2004年から2005年頃がホームサーバーの立ち上がり時期になるのではないか」と予測する。テレビを使ったネット接続ではePF(eプラットフォーム)事業が松下電器などと共同で手がけられているが、「ホームサーバーはePFも含めてしまうのか、将来的にはサーバーに融合していくとは思うが、どのような形で業界として提案できるのかということも課題。共通のプラットフォームがなければ、家庭の方々も当惑する」とした。
富士通・伊東氏は「各サーバーから見てクライアント機能も必要になるが、インテリジェントなルーター、ハブなどがIPv6対応で出てくる中で、どのような形でも対応できるようなホームゲートウェイとして必要になる」と分析する。
NEC・富田氏は「パソコンの役割が1人1台の個人個人に合わせて、利用シーンに合わせて使われていく。今までは情報メディアに合わせて情報機器が構成されてきたが、何でも使える世界になっていく必要がある」と見る。
■ 各社の今後の取り組み
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NECソリューションズ・富田克一執行役員常務 |
最後に、ブロードバンド時代を迎えてパソコンメーカー各社の取り組みについて、いくつかコメントを紹介したい。
アップルの原田氏は「パソコンがデジタルハブになっていく」とし、パソコンを中心としたデジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、PDAなどのデジタルデバイスの接続口として捕らえ、「これらのデジタルメディアを編集・加工・出版する、そのソリューションをソフトウェアで提供して貢献していきたい」とした。
NECの富田氏は「NECはこれからの時代、パソコンの役割とお客さんとの関係の二つから考えている」とし、「ブロードバンドの中でパソコンがサービスを利用するデバイスをつなぐものとしていくこと、そして、コンテンツサービスとの連携で、他の企業との連携を行なう中でそのハブにNECがいるといい」と語った。また、「メーカー主体のプロダクトアウトから、今後パーソナル・カスタマイズの思想の中で物作りを行なっていく」とし、NECの直販サイト「121ware.com」でのNECとユーザーとの1to1マーケティングを活かして製品を作っていくことをアピール。
ソニーの木村氏は「やはり、インフラを使って、いかに新しいものにチャレンジするか。新しい技術を作っていくかが大切」とし、「今後、いろいろなものがネットにつながっていけばパソコンの使い方も変化する。どう提案していくかが重要になる」として、インターネットで個人放送を実現するパーキャスTV(http://www.percastv.net/)や、アメリカで展開しているmoviefly(http://moviefly.com/)なども来年から手がけていくことを明らかにした。
富士通の伊東氏は「オフィス、ホーム、モバイルの3つの利用シーンのブロードバンド対応を進める」とアピール。全パソコンにブロードバンドポートとしてLANポートを装備したほか、@niftyとの連携によるコンテンツサービス。ディスクトップ機へのファイアウォール標準搭載などの施策を紹介した。
(遠藤 剛)
2001/09/19 22:54
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