2001年のサービス開始以来、日本の電子マネー市場を牽引してきた「Edy」。次々とライバルが登場する中、今後の目指す方向はどこにあるのか、ビットワレット株式会社の宮沢和正執行役員常務に話を伺った。
■ 順調な成長を続けるEdy
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ビットワレットの宮沢和正執行役員常務
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SuicaやPASMO、nanacoにWAON、さらにはiD、QUICPayと、サービスが次々と登場する電子マネー。そんな中、いち早くサービスを開始して以来、常に最前線を走り続けてきたのがビットワレットが手がける「Edy」だ。
同社ホームページの会社概要によると、2008年10月現在の累計発行枚数は4320万枚(携帯電話含む)、利用可能な店舗数は8万カ所。今年5月に発表されたデータでは4040万枚、7万4000カ所であったことを考えると、約半年で280万枚、6000カ所の増加を果たしたことになり、今もなお順調な成長を続けている。
とは言え、交通系、流通系、ポストペイと後発サービスの追い上げが続く中、どこまでの成長が見込めるのだろうか?
ビットワレットの宮沢和正執行役員常務は「枚数をビットワレットとして予想することは難しい面がある」と語る。と言うのも、現状Edyのカードはパートナー(カードイシュア)によって発行されており、Edyが独自で発行しているカードではないからだ。とはいえパートナーによるカード発行枚数は700種類を超え、月間の発行枚数も80万枚ペースで増加するなど、今後も順調な増加を見込んでいるという。
確かに、現状の電子マネー、特にプリペイド方式の電子マネーを考えると、SuicaやPASMO、nanacoにWAONなど、多くのサービスは自社内で完結しており、Edyほど多くのパートナーがカードを発行している例はない。実際、am/pmやゲオなどが会員証として発行するカードやゆうちょのカードにEdyが付加されていたり、大学の学生証、企業の社員証などとして利用されているケースもある。このような多くのパートナーに展開できるというのは、規模を拡大する上では有利だ。
宮沢氏は、このようなEdyのモデルを製造業になぞらえて”水平分業”と表現する。交通系、流通系の電子マネーは、どちらかというと自社の傘下にパートナーや会員を囲い込む垂直統合に近いモデルだが、Edyはさまざまなパートナーとプラットフォームを共有することで相乗効果を発揮することを目的としている。
たとえば、大学の学生証の場合、非接触ICカードを導入する主たる目的は出席確認や出席が低下している学生のケア、事務手続などで、そこにキャッシュレス化も実現できるEdyを付加しているという位置付け(宮沢氏)。もちろん、日常的に非接触ICカードを利用する人が増えれば、Edyによる同社の手数料収入も増加する。
宮沢氏の言葉を借りれば、「パートナーのメリットになり、喜んでEdy導入していただけるようにする」ことで、最終的にパートナー、利用者、そして同社のすべてがメリットを享受できるようにするというのがEdyの世界観なのだろう。
■ “中立”のメリットで対応店舗数の倍増も
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Edyに対応したコカ・コーラシステムの複数電子マネー対応自動販売機
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このような同様のパートナーへの展開は、発行枚数の増加だけでなく、対応店舗数の増加にも大きく寄与する。
前述したように、Edyが利用可能な店舗数は2008年10月で8万カ所に上る。しかし、すでに発表されているがコカ・コーラの自動販売機への決済機能の搭載が進められており(11月10日~12月26日までドリンク1本分のEdyがもらえるキャンペーンも展開中)、2008年度内には対応自動販売機が6万台程度にまで増える見込み。単純にプラスするだけでも利用可能場所が14万カ所となるわけだ。
もちろん、コカ・コーラの自動販売機はマルチマネー対応であり、Edyの他にiDも利用できるため、Edyのみの利用場所が広がるというわけではない。しかしながら、このように他社の電子マネーとの共存が可能というのもEdyならではの特徴でもある。
宮沢氏は、このようなEdyの特徴について「中立で色がない」と表現。確かに共用端末へのEdyの対応率は高く、コンビニエンスストアや飲食チェーンなど競合する企業が共通してEdyを導入するケースも多い。
この対極に位置する流通系の電子マネーの場合、たとえばnanacoとWAONが共用端末で共存するケース、例えばセブン-イレブンでWAONが使えるようになったり、ミニストップでnanacoが使えるようになることは到底考えられないだろう。
しかし、中立のEdyは共有端末で他の電子マネーとも共存でき、コンビニエンスストアに関してもセブン-イレブンを除く他の企業は共通ですでにEdyに対応している。もちろん、交通系、さらにはポストペイのクレジットカード系の電子マネーも同様の中立性を持ってはいるが、Edyの方がより中立で色がないというのは確かだ。
こういった中立性は、前述した学生証や企業の社員証として多く採用される理由でもあるうえ、今後、本格的な導入が見込まれるファストフード業界などへの展開も有利になりそうだ。
■ 面の攻略による導線展開で利用率を向上
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「面展開による導線確保が重要」と語る宮沢氏
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エリアの展開という点では、さらに「面」による展開、「導線」による展開というのも重視していると言う(宮沢氏)。
飲食店などが特定の地方に集中して出店するドミナント戦略に近い考え方だが、たとえば今回訪れた同社が入居する大崎ゲートシティなどが良い例だが、このビルのテナントではファストフード店やコンビニエンスストア、スーパーなど、いたるところでEdyが利用できる。
同様に、たとえば大学などの学生証として導入した場合、その周辺飲食店や駅までの導線上にある店舗などへの導入を同社は積極的に進めるのだという。これにより、Edy対応の学生証を持った学生は、近所の飲食店でもEdyで決済をする可能性があるだけでなく、学校までの通学路の自動販売機でEdyを利用したり、コンビニエンスストアでEdyを使う可能性が高くなる。
全国展開のチェーン店と提携することで幅広く利用範囲を広げるのが利用枚数や利用店舗などの規模の拡大につながるとすれば、このような面展開による導線確保は利用率の向上につながる戦術と言えるだろう。
■ 「Edyでポイント」でケータイユーザーの取り込みを強化
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提携サービスのポイントが貯められる「Edyでポイント」
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また、最近、同社が重視している点としてはケータイユーザーのさらなる取り込みもある。前述したように、Edyの累計発行枚数は4320万枚だが、このうちおサイフケータイは850万に留まっている。この2割の比率をさらに向上させるための施策が、この夏から開始された「Edyでポイント」だ。
サービスの詳細については次回以降にあらためて紹介する予定だが、Edyの決済金額に応じて、ANAのマイルや楽天ポイントなど、あらかじめ登録しておいたポイントが貯まるというサービスだ。
通常、ポイントは自社での商品の購入に対するサービスとして付与されるが、Edyでポイントの場合は、購入場所に関係なくEdyで決済すれば、あらかじめユーザーが選んだポイントが貯まる。もともと、EdyはANAのマイルが貯まりやすいということで普及した面があるサービスだが、このサービスを他社のポイントサービスに横展開したものと考えるとわかりやすいだろう。
このサービスは、独自のポイントサービスを持たないEdyにはメリットのあるサービスだが、提携しているANAや楽天、T-POINT、YAMADA、ベルメゾン、au、NEXCOなどにもメリットがあると宮沢氏は語る。
「Edyでポイントのメリットは大きく2つあります。1つはパートナー様が自社会員としての携帯電話ユーザーを増やせる点。Edyでポイントは携帯電話向けのサービスですから、これによってカード会員に対する携帯会員の比率の低さを改善できます。もう1つはポイントサービス自体の価値の向上が実現できる点です。自社での買い物だけでなく、日常の買い物の中でポイントが貯まりますので、ポイントの価値そのものを高めることができます」(宮沢氏)。
現状は2割程度の携帯電話ユーザーだが、今後は、この比率が次第に高まっていくことが考えられるだろう。
なお、付与されるポイントを誰が負担するのかが気になるところだが、マーケティング費用なども考慮し、提携先とビットワレットで一定の比率で負担するというスキームとなっているとのことだ。
■ さらなる利便性の向上を目指して
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オンラインショッピングや資料請求などでEdyが貯まる「Edyパラダイス」
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ユーザーの立場からすると、今後サービスの利便性がどこまで向上するのかというのも気になる点だ。オートチャージには対応するのか? 決済金額の上限は? 携帯電話機種変更時やEdy to Edyの手数料は? 細かな気になる点も宮沢氏に尋ねてみた。
結論から言えば、いずれも当面は現状のままとなりそうだ。オートチャージについては、現状、am/pmにて一部のカードのみで可能だが、現状は対応についてのさほど多くの要望はないと言う。
むしろ「プリペイドの特徴として使いすぎを防げるというメリットを考えると、オートチャージよりも、現状のまま自らの意志でチャージする方式の方が日本の生活習慣に合っているのではないか」と宮沢氏は言う。特に家計を管理する女性などでは、毎月の食費として一定金額をあらかじめ封筒などに入れておいて残高を確認しながら使うことがあるが、プリペイドであれば、それと同じ感覚で利用できるのではないかというのだ。
上限金額についても、プリペイドの場合はどうしても紛失リスクが伴うこともあり、5万円が妥当ではないかと考えているという。上限を高くすれば、家電製品などの購入など、1回あたりの決済金額を向上させることもできそうだが、現状は利用金額の向上よりも、利用者自体の拡大を目指す方向性とのことだ。
また、機種変更時やユーザー同士でEdyを送れる「Edy to Edy」では、同社が提供している「Edyのお預け」、さらにEdy to Edyに関しては、どうしても事務処理を伴うため、手数料はどうしても発生してしまうのだという。携帯電話事業者が提供している「ICカードお引っ越しサービス」などは手数料が必要ないため、こういったサービスを利用して欲しいとした。
ただし、利便性向上の取り組みとしては、「ネットとリアルをつなぐ手段」としての新たな活用を試みているとこのことだ。具体的には11月4日からスタートした「Edyパラダイス」がそうだ。
このサービスは、いわゆるアフィリエイトモールやポイントサイトの一種で、ネット経由での買い物やサービス利用、資料請求などによってEdyが貯まるというサービスだ。
このようなネット上のポイントの換金先、Edyの価値をさらに高めていこうというわけだ。Edyは、クレジットカードポイントからの移行など、もともと他のポイントからの移行先として幅広く対応していたが、このような「出口」としての役割にも今後は注力していくとのことだ。
■ 電子マネーの発展はこれから
このように、Edyの現状と将来について、具体的な施策とその狙いについて同社に話を伺ったが、印象としては、ようやく本格的な拡大期へと足を踏み入れたといったところだ。
小口決済の市場規模は60兆円とも言われる中、電子マネーの決済金額は日銀の統計によると2007年度で5600億円ほどしかない。クレジットカードの32兆(年間決済金額)、2億9千万枚(端末台数136万台、1件あたりの決済金額平均1.2万円)という巨大な市場に追いつくためには、さらなる規模の拡大が必要と言えそうだ。
前述したように、宮沢氏は現状は1件あたりの利用金額の向上などよりも、規模の拡大、それもアクティブな利用率の拡大に注力していると言う。携帯電話ユーザーの獲得などもそうだが、現状使われずに眠っているEdyの利用を促進し、さらに全体の規模を拡大していくことが、将来的な経営状態の改善にもつながるのだろう。
「今は競合とシェアを競うのではなく、プリペイド、ポストペイ含めて、電子マネーという認知度を高めながら、協力して全体の市場規模を拡大する時期だと考えています」という宮沢氏の言葉の通り、今後の規模の拡大が、さらなる利便性の向上にもつながると言えそうだ。
■ URL
Edy
http://www.edy.jp/
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2008/11/13 11:07
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