2005年上期中に、Yahoo! BBの加入者600万回線と営業利益1,200億円の達成を目指す──。12日に東京都内で開催されたソフトバンクの決算説明会で、孫正義代表取締役社長がYahoo! BB事業の新たな目標を発表した。同社が2003年12月に実験局免許を取得した第3世代携帯電話による高速無線サービス事業についても言及したほか、BBケーブルTVのセットトップボックス(STB)に新型モデルを投入することも明らかにした。
■ ソフトバンクの業績は着実に回復している
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ソフトバンクの孫正義代表取締役社長
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同日発表されたソフトバンクの2003年度第3四半期(2003年10~12月)の連結業績は、売上高が1,366億円、営業損益が66億円の損失で、いずれも3期連続で改善している。特に営業利益は、337億円の損失を出した「2002年度第4四半期を底に、着実にV字回復している」。ブロードバンドインフラ事業に限定しても、売上高は2003年度第2四半期に比べて46億円の増加、営業損失も同じく27億円改善しているという。
なお、2003年度第3四半期のソフトバンクの売上高に占めるブロードバンドインフラ事業の比率は25%。イーコマース事業の44%に次ぐ規模となっており、「事業の中核になり始めている事業」だとしている。今回の説明会でも、その大半をソフトバンクBBを中心としたブロードバンドインフラ事業における今後のビジョンなどの説明に割くかたちとなった。
■ Yahoo! BBを“ライフスタイル商品”として展開
ソフトバンクでは昨年、2004年3月までに400万回線を獲得するという目標に掲げていた。それが1月末で約382万回線となり、3月中にも目標達成が確実となったことで、今回、新たな目標を設定した。600万回線という数字は、年間1,000億円という営業利益を達成することを前提として算出したものだという。孫社長は、ブロードバンドが洗濯機や冷蔵庫、カラーTV、乗用車、エアコン、携帯電話などと同様に“ライフスタイル商品”として定着すると説明。これらの商品を手がける松下やソニー、トヨタ、ホンダが営業利益1,000億円を達成するのに30数年かかったことを引き合いに出し、それをYahoo! BBでは営業開始から4年で達成したいと宣言した。なお、400万回線時点での営業利益は600億円に止まるという。
この目標を達成するには、1年半で新たに200万回線を上乗せしなければならない計算になるが、「料金を値下げして達成するつもりはない」と説明。ただし、その一方でBBフォンやBBケーブルTV、無線LAN、セキュリティなどの高付加価値メニューの契約獲得により、1ユーザーあたりの月間売上高を上げていきたい考えだ。テレマーケティングや“パラソル部隊”の拠点を増やすなど、「45M ADSL+BBフォン+無線LANのトリオなど、単価の高いメニューについてさらに顧客獲得コストを投入することはあり得る」という。また、8M ADSLのみの既存ユーザーと上記トリオサービスのユーザーでは「粗利は倍以上違う」として、既存ユーザーに対して「顧客獲得コストを上乗せしても、高付加価値サービスを売ることも考えている」。
孫社長は、「600万回線までの脅威はほとんど考えられない。400万回線の目標を掲げた時は少しドキドキしていたが、数カ月の遅れがあったとしても絶対数として600万回線は確実に行く」と自信を見せている。
■ BBケーブルTVはまだテストマーケティング段階
孫社長によれば、Yahoo! BBにおける1ユーザーあたりの月間平均収入は、2001年度第3四半期に2,000円強だったのが、ADSLの基本料やモデムレンタル料のアップ分、BBフォン通話料、無線LAN使用料などが上乗せされることにより、2003年度第3四半期には4,000円を超えるまでになった。同じく1ユーザーあたりの粗利も約750円から約2,300円に伸びており、特に最近の新規ユーザーに限って見れば、さらに高い2,800円になるという。
これについて孫社長は、「当初は破壊型・自滅型ビジネスモデルと中傷されたが、実際は倍増できた。ユーザー数の伸びに加えて、粗利も伸びている」とコメント。「我々は、単なる回線事業者ではない。(その上で高付加価値サービスを提供することで)市場が増えるに従って収入も増加する“収入逓増型”のビジネスモデルだ」と説明した。
具体的には、「いよいよこれから先は、コンテンツで勝負する“3rd STAGE”だ」として、すでにIP電話で90数%のシェアを獲得しているBBフォンに続いて、「これからはBBケーブルTVで他社との差別化を強化していく」。また、ウイルス対策機能などを提供するBBセキュリティについても、サービス開始から2カ月半で申し込み世帯数が約26万件、申し込みライセンス数が約31万件に達したという。現在無料キャンペーンだが、これが今後、月額490円の有料ユーザーに移行することが見込まれ、「1ユーザーあたりの売上増に貢献する」としている。
BBケーブルTVについては、会場から「営業不振なのではないか?」との質問があったが、孫社長は「本格的な営業に入っていない。どのチャネルがベターか、テストマーケティングを行なっている最中」と説明。すでに開発が完了し、量産を待つのみとなった新型STBの「モデル2.0」から本格的な営業を展開することを示唆した。
モデル2.0では、現行の「モデル1.0」で2Mbpsで配信しているのと同等のクオリティの映像が1Mbpsで実現できるという。ただし、圧縮技術が異なるために両モデル向けに2つの方式でマルチキャストするのは非効率的であるため、最終的にモデル1.0は切り捨てることになる。そこで、モデル2.0の量産を待つ数カ月の間、あえてモデル1.0のサービス拡大を抑えているのだという。なお、孫社長は明言を避けたが、「モデル2.0はだいぶ小型になる」として、パラソル部隊でのSTB配布の可能性も示唆した。
孫社長は、ブロードバンドによる放送サービスについて、「他社でも一見似たようなサービスを発表することは可能だ。(BBケーブルTVは)実際の獲得シェアでナンバーワンになりたい」とコメントした。
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1ユーザーあたりの平均収入の推移
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同じく平均利益の推移
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メニュー別契約回線数の推移。売上単価の低い8M ADSLが「着実に減って」、より粗利の多いメニューが増加しているという
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今後、法人サービスやゲームなどの高付加価値サービスとともに、FTTHや高速無線インフラも予定していることが示された
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■ スピードネットの時の“未遂事件”は繰り返さない
目標となる600万回線はADSLをメインとした数字となるが、「特定の技術にこだわるのではなく、適材適所で高速無線サービスも加えていきたいという方向性はある」という。
すでにソフトバンクが2003年12月にTD-CDMA方式とCDMA2000方式の実験予備免許を取得していることについて、「何らかの技術で、何らかの方法で、どこかの周波数を使って、いつかはやる」と断言。かつて定額制の高速無線サービスに参入するとして、東京電力らとスピードネットを立ち上げておきながら、途中で投げ出してしまったという“高速無線サービスの未遂事件”は繰り返さないことを強調した。
ただし、「実態としてはまだまだ実験の段階。本免許も取得できるかわからない」として、具体的な提供時期などについては言及しなかった。妥当なユーザー料金で実現でき、ソフトバンクとしても事業として投資に見合うと判断した段階で提供することになるという。
■ URL
ソフトバンク
http://www.softbank.co.jp/
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(永沢 茂)
2004/02/12 22:11
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