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コンピュータ博物館で考えた「できない」と「今はできない」の違い

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コンピュータ博物館 - Computar History Museum

Computar History Museumのエントランス
 今月上旬に、カルフォリニアのシリコンバレーへ行ってきました。シリコンバレーという名前はみなさんもよくご存知かと思いますが、Hewlett-Packard、Sun Microsystems、Google、Yahoo!など、名だたるIT企業発祥の地であり、ネット関連ベンチャー企業の聖地でもあります。

 そんなシリコンバレーには、ベンチャーから始まり成功を収めた数々の企業や、シリコンバレーのベンチャービジネスで成功した投資家などの寄付により設立された「Computer History Museum」という博物館があります。その名の通り、コンピュータの歴史博物館です。

 この博物館には、まだパーソナル・コンピュータが生まれるよりもずっと昔のコンピュータから、近年のワークステーションやPCに至るまで、数多くのコンピュータが展示されています。ギークな僕にとってはもうたまらない一品が目白押しで、時間を忘れるほど夢中になって館内を巡り歩いてしまいました。

せっかくなので、許可をいただいて撮影した写真をご紹介します。


たくさんのコンピュータが所狭しと飾られています 1964年にIBMが開発した汎用コンピュータ「IBM 360」。こういった巨大コンピュータがいくつも飾られています

TVタイプライターとラベルが貼ってある。何に使うものだったのだろう? 今となっては懐かしい「Netscape Navigator」のパッケージ。他にもWindowsやMacintoshの初期バージョンのパッケージなども飾られていました

開発されたばかりのLogitechのマウス。コネクタの形状の違いや、本体部分の無骨さにノスタルジーを感じます 昔のハードディスクの円盤。大きすぎます! みなさんが持ち歩いているiPodにもハードディスクが使われていますが、こんなに大きかったらとても持ち歩けたものではないですね

初期のSunのワークステーション。成功後、スーパーカーを前にポーズを決めるScott McNealyやBill Joyら創始者たちの写真が一緒にあって目を引きます トミーが開発した家庭用ロボット「Omnibot 2000」。80年代のAiboだ、なんていう声もあるそうです




一際目を引くGoogleのサーバー

Google初期のサーバー
 そんなComputer History Museumの中でも一際目を引いたのは、Googleの初期サーバーでした。といっても、実際にはそれを見るのが目的で足を運んだのですが。1960年〜1980年頃に開発された大型コンピュータやワークステーションが並ぶ中に、唯一近代的な格好のGoogleサーバーが並べられていました。

 どうやら少し前にGoogleのアニバーサリーパーティがこの博物館で開催されたらしく、そこに来たGoogle創始者の2人が博物館をとても気に入って、このGoogleサーバーを寄贈したのだそうです。

 このサーバー、見た目こそかなり仰々しいですが、特殊なハードウェアが使われているわけではありません。実はみなさんが使われているパーソナルコンピュータを積み重ねて作られたものなのです。

 サーバーラックの中に、Pentium IIが搭載されたPCを、上下だけでなく奥行きまで使って詰め込むだけ詰め込んであり、それらは上部にあるスイッチによってネットワークで結線されています。ラックこそ立派ですが、それぞれのPCを支えるのは、1枚のベニヤ板のみで、見ての通り基盤がむき出しの状態です。1つのラックにだいたい80台ぐらいのPCサーバーが搭載されているそうです。

 Google が大量の検索クエリを処理するため、安価なハードウェアを大量に利用しているというのは有名な話ですが、こうして実物を目にすると、それがリアルに感じられます。一方で、「低コストな大量のハードウェアで運用するなんて、Googleだからできたんだよなあ」とか「何か特殊なハードウェアが用いられているに違いない」などと思いがちですが、実際に見てみるとなんてことはない、自作PCを詰め込めるだけ詰め込んで、LANでつないでいるだけ。難しいものではないことがわかります。

 今は使用されていない初期のサーバーとは言え、あのGoogleのサーバーはこんな姿だったのかと、意外に思われた方も多いことでしょう。


サーバーは約80台の自作PCをが詰め込むだけ詰め込められた状態


Googleの創設者であるLarry PageとSergey Brinの名前も




正しかったムーアの法則

ムーアの法則を記した立て看板
 この博物館の入り口には、かの有名な「ムーアの法則」を記した立て看板が飾られています。

 ムーアの法則は、IntelのGordon Mooreが提唱した、コンピュータの処理能力の伸び率に関する法則です。コンピュータの演算能力は18〜24カ月おきに倍になる、というもので(正確には半導体の集積密度の話です)、半年ごとに2倍、4倍、8倍、16倍……と増えていくので、結果的にはその伸び率は指数関数的になります。

 この博物館に飾られている巨大コンピュータとGoogleサーバーの1つ1つの粒を見ると、ムーアの法則は正しいんだということがよくわかります。周囲にある他の大きなコンピュータに対し、Googleサーバーは、小さいけれどそれらよりも何百倍も高性能なサーバーによって作られているのですから。

 そしてハードウェアは、処理能力の増大や小型化と共にコストの低価格化も進み、結果としてパーソナルコンピュータのような家庭用製品が生まれました。その進化はいまでも続いています。

 高性能ハードウェアの低価格化で実現できたこと、それは既存の高性能マシンを低価格化の進んだハードウェアに置き換えられるということです。写真に見るGoogleサーバーはその最たる具体例で、安くて速いけどそれほど処理能力はないものを、たくさん集めてきてスーパーコンピュータと同等の性能を得たというものです。





そして起きた「チープ革命」

 僕は学生の頃、このGoogleサーバーと同じような「超並列計算機」という研究にかかわっていました。費用対効果では当時一番お買い得だったPentium IIを積んだPCを64台用意し、LANで接続して計算させるというもので、いまから5年前のことです。

 大量の計算を必要とする科学計算を行なうスーパーコンピュータは1台あたりの価格が非常に高価で、世界トップクラスのものになると何千万から何億という値段になります。大学の研究者らがそれを購入することは非現実的なので、多くの研究者の希望を時間割で決めて、みんなでシェアして使うことが一般的でした。

 しかし、PCの値段が下がってくると、それを数多く集めてネットワークで接続して使う超並列計算機として利用することで、何億円もするスーパーコンピュータと同等の性能を、わずか数百万円から手に入れられるようになりました。これが超並列計算機です。

 結果、大学の研究者でもスーパーコンピュータ並みの計算機を所有できるようになり、それまで不可能だった、より長時間の科学計算が実行できるようになりました。実際に、この並列計算機で初めて可能となった科学分野での成果も出てきているそうです。

 1つ1つのハードウェアの処理能力が低く、また大きく高コストだった頃は実現できなかったことが、チープなハードウェアにより低リスクで簡単に実現できる。高性能サーバーの低価格化や小型化が急速な勢いで進む昨今、私たちはいま“チープ革命”の真っ只中にいるのです。

 チープ革命で重要な点は、「できない」と思っていた頃から「簡単にできる」ようになるまでの期間が非常に短いということです。Googleサーバーや超並列計算機の例で挙げたCPUはPentium IIでしたが、それよりも3年ほど前だと、CPU性能はそれほど高くなく、コストも高かったため、大量に集めて何かを成すというのは非現実的だったと思います。そして「できない」と思われたころから「できる」ようになるまでの期間は、わずか3年足らずでした。

 前回、「できない」と思ったところで思考が止まってしまう、「できるかどうかわからないけどやってみる」のが、不可能を可能にする一歩だと述べました。ハードウェアの世界でもまさに同じことが言えるでしょう。「できない」のではなく、「“今”できるかどうかはわからない」だけであるということ。数年先でもいい、未来を見つめて考えることがやはり大事なんだと、Computer History Museumを訪れて強く思いました。


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2005/10/20 10:58

伊藤直也
はてな取締役最高技術責任者。はてなの新サービスの企画・開発を行なう。個人でRSS検索「FeedBack」、Amazonアフィリエイト支援ツール「amazletツール」なども開発。自身のブログでも技術やブログ関連の話題などを紹介している。(写真撮影:近藤淳也)
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