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誤解から賞賛へ。Ajaxで再評価されたJavaScriptから学ぶこと
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Ajax、Ruby on Rails、Web 2.0。2005年を彩ったWebテクノロジー

rss

 時間が経つのは早いもので、2005年ももうまもなく終わりです。Webの世界でも、今年1年を振り返るためのさまざまなニュース、記事が発表されています。これに便乗しつつ、ギークの視点かつ新しいWebテクノロジーの切り口で、2005年を自分なりに振り返ってみたいと思います。

 さて、2005年のWebテクノロジーの世界でもっとも際だった3つの言葉として私が挙げる物は、おそらく多くのギークな人たちと同様、「Ajax」「Ruby on Rails」「Web 2.0」の3つです。





JavaScriptに光を当てたAjaxという方法論

Ajaxによって構築された「Google Maps」
 AjaxはJavaScriptを利用した動的ロードテクニックの総称で、「Google Maps」などが見せた、新しいWebアプリケーションの可能性を切り開く方法の1つです。Ajaxの功績は、そのテクニックを利用した斬新なWebインターフェイスの表現方法を世の中に示したことももちろんですが、もう1つはやはり、「誤解から賞賛へ。Ajaxで再評価されたJavaScriptから学ぶこと」の中でも述べた通り、JavaScriptというこれまで見過ごされてきた古く枯れた技術に対し、本来の価値に光を当てることができた点でしょう。

 Webの世界は急速な発展を遂げている一方で、その拡大とともに新しいテクノロジーをスタンダードとして確立させるためのコストも同時に上昇し続けている、という側面を持っているようにも思います。これほどまで大きく成長したWebの中でスタンダードを勝ち取るということは、そのテクノロジーの有用性や品質だけでなく、どうやって多くの人にその技術を利用してもらうか、そしてすでにある技術とどう折り合いをつけるかという、テクノロジーそのものとはまた違ったレイヤーでの取り組みというものが必要になってきます。

 「どんなに素晴らしい道具を作ったとしても、それを利用する人がいなければその道具には価値がない」とは良く言ったものですが、Webにおけるテクノロジーもまさにその通りと言えるでしょう。そんな状況下において、何かまったく新しいテクノロジーを投入するのではなく、Webで誰もが利用するブラウザを使い、これまで存在していたJavaScriptという技術を利用して実現できたAjaxは、非常に価値のあることだったと思います。

 Ajax、そして本来の意味での「JavaScriptの使い方」という方法論があっという間に技術者たちの間での常識として拡大し、またその技術をより簡単に利用するためのライブラリやフレームワークが次々と生み出されている背景には、それが「すぐに使える」ものだったからだということも、注目すべき点の1つだと言えるでしょう。





すべてのWebプログラマーに影響を与えたRuby on Rails

Ruby on RailsのWebサイト
http://www.rubyonrails.org/
 Ajax は、アプリケーションが派手な視覚効果を持つものが多かったこともあり、エンジニアだけでなくWebに関係する多くの人たちにもインパクトを与えました。しかしながら、今年1年でWebテクノロジーにもっとも大きな影響力を与えたものは、「37Signals」の若きプログラマーであるDavid Heinemeier Hanssonが中心になって作り上げたWebアプリケーション・フレームワーク「Ruby on Rails」ではないかと思います。

 ちょっと話は変わりますが、例えば自分のニーズに合ったパソコンを作りたいと思ったときに、はんだごて片手にコンデンサーや集積回路相手に格闘する人は、最近ではほとんどいないでしょう。多くの人は、既製品のマザーボードを買ってきて、そこに自分好みのCPUやメモリ、ビデオカードなどを組み込んで自作パソコンを作ります。

 マザーボード上ではCPUを装着する箇所、メモリを挿す場所などがあらかじめ規格化されており、好みのパーツを装着すればパソコンが組み上がります。マザーボードやコンピュータの規格が手順を決めてくれるので、誰でも比較的簡単に短時間でパソコンを組み立てられます。

 Webアプリケーション・フレームワークとは、このマザーボードに相当するようなソフトウェアのことで、Webアプリケーションの土台となるものです。Webアプリケーションを開発する時はフレームワークを用いることが一般的で、プログラマはフレームワークによって決められた手順でアプリケーション開発を進められます。フレームワークを用いて作られたアプリケーションは、そのフレームワークがあることが前提で動作します。すなわち、フレームワークはWebアプリケーションの核であるとも言えます。

 Webアプリケーションのフレームワークには、各社が自社開発しているものやオープンソースソフトウェアとしてリリースされているものなど数多くの種類がありますが、その多くは、大規模な開発体制でも耐えられるように、あるいはアプリケーションに要求される様々なニーズに応えられるようにといった視点で開発されています。


 しかし、Ruby on RailsはWebサイト上でスローガンとして掲げられている通り、「that's optimized for programmer happiness and sustainable productivity.(プログラマーの幸福と創造性の継続に最適化されたフレームワーク)」という、独自の視点に主眼が置かれたLightweightなフレームワークでした。そして、Railsそのものの質の高さもさることながら、開発者をはじめとするRailsプログラマが掲げた「Rails なら10分で作れる」「Javaよりも10倍の早さで作れる」といった(いくぶん過剰とも言える)トークも注目を集め、プログラマたちの心を掴みはじめます。このトークが発端になり、Java陣営との論争が巻き起こったりもしましたが、それがRailsにとってますます注目を集めることにもなりました。

 こうして「Webアプリケーション・フレームワークの決定版」「Railsは今までのものとは違う、クールだ」などなど、評判が評判を呼び、Rubyプログラマー以外のプログラマーからもRailsは注目を集めました。実際にRailsを使ってみると、インストールした直後からすぐに開発が始められ、数分後にはアプリケーションが動き始め、自分の作りたい物を作ることだけに集中できる、そんな感想がWeb上を飛び交いました。大規模開発のため、顧客からの要求に応えるため、標準に従うため。そんな目的のために複雑化かつ多機能化したフレームワーク上での開発に不満を感じていたWebプログラマーたちを魅了するのに、Railsは十分すぎるほど魅力的でした。

 Railsが注目を集めると、その機能、アーキテクチャやアイデアが他のフレームワークにも取り入れられはじめ、Ruby以外の他のプログラミング言語でもRailsと同じような感覚でWebアプリケーションが開発できるフレームワークが登場しました。最近では、プログラマーコミュニティに足を運ぶと、きまってRailsをいじっていたり、Rubyを勉強していたり、Railsに触発されて何かを作っていたり……といった具合です。

 繰り返しになりますが、ほぼすべてのWebプログラマーが利用する、Webアプリケーションのコアであるところのフレームワークの世界おいて、これまでにない大きなインパクトを与えたという意味で、2005年のWebテクノロジーで最も大きな出来事はRuby on Railsの登場だったと言えるでしょう。





加熱するWeb 2.0議論

Tim O'Reillyによる論文「What Is Web 2.0」
 今年の中盤に、本連載でも「Webそのものがプラットフォームになる。次世代のWebの在り方「Web 2.0」」という記事で Web 2.0について述べました。これまでの連載記事の中で突出してアクセスが多かったのがこのWeb 2.0の記事だったというところからも、その注目の高さが伺えます。

 当時はWebアプリケーションのAPIやRemixの話、あるいはWebのアーキテクチャといった、どちらかというと技術よりの話が色濃かったWeb 2.0に関する議論ですが、2005年下期になるとTim O'Reillyによる「What Is Web 2.0」という論文が発表されたこともあって、Web 2.0という単語はマーケティングやビジネスの世界も巻き込んで加熱しはじめました。

 こうした議論を見ていると、若干加熱しすぎな印象も否めませんし、Web 2.0が単なる“バズワード”として扱われることも多くなりました。RSSやAjaxなど、ここ近年で話題になったテクノロジーを利用さえすればWeb 2.0である、あるいはそれに注目さえしていればWeb 2.0である、そんな勢いでWeb 2.0というラベルが使われ、本質を見落とし、ただ言葉が消費されつつある感覚すらあります。

 Tim O'Reilly が論文の中で示した概念は、「これまでのWebを振り返ってその中で成功してきたサービスなどに共通してみられる性質を抽出し、それを抽象化して表現する」という、いわゆるベスト・プラクティスです。バズワードだからといってそれを過小評価するのも、表層的なものだけをみて過大評価するものあまり得策ではありません。ベスト・プラクティスとして示されたものから自分たちにとって何が有効か、それを考え実践することが重要でしょう。

 AjaxやRuby on Railsは具体的な方法論や実装を伴った流行物だったということもあって、2006年以降はこれらが定着していく段階に入っていくかと思いますが、抽象的な概念である Web 2.0という言葉は、もしかすると「単なる流行であった」とみなされるかもしれません。一方で、Web 2.0として認識されているサービスの作り手たちは、Web 2.0かどうかという定義とは関係なく、Web 2.0の概念を具体化していくのではないでしょうか。





ボトムアップによる取り組みの勢い

 AjaxやRails、Web 2.0といった際立ったもの以外にも、2005年はWeb上で面白いテクノロジーやそれにまつわる議論がたくさん展開されてきました。その中で共通して見られた特徴は、2003年から続いている「トップダウンではない、ボトムアップの取り組み」の勢いとも言うべきものでした。

 シンプルで扱いやすいフォーマット、そしてブログというプラットフォームから意識せずにはき出されるRSS/Atomフィードの拡大。ブログツールやCMSによって正しいアーキテクチャへと原点回帰しつつあるWebそのもの。プログラマーの視点からプログラマーの幸福のために作られたRuby on Rails。古く枯れた、そこにあるテクノロジーであるJavaScriptにより新しい可能性を切り開いたAjax。

 巨大な仕様や標準化を待たず、小さなところからWebにメタデータを与えていくというmicroformats。A9.comのOpenSearchやGoogle Sitemapのように、ユーザーに対してそのメタデータを利用したときの利益という確実なインセンティブを先に用意し、使用の拡大を促す試み。ブログのコンテンツを構造化させるためのStructured Blogging、そのためにアプリケーションのインタフェイスを工夫しはじめたブログツール群。Flickr、del.icio.us、37Signals、digg、具体的な実装をもってプラットフォーム化や次世代のWebアプリケーションを作り出すWeb 2.0時代の小さなリーディングカンパニーたち。

 こうして小さな活動、ボトムアップから生み出された技術や方法論、組織が強烈な存在感を表わしている昨今です。自分たちにも何かできるはずだ、という確信を与えてくれるようにも思います。2006年もWebの世界では面白いことがたくさん起きそうな気配がしてきますね。


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2005/12/27 10:40

伊藤直也
はてな取締役最高技術責任者。はてなの新サービスの企画・開発を行なう。個人でRSS検索「FeedBack」、Amazonアフィリエイト支援ツール「amazletツール」なども開発。自身のブログでも技術やブログ関連の話題などを紹介している。(写真撮影:近藤淳也)
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