6月28日、総務省と財団法人マルチメディア振興センターが主催するシンポジウム「ブロードバンド・コンテンツの制作・流通の促進に向けて」が開催された。シンポジウムではコンテンツ配信における著作権処理や多用なコンテンツ配信システムに関する取り組みの成果が披露された。
■ コンテンツ配信の際の著作権処理手続きをオンラインで簡略化
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権利クリアランス実証実験の概要
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富士通 ネットワークサービス事業本部の佐藤理氏
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このシンポジウムは、2002年から実施されていた「著作権クリアランスの仕組みの開発・実証(権利クリアランス実証実験)」の終了と最終結果公表を受けて、実験の概要や成果を発表するために開催されたもの。実証実験に参加した権利者団体やコンテンツホルダー、メーカー、通信事業者などが一同に集まり、実験の主旨や結果について議論を交わした。
シンポジウムの第1部は、「著作権クリアランスの仕組みの開発・実証(権利クリアランス実証実験)」に関するもの。総務省情報通信政策局 コンテンツ流通促進室長の奈良俊哉氏と、システム開発を担当した富士通 ネットワークサービス事業本部の佐藤理氏が概要を説明した。
従来までコンテンツ配信に必要な手続きは電話やFAXが主であり、さらに権利者団体ごとにフォーマットも異なるため、非常に煩雑な処理が必要だったという。この問題を解決するため、実証実験では汎用的なメタデータを整備し、オンラインによる作業でこれらの事務処理の効率化を高めることを目的としている。
ただし、各権利者はすでに固有のデータベースを構築している場合もあり、これらをすべて標準のメタデータフォーマットに対応させることは難しい。そのため、今回の実証実験では各自業者の個別メタデータを交換するための中間的な役割として汎用メタデータを構築。この汎用メタデータは、国際標準規格の「Material eXchange Fomat」(MXF)にも対応したJ/meta 3.0で、XMLをベースとしているために外部システムからの利用も可能だという。
このシステムによって、従来は権利種別ごと行なっていた権利許諾の申請が1つの画面から可能になり、進捗状況もリアルタイムに確認できる。このほか、各権利団体が試験的に用意した権利者情報データベースをインターネットを介して横断検索を行なう試みも行なわれており、従来業務と比較して4倍の効率化が可能という予測も示されている。
なお、権利クリアランスシステムは秘密情報も取り扱うため、セキュリティ対策も重要になる。本システムではデータベースの利用者情報やプロファイルに基づき、利用者ごと参照可能なデータを区別することでセキュリティを高めているほか、通信の暗号化といった対策も行なわれている。
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汎用メタデータを中間的な役割として活用
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システムの画面例
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■ 「大きな成果」との感想の一方で「著作権使用料に課題」との意見が
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左からコーディネーターを務めたマルチメディア振興センターの田川義博氏、日本レコード協会の田中純一氏、日本音楽事業者協会の中村吉二氏、日本芸能実演家団体協議会の椎名和夫氏、日本音楽著作権協会の菅原瑞夫氏
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左からフジテレビジョンの板垣陽治氏、日本放送協会の竹内冬郎氏、テレビ朝日の高橋英夫氏、NHKエンタープライズの今和泉仁氏、総務省の松井英生氏
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実証実験に参加した権利者やコンテンツ保持者などが参加したパネルディスカッションでは、「データベースを相互に利用しあうという発想は目から鱗(社団法人日本芸能実演家団体協議会)」「成果として非常にいいものになった(社団法人日本音楽事業者協会)」「権利クリアランスの課題意識が参加者で共有できたのが大きな成果(NHK)」など、実験に関する肯定的な意見が寄せられた。一方でテレビ朝日の高橋英夫氏は、「これはあくまでシステムであり、権利処理のルール確定という問題が別にある」と注意を促した。
オンライン化の意義に関しては、社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫氏が「インターネットビジネスに関してはオンライン処理で対応しているが、5月の報告数は1,600万で、このうち99.7%を機械処理している。これは紙ベースで運用していては対応できない」とメリットを指摘。「データを共有化して交換することで、お互いの省力化が図れる」とした。
また、社団法人日本レコード協会の田中純一氏は、実証実験で行なわれたフィンガープリント技術による音源認証についてコメント。過去のコンテンツは音源のリストが整備されていないために、従来まではどの曲が使われていたのかを確認する作業が必要だったが、音源の特徴的な部分を抜き出してデータ化するフィンガープリント技術は実験で85%以上の合致率を誇っており、「過去の作品で楽曲リストがないものもこの技術でリストが生成できるため、過去コンテンツの利用も広がるのではないか」と期待を寄せているという。
テレビ朝日の高橋英夫氏は、日本経済団体連合会(経団連)が発表したテレビドラマのブロードバンド配信に関する使用料率の合意に関してコメント。「最も権利関係が複雑なドラマを前提とし、暫定的に情報量収入の8.95%で合意したが、これは2006年3月までの暫定ルールであって、拘束力はない」と指摘した上で、「この数値はストリーミングベースであって、ダウンロードの場合はまた異なる。また、情報料収入ベースでは広告収入型の無料モデルの場合どうなるのかなど、著作権の使用料についてはまだ課題が多い」とした。
総務省 大臣官房審議官の松井英生氏は「利益相反する団体がこの実証実験でつながった。今後はこのつながりをブロードバンドのように広げていきたい」とコメント。一方で「一番大事なのは消費者であり、消費者へのデリバリーまで視野に入れて考えなければならない」との注意を喚起した上で「この体制を強化するために、総務省はこれからも支援していきたい」と語った。
■ 番組関連情報の表示やライブ番組のダイジェスト視聴が可能に
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実証実験ポイント
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シンポジウムの第2部は、「ブロードバンド・コンテンツ流通技術の開発・実証(高度コンテンツ流通実験)」に関するもの。この実験では、ブロードバンド時代に対応した高度かつ多用なコンテンツ配信を実現するための技術が実証されており、ライブ番組のダイジェスト視聴が可能なメタデータ技術、番組に関連した情報やバックナンバー、関連グッズなどを表示する「e-flyer」、特定セグメントの早送り禁止や番組途中からの有料視聴を実現するコンテンツ再生制御といった技術が投入された。また、これらの技術を利用した番組のユーザー意識調査も行なわれている。
シンポジウムでは、会員登録をしているユーザーのみ閲覧できる関連情報、野球中継時にヒットシーンや注目選手の映像のみ再生できるセグメント視聴、料理番組中に、登録された郵便番号を元に地域のスーパー情報などを表示するといった取り組みが紹介された。これらの機能は、番組に付与されたメタデータをベースとして実現されているもの。メタデータを活用することで、番組途中でもその時点までのダイジェストを再生できるといった機能も実現できるという。
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実証実験のシステム構成
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ユーザー調査の概要
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■ コンテンツサービスに外せないのは「ユーザーの視点」
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左からコーディネーターの早稲田大学 大久保榮氏、日本放送協会の和田郁夫氏、東京放送の渋谷敏氏、フジテレビジョンの板垣陽治氏
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左から日本電信電話の岸上順一氏、松下電器産業の中西正典氏、三菱電機の三澤康雄氏、総務省の松井英生氏
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第2部のパネルディスカッションでは、「サーバー型放送という新しい道が生まれた(総務省)」「放送がいかにインターネットと連携していくか(NHK)」といった、通信と放送の融合の観点からのコメントが多く寄せられた。TBSの渋谷敏氏によれば、「実証実験を始めた頃は、放送と通信の融合はタブー視されていたが、総務省の方針もあってか今では放送と通信の連携は当たり前のように議論されている」と、業界内の考え方にも変化が見られるという。
一方、NHKの和田郁夫氏によれば「実験の開始当初は意欲的なものだったが、3年経って陳腐化してしまった部分もある」という。和田氏は「メタデータの活用という意味では、HDD搭載DVDレコーダの普及により、EPGというまさにメタデータを駆使したサービスが登場し、予想以上に市場が進んでいる」語った一方で、「部分視聴できるセグメントメタデータや、広告や関連情報と連動できるe-flyerなどは、この先数年を見通したメタデータの使い方ではないか」と自信を示した。
NTTの岸上順一氏は、実証実験で使われたシステム構成であるWDM(波長分割多重)について言及。「1つの回線で IPも(テレビ放送の)RFも(CATVの)64QAMも流せるが、それぞれ独立してコントロールできるというのがWDMの本質。今後、IPなのかRFなのかという議論はあるだろうが、WDM技術であれば柔軟に対応できる」とのメリットを示し、「WDMのコンテンツ流通インフラとしての可能性も今回の実証実験で大きな関心が得られたのではないか」との考えを示した。
松下電器産業の中西正典氏は、「コンテンツサービスとして外せないのは、サービスを受けるユーザーの視点」と指摘。「ユーザーは非常に多くの家電の中で生活しており、単に受け取ったコンテンツをそのまま利用するだけでは視野が狭い。PCや家電などの機器間での連携も重要だろう」との考えを披露すると、総務省 大臣官房審議官の松井英生氏も「コピーワンスという形があるが、今後はPC向けのものをテレビや携帯電話、車で視聴など、さまざまな視聴形態が登場するだろう」と中西氏に同意。「かつては良い製品が良い商品だったが、今の時代は必ずしも良い製品が良い商品ではない。これからは供給サイドだけではなく、消費者サイドからもコンテンツを考えていく必要があるだろう」とした。
■ URL
総務省 報道発表資料
http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050610_5.html
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(甲斐祐樹)
2005/06/28 20:59
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