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【"非"検索会議 sponsored by Yahoo! 検索】
脳科学の茂木氏らを迎え、「選ばれるWeb」をテーマにWebの未来を探る

 9月28日、Yahoo! JAPAN協賛による「"非"検索会議」が開催された。検索を用いない情報検索の方法や考え方について、「POBox」の開発などで知られる増井俊之氏や、脳科学の研究家である茂木健一郎氏らが講演を行なった。

 「"非"検索会議」は、サイト「百式」管理人で、ToDoツール「check*pad」なども手がける田口元氏、サイト「Passion for the Future」の管理人であるデータセクション代表取締役の橋本大也氏による「検索会議」シリーズの第4弾。「検索だけではないWebの未来を探る」というテーマに基づき、増井氏や茂木氏らをゲストに迎えて講演を行なった。


タグやソーシャルブックマークなどで効率の良い情報収集が可能に

橋本大也氏
 橋本氏は、「検索しないで情報を見つける非検索術」というテーマで、キーワードを検索するだけではない情報収集の方法を紹介。「検索はユーザーが記録から情報を引き出すもの」と位置づけた上で、「自己から情報を引き出すブログやブックマーク、他者から引き出すSNSやソーシャルブックマークといったツールにより、効率の良い情報収集が可能になっている」とした。

 橋本氏自身も、「キーワード検索以外の方法で情報を探すことが多くなっている」とコメント。その一例として、検索結果をRSSリーダーに登録して自動で検索結果を取得する方法、ソーシャルブックマークで人気の話題を知る方法、Q&Aサービスで他人に質問してしまう方法などを紹介。また、自分のブログに付けられたはてなブックマークのコメントも、「今までは自分の評判を自分で探す必要があったが、今はそうした評判も一覧できる」とのメリットを語った。

 橋本氏が講師を務めるデジタルハリウッドで行なった実験の事例も紹介。デジタルハリウッドのあるダイビルで「6階から7階までの階段数」という質問を出題。70人それぞれの個人の結果と、7人ごとのグループで算出した平均値を比べると、個人での正解率は7%だったのに対し、グループでの正解率は70%に上ったという。橋本氏は「これは少々できすぎの結果ではあるが」と断った上で、「多様性、独立性、分散性、集約性という条件を満たせば集団は賢くなる、という集合知の概念が実証できた」とした。

 また、「情報を一覧する」ことの重要性も指摘。FlickrやYouTubeなどのタグを横断検索できる「TAGGY」、人気ページを横断検索できる「POPURLS」といったサイトを紹介し、「検索ではついついディティールを見てしまいがちだが、タグを使って一覧すれば全体が理解できる」とのメリットを示した。

 最後に橋本氏は、「情報を集めるだけでなく、考えることも重要」と指摘。「フィルターやタグ、みんなに聞いて集めた情報を自分なりに考え、得られた情報にプラスアルファをすることで使えるものになってくる」と語った。


Web 2.0により情報収集のスタイルが変化 RSSリーダーやソーシャルブックマークを活用して情報収集

ダイビルの階段数を質問。インターネットに答えが無いことも事前に確認済みという グループの平均値が個人よりも正確な結果に

百式管理人が語る「選ばれるサイトのコンセプト」

「選ばれるサイト」をテーマに考える5カ条
 田口氏は、「選ばれるサイトとは何か」というテーマを自らのサイトを事例としながら説明。「機能が多すぎることはサービスの競争力を低下させる」とし、自身のサイトコンセプトとして「機能が少ないと言うことではなく、心理的にすっきりできるサービスを目指している」とした。

 そうした「シンプルでストレスフリー」を実現するための5カ条として田口氏は、「Knowledge First」「Time」「Comparison」「Trust」「Result」を紹介。「Knowledge First」については「数式がわかれば数学も理解しやすいように、何か知識があるものは心理的に楽」と解説し、サービスを理解してもらうためにはまずその理論を紹介しておくことを心がけている」と語った。

 サービスをすぐに使ってもらうために、利用までの余計な時間はできるだけ省く(Time)。また、シンプルであることを理解してもらうために、あえて多機能なものと比較する(Comparison)。また、サービスの開発状況などをブログで紹介することで、運営者を信じてもらうことも重要だという(Trust)。田口氏は「カスタマーサポートについても、できるだけ自分で返事をし、地道にTrustを高めている」と付け加えた。

 5つ目のキーワード「Result」は、そのサービスで何が得られるかを明確にすること。田口氏は自身が開発したToDoツール「check*pad」を例に上げ、「check*padの目的は、作ったリストをクリアしていくこと。そのためにリスト作成ボタンを画面の下に用意している」と説明。「画面の下に置くことで、リスト作成までに自分のリストを見てもらい、リストが溜まっていることをストレスに思って欲しい」と語った。


目指したのは最速の導入 ブログやカスタマーサポートを通じて信頼度を高める

タグを有効に使えばあらゆる情報が管理可能に

増井俊之氏
 増井氏は、イベントのタイトル「非検索会議」に対し、「検索しないで情報を探すのは難しい」とコメントした上で、「検索しているという意識なしに検索できていればいいのだろう」とコメント。自ら開発したシステムも交えながら、自身で実践している情報整理術を紹介した。

 情報整理術の一番最初に紹介したのは全文検索。「使えるシステムもたくさんあり、基本的に便利だが、文字列が含まれていないブックマークや画像などは検索できない」と指摘。一方、タグによる整理術は「画像やPDFなどあらゆるものを管理できるが、そもそもタグ付けが面倒。また、同じタグを必ずつけるとは限らない」との課題を示した。

 さまざまな情報に索引をつけてデータベース化する、「索引ナビゲータ」、Wiki要素を盛り込んだ掲示板システム「Wiki掲示板」、日付や内容から近さを判断して自動でリンクを作成する「近傍検索システム」など、自ら開発したシステムも紹介。索引ナビゲータやWiki掲示板は「簡単なページを作成するのが難しい」、近傍検索は「類似検索のよいシステムが少なく、インデックス作成にも時間がかかる」と、いずれも課題があるとした。

 最近では、連想をベースにした「AssocWiki」というシステムも開発。すべてのリンクを双方向とし、データに付与したタグをWikiのタイトルと同列に扱うことが特徴で、内容は箇条書きのみとシンプルに構成。近傍検索の技術も取り入れているという。増井氏は「最初はタグをつければ検索できて当然で、そもそもタグを付けるのが面倒だと否定的だった」としながらも、「タグをうまく扱えばURLも写真もPDFも管理できる」とのメリットを示した。


タグによる情報整理術。「最初は面倒だと思っていたが、実際には便利だった」


あらゆるものに索引をつける「索引ナビゲータ」 Wiki機能を備えた掲示板

近傍検索の例 「AssocWiki」のプレゼンテーション

「なぜそのサイトを選ぶのか」を脳科学の視点から分析

茂木健一郎氏
 認知科学と脳科学の専門家である茂木氏は、「Search and Choice」というテーマでプレゼンテーション。「人間の脳は検索が苦手で、代わりに検索エンジンが検索を行なっているが、検索結果を実際に選ぶのは人間」と指摘し、「クリックエコノミーという言葉があるが、なぜその情報を人間が選ぶのかという脳の研究がビジネスになる時代だ」と語った。

 茂木氏によれば、脳とは「発達に終わりがないオープン・エンド性がある」という。「かつては美女だった芸能人が、当時そのままの姿で今出てきても人気は出ないだろう」との例を挙げた茂木氏は、「脳の嗜好性は変わっていくもの。インターネットのメディアもブログの登場によってメールマガジンやホームページなどは古く見える。ブログすらも新しいメディアが登場すれば古く見えてしまうだろう」とした。

 こうした変化を続ける脳の欲望の在り方を説明するのが、「utility(効用)」という概念。「時に人間は異常な行動を取るが、それは効用が破れているのではなく、新しい効用概念が生まれているから」と語った茂木氏は、「お金を損してでも何かを選ぶ、という行動は、そこにお金以外の何か重要な要素がある」とし、「クリックエコノミーもこの効用概念という枠組みで考えられる」とした。

 脳内物質であるドーパミンもクリックエコノミーに重要な要素だという。「人は苦労しないで得た金より苦労した金が嬉しいものだが、それは生物として生きてきた中で行動すると報酬が得られてきたから」。茂木氏は、「ドーパミンはある行動を行なった後に分泌され、その行動を強化する」という脳の仕組みを説明し「Webサイトにアクセスしてもらうには、快楽主義者である脳に対していかにドーパミンを出させるかが鍵」とした。


 「嗜好性」という概念も重要な要素だという。「高価なフランス料理よりも、一杯の牛丼が食べたい時もある」との例を示した茂木氏は、「嗜好性は単なる品質とは結び付かない」と説明。「携帯電話をなぜ人が持ちたがるのか。それは色やデザインではなく、着信やメールが嬉しいという史上最強のドーパミン発生装置だからだ」と語り、「人に使ってもらうためのデザインは、色や形だけではない、人間の深い報酬行動まで見ていく必要がある」とした。

 インターネット上のWebサイトは、リンク先を見てみなければ内容が理解できないが、「不確実ながらもそのサイトをクリックする“効用”はあるはず」と茂木氏は指摘。「だれもその答えを知らないが、それこそが我々脳科学研究者の知りたいことであり、ビジネスにならないと言われていた脳科学にも重要なことだ」と語った。

 SNSやクリエイティブ・コモンズ、オープンソースなど、「自分の得だけではなく他の得も考える利他的なものは、経済的にはおかしいが脳の仕組みとしては合理的」だという。「人は押しつけではなく自分が主体性を持つことに喜びを感じる」とその理由を語った茂木氏は、「Webサイトのクリックも主体性を与えていくとうまくいくのではないか」との考えを示した。

 最後に茂木氏は「人間が何を選ぶか、ということは、科学でも実用上でも非常に重要なこと」とコメント。「インターネットのメディア性も検索と選択が一緒でなければ完結しない。いかに人間に選択してもらえるかを考えることで、検索を最適化できるだろう」と、選択の重要性を語った。


関連情報

URL
  "非"検索会議
  http://www.ideaxidea.com/archives/2006/09/post_141.html

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(甲斐祐樹)
2006/09/29 12:54
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