グーグルは25日、動画共有サービス「YouTube」の日本における事業説明会を開催した。説明会には米Google コンテンツ担当副社長のデービット・ユン氏やYouTubeのコンテンツパートナーがYouTubeでの取り組みや今後の展開について語った。
■ パートナーは100社以上。トラフィックの70%が米国以外から
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米Google コンテンツ担当副社長のデービット・ユン氏
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ユン氏は、YouTubeが日本で行ってきた取り組みについて説明。コンテンツパートナーは現在100社を超え、著作権管理団体ともJASRAC、イーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランスの3団体と契約。「コンテンツをコントロールしたいというコンテンツオーナーの希望にきちんと答えていきたい」との考えを示した。
「誰にでも、どこにでも、どんなデバイスにもYouTubeを提供したい」とのコンセプトに基づき、携帯電話向けのサービスやYouTube対応テレビ、iPhone向けアプリケーションなどにYouTubeを提供。現在YouTubeが提供している23カ国のうち、トラフィックの70%はアメリカ以外であり、「日本もその中で重要な存在」とした。
動画の解析ツール「YouTube Insight」も紹介。「誰がどこからいつアクセスしたかを分析でき、分析の深さについて右に出るものはいないだろう」と自信を示した。広告も順調で、東芝やコカ・コーラなどが自社ブランドのチャンネルを展開。11月23日にはトヨタがスポンサーとなった音楽イベント「YouTube Live TOKYO feat.iQ」が開催され、「50以上の実演家が出演し、2000人以上のYouTubeファンが集まった」と報告した。
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日本におけるパートナー
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契約する著作権団体
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動画のアクセスを解析できる「YouTube Insight」
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日本での広告事例
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■ 著作権保護も積極的に対策。広告挿入で収益化も実現
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コンテンツIDシステムの概要
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YouTubeが取り組む著作権保護対策についても言及し、同社の「コンテンツIDシステム」を紹介。コンテンツパートナーから提供を受けたサンプルファイルに基づき、同じ動画ファイルをチェックすることで著作権違反対策を特定する。ユン氏はサンプルファイルと、テレビ画面を撮影したビデオ動画のマッチング事例を紹介、20秒程度の動画部分があればマッチング判定が可能だとした。
こうして特定された動画はそのまま削除することも可能だが、すぐには削除せずにトラフィック情報の詳細を取得することも可能。また、該当する動画にコンテンツホルダーが広告を表示し、その収益を受け取る「マネタイズ」オプションも利用可能だという。ユン氏は「300以上のパートナーがコンテンツIDシステムを利用し、そのうち90%以上がマネタイズを選択している」と説明。「一部のパートナーはマネタイズによって従来の50倍以上の再生回数と収益を達成した」と付け加えた。
動画の上に広告をオーバーレイ表示する「In-Video」広告も紹介し、「クリックレートは標準と比べて8倍から10倍に上る」とその成果をアピール。「ユーザーはいつ広告を見るかを自分で選択できる」とし、「ユーザーの邪魔にならないと同時に広告主にとって効率の高い広告としてバランスの取れるような技術」と自信を示した。
今後の展開としてはドラマや映画など長尺コンテンツの本編配信や、コンテンツと関連した音楽や商品などの購入リンクをYouTube上に表示する「Click to Buy」といった施策を紹介。世界23カ国で展開するというグローバル性を活かしたコンテンツ配信も特徴とし、「どの地域で配信するか、地域ごとにどの広告を表示するかなども自由に選択できる」とそのメリットを強調。「ユーザーとの双方向のやり取りに加えて、コンテンツホルダーの収益化も支援していく」と語った。
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サンプルとして提供された動画を利用して著作権違反の動画をチェック
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検出した動画に広告を表示するオプションも
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広告表示オプションで再生回数と収益を50倍に伸ばした事例も
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動画に広告をオーバーレイ表示する「In-Video広告」
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今後は長尺の本編動画配信も検討
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動画再生ページの購入リンクで収益を向上
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■ エイベックスはYouTube連動のプロモーションやオーディションを検討
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エイベックス・マーケティング アーティストマーケティング本部の前田治昌本部長
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YouTubeのコンテンツパートナーとしては、エイベックス・マーケティング、角川デジックス、パナソニックの3社が出席。また、日本音楽著作権協会(JASRAC)も、動画共有サービスに対するJASRACの考え方や取り組みについて説明した。
エイベックス・マーケティング アーティストマーケティング本部の前田治昌本部長は、エイベックスの創立20周年と手塚治虫の生誕80周年を記念したプロデューサーユニット「ravex」でのYouTubeをつかった取り組みを紹介。エイベックスのプロデューサーチームによるダンスミュージックとJ-POPの新たな融合を提案するプロジェクトで、YouTubeでは公式動画以外にクラブハウスなどで行われたイベントをハンディカメラで撮影した動画を公開している。
前田氏は「作品の品質とは画質だけではなく、ドキュメンタリー性やリアルタイム性にも価値がある」とコメント。「最近ではライブの動員数が上がっており、ライブでのグッズ販売なども客単価や購入率が上昇している」との状況を踏まえて「エイベックスではライブを重要なポイントとして捉えている」とし、「動画が次々に投稿され、新機能も追加されるYouTubeは、今日と同じYouTubeは存在しないという点でライブ的な存在である」と指摘。今後はYouTubeを利用したオーディションなどを検討しており、「インディーズを盛り上げてきたエイベックスはYouTubeに近い立場。YouTubeと組むことで足し算ではなくかけ算の効果を出していきたい」とした。
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プロデューサーユニット「ravex」でYouTubeを用いたプロモーションを試験的に実施
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公式動画以外にライブ会場の映像などを配信する
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YouTubeは「それ自体がライブ」
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■ ユーザー投稿動画の公式認定で収益向上につなげる角川
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角川デジックスの福田正代表取締役社長
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パナソニック AVCネットワークス 映像・ディスプレイデバイス事業グループ 商品企画グループの和田浩史グループマネージャー
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角川デジックスの福田正代表取締役社長は、YouTubeに対する取り組みを紹介。同社ではこれまでYouTubeにアップロードされた角川関連の動画をすべてチェックし、ユーザーがアップロードした動画についても角川の基準に準じていれば公開を認定する「角川バッジ」制度を導入。認定された動画に角川の広告を表示することで収益化を実現している。
こうした取り組みにより、角川が認定した投稿動画の再生回数は当初の約62倍、30秒以上の動画が再生されたエキシビジョン数は約49倍と大幅に増加。「ユーザーからも感謝の言葉を多くいただいている」とし、「我々の収益となる動画再生回数は、現在では約100倍近く伸びている」と語った。
地域情報誌「Walker」とも連携し、Walkerの公式サイトをYouTubeに開設。グルメ関連の動画などを次々にアップロードしており、ブログなどにリンクされることでSEO効果も高いという。また、タカラトミーの「フラワーロック2.0」と連動したYouTube展開では、In-Videoの開始によって再生回数が数倍以上に増加した事例を公開。「冷え切ったビジネス環境の中、明るい未来がそこにあるのではないか」との手応えを示した。
ユーザーの投稿動画をグループ会社のシネプレックスで上映するという試みも12月に予定。こうして収益化した動画を投稿したユーザーに対しては「まだ計算式が確立していないので図書カードを送っているが、クリエイターにも必ず何かの対価を用意する」とし、「もっと新しい市場を開拓し、日本から大きなムーブメントが起きれば、と考えている」とした。
パナソニック AVCネットワークス 映像・ディスプレイデバイス事業グループ 商品企画グループの和田浩史グループマネージャーは、同社のテレビ「VIERA」でYouTubeを視聴できる「PZR900シリーズ」を紹介。「販売店の感心も高く、購入者からもご好評いただいている」とし、「白黒テレビ、カラーテレビ、大画面テレビ、デジタル・薄型テレビという4つの波に続き、今はテレビ業界に第5の波が来ている」とコメント。「テレビは放送だけでなくネットでも楽しめ、さまざまな機器がテレビにつながるようになる」とし、「ネットを介した映像文化の発展にパナソニックも寄与していきたい」との考えを示した。
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ユーザー投稿動画も角川公式動画として認定する試み
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コンテンツ公開作業の流れ
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ユーザー投稿動画の認定でトラフィックが急激に増加
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YouTube In-Video公開でPVが増加した事例
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ブログなどでリンクされることでSEO対策にも効果的という
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さまざまなメディアをつ買ったクロスプロモーションで効果を拡大
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テレビ市場は「第5の波」が到来
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YouTubeが視聴できるパナソニックの「PZR900シリーズ」
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ネットを介した映像文化の発展に寄与
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■ JASRACは「動画共有を新たなメディアとして許諾の途を開く」
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JASRACの菅原瑞夫常務理事
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JASRACの菅原瑞夫常務理事は、動画共有サービスに対する音楽著作権のあり方を説明。「動画を配信するという点では既存のストリーミング配信サービスとライセンスに違いはない」とした上で、「既存のサービスは配信事業者がコンテンツを集めるが、動画共有ではユーザーが投稿するという点に違いがある」と語った。
こうしたユーザー投稿については「インターネットに公開した時点で個人的な利用ではなくなるため、私的録音の範囲を超えて権利が動くことになる」と説明。「本来であれば動画の投稿者が処理すべきだが、それをユーザーが実際に行うのは難しく、JASRAC側でも大量の処理を行うのは大変」との考えを示し、「共有サイト全体を1つのシステムとし、配信側が個人に変わってライセンスする仕組みがあれば、お互いに好都合な結果になるのでは」とした。
今後も動画共有サービスに対しては違反利用の対策を求めていくが、一方で「動画共有を新たなメディアの存在として肯定し、許諾の途を開く」という考えもあるという。菅原氏は「動画共有によって従前では考えられなかった動きも見えてきており、新しい文化の展開は基盤作りのJASRACとしても期待している」と語った。
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動画共有サービスでのコンテンツの流れと権利処理
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動画共有サービスに対するJASRACの対応
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動画共有サービスを新たなメディアとして肯定
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■ URL
YouTube
http://jp.youtube.com/
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(甲斐祐樹)
2008/11/25 18:02
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