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ブログと共に普及期に入ったRSSと、Web創世記から繰り返される議論
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ブログと共に普及期に入ったRSSと、Web創世記から繰り返される議論

rss

 こんにちは、はてなの伊藤直也です。連載第1回目はソーシャルブックマークについて触れてみましたが、いかがでしたか? さて、連載第2回目となる今回は、アルファギークの視点から見たRSSについて考えてみたいと思います。





近頃のRSS事情

 急速な広がりを見せるRSS。各種ブログツールやブログサービスがサポートするのは当然のこと、近頃ではニュースサイトでもフィードを配信する例が増えてきました。

 RSS関連サービスは次々とユニークなものがリリースされています。

 近頃目立つのは「FeedBurner」というサービス。あなたのRSSフィードにさまざまな機能を付け加えてくれるサービスで、そのまま表示すると素っ気ないXMLソースがずらずらと表示されてしまうRSSフィードを綺麗に整形してくれたり、アクセスカウンターとしての機能を追加してくれたりします。国内外を問わずギークな人たちに注目のサービスらしく、僕の周囲でも、自分のブログのRSSフィードにFeedBurnerを挟み込んでいる人が増えてきました。


Broadband WatchのRSSフィードをFeedBurnerでエンハンスしたもの

 FeedBurnerはUSのベンチャー企業なのですが、すでに投資家からの資金調達にも成功しており、名実ともに今もっとも勢いのあるRSS関連ベンチャー企業、と言っていいかもしれません。

 先日、東京工業大学の奥村研究室により、ブログ検索エンジン「blogWatcher」のバージョン 2.0が公開されました。その内部で利用されているブログ判定エンジンを使って作られたのがなんでもRSS。文字通り、何でもRSSに変換してくれるという、業界騒然(?)のサービスです。


なんでもRSS

 RSS Mix、こちらは海外のサービスですが、「A」のRSSフィードと「B」のRSSフィードを登録すると、AとBが混ざったフィードを作ってくれるという、まさにRSSをミックスしてくれるサービス。たくさんのフィードをまとめて扱いたいときに利用すると便利でしょう。

 手前味噌ですが、ようやくはてなでも「はてなRSS」というオンラインRSSリーダーの提供を開始しました。


はてなRSS

 直接RSSを利用していなくても、裏側でRSSを利用しているというケースも増えてきています。

 Amazon.comの子会社であるA9.comが提供する検索サービスは、Web検索や画像検索、書籍やそのほか、A9.comに登録されているたくさんの検索エンジンを自分の好きなように組み合わせることができるユニークな検索サービスです。このA9.comに登録されている検索エンジンは、実はすべてA9.comが指定した「OpenSearch」という仕様に基づき、RSSフィードを配信しています。A9.comと各エンジンをつなぐ役割として、RSSが使われているんですね。


A9.comの検索サービス

 最近よく耳にする単語「Podcasting」。iPodなどのポータブルプレーヤーでネットラジオを聴くという行為ですが、ネットラジオをiPodへ転送するその間でもひそかにRSSが使われています。自分の好みのラジオ番組を登録しておくと、新しい番組が配信されたときにRSSにひもづけられた音声ファイルが自動でダウンロードできる、という仕組みです。

 海外ではRSSフィードを利用したビジネスに関する議論が盛んになってきました。

オンラインRSSリーダーの分野で独走していたBloglinesが、Ask Jeevesに買収されたものも記憶に新しいですし、先に紹介したFeedBurnerのように、資金調達に成功したRSS関連ベンチャー企業も増えてきました。

 広告配信の実験や検証も行なわれるようになってきました。RSSと広告という意味で最近もっともホットなのは、あのGoogleがRSSフィードへの広告配信実験を開始したという話題です。フィードの内容に併せて広告を配信するという、いわゆるGoogle AdSenseのRSS版です。現在は限られたクライアントがテストに参加しているところですが、しばらくすれば個人の手元にもそのサービスが届くことでしょう。

□関連記事:米Google、RSSフィード用AdSenseの公開ベータテスト開始[INTERNET Watch]
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/05/18/7638.html

 こうしたRSSを取り巻く現状を見てみると、どうやらRSSは本格的な普及期へと入ろうとしているようです。





なぜここまで急激に広まったのか。ブログと共にあったRSS

 こうしてRSSが普及している背景を、ここで改めておさらいしてみましょう。

 RSSというテクノロジーがここまで勢いをつけて広がったのは、皆さんご存知のように、やはりブログによるところが大きいでしょう。

 もともとRSSはそんなに新しいテクノロジーではありません。ずいぶんと昔にあのNetscape社によって考案され、世に産声を上げたものです。マイナーでありながらも(さまざまなバージョンを生み出し論争を巻き起たりはしましたが)なんとか生き長らえて来た結果、ブログという最も相性の良いプロダクトを見つけて、そこに寄生する形で爆発的に普及した、といったところでしょうか。

 RSSがブログとセットで広がった、僕はそこに大きく2つのポイントがあったと考えています。

 1つは、記事をコンテンツの単位として考えたブログの仕組みと、サイト内の記事の要約を配信するというRSSフォーマットの構造が見事にマッチしていたということ。

 ブログがインターネットにもたらした効果の1つに、そのコンテンツの構成単位をページ単位から記事単位にシフトさせたということが言えるでしょう。ブログには、1つの記事に対して1つのページを生成するという特徴がありますが、ブログがここまで広まった結果、記事こそがWebの構成単位となりつつあるようです。その証拠に、近頃話題になるのは「○○さんのWebサイト」ではなく「○○さんが書いた記事」だったりしますよね。

 RSSは、Webサイトにおける新着記事の要約を配信するために、主に利用されます。ブログはニュースのように新しい情報を配信するためのツールで、その構成単位は記事単位でした。この両者の構造は非常によく似ていることが、ブログとRSSは相性が良いと言われる理由です。そんな相性の良いRSSですから、当然のように主なブログツール、サービスはすべてRSS配信機能をサポートしていて、ブログブームと共に広がっていったわけです。


 もうひとつは、コンテンツの提供者が、RSSというものを意識しなくて良かったこと。

 RSS、アルファベット3文字の何やら難しそうなことばからも想像がつく通り、これはテクノロジーの名前です。そしてその中身はXMLで書かれていて、なにやら技術の匂いがぷんぷんします。一般的に、技術の色が濃すぎるものは市場では受け入れられません。にも関わらずRSSという言葉と、RSSというテクノロジーがここまで普及してきている背景には、ブログという優れたツールが、ユーザーにそれをまったく意識せずにRSS配信を行なっていることにあります。

 多くのブログユーザーは、日記を書きたいとか、何かWebで公開したい情報があるという理由でブログを始めます。おそらく半分以上の人が、RSSなんて言葉には興味もないし、聞いたこともないと答えるでしょう。しかしそんなことはおかまいなしに、ブログツールは記事が書かれたらRSSフィードを吐き続けます。ブログの書き手は、RSSという存在をまったく意識しなくてもよい。一方で、インターネット上にはRSSフィードがどんどん増え続けます。

 一見するとなんのことはない当たり前のことですが、これが技術の世界では結構画期的なことだったんです。「XMLが登場してインターネットは新しい時代を迎える!」なんてことが何年も前から言われてきましたが、なかなかそんなことは起こらない。あれはただの幻だったのかなあ、なんて思っていたところにカウンターパンチがやってきたのです。ブログが技術と日常をうまく結びつけてくれたおかげです。

 そういう意味で、日記・ブログを書くというごくごくありふれた行為と、XMLを配信するという行為を完全に一体化したブログシステムの功績は大きかったんですね。





キャズムを這い上がったRSS

 ハイテク・マーケティングの世界で有名な言葉に「キャズム」というものがあります。もともとジェフリー・ムーア氏の書籍「Crossing the Chasm」から広まった言葉です。

 キャズムとは「ハイテク製品の落とし穴」です。技術革新が色濃く反映された製品が広まっていく様子には、まずはじめに新しもの好きな技術に長けたユーザー(イノベーター)がそれを使い、彼らがそれを実用性のある製品に食いつきやすいユーザー(アーリー・アダプター)へと広め、アーリー・アダプターがそれを「みんなが使ってるから使う」という一般層(マジョリティ)に広めるという一般式が常に当てはまります。

 しかし、アーリー・アダプター層からマジョリティ層へ広まる途中には大きな溝(キャズム)があって、幾多の製品がその罠にはまり、潰れていったのです。

 RSSというテクノロジーは、それが生み出された当初はハイテク好きなギークから注目を集め、あちらこちらで話題にもなりましたが、やがてその存在は忘れられて、すっかりキャズムに落ち込んでいました。しかしそんなある日、ブログという最良の伴侶が、ブログブームという白馬にのって颯爽と現われ、RSSの手を引きました。RSSは、ブログの助けを借りてキャズムという谷を這い上がってここまで来たのです。

 前回紹介したソーシャルブックマークや、今回紹介したA9.comの「OpenSearch」のように、昨今面白いと思われるアプリケーションのキーとなる技術としてもRSSは使われるようになりましたし、ビジネスもすでに形になりはじめています。もうRSSは広まらないなんて議論がされることは二度とないでしょう。RSSがキャズムを超えたことは、誰の目にも明らかです。





Web創世記とRSSで繰り返される議論

 RSSにまつわるほとんどの議論は、よくWebが登場したときの議論と同じだと言われることがあります。

 例えばRSSに広告を配信するのはいかがなものかという議論。RSSは広告やその他で汚してはならない、中立なメディアだという主張もありますが、「Webだってはじめはそうだったし、広告が入った当時は大騒ぎになった。でも結果として、Webに広告が入るのは当たり前になったし、そのおかげで、Webはビジネスとして発展することができた」という主張に論破されてきました。

 RSSに関してネガティブな反応が起こったら、まずはWebの創世記に同じ議論がされていなかったかを思い出してみてください。

 RSSなんかを始めたらサイトのページビューが下がって広告がクリックされなくなるじゃないかって? そう言えば、「紙のメディアがインターネットで情報を配信するなんてあり得ない」なんてことを言っていた頃が懐かしいですね。


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伊藤直也
はてな取締役最高技術責任者。はてなの新サービスの企画・開発を行なう。個人でRSS検索「FeedBack」、Amazonアフィリエイト支援ツール「amazletツール」なども開発。自身のブログでも技術やブログ関連の話題などを紹介している。(写真撮影:近藤淳也)
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