Broadband Watch logo

UPSを利用して停電や落雷時に発生するトラブルに備える


今回試用した「BZ35T」の標準価格は14,490円。本体サイズは300×123.5×86.5mm(幅×奥行×高)で、ツヤ消しのブラックで統一された外観がいかにも縁の下の力持ちといった風情
 今回紹介するアイテムは、ごく普通の、趣味のレベルでパソコンを使うユーザーにはあまり馴染みのないパソコン周辺機器かもしれない。UPS(Uninterruptible Power Supply)。日本語では無停電電源装置と呼ばれている。停電などのトラブルでAC電源が途絶えたとき、かわりに電力を供給するバックアップシステムのことだ。UPSには装置というより設備と呼びたくなるような大がかりなものもあるが、今回紹介するオムロンのパウリ(POWLI)シリーズの「BZ35T」はテーブルタップと同じ感覚で家庭でも手軽に使える一般向けUPS製品の1つである。

 BZ35Tは、壁のコンセントと機器の電源ケーブルとの間に挟み込む形で使用する。この点はテーブルタップとまったく同じだ。しかし、本体の中にバッテリーを備えているという大きな特徴がある。つまり、普段は電力を蓄えながら単なるコンセントとして機能しているが、ひとたび停電が起きれば10msec以内という短時間のうちにバッテリー出力へと切り替え、接続した機器への電力供給が途絶えないようバックアップするのである。

 とは言っても、電源が途絶えた後、何事もなかったように長時間電力を供給し続けられるわけではない。使用中のアプリケーションを正しく終了し、パソコンや周辺機器を安全にシャットダウンさせる時間を稼ぐのが主な目的だ。オムロンのホームページで公開されているデータによると、今回試用したBZ35Tのバッテリーバックアップ時間は消費電力20Wの機器で74分、50Wで28分、100Wで10分、200Wで3分。同じ機器でも動作状態によっても消費電力は変わるので、あくまで参考とするべき数字だが、作業を中止し、電源断に備えるには十分な時間と言えるだろう。


横には電話線サージ保護用のモジュラージャックとUSBポート。USBで専用ドライバやソフトをインストールしたパソコンと接続すればオートシャットダウンが可能だ
 BZ35Tには停電時の電源バックアップ以外に、もう1つ重要な機能がある。それは落雷などの影響で電力線や電話線に発生する過電圧を遮断してくれる機能だ。この過電圧はサージと呼ばれ、ときには数万ボルトに達するといわれる。もし何の対策も取られていない電子機器にそんな高電圧が流れ込んだら一瞬で破壊されてしまうだろう。

 ノートパソコンならバッテリーを内蔵しているし、普通の用途ではUPSは必要ない。ディスプレイやスピーカーシステム、モデムなど、突然電源が途絶えても大きな影響がない機器もある。しかし、サージに関してはまったくの無防備なのだ。システム全体の安全を考えるならバッテリーバックアップだけでなく、このサージ保護機能にも注目したい。

 BZ35Tは幅約30cm、横長のハコ形だ。黒一色で飾り気のない、どちらかといえば無骨な外見。デスクの下にでも置いておけば、まったく目立たないだろう。大容量バッテリーを内蔵しているだけあって重量は約3.2kg。家庭で気軽に使える一般向け製品とはいえ、本格的な作りといえそうだ。

 操作はプッシュ式の電源スイッチのみ。オフにすればバッテリーバックアップは機能しなくなる。動作状態は3つのインジケータランプで表示する方式だ。コンセントは上面に6つ。どれもアース端子付きの3Pと呼ばれるタイプで、うち3つがバッテリーバックアップ対応、残り3つは非対応という構成。横面には電話線サージ対策用のモジュラージャック、パソコンと接続するためのUSBポートが配置されている。


上面に停電時にバックアップするコンセントが3個とバックアップしないコンセントが3個。すべて3Pタイプだが、一般的な2Pタイプのプラグも使用可能 電源スイッチと3つ並んだインジケータランプ。電源を切っておけばバッテリーバックアップがキャンセルされ、普通のテーブルタップと同じように機能する

 本体底面のネジをはずしてフタをスライドさせると内部に収納された鉛バッテリーが取り出せる。自動車用として広く普及しているタイプで、充電しながら放電するという用途に向く、UPSにはもってこいの特徴を持ったバッテリーだ。ただし欠点もある。過放電、いわゆるバッテリー上がりに弱いのだ。クルマを運転する方ならご存じかと思うが、1度上がってしまったバッテリーは極端に性能が落ち、いくら充電し直しても元の状態には戻らない。BZ35Tでは寿命や過放電でバッテリーを交換する必要に迫られても素早く対応できるよう、ユーザーが自ら作業できるような設計を採用しているのだ。

 基本的な使い方はいたって簡単。BZ35Tの電源ケーブルを壁のコンセントに差し込み、パソコンなどの電源ケーブルをBZ35Tに差し込む。UPSだからといって特別なことは何もない。普通のテーブルタップと同じである。気を付けなければならないのは電源容量だ。

 今回試用したBZ35Tは「バックアップする」側のコンセントで350VA/210W、「バックアップしない」側では6.5Aとなっている。200W以上あれば標準的なパソコンなら十分にまかなえるはずではあるが、近頃の大画面のディスプレイを使用しているモデルやパソコンにハードディスクなど、内蔵型周辺機器を増設している場合は消費電力が大きくなるので注意が必要となる。機種にもよるが、デスクトップパソコンで使うならBZ35Tの1クラス上、500VA/300Wまで対応できるBZ50Tが向いているのではないだろうか。


下面中央のネジを取り外し、パネルを横方向にスライドさせるとビニールシートにくるまれた内蔵バッテリーがあらわれる。寿命がきたらユーザー自身で交換できる設計だ 内蔵されている専用のバッテリー。立方体に近い形で、かなりの重量がある。自動車のバッテリーなどに採用されているものと同じタイプだ

 実をいうと筆者のタワー型パソコンは考えなしに怪しげなアイテムを取り付けまくった結果、消費電力が300Wに迫ろうかという事態に陥っている(笑)。そこで、パソコンそのものではなく、周辺機器を中心とした使い方を考えてみた。簡易サーバーとして使っているネットワーク直結式のハードディスクユニット、それにルータ、ハブ、無線LANアクセスポイントといったネットワークシステムの電源をバックアップするのだ。

 実際に接続した機器の最大消費電力を合計すると100Wほど。コンセントからBZ35Tの電源プラグを引き抜いてテストしてみたところ、10分以上動作した。これならたとえ大容量のデータ転送中に停電が起きても心配はないだろう。もちろん、ノートパソコンは「バックアップしない」コンセントに接続してサージにそなえることにする。こちらは容量に余裕があるのでサラウンドスピーカーシステムや電話機も接続してみた。

 いったん設置してしまうと、その後は存在を忘れてしまいそうになる。まさに縁の下の力持ちといったところだろうか。発熱は本体に触れるとちょっと暖かいかなと感じる程度。インバータ機器にありがちな、うなるようなノイズは聞こえてこない。停電などの電源断が起きると数秒間隔で鳴るブザーがバッテリーバックアップに切り替わったことを知らせてくれる。これも決して耳障りではなく、かといって聞き逃してしまうほど控えめではない計算された音質という印象だ。


底面には垂直面に設置するための丁字形の穴。壁に取り付けたフックなどに引っかけて固定する。ただ、重量が3kg以上あるので設置場所には注意する必要がある 直径8mmほどもある極太の電源ケーブルが迫力モノ。プラグはアース端子付きの3Pと呼ばれるタイプ。一般的な2Pタイプへの変換プラグが付属している

 ちなみに試用期間中、台風の直撃を挟んで2度の地震という立て続けの災厄に見舞われたが、幸いなことに筆者の家では何事もなかった。確かに停電やサージはそうそう起きるトラブルではない。しかし、起きたときの被害は深刻なものになる可能性が高いのも事実だ。あとで後悔しないためにも電源断やサージ対策を検討してみてはいかがだろうか。

 なお、Windows XPやWindows 2000では、OS内蔵のUPSサービス機能とOMRONのホームページからダウンロードできる専用ドライバを利用して、パソコンをオートシャットダウンさせることができる。また、別売オプションとしてシャットダウンソフト「PowerAct Pro」が1ライセンス10,290円でリリースされている。こちらはWindows NTやWindows 98でも利用できるほか、ネットワーク環境にも対応する製品だ。


関連情報

URL
  製品情報
  http://www.omron.co.jp/ped-j/product/ups/bz35-50t-lt/bz35-50t-lt.htm
  オムロン
  http://www.omron.co.jp/


(斉藤成樹)
2005/08/10 11:06
Broadband Watch ホームページ
Copyright (c) 2005 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.