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第13回:乱立する電子マネーの動向や利用エリアを徹底分析

これまで、プリペイドとポストペイ各方式のサービスについて個別に見てきました。今回はまとめとして、電子マネーサービス全体のシェアや使える場所などの全体的な状況について紹介します。





電子マネーの全体像を再確認

 電子マネーのサービスは、これまで紹介してきたようにさまざまなサービスが存在しました。これらのサービスは、プリペイド、ポストペイという分け方で考えるのも1つの考え方ですが、提供する企業の業態によって分類してみるのも全体を把握するのに良い方法です。

 たとえば、SuicaやPASMOは交通系の企業が提供するサービスですが、WAONやnanacoは流通系の企業が提供するサービスです。同様に、独立系のEdy、クレジット系のiD、QUICPay、Smartplus/Visa touchとグループ分けしてみたのが以下の図です。


電子マネーの関係図




利用枚数と利用店舗数の違いに注目

 この図では、各サービスをグループ分けすると同時に、円の大きさで発行枚数(もしくは会員数)の数を、円の背景の四角の大きさで加盟店の数を表現しています。たとえば、現状、発行枚数、加盟店数ともにもっとも多いEdyの円とその背景の四角は、図中でも最も大きく表現されていることが確認できるでしょう。

 興味深いのはPASMOの部分でしょうか。利用可能な加盟店(電車などの改札は除く)は7244店舗と少ないながら、発行枚数は1000万枚もあります。交通系の電子マネーのため、電車やバスでの利用を目的とした沿線利用者が加入しているケースが多いのは確かですが、やはりSuicaとの連携によって利用可能範囲が広がっていることが、加盟店数に比べて多くの利用者数を獲得している要因の1つとも言えるでしょう。

 また、ポストペイ型の電子マネーとなるiD、QUICPayは、発行枚数に比べて加盟店数が多いのが特徴です。どちらも正式な加入店数は発表していませんが、QUICPayに関しては同社のWebサイトから利用できる店舗検索データベースの件数から加盟店数を推定。この情報を参考にiDで発表されている端末台数から店舗数を推計したところ、かなりの数の加盟店数があることが予想できます。

 これはクレジットカードのネットワークが活用できていることが大きな要因と言えそうです。iDは三井住友、QUICPayはJCBが大きく関係していますが、すでにクレジットカードが使える店舗は全国にかなり普及しています。これらの店舗に端末を設置することで、多くの場所での利用を実現していると予想できます(このほか自動販売機や全国チェーン展開の飲食店などの取り込みの影響も大きい)。

 言うなれば、利用者数先行の交通系、加盟店先行のクレジット系とでもいったところでしょうか。なお、独立系のEdyは利用者も加盟店も同時に増やすハイブリッド型と言えますが、流通系のnanaco、WAONに関しては基本的に自社内サービスのため、店舗数が一定に到達した後、次いで利用者が増加し、最終的にはPASMOの図と同様に背景の四角を円が追い抜く形になると予想できます。

 なお、厳密にシェアや規模を比較するのであれば、決済件数や決済金額も検討する必要があります。発行枚数や加盟店数が少なかったとしても、1人あたりの利用頻度や利用金額が高ければ電子マネーとしての流通量は高くなるからです。実際、nanacoのような流通系の電子マネーは利用頻度が高いのが特徴です。このあたりについては、また別の機会に詳細に検討してみる必要があるでしょう。





サービスの連携と使える場所

 前掲した図では、グループ分けとシェアの関係に加えて、電子マネーサービスとしての連携も矢印で示しています。

 たとえば、SuicaはPASMO、ICOCA、TOICAなどと相互利用が可能ですが、PASMOはSuicaとは相互利用できるものの、東海、関西系の電子マネーと相互利用できません。一方、nanacoにはQUICPayの機能が搭載されるなど、一方通行ながらクレジット系と流通系をまたがった連携が実現されています。

 電子マネーサービスは市場が立ち上がったばかりということもあり、現在はさまざまなサービスが個別に乱立している状態ですが、将来的には相互連携や統廃合が進むことも予想できます。もちろん、連携にはすでに進みつつある端末共通化、ポイントなどの相互交換などの仕組みも必要ですが、今後、各サービス間の矢印がどのようにつながっていくのかも注目されるところでしょう。

 このようにサービスの連携が進めば、種類を気にせず、いろいろな場所で電子マネーを使えるようになる可能性も高まりますが、残念ながら現状は使える場所に差があります。各サービスごとの使える場所をまとめたのが以下の表です。

 なお、以下の表は2008年10月現在の公表データを元に調査したものですが、実験的に一部店舗に導入している場合もあるため、「○」と表記されていても地域によっては利用できない場合、「-」となっていても利用できる場合もあります。

業種 Edy Suica PASMO nanaco WAON iD QUICPay smartplus/VisaTouch
コンビニ セブン-イレブン - - - - - -
ローソン - - - - -
ファミリーマート - - - 幕張PA、海ほたるPAなど一部PA店舗
サークルKサンクス - - - -
am/pm - - - 幕張PAなど一部PA店舗
ミニストップ - - - -
デイリーヤマザキ - - - - 一部店舗
スーパー・ドラッグ イトーヨーカドー - - - - - - -
ジャスコ(イオン系) - - - -
マツモトキヨシ - -
書店・CD・雑貨 紀伊国屋書店 - - - -
丸善 - - - -
ツタヤ - - - - - -
GEO - - - - - - -
ブックオフ - - - - - -
タワーレコード - - - - -
HMV - - - - -
東急ハンズ - - - -
家電量販店 ヤマダ電機 -(ポイント連携) - - - - - - -
ヨドバシカメラ - - -
コジマ - - - - - -
ケーズデンキ - - - - - - -
ビックカメラ - - - - -
飲食店 マクドナルド ○※一部店舗 - - - - -
モスバーガー ○※一部店舗 - - - -
吉野家 - - 2009~ - - -
プロント - - - - -
ルノアール - - - - - -
カフェドクリエ - - - -
デニーズ - - - - - - -
すかいらーく - - - - - - -
バーミヤン - - - - - - -
ロイヤルホスト - - - -
牛角 - - - - - -
コカコーラ - - - -
電車・バス JR東日本 - - - - - -
JR東海 - - - - - - -
JR西日本 - - - - - - -
私鉄・地下鉄(首都圏) - - - - - -
バス(首都圏) - - - - - -
タクシー 日本交通 - - - 予定 予定 -
国際自動車 - - - 予定 予定 -
中央無線タクシー - - - - - - -
ANZEN - - - - - - -
飛鳥交通 - - - - - - -
チェッカータクシー - - - - - - -
東京無線 - - - - - - -
日の丸交通 - - - - - -
ガソリンスタンド コスモ石油 - - - - - - -
昭和シェル - - - - - -
エッソ - - - - -
ENEOS - - - - -
モービル - - - - -
ゼネラル - - - - - -
その他交通 パーク24 - - - -
空港 - - - - 釧路空港、秋田空港
高速道路(SA/PA) - - - - - - 東日本・中日本・西日本高速道路のSA/PA
※○=一部例外を除き対応、-=現状未対応
※各サービスの検索データベースを参考に作成。データベースには実験店舗や予定なども含まれているため実際の状況と一部異なるケースもある





利用場所が多いEdy、Suica/PASMO、iD

 まずは縦軸に注目してみましょう。各サービスが使える場所、つまり○の数に注目してみると、Edy、Suica/PASMO、iDが多いことがわかります。いろいろな業種に幅広く普及している電子マネーと言えるでしょう。

 ただし、個別に見ると、それぞれの特徴が見えてきます。たとえば、コンビニの場合、多くの企業に対応しているのはEdyとiDです。最大手のセブン-イレブンには対応していませんが、そのほかのコンビニで広く利用できます。Suica/PASMOも、大手コンビニでほぼ利用できますが、いずれも全国対応とはなっておらず、業界2位のローソンが試験導入のままで本格導入が進まない状態となっています。

 しかし、コンビニの店舗数(以下の表参照)を考慮すると、単独でも1万2000店舗以上のセブン-イレブンをカバーするnanaco、そしてセブン-イレブンとローソンの上位2強に対応するQUICPayは、実際に利用できる店舗数という意味ではかなり有利です。

 通常は自宅や会社などの近くにある店舗に対応した電子マネーを選ぶのが基本ですが、旅行や出張などが多い場合は、対応する企業の多さや店舗数の多さも考慮すべきでしょう。

コンビニエンスストア店舗数(2008年9月現在)
セブン-イレブン 12071
ローソン 8598
ファミリーマート 7281
サークルKサンクス 6143
ミニストップ 1748
デイリーヤマザキ 1622
am/pm 1169


 スーパー、ドラッグストアなどに関しては、イトーヨーカドーで使えるnanaco、ジャスコなどで使えるWAONと、流通2強が個別の電子マネーに分かれている状況ですが、実はジャスコなどのイオン系の店舗は、Suica/PASMO、iDなどにも広く対応しています。もちろん、ポイントなども考慮する必要はあるのですが、近所にあるスーパーがイオン系の場合は、電子マネーの選択肢が広がると言えそうです。

 飲食店は、マクドナルドがiDを積極的に採用していることが特徴ですが、同じファストフードでは吉野家が2009年からWAONを採用することを発表しています。デニーズのnanaco、カフェ系に強いEdyと、飲食業界は勢力が分散している印象で、まだ決め手に欠ける印象です。

 交通系に関しては、やはりSuica/PASMOの強さが目立ちますが、タクシーについてはEdy、iDを採用する企業が増えてきています。また、空港や高速道路で使えるEdy、ガソリンスタンドに強いQUICPay、Smartplus/Visa touchと、業種によっては特定の電子マネーの占有が進んでいる印象です。

 まとめると、幅広く使えるEdy、iD、電車バスとその周辺に強いSuica/PASMO、ほぼ専用カードに近いnanaco、WAON、ガソリンスタンド+nanaco連携が魅力のQUICPayといったところでしょうか。

 現状、電子マネーはプリペイドのイメージが強いかもしれませんが、使える場所を見てみると実はポストペイの検討が目立ちます。チャージ不要の手軽さなどもありますので、今後の普及状況に注目です。


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清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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