突然ですが、あなたが部屋番号のないマンションの住人だとしましょう。もしくはそこを訪れる友人でもいいです。そのシチュエーションで最も困ることと言うのは一体何でしょうか? つまり、マンションの場所は特定できるけれど、その中のどの部屋に誰がいるかを特定できないという状況です。
僕が一番最初に思いついたのは、宅急便の配達屋さんです。住所を頼りにいざ目的地まで来てみたものの、30部屋もあろうかと思われるマンションを前に、宅急便を届けたい相手がどの部屋にいるかがわからないのです。
宅急便を送りたい人も困りますね。届けたい相手のマンションはわかるのに、どの部屋に住んでいるのかわからない。住んでいる本人も、自分の部屋がどこかを説明したくても、その情報がありません。
郵便物や宅急便がちゃんと目的のところに届くため、自分の居場所を相手に正確に知らせるため、相手の居場所を正確に指定するためには、マンションの住所だけでなく、部屋番号も必要というのは誰の目にも明らかですね。大きなビルでは、特定の場所を会社名で指定する場合なんかもありますが、その場合は会社名が部屋番号のような役割を果たしているのと同じと言えるでしょう。
さて、部屋番号がないマンションに住む住人に、手紙を送るとしましょう。手紙の住所欄には何と書くでしょうか。「東京都渋谷区鉢山町○-○-○ ブロードバンドマンション 3階のエレベータを降りて正面を向き左から3番目の部屋」といった具合でしょうか。なんとも不思議な感じです。
実はこれ、インターネットの世界では非常によく見かけるシチュエーションなんです。とあるWebサイトを訪れたら、面白い話題が載っていたけれど、話題そのものにURLが割り当てられていない。メッセンジャーで友達に「この記事が面白かったよ」と伝えようにも、「http://www.example.com/ の下から数えて3番目の記事」ぐらいにしか説明できない。みなさんも一度は体験されたことがあるのではないでしょうか。
先日の連載ではRSSについて書き、その中で「RSSはブログのおかげで広まったんだ」ということについて触れました。ブログが広めたものの重要な要素であると僕が考えるものとしては、RSS以外にもう1つ「Permalink」というものがあります。むしろ、RSSよりももっと重要な要素だったのではないかとすら考えています。
■ Permalinkという考え方
Permalinkとは一体何なのか、Webで調べてみましょう。はてなダイアリーのキーワードでは、以下のように説明されています。
はてなダイアリー - Permalinkとは
Permanent link(固定的なリンク)の略。パーマリンク。Webサイトにおいて、内容を更新しても変化しないURIのこと。Permalinkが提供されていると、ほかのWebページからリンクしやすくなる。 |
RSSより重要だ、なんていうからものすごいものを想像しそうですが、実は単なるリンクのことです。ただし、ポイントは「内容を更新しても変化しない」とか「ほかのWebページからリンクしやすくなる」というところですね。
賃貸マンションの部屋番号は、たとえその住人が変わっても、変更されることはまずありません。また、先の例でいくとマンションに部屋番号が付いていると、手紙が送りやすくなります。「内容を更新しても変化しない」「ほかからリンクしやすくなる」この2点においては、まさに同じことでしょう。
もう少し具体的な例を見ていきましょう。僕のブログ、naoyaのはてなダイアリーを見てください。
どちらも僕のブログを指し示すURLですが、前者はブログのTOPページ、後者はある特定の記事のページです。Permalinkというのは後者の類のリンクのことを指します。マンションの例にたとえると、前者のリンクはマンションの住所、後者のリンクは部屋番号まで含めた住所、ということですね。
あなたが友達とチャット中に、「はてなのスタッフがソーシャルブックマークについて何か書いてるよ」みたいな会話をしていたとします。友達が「その話題のURL教えてよ」という話になれば、後者のリンク、つまりPermalinkをコピーして送ってあげればいいわけです。
一方、後者のリンクがないときは? まず、ブログのトップページのURLを教えて、それから「ええと、上から5番目の記事、6月24日のだね」という補足をしないといけません。これ、部屋番号がないマンションそのものですよね。
このチャットでのやり取りを「情報の交換」という観点で考えてみてください。リンクがあるおかげで、Webではリンクを介して情報を交換できる。でも、そのリンク先がWebサイトという大きな単位だと、交換できるのはサイトという情報だけです。
一方、1つの情報に1つのリンクを割り当てれば、目的としている話題そのものを交換できます。Permalinkとは、情報の交換を目的に、Webサイトという単位よりもう1つ小さい、特定の情報という単位に対して恒久的に割り当てられたリンクなんですね。
■ 1つの情報に1つのリンクという理想的なWebのかたち
一見当然のことのように思える話ですが、当然のようで当然ではなかったのがこれまでのWebでした。ニュースサイトなど、1つの話題に対して1つのリンクを設けることの重要性を理解していたWebサイトでは特に珍しい光景ではなかったのですが、こと個人のWebサイトとなると、そこまで考慮されて作られたサイトというのはそれほど多くありませんでした。
これが、ブログを使ってWebサイトを作ると、RSSと同じように本人がPermalinkとは何ぞやを知っている知らないに関わらず、きちんと1つのテーマにひとつのリンクが用意されます。また、しっかり作られているツールであれば、その内容が書き換えられてもリンク自体は変化しないようになっています。多くのブログサービス、ツールはそういう仕様になっています。
1つのWebサイト内で1つの話題にリンクを設けましょう、という考え方は特別新しい考え方ではありません。本来Webとはそうあるべきだと考えられていたのです。つまり「Webサイト」という話題の入れ物にURLという住所を与えるだけでなく、各「情報」そのものにも1つ1つURLを割り当てていきましょう。そうすれば、URLだけで情報の交換が可能になるという考えです。
しかし、HTMLをテキストエディタで書いてせっせとWebサイトを作っている頃は、なかなかそこまで理想的な状態を実現するのは難しいでしょう。最近になってようやく、Webサイトをブログのようなコンテンツ管理ツールで作るようになって、1つ1つの記事にしっかりリンクを貼るような面倒なことはツール側に全部任せてしまえ、ということが可能になりました。
そのおかげで、余計なことを考えなくても、作ったWebサイトが理想的なアーキテクチャに従って作られていくようになりました。Permalinkが重要だとか、小難しい話を抜きにして、Webの本来あるべき姿が実現されていく。ブログというわかりやすいインターフェイスを通じて、技術が目指していた方向を正しく進んでいるんですね。
ところで、PermalinkがRSSよりも重要かもしれない、と言ったのには理由があります。実は、RSSはPermalinkがちゃんと設けられているWebサイトを前提にしているものなんです。RSSリーダーで新着の情報が配信されてきても、そのリンクがPermalinkでなかったら、サイトのどの情報を見ればいいのかわかりませんよね。
RSS以外にも、Permalinkを前提としたものは数多くあります。連載第1回目で紹介したソーシャルブックマークが1つの例でしょう。各情報に1つのリンクが割り当てられているからこそ、その情報そのものをブックマークできるのです。
ブログでは相手の記述を引用して、それに対する感想や考察を書く、といったことが日常的に行なわれます。この文化が根付いた背景にも、Permalinkを介して目的の情報をWeb上で簡単に交換できるようになったからこそと言えるでしょう。
前回、「Webの次のかたちに関する Web 2.0という議論がホットだ」と書きました。Permalinkも Web 2.0の中で重要な1つの要素といわれています。Web 2.0的なサイトはつまり「イケてる」サイトですが、一方、いまとなってはあまり見本にすべきではない、ちょっと古臭いつくりのWebサイトを「Web 1.0的なサイト」と呼ぶことがあります。そんなWeb 1.0なWebサイトをWeb 2.0へシフトさせるためにも、ぜひ一度Permalinkについてじっくり考えてみることをオススメしたい、そんな今日この頃です。
■ URL
はてな
http://d.hatena.ne.jp/
naoyaのはてなダイアリー
http://d.hatena.ne.jp/naoya/
NDO:Weblog
http://naoya.dyndns.org/~naoya/mt/
2005/06/30 10:58
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伊藤直也 はてな取締役最高技術責任者。はてなの新サービスの企画・開発を行なう。個人でRSS検索「FeedBack」、Amazonアフィリエイト支援ツール「amazletツール」なども開発。自身のブログでも技術やブログ関連の話題などを紹介している。(写真撮影:近藤淳也) |
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