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【 2009/12/25 】
【 2009/12/24 】
NEDO、ハンドオーバーや自動ログインなど無線LAN活用技術の実証実験

 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、無線LAN活用の技術研究開発成果を検証する「平成17年度無線LANスポット実証実験」を1月12日・13日に神奈川県横浜市のみなとみらい地区で実施する。初日となる12日には、プレス向け説明会と実証実験のデモが行なわれた。


新日本石油やタイムズ24などが参加、具体的なビジネスモデルを検証

実証実験の概要
 この実証実験は、社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)のモバイル・ホームシステム協議会、同協議会のメンバーであるNEC、富士通、日立製作所の3社が共同で行なう「デジタル情報機器相互運用基盤プロジェクト(無線LANスポット)」の一環として行なわれるもの。無線LANスポットをより活用するためのビジネスモデルや共通基盤技術開発の検討を目的とし、2003年より無線LANスポットWGが開催されている。

 2005年1月には、仕様検討や技術開発、ビジネス要素の確認を目的とした「フェーズ1」の実証実験が六本木ヒルズで行なわれ、「シームレス認証」「プラグ&サービス」「シームレスハンドオーバ」3技術のデモが行なわれた。今回はフェーズ1の結果を踏まえた具体的なビジネスモデル上での実証実験をテーマとし、新日本石油、パーク24、ゼンリンデータコムの3社が実証実験に参加。技術面でも「プライバシー保護技術」が新たに盛り込まれた。

 実証実験は1月12日・13日の両日、みなとみらい地区にある日石横浜ホール内で行なわれる。時間は両日とも13時から19時で、事前申し込みによる一般ユーザーの参加も受け付けている。参加に伴う費用などは無料。


3つのエリアをシームレスに移動、ユーザーに最適な情報を配信

 実証実験のエリアとなる日石横浜ホール内には、新日本石油のサービスステーション「エネオス」、タイムズ24の駐車場、みなとみらい21という3つのエリアを想定したアクセスポイントを設置。NECのシームレス認証技術により、3つのエリアを移動した場合も設定変更の必要なく自動でアクセスポイントが切り替えられる。


3つのエリアを想定したアクセスポイントを設置 アクセスポイントを自動で認識してログインする

 富士通のプラグ&サービス技術では、端末ごと異なるユーザー情報のプロファイルを設定し、エリアごとユーザーに最適化された情報を配信する。実験ではデモ用に「夫」「妻」と2種類のプロファイルが用意されており、同じアクセスポイントに接続した場合でも、夫には音楽配信、妻には映画情報というように異なる情報が提供されていた。


左が夫、右が妻のプロファイルが設定されたPDA。同じアクセスポイントでもそれぞれ異なる情報が配信される プロファイルやエリアに応じて最適な情報を配信

 日立製作所のシームレスハンドオーバー技術は、3G携帯電話やPHSといった広域通信と無線LANを自動で切り替えるというもの。会場ではストリーミングの動画再生とVoIPによる通話の2サービスが行なわれ、通信が切り替わった際も動画や音声が途切れることなく利用できた。第1フェーズの実証実験と比較して、今回は無線LANによる位置検出技術「日立AirLocation」を導入しており、無線LANエリアをAirLocationで把握することで、広域通信との切り替えがよりスムーズになっているという。


VoIPのハンドオーバーデモ。3G携帯電話と無線LANが自動で切り替わるが音声は途切れなかった 動画のハンドオーバーデモ

開放型プライバシー保護技術の概要
 フェーズ2で新たに追加されたNECの開放型プライバシー保護技術は、会員情報サーバーと個人情報保護サーバーを利用し、ユーザーが許可した個人情報のみを提供する技術。オンラインショップなどを利用する際、個別にユーザー情報を入力する必要がないほか、あらかじめユーザーが設定した開示条件に基づいた個人情報だけをオンラインショップに提供することで、個人情報の保護も可能という。

 具体的には、オンラインショップを利用する際に、ショップの利用規約内容を個人情報保護サーバーで確認し、その規約内容とユーザーの設定開示情報が合致した場合に初めて会員情報サーバーから必要最低限の情報のみを提供する。会員情報サーバーは、ユーザーが加入するISPなどが一括管理することでオンライン取引での第三者保証を付加。さらに本技術の仕様をオープンにすることで、契約したISPに依存することなくどのサービスでも利用できる。


オンラインショップ利用時には個人情報保護サーバーからメッセージが表示 個人情報利用の確認画面

ユーザーが設定した開示条件に合っていればサービスが利用可能 開示条件に合っていない場合はメッセージが通知される

DLNA対応機器とプロファイル情報の連携やPTTのデモも

 会場ではこのほか、実証実験に関連した技術やサービスのデモ展示も行なわれていた。日立製作所では、シームレスハンドオーバ技術向けのストリーム管理技術「HPSM(High Performance Streaming Manager)」を展示。シームレスハンドオーバでは、通信切り替えの際に2つのネットワークでデータを伝送するため一時的にストリームの同時配信数が増大し、負荷も高まるが、HPSMではHDDアクセスとネットワーク配信を最適化することで同時配信数の増加に対応、負荷を低減できるという。また、ユーザー認証向けに指静脈認証技術も展示。指紋認証も含めた生体認証の中では唯一外部から見えない生体内部の特徴を利用しているため、偽造に強いという特徴を持っている。


HPSMのデモ。HPSM使用時はより多くのストリームを配信でき、動画も途切れずに再生されていた 静脈認証技術。外部から見えないために偽造の面から指紋認証よりもセキュリティが高いという

 富士通ではプラグ&サービス技術のプロファイルを利用した家庭内ネットワークの連携デモを実施。DLNA対応のPCやHDDレコーダ、NASなどが接続されたネットワーク内で、プロファイルに応じたコンテンツのみを自動で抽出し、携帯電話型の無線LAN端末から操作できる。また、カーナビと連携し、あらかじめ当日のスケジュールを登録した携帯電話を自動車内のクレードルに設置すると、スケジュールに従った経路情報を表示するというデモも行なわれた。


DLNA対応機器で構成されたネットワーク DLNAネットワークから指定した条件に合致したコンテンツ情報を取得。携帯端末からの再生操作も可能

カーナビとの連動技術。スケジュールを登録した携帯電話をクレードルに置くと自動でスケジュールに合った経路情報を表示する


 NECでは携帯電話に内蔵したICカードや光タグでユーザーを認証するデモ、ロボットエージェントとカーナビ、PDAでユーザー情報を連携するデモを実施。家庭内でロボットエージェントからお勧めの情報を取得すると、カーナビやPDAにもその情報が自動で連携し、外出先などで情報を表示できる。このほかNECブースではPush To Talk(PTT)の技術展示も行なわれており、ユーザーが指定したグループで行なうPTTのほか、一定の条件に合致したユーザーをサーバーが自動的にグループ化してPTTが行なえるというデモが行なわれていた。


ICカード内蔵の携帯電話による認証デモ 光タグによるログインデモ

ロボットエージェント、カーナビ、PDAでユーザー情報を連携 PTTのデモ。携帯電話のようなユーザー呼び出し以外に、条件合致したユーザーを自動でグループ化する機能も

ユーザーの視点からの実証が研究開発には重要

東京大学大学院教授の江崎浩氏
 独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構の田中千速氏は、「このプロジェクトは2005年度で終了する最終確認の場」と前置いた上で、「研究開発の実証には、開発者だけではなくユーザーの視点が非常に重要」と今回の実証実験の趣旨を説明。また、新日本石油やタイムズ24の実験参加に対し、「開発技術企業以外にサービス提供者と連携できたことは大変有意義だ」と語った。

 無線LANスポットWG主査を務める東京大学大学院教授の江崎浩氏は「現場では3年間のプログラムがミッションだったが、今回の実証実験で終わるのではなく、今後いろいろなビジネスの話が出てくると期待している」とコメント。また、「開発メーカー3社で標準のAPIを揃えられたことが技術的に重要」とした上で、「オフィシャルな予算としてはプロジェクトは終了するが、次のビジネスへ進めるための重要な理解ができたのではないか」との考えを示した。

 インターネットITS協議会(IIC)の横山滋氏は、本実証実験で開発されたミドルウェア技術をIIC基盤仕様として取り込むという仕様の共通化を表明。本実証実験の仕様とIIC仕様を連携することでサービスの迅速な立ち上げが可能になるとともに、仕様の共通化によって事業者やメーカー、ユーザーへの展開も早まるとした。

 モバイル・ホームシステム協議会副会長の海老野征雄氏は、「今回の実証実験は、車という動的空間と無線LANスポットという静的空間を組み合わせた“Mobile Spot Convergence”だ」と説明。「Mobileには携帯の“モバイル”だけでなく、自動車を示す“モービル”の意味もある」とし、「こうしたコンバージェンスにより、日本初の新しいビジネスモデルが創出できるのでは」と期待を示した。


関連情報

URL
  独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
  http://www.nedo.go.jp/
  モバイル・ホームシステム協議会
  http://mhsf.jeita.or.jp/
  実証実験概要
  http://mhsf.jeita.or.jp/jikkenn/annai/h17-11-21/index.html

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(甲斐祐樹)
2006/01/12 16:03
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