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【 2009/12/25 】
【 2009/12/24 】
梅田望夫氏、茂木健一郎氏が共著について語る「フューチャリスト会見」

 筑摩書房は20日、「フューチャリスト宣言」を執筆した梅田望夫氏、茂木健一郎氏による「フューチャリスト会見」を開催した。


梅田氏・茂木氏が書籍に込めた思いを披露

梅田望夫氏
 「フューチャリスト宣言」は、「ウェブ進化論」「シリコンバレー精神」などを執筆したミューズ・アソシエイツ社長の梅田氏と、「クオリア」をキーワードにした脳科学者の茂木氏が、インターネットによる新しい社会への期待を込めて共著した新書。普段はシリコンバレーに住む梅田氏が来日したタイミングに合わせ、両氏が本に込めたメッセージを語った。

 梅田氏は、「フューチャリスト宣言」の前に執筆した「ウェブ進化論」について「WebやGoogleといったネットの動向については多くの人が理解した一方で、あの本に込めたある種のオプティミズムは、日本について特異なものとして賛否両論受け止められた感がある」とコメント。「能天気に未来が明るいと言っているわけではないが、オプティミズムを持たなければ未来は創造できない」との思いを述べた。

 「フューチャリスト宣言」を共著した茂木氏との出会いは、雑誌「AERA」での対談がきっかけだったが、「オプティミズムという考え方でで茂木さんと共振した」(梅田氏)。今回の本につけた「フューチャリスト」という言葉は、「未来をそんなに明るくないと思っているかもしれないが、そこに行動を加えることで未来を変えられる」との思いを込めたと語った。


インターネットは人類が言語を獲得した以来の大メディア革命

茂木健一郎氏
 自らを「インターネットのヘビーユーザー」とし、独自ドメインも1999年に取得するなど積極的にネットを利用している茂木氏は、「メーリングリストや掲示板などありとあらゆるメディアを試す中で、インターネットは人類が言語を獲得した以来の大メディア革命だという確信が強まった」とコメント。インターネットの魅力を「半分は偶然、半分は必然というという偶有性にある」とし、「コンピュータゲームとは比較にならないほどの偶有性が、組織や年齢、国境の壁を越えて世界を流通しているという新しい事態は、人間の脳にとって興奮すべきことで、そこにいろいろな可能性が開かれている」と語った。

 一方で、「日本ではインターネットに対してサブカルチャー的なイメージが強く、ネットをネガティブに捉えている人が多い」と指摘。「インターネットをネガティブに捉えるのは日本固有の文化で、アメリカを中心に海外ではまったく新しいインターネットの捉え方や文明のあり方が生まれている」と語った茂木氏は、福沢諭吉の「西洋事情」「学問のすゝめ」を例にとり、「あの時代は欧米と日本に大きな文明の格差が生まれていたが、それくらいの大きな差がインターネットでも生まれている」との危機感を示した。

 具体的な例として茂木氏は、「Web 2.0の世界では組織と個人を固定しないで臨機応変に使い分けるが、実際にはアメリカはもともとそういう文化だ」と説明。「日本はフリーランスになると家を借りるのも一苦労で、組織に属していると幸せという談合的な社会」とした上で、「アメリカではお金がきちんと払えれば家は借りられる。組織に属さなければ評価されないというこの体質を変えなければ、日本は二流国になってしまう」と語った。

 日本が変わるためのビジョンとして茂木氏が挙げたのが、「入試のない世界を想像できるかどうか」。茂木氏は「日本では大学に入ることに意味があるが、いまやインターネットがあればどんな学術情報でもアクセスでき、大学へ行かなくてもタダで学べる」と説明。「公開されているのは英語が多いので、英語で読める必要はあるが」と断った上で、「個人が組織に属することで価値を得る仕組みが、こうした学術情報の公開からみても崩壊しつつある」とし、「個人と組織のあり方をいかにフレキシブルにしていくかを考えないと、アメリカで生まれた新しい文明のあり方に対抗できない」とした。


日本の匿名文化は世界と比べて特殊

会見は当初30分の予定を超え1時間近く続くほど熱弁を振るった2人
 日本のインターネットについて梅田氏は「ビジネスの観点から見すぎではないか」との考えを披露。「ビジネスの目で見るとPCを窓にしたインターネットの世界は儲かりにくく、どうしてもモバイルの世界に行ってしまう」と続け、「日本は消費者の幸せよりも、生産者がインフラを作れることが大事という考えが強いのではないか」と語った。

 茂木氏は日本のネット文化を「読み人知らずの伝統かもしれないが、日本の匿名性は世界と比べて特殊」と指摘。Wikipediaを例に挙げ、「米国のWikipediaは客観的事実が中心で、評論は引用するという文化がある。日本のWikipediaは米国に比べるとネタ的な要素が入ってくる」とコメント。「最近では日本のWikipediaも良くなってきてはいる」と付け加えた上で、「批判するのではなく我慢強くサポートし続けることで、パブリックでアカデミックなインターネットを普及させたい」との考えを示した。

 梅田氏はウェブ進化論の中で述べた「総表現社会の三層構造」という考えに触れ、「エリート・大衆の二層構造ではなく、その中間層として学校のクラスに5人か10人くらいはいた見どころのある存在」とその概念を説明。「この部分は1冊の本の中で緊張して書いた部分部分」と振り返りながらも、「しかし、ウェブ進化論の感想はすべて読んだが、この三層構造について否定する人はいなかった」という。梅田氏は「あの本を読んだ人は、みんな自分はその層に入っていると考えたのではないか」と分析。「これが日本のすごいところだと再発見した。この共有能力の高い層の人が自分が思うままに行動してほしい。そういう意味では日本のインターネットはまだまだこれから」とした。


インターネットの啓蒙が重要。福沢諭吉に続く第二の啓蒙時代

 茂木氏は自身でもブログ「クオリア日記」を持っており、毎日1日20分程度、コーヒーを飲みながら更新しているという。「1日20分を合計すれば大変な時間で、損しているのか得しているのか自分ではわからないが」と語った茂木氏は、「自分が持ったイメージを鮮度の高いうちに伝えたい」とブログを書く目的を披露。梅田氏も「ブログを中心としたネット活動は社会貢献の概念で考えている」とし、「自分のネット活動はマーケティングや印税のためだと受け止められることもあるが、ネットの活動は自分たちが費やした時間を凝縮して多くの人に広めたいと思う、それ以上でも以下でもない」との思いを語った。

 「日本で決裁権を持つ世代はネットを知らないが、その下の世代が決裁権を持つようになれば日本は変わるだろうか」という質問に対しては、梅田氏が「変わると期待したいが、それだけでは変わらないかもしれない」と回答。「それは、テクノロジーで何かを変えようと考えていないからだ」と続け、「欧米はテクノロジーそのものに興奮するところがあり、PCが登場した頃から個人を高めるものとして喜ばれたが、日本ではどちらかというとPCが個を管理する道具になっている」と分析。「個人を高めるよりも業界が潰れないほうがいい、と考えてしまうところがあり、若い世代もそういうところを引き継いでいるのは」と語った。

 こうした背景を踏まえて茂木氏は「今は福沢諭吉の時代に続く第二の啓蒙時代で、インターネットの問題は憲法改正の問題よりも大きいと思っている」とし、「脳の中に匹敵するモノが脳の外部にできつつあり、それが脳と一体化しつつある。言語の登場と同じくらい脳にとって大きなことがインターネットで起きているということに気づいて欲しい」と語った。


関連情報

URL
  フューチャリスト宣言
  http://www.chikumashobo.co.jp/special/futurist/

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(甲斐祐樹)
2007/05/21 11:54
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